50 / 74
(11)
しおりを挟む
「驚かせてごめんなさいです。砂糖を入れたのはこれだけですから、あとは美味しく仕上がってますよ」
「…………」
「沈黙してどうしちゃったのです? も、もしかして予想以上に怒っちゃいました?」
「これ……。海老……全部いただく!」
「ちょっ、順平さん!?」
皿の上にセンス良く盛り付けられている海老を次から次へと口へ運び、よーく堪能してから喉へ通す。
「より甘みを出そうと砂糖を擦り込んでますから、全部食べちゃうと――」
「いや、全部食べる!」
こうやって食べ続けないと、気を抜くと涙が出そうだ。落ち込んでた時にさり気なく優しくされると……涙腺が緩む。
「最高の味だった」
皿から海老が消え去った頃には、心の中が晴れ晴れとしていた。サヤの目の前で泣いちゃうのは恥ずかしいから、我慢した。
「順平さん……。ありがとうですよー」
「ううん。それは俺の台詞だよ」
俺を想ってくれてありがとう。
今それを口にするのは恥ずかしいから、胸の内で言っておいた。
「いえいえ。やっぱり順平さんには怒った顔と笑った顔がぴったりです」
「なんだよそれ。どうして怒りが先に来てんだ」
「それはご愛嬌ということで。あ、お次はオムライスなんかどうですか? 最後の晩ご飯なので、特別気合を入れて作りました」
「最後の晩ご飯?」
今さらっと縁起でもないこと言わなかった? 持ち上げてどん底まで突き落とす気か。
「す、すみませんっ。最後の晩餐の意味ではなく……私が順平さんと食べるのが最後という意味です」
「サヤ?」
そう話す表情には、僅かだけど哀愁が感じられた。
「明日、全てが終わったらすぐに上の世界に戻るのですよー。ですから、ゆっくりお食事できるのは今日が最後なのです」
「……あ」
そうか……。サヤはシガミ。本来、人との接触はご法度だ。
「あのですねー。実はオムライスを作ったのには理由がございまして……順平さんが最初の日、初めて私に食べさせてくれたお料理だからなんです。この三日間、一緒に過ごせた思い出に。そして始まりと終わりが一緒――終わったらまた始まり途切れることはない。順平さんのこれからを祈って、演出してみました」
「…………サヤ」
「す、すみません。ついつい感傷に浸ってしまいました。センチメンタルというやつでしょうかー。ささっ、半熟のうちに召し上がってくださいませ。ポテトサラダとスープも沢山ありますからね、全部制覇しちゃいましょうよぅ」
「ああ!」
オムライス、ポテトサラダ、コーンスープ。それらを、一秒でも長くこの時が続くように時間をかけて、大切に、大切に味わった。
こんな想いの詰まった料理を食べたのは、生まれて初めてだった。
「「ごちそうさまでしたー」」
向かい合い合掌する。
さて、名残惜しいけど片付けるか。ここからは俺の出番――
「順平さん。まだ終わりませんよー」
「ん?」
「実はですね……。デザートがございますっ!」
席を立ち、冷蔵庫から皿を二つ運びテーブルに置く。その皿の上には、シュークリームが載っていた。
「俺、好物なんだよ~」
「そうですかー。エクレアと迷ったのですが、正解でしたね」
「ナイス判断! じゃあ、いただくと――」
「ウエイトです!」
皿に手を伸ばしていると、右手をびしっと突出し制された。妙に凛としているのはどういうわけだ。
「何?」
「ただ食べるだけじゃ面白くありませんよね?」
「いんや。面白いけど」
「……面白く、ないですよね?」
「最高に面白い」
「面白くないですよねっ」
俺の意思を無視するのなら、最初からそうしてくれ。
「…………」
「沈黙してどうしちゃったのです? も、もしかして予想以上に怒っちゃいました?」
「これ……。海老……全部いただく!」
「ちょっ、順平さん!?」
皿の上にセンス良く盛り付けられている海老を次から次へと口へ運び、よーく堪能してから喉へ通す。
「より甘みを出そうと砂糖を擦り込んでますから、全部食べちゃうと――」
「いや、全部食べる!」
こうやって食べ続けないと、気を抜くと涙が出そうだ。落ち込んでた時にさり気なく優しくされると……涙腺が緩む。
「最高の味だった」
皿から海老が消え去った頃には、心の中が晴れ晴れとしていた。サヤの目の前で泣いちゃうのは恥ずかしいから、我慢した。
「順平さん……。ありがとうですよー」
「ううん。それは俺の台詞だよ」
俺を想ってくれてありがとう。
今それを口にするのは恥ずかしいから、胸の内で言っておいた。
「いえいえ。やっぱり順平さんには怒った顔と笑った顔がぴったりです」
「なんだよそれ。どうして怒りが先に来てんだ」
「それはご愛嬌ということで。あ、お次はオムライスなんかどうですか? 最後の晩ご飯なので、特別気合を入れて作りました」
「最後の晩ご飯?」
今さらっと縁起でもないこと言わなかった? 持ち上げてどん底まで突き落とす気か。
「す、すみませんっ。最後の晩餐の意味ではなく……私が順平さんと食べるのが最後という意味です」
「サヤ?」
そう話す表情には、僅かだけど哀愁が感じられた。
「明日、全てが終わったらすぐに上の世界に戻るのですよー。ですから、ゆっくりお食事できるのは今日が最後なのです」
「……あ」
そうか……。サヤはシガミ。本来、人との接触はご法度だ。
「あのですねー。実はオムライスを作ったのには理由がございまして……順平さんが最初の日、初めて私に食べさせてくれたお料理だからなんです。この三日間、一緒に過ごせた思い出に。そして始まりと終わりが一緒――終わったらまた始まり途切れることはない。順平さんのこれからを祈って、演出してみました」
「…………サヤ」
「す、すみません。ついつい感傷に浸ってしまいました。センチメンタルというやつでしょうかー。ささっ、半熟のうちに召し上がってくださいませ。ポテトサラダとスープも沢山ありますからね、全部制覇しちゃいましょうよぅ」
「ああ!」
オムライス、ポテトサラダ、コーンスープ。それらを、一秒でも長くこの時が続くように時間をかけて、大切に、大切に味わった。
こんな想いの詰まった料理を食べたのは、生まれて初めてだった。
「「ごちそうさまでしたー」」
向かい合い合掌する。
さて、名残惜しいけど片付けるか。ここからは俺の出番――
「順平さん。まだ終わりませんよー」
「ん?」
「実はですね……。デザートがございますっ!」
席を立ち、冷蔵庫から皿を二つ運びテーブルに置く。その皿の上には、シュークリームが載っていた。
「俺、好物なんだよ~」
「そうですかー。エクレアと迷ったのですが、正解でしたね」
「ナイス判断! じゃあ、いただくと――」
「ウエイトです!」
皿に手を伸ばしていると、右手をびしっと突出し制された。妙に凛としているのはどういうわけだ。
「何?」
「ただ食べるだけじゃ面白くありませんよね?」
「いんや。面白いけど」
「……面白く、ないですよね?」
「最高に面白い」
「面白くないですよねっ」
俺の意思を無視するのなら、最初からそうしてくれ。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
作ろう! 女の子だけの町 ~未来の技術で少女に生まれ変わり、女の子達と楽園暮らし~
白井よもぎ
キャラ文芸
地元の企業に勤める会社員・安藤優也は、林の中で瀕死の未来人と遭遇した。
その未来人は絶滅の危機に瀕した未来を変える為、タイムマシンで現代にやってきたと言う。
しかし時間跳躍の事故により、彼は瀕死の重傷を負ってしまっていた。
自分の命が助からないと悟った未来人は、その場に居合わせた優也に、使命と未来の技術が全て詰まったロボットを託して息絶える。
奇しくも、人類の未来を委ねられた優也。
だが、優也は少女をこよなく愛する変態だった。
未来の技術を手に入れた優也は、その技術を用いて自らを少女へと生まれ変わらせ、不幸な環境で苦しんでいる少女達を勧誘しながら、女の子だけの楽園を作る。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる
釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。
他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。
そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。
三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。
新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる