高坂くんは不幸だらけ

甘露煮ざらめ

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「……そう。良かった」
「ああ。良かったさ」
「な、ナナさんっ、どうしてここに!」

 一人頭を抱え悶絶してるバカがいた。

「元の世界に帰してくれるためだっての。聞いてなかったのか」
「そ、それはありがたいですがっ。私の幸福タイムを邪魔しないでくださいよー」
「アンタは黙っていなさい」

 何が「幸福タイム」だ。お前に幸福なんてやるもんか――幸福……?
 そういえば……。サヤは元気になる前に、「幸せ」って言ったよな。
 そういえば……。時間帯から考えて、あの直後に俺の不幸が訪れてたはず。
 確か、その時に備えて不幸は大きくなっていて、周囲を不幸に巻き込む力もそれに比例してたんだよな。
 つまり、あの時が一番周囲に与える不幸の力が大きかった。
 ということは……。

「あは、あははははははははは」

 俺は額に手を当てて馬鹿笑いした。なってこった、そういうことなのか。

「ど、どうなされました?」
「……ジュンペイ?」
「わかったんだよ。サヤが無事だった理由が」
「ええっ!? そ、それは何ですかっ?」
「それはね……」

 二人の顔を交互に見て、少し勿体ぶってから、

「俺の不幸が原因だよ!」

 答えを告げた。

「え? 不幸が、ですかぁ?」
「ああ。サヤはあの時、俺のために命を使えて『とっても幸せ』、って言ってくれたのを覚えてる?」
「は、はい。もちろん覚えてます」
「その時、最大の不幸を数秒後に控えた俺は、周囲にとてつもない不幸を与えていたはずだ。そんな状態の俺の傍で、しかも抱えられながら『幸せ』なんて言ったら、どうなると思う?」

 悪戯っぽく片目をつむって問いかけた。

「あ……」
「……納得」

 二人も理解できたようで、しきりに頷いている。

「ですが、そんなことが……」
「あるんだよ。それが、世界を滅ぼしかねない俺の……前代未聞の不幸なんだからな」

 あんなに忌み嫌っていた不幸が、こんな形で役立つなんてな……。
 改めて、世の中って面白いって、思った。


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