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「驚かせてごめんなさいです。砂糖を入れたのはこれだけですから、あとは美味しく仕上がってますよ」
「…………」
「沈黙してどうしちゃったのです? も、もしかして予想以上に怒っちゃいました?」
「これ……。海老……全部いただく!」
「ちょっ、順平さん!?」

 皿の上にセンス良く盛り付けられている海老を次から次へと口へ運び、よーく堪能してから喉へ通す。

「より甘みを出そうと砂糖を擦り込んでますから、全部食べちゃうと――」
「いや、全部食べる!」

 こうやって食べ続けないと、気を抜くと涙が出そうだ。落ち込んでた時にさり気なく優しくされると……涙腺が緩む。

「最高の味だった」

 皿から海老が消え去った頃には、心の中が晴れ晴れとしていた。サヤの目の前で泣いちゃうのは恥ずかしいから、我慢した。

「順平さん……。ありがとうですよー」
「ううん。それは俺の台詞だよ」

 俺を想ってくれてありがとう。
 今それを口にするのは恥ずかしいから、胸の内で言っておいた。

「いえいえ。やっぱり順平さんには怒った顔と笑った顔がぴったりです」
「なんだよそれ。どうして怒りが先に来てんだ」
「それはご愛嬌ということで。あ、お次はオムライスなんかどうですか? 最後の晩ご飯なので、特別気合を入れて作りました」
「最後の晩ご飯?」

 今さらっと縁起でもないこと言わなかった? 持ち上げてどん底まで突き落とす気か。

「す、すみませんっ。最後の晩餐の意味ではなく……私が順平さんと食べるのが最後という意味です」
「サヤ?」

 そう話す表情には、僅かだけど哀愁が感じられた。

「明日、全てが終わったらすぐに上の世界に戻るのですよー。ですから、ゆっくりお食事できるのは今日が最後なのです」
「……あ」

 そうか……。サヤはシガミ。本来、人との接触はご法度だ。

「あのですねー。実はオムライスを作ったのには理由がございまして……順平さんが最初の日、初めて私に食べさせてくれたお料理だからなんです。この三日間、一緒に過ごせた思い出に。そして始まりと終わりが一緒――終わったらまた始まり途切れることはない。順平さんのこれからを祈って、演出してみました」
「…………サヤ」
「す、すみません。ついつい感傷に浸ってしまいました。センチメンタルというやつでしょうかー。ささっ、半熟のうちに召し上がってくださいませ。ポテトサラダとスープも沢山ありますからね、全部制覇しちゃいましょうよぅ」
「ああ!」

 オムライス、ポテトサラダ、コーンスープ。それらを、一秒でも長くこの時が続くように時間をかけて、大切に、大切に味わった。
 こんな想いの詰まった料理を食べたのは、生まれて初めてだった。

「「ごちそうさまでしたー」」

 向かい合い合掌する。
 さて、名残惜しいけど片付けるか。ここからは俺の出番――

「順平さん。まだ終わりませんよー」
「ん?」
「実はですね……。デザートがございますっ!」

 席を立ち、冷蔵庫から皿を二つ運びテーブルに置く。その皿の上には、シュークリームが載っていた。

「俺、好物なんだよ~」
「そうですかー。エクレアと迷ったのですが、正解でしたね」
「ナイス判断! じゃあ、いただくと――」
「ウエイトです!」

 皿に手を伸ばしていると、右手をびしっと突出し制された。妙に凛としているのはどういうわけだ。

「何?」
「ただ食べるだけじゃ面白くありませんよね?」
「いんや。面白いけど」
「……面白く、ないですよね?」
「最高に面白い」
「面白くないですよねっ」

 俺の意思を無視するのなら、最初からそうしてくれ。


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