高坂くんは不幸だらけ

甘露煮ざらめ

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「紹介しよう、交換留学生の――」
「なんであんたがここに居るんだ!?」

 その場で立ち上がり、指までさして絶叫した。
 ノーマークだった……。まさか、こんなところで出会ってしまうなんて……。

「高坂、突然なんだ。もしかして、またお前の親戚なのか?」
「いえ、違います」
「……コウサカジュンペイは、ワタシの標的」

『まさかの高坂ルートかよー!』

 男子大半が絶句。あのな、コイツが言っている「標的」は、お前らが思っているのとは180度違ってるんだよ。

「順平よ、百年に一度のモテ期到来じゃのー」
「高坂君。そーゆー関係、なの?」
「頼むから、遥と悠人は黙っててくれ……」

 やばい、この状況はやばい。繰り返すほどにやばい。
 サヤはあれっきり平然と座っているが……。ここは私にまかせて静観しろ、という意なのか……?

「ふむ、それじゃあ席は高坂の後ろがいいな」
「いやっ! ちょっと待ってください! 時間を――すみませんっ! 急に体調が悪くなったんで保健室に行ってきます!!」

 こうする以外の選択肢は、なかった。
 俺は必死の形相で廊下を疾駆して、階段を降りた踊り場で止まる。恐る恐る振り返ると、人影はない。
 ヤツは、追いかけては来ていないようだ。

「ふぅ、とりあえず脱出にせいこ――…………しまった。サヤ、忘れてきちゃった」

 自分の保身に頭が一杯で、気が回らなかった。で、でもアイツだって易々消されるほど間抜けじゃないだろうし、別ルートで逃げてるはずだ。
 そう信じて、今からの立ち回りを考えよう。

「このまま、家に帰る――いや、それはよくない」

 住所はばれていると考えていいだろう。となれば、八頭さんに連絡して迎えに――それは無理だ。俺のスマホは壊れているから番号はサヤが登録している。
 ……もう、直接事務所に行くしかない。ここから電車を使って――財布は鞄の中。歩いていける距離では、ない。

「…………し、仕方ない。保健室に行くか」

 ここなら教室で宣言していたから行き違いにならずに再会できるはず。イキガミも来る可能性があるけど、今後の為にもサヤと合流した方が良い。
 メリットとデメリットを天秤にかけながら廊下に進み、保健室に入る。
 そういえば、ここにお世話になるのは初めてだ。


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