高坂くんは不幸だらけ

甘露煮ざらめ

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「じゅ、順平さんっ!? どうなさいました」
「恐ろしく鈍痛がする」

 ワケがわからず周囲を確認する――と、足元に石が落ちていた。

「…………」

 これって……。

「サヤ」
「は、はいっ」
「そこにあるのは、なに?」
「い、石。ですね……」

 しかもご丁寧なことに、石器時代の武器みたく先端が鋭く尖っている。おかげで服が僅かだけど破けてるじゃないか。

「ねえ、キミ……。間違えませんでしたか?」

 じっくりかつ重々しい口調で、一文字一文字を紡いだ。

「間違えません、でしたか?」
「そ、そんな。私は正確にお伝えし」
「じゃあこれは何!? 100%不幸じゃねーか! もうモールス一級返上しちまえよ!」

 周囲の視線など無視して、全力で吠えた。

「お、お待ちを。私は確かな情報を仕入れましたよー。そ、その証拠に……これを見てください!」

 不幸がわかるとかいう、あの便利なスマホを差し出してきた。

「画面に、私が読み取った内容が表示されてますのでー。こちらをご覧ください」
「…………」

 無言で受け取り、画面を確認する。そうしたら、

『午後2時44分3秒 車がはねた石が側頭部を直撃→脳にダメージを負う』

 そうあった。
 サヤが言った内容、時間共に一致している。

「納得、いただけました?」
「ぅ、うん」
「モールス検定一級の合格条件は、500問中500問正解です。しかもそれを毎年更新のために受けてますので、万に一つの間違いもないのですよ」
「そ、そうなんだ。疑ってすいませんでした」

 落ち着いて考えてみれば、昨日、今日と正確な情報を知らせているのに、今回だけ間違うとは考えにくい。
 ……だとすると、これはどういうことだ……?

「サヤ。その機械、故障してるんじゃないの?」
「いえ、それはありえません。これは特別製で耐久年数は200年以上となってますし、私たちシガミの必須道具ですからね。簡単に壊れちゃったら一大事ですよ」
「でも……。出てるのは、違う情報だよ?」

 昨日まで正常だったモノが、次の日あっさり壊れる。俺が今まで何度も味わってきた悲劇さ。昨日爆発した時計なんて、俺が触れる瞬間まで秒針はせっせと働いていたんだぜ?

「む、むぅ。確かにそれを言われちゃうと、自信が無くなっちゃいます。不幸予定はどのような場合でも必ず、発生前に知ることができるのですけど……。とりあえず、動作確認をしたいのでお返し願えます?」
「うん。はいどうぞ」

 怒鳴った反省の意味も込めて、両手で丁重にお返しした。
 本当、ごめん。以後気を付けるよ。

「間違いは誰にでもありますので、こちらはなんとも――あれ? 順平さん、どこかボタンに触れました?」
「いんや、触れてないよ。アンタも見てたでしょ?」

 自分の例があるから、人様の機械類には極力触れない様にしている。操作するなんてもってのほかだ。

「ですよねぇ……。それに、これはシガミ専用。……何が起こったのでしょうか?」
「??? どうしたの?」

 件のスマホを返してから、しきりに首をかしげている。

「あのですね。これを見てください」
「ん?」

 向けられた画面を覗き込むと、


『午後2時44分3秒 車がはねた石が右肩に激突→鈍痛』


 石以降が変わっていて、先程起きた通りの内容になっていたのだった。


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