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暗殺者無影と肉まんとか色々

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 ウェールズ 
 
 これだけの大都市だと、闇もそれなりにあったりするだろうと、チンピラや暗殺者なんかも集まってくるが、ウェールズでは非合法な仕事はほとんどないため、休業、廃業してウェールズに留まる暗殺者も少なくない。 
 
 絶影の名を持つ冒険者でありながら、暗殺者の中でも有名で王族殺しなどもやってのける、暗殺者 無影、表に顔が大々的に割れているのにもかかわらず、彼を捕まえる事が出来ないのは、彼が暗殺する瞬間を誰も見る事ができないからである。 
 
 暗殺者であるのはずなのだが、誰一人彼が暗殺を試みたり、潜入している姿を目撃した事がない。 
 
 それ故に捕まえる事も出来ない。 
 
 むしろ彼を暗殺しにきた暗殺者を捕まえる事の方が多いので、暗殺者の蟻地獄と言われるほど彼を殺す事で名を上げようと挑戦しては衛兵に突き出される暗殺者は少なくない。 
 
 食事にも娯楽にも興味のない、無影が何故ウェールズを訪れたか、これだけの大都市になれば抱えてる闇もそれだけ暗いものが多く、冒険者としていがいにも暗殺者としての仕事も沢山あるだろうと思った事と、5大英雄や十二星座団、王家直属の従者部隊など世界最高峰の強者がひしめき合い、街を歩いてる普通の人間と思われる存在ですら、一般の街の住人と比べれば脅威的な力をもっていたりと、規格外のオンパレードなのがウェールズなのである。 
 
 そんな街で暗殺を実行できてこそ、暗殺者として名も挙がると言うものだと考え、ウェールズに来たのはいいが、ウェールズに闇やヤクザなんかが入り込む隙間は微塵もなかった。 
 
 チンピラやヤクザ、裏家業の人間なんかよりも、半ぐれ冒険者の方が圧倒的に強く、縄張りもあり、団結力もあり、あえて闇の部分を統括する冒険者達もいるが、しっかりと牛耳られているがために新規参入はほぼ不可能、表も裏もうまくコントロールされ、安全に運営されている上に、この街に根をはる暗殺者は伝説レベルの神話の名をほしいままにしている暗殺者たちが多い。 
 
 暗殺者ギルド絶命舞踏 暗殺者の中でも世界屈指のアサシンクロスの集団、暗殺者でありながら当たり前の様に表に名が知れ渡り面も割れているのに、そんな事も物とも思わない、集団であり、アサシンでありながらも強すぎるが故に闇に隠れる事すら辞めた集団である。 
 
 そんな奴らがウェールズを拠点に、全世界へ暗殺を行っている。 
 
 世界各国を殺しに殺し、旅から旅に渡り歩いた無影が絶句する新世界。 
 
 それなりに有名になった、強者になったとおもっていた自分が、当たり前の様に無視される世界。 
 
 久しぶりに何者でもなく、一般人になってしまった無影、だが食事にも娯楽にも興味はなかった。 
 
 娯楽にはただ単に興味が薄く、どう楽しめばいいかわからないだけだから挑戦してみたら楽しいかもしれないが、食事に興味がない理由は無影には味覚がない事が起因していた。 
 
 無影は暗殺者として幼いころから様々な毒を食べ、蓄積させたり毒の濃度をあげたりと毒にあわせて肉体の変化や様々な試みを試した結果、無影は代償として味覚を失ってしまった。 
 
 何を食べても柔らかかったり硬かったりする粘土をもそもそと口にいれている感覚、胃にどっと落ちていく感覚がする固まり、どの道孤児だった無影は、幼少期から食事が楽しく美味しいものだなんて考えた事や感じた事はなかった。 
 
 腹が減るから満たすだけ、美味くないものを食って満たすだけ、美味いだの不味いだのだなんて考えた事もない、苦かったりえぐみや渋みでj吐き出さないで食べれるだけえでましなんだ。 
 
 体が動く丁度いい食事さえできれば、あとはなんでもいい。 
 
 八意斗真を観察していたのも、こいつがこの街の特異点だと思ったからだ。 
 
 八百万周辺の木に潜伏して、八意斗真を軽い気持ちで観察していると、俺が潜伏している木の近くにきて一言声をかける 
 
 「あの~・・・・・よかったら、これどうぞ」 
 
 なんでだ!?俺の潜伏は完璧なはず、完璧じゃなくてもいくらなんでも一般人の八意斗真には絶対に感知できないはずだが!? 
 
 スッと姿を現すと、質問をする。 
 
 「なぜ気が付いた」 
 
 「ああ、僕はわからなかったんですけど、鋭い子達が何人かいまして。みてるよ~みてる~っていうんですよ。聞けばお客としても中々見た事ないって子供達がいうんで、店にこれない事情でもあるのかとおもって、差し入れをもってきた次第です」 
 
 「不快に思わないのか?監視されていた事」 
 
 「結構多いですからね、家の様子伺っている方は、大抵は店の方に来てくれるのでこっちからこう確認しに来ることはないんですが、お客さんはずっとみてるだけって子供達が言うから、最近は寒いですし、無理せず店まできてくれればいいのにって正直思います。特に夜の部ならみんな大歓迎ですよ」 
 
 「・・・・・・・」 
 
 「まぁ事情は人それぞれですから、無理だけはしないでくださいね」 
 
 そういうと店に戻っていく、対象八意斗真。 
 
 俺はまた八百万が観察できる、遠方に場所を移し、店をみながらどっかりと腰を下ろした。 
 
 客としていけたとして、味覚がないのだ・・・・・・・とは言えなかった。 
 
 渡された紙袋に何がはいっているか、確認すると、ふむ?白い?ふかふかのパンか?これは???暖かさは感じる。 
 
 一つを手にもち、半分に割ると湯気と共に肉が顔を出す。 
 
 味覚に次いで、鈍くなった嗅覚を総動員して匂いを嗅ぐと、肉のいい香りが微かに鼻孔をくすぐる。 
 
 味覚さえあれば、さぞうまいのだろうなぁと自分にしては珍しく、肩を落とし落胆した。 
 
 好きで味覚を失い嗅覚まで鈍ったわけではない、むしろ無くなり、鈍った為に最初の内は慣れるまで危険に犯されることすらあった。 
 
 半分に割った肉のパン?を口に入れ咀嚼すると。 
 
 奇跡が起こった。 
 
 柔らかい!!!それでもって甘い!!ふんわりふかふかのパンの甘さ!そして肉の味!じゅんわり広がる肉と野菜の味!!!人生で初めて味わう美味いという感情!味覚!娯楽の為、喜びの為、美味さを求めての食事なんてした事がなかった男が初めて感じる、美味いと言う劇場の波! 
 
 なぜだ!?なぜ急に味覚が蘇った????鼻を抜ける香りも強く感じる!嗅覚も!感じる! 
 
 もう半分の口を大きく広げ一口の元食べる! 
 
 パンとはこうも美味かったか!?肉とは野菜とは!?こうも美味かったか!?味覚を感じる様になったからといって俺の中での食べ物の味の思い出は変わらない。 
 
 否否否!俺が食ってきた物は美味いものも確かにあったが、こんなにも強烈な旨味を放つものが過去一つでもあったか!? 
 
 一つ食えば次を求める!初めて美味いを知った子供の如く!紙袋に手を突っ込む!ちょっと赤い色のしたパン!口を全開にかぶりつく!んおおお!なんだこれは!????トマト!濃縮された濃いトマトの味!それとチーズ!野菜と肉の味もする!!!酸味のあるトマトにまろやかなチーズ!それを彩る野菜に肉の味!味覚を失っている間にこんなにも美味い料理が発明されていたのか!?!?料理とは俺の中でこうも劇的に味を変えるものではなかったはず!とるにたらなかったはず!だから味覚を失って食べる事が義務になっても落胆する事はなかった。 
 
 だがどうだ!?これを食ったあとまた味覚を失ったら?考えただけで辛い毎日を送る事になる、それ程に美味い!噛む!噛む事が楽しい!美味いものを噛む、口の中で味わう!これがまず快感なのだ!次に袋から出すのは黄色いパン!嗅ぎ慣れぬ匂い、これは!?八百万のカレーの日とか言う時に出されていた料理!大勢の人間がどろっとした茶色いソースを米に乗せ食っていた、あの料理!確かに!あれはどんな味だろうと想像した事が八百万の料理は数多くある。 
 
 味覚がもどったなら、なんて考えた事も幾度となくある、あるさ!あれだけ美味そうに大勢が毎日祭りみたいに騒いで食ってたら、そんなに大勢を虜にする飯ってどんな味だ?なんて考えるさ、俺は知らなかったんだから、美味い飯がある事、まともな飯がある事、義務以外で食う飯、腐っていても変な匂いがしても満たされれば生きられる、そんなもんしか食ってこなかった人生なのだから、どこか憧れた美味い飯、憧れた八百万のカレーを万感の思いでパンにかぶりつく。 
 
 口の中に雷霆でも突っ込まれたかのような、旨味の雷伝播!これが万人を虜にする味!人生で初めて味わう怒涛の旨味の自然災害達! 
 
 知らなかった!知らなかった!知るはずもなかった!飯の世界!食事の世界!美味いと言われるものは決して一つではなくいくつも!幾多も数あるのだと! 
 
 俺は知らなかった、何一つ知らず味覚を閉じた!毒の力を自在に操る為、そして毒に犯されぬようになる為、内臓までもズタボロになり味覚を失うまで毒を食った。 
 
 そんな俺の味覚が治った!毒に適応しつつもどこか身体の調子はいい!こんな事が可能なのか!?普通の人間には出来ぬことだから俺は味覚と言う代償を払ったのだ。 
 
 暗殺の過酷な修行でついた傷や色々な体の不備が癒されていく、浄化されていく、それでいて能力である毒への耐性は消えていないはっきりとわかる。 
 
 神の癒し・・・・・・ 
 
 最後に残ったパン(まんじゅう)を手に取り、齧る。 
 
 ねっとりと濃厚で高級な甘さ、上品で嫌味なくそれでいて自然な甘さを感じる甘味、初めて食べる甘味に脳が完全に痺れる。 
 
 とろける程に美味い!!! 
 
 絶命舞踏、何故神話の中の殺し屋と言われる奴らがウェールズに拠点をおいたか?何故これほど強者が集まるか?理解した。 
 
 正座し八百万に向けて深々と頭を下げ、無影は思った。 
 
 今度は客として夜の部の八百万に絶対いこうと。
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