高坂くんは不幸だらけ

甘露煮ざらめ

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第四話(1)

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 拝啓、お父様お母様。昨日は、一つ屋根の下で大人数の強面の男性たちと一夜を過ごすという貴重な体験が出来ました。
 皆さん親切にしてくれて、充実した時間でした。
 でも、やっぱり俺の不幸は凄いですね。色々な困難がありました。中でも強烈だったのは、午後9時過ぎだったでしょうか、盛大な破砕音と共に十二人の、木刀や鉄パイプ、メリケンサック、寸鉄を持った屈強な男が怒鳴り込んできた時には度肝を抜かされました。いわゆる抗争というやつですね。
 俺は2階の部屋で、終始震えていることしかできませんでした。
 でもいいんです。恐怖できているということは……生きている証ですから。

 さて、話は変わりますが。俺たちは現在、登校するためリムジンに乗車中です。

「皆さん、朝早くからすみません」

 これは俺とサヤの周囲を固めてくれている、八頭さんをはじめとした四人のSPに向けて。

「いいんすよ。旦那と姉御の安全はあっしらが身体を張って守ります。なあ野郎共!」
「「「「「おお!」」」」」

 もちろん、全員帯刀済み。銃刀法も驚きの画だ。
 しかし……俺みたいな一庶民がこんな豪華絢爛な車に乗る日が来るとは。もう二十分近く揺られているけど、なかなか落ち着かない。固くなって景色を眺める余裕がないから、正面しか見れないよ。

「ほあ~。ふかふかですね~」

 俺の隣で寛いでいるシガミは随分と満喫してる……。バカってホント羨ましい。

「アニキ! 白月高校に着きやしたぜ!」
「おうよ」

 距離があって顔が見えない運転手さんの声が聞こえて、先にSPさんが降り、十分に警戒してからドアを開けてくれる。
 俺たちも降りると、そこは校門前。より安全な場所を選んでくれたようだ。

「ありがとうございました――あれ? なんだあの人だかりは」

 10メートルくらい離れた場所に、やけに学生が集まって騒いでいる。よくよく見てみると、なんとまぁリムジンが停車していた。
 いわゆるリムジン・センセーションだ。

「おやおや、これはいわゆるリムジン・センセーションですか」

 俺はバカと同じ発想しかできないのか。
 なんてことを想いながら様子を伺っていると、一目で執事とわかる初老の男性が姿を見せ、恭しく後部座席のドアを開けた。するとそこから降りてきたのは、アリスさん。上品かつ清楚な微笑で周囲からの歓声に応えていた。

「えっ。あれは、星流グループのお嬢さんじゃないっすか!」
「八頭さん、アリスさんを知ってるんですか?」
「旦那のお知り合いでしたか。いえ、あっしは以前親父と行ったパーティーで見かけたことがあるだけです。星流グループと言えば、日本を代表する大会社っすよ」
「へぇ~」

 気品あふれる人だとは思っていたけど、よもや社長令嬢だとは。やっぱり名字に院が付けば金持ちなのかな。

「順平さん順平さん」
「なんだ?」
「あの人の群れ……こちらに大移動してませんか?」

 アリスさんに集中してその他大勢を無視してたけど、確かにこっちへ向かっている。なぜに?

『おいっ、あれホンモノじゃねーか?』
『あそこにいるの、二年のヤツじゃね? アイツら、そういう家だったのか』

 そういうことか。普通の学生生活を送っていればこういった方々と接する機会はないもんね。そりゃ金持ちより興味が湧くはずだ。
 ――って呑気に構えてる暇はない。騒ぎが大きくなる前に逃げよう。

「サヤ行くぞ。八頭さん、皆さん、ありがとうございました」
「感謝感激です」
「旦那、姉御、ちょっと待ってください。……これをどうぞ」

 車内から紫色の風呂敷包みを取り出し、サヤに手渡した。

「昨日の夕食のお詫びにと、注文しといたお昼ご飯っす。是非、食べてください」

 お詫びとは、晩御飯に鍋をしてくれた際、コンロが爆発して俺の前髪が燃えた件のことだ。絶対何かあると予想して顔をそむけていたからこの程度ですんだ。
 ふふ。レベル3までも把握しつつある。

「何から何まですいません」
「ありがとうございますですよー」
「とんでもないですよ。旦那たち、遠慮なさらなくてもよかったのに……」

 当初は最高級幕の内とやらを注文してくれてたんだけど、さすがに悪いので最安の特製のり弁当(それでも2000円)に代えてもらった。

「頂けるだけでも十分ですから。あ、それでは、失礼します」
「放課後また迎えに行きますので、ご連絡ください」

 八頭さんの声を背に受け、好奇の視線を掻い潜りながら校舎へ駆ける。そして教室まで突っ走り、席に着くと――

「おっす順平&サヤっち。なかなかの重役登校だねぇ」
「おはよう」

 いつもの面子、遥と悠人が傍に来た。もちろん、今日は女だ。

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