異世界定食屋 八百万の日替わり定食日記 ー素人料理はじめましたー 幻想食材シリーズ

夜刀神一輝

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クラン エスパーダ グランバラン

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 ちくしょう!!!失敗した!失敗した!!失敗した!!! 
 
 ダンジョン、それは人類にとって宝物庫も同然である。 
 
 低階層でもそれなりに高額を稼ぎ、中階層となるとかなり裕福な生活に毎日働かなくてもある程度の収入が見込め、下層域に到達すれば出現する魔物から、そこらへんに生えている薬草、霊草、霊物、鉱石の魔力濃度など高額アイテムの宝の山であり、通常に襲い掛かってくる魔物をハントして帰るだけでも相当な収入が見込めるが、危険も多く、イレギュラーやダンジョンの変化、崩落、そして再生などもあるので進むのもまた簡単ではない。 
 
 また階層主やイレギュラーモンスター、レアモンスターなども存在し、人同士の殺し合いもあるなどモンスターだけが敵ではない。 
 
 有名クラン同士のイザコザ、個人的に恨みを持っている人物の復讐、最初から人間の持ち物を狙っているPTもしくは個人、上の世界での殺しが難しい時ダンジョンで殺人がおきたりすると同時に殺人と断定するまでの難しさ時間のかかる調査などによる、見落としや逃亡などもある。 
 
 また魔物を的確に処理して、血抜き解体をうまくやれるベテラン、または余裕のあるPT、クランでないと魔物の肉の品質が落ちる事は請け合いで、単純戦闘能力以外にもこの雑務を如何に早く処理するかでPTとしての技量や安全度、ランクなどは大幅に変わってくる。 
 
 アイテムボックスに入れて地上で血抜き、解体が出来るようになるほど、アイテムボックスがブリタニア国に行き渡り始めたのは、ここ最近ほんの数か月前からの事である。 
 
 空間のエスメラルダ、伝説組の人間の助力により、ダンジョン攻略、そして日々の生活は格段に楽にそして快適に安全になっていった。 
 
 だがそれでもダンジョンは危険な事には変わりはなかった。 
 
 人間が街を築く様に、魔物もダンジョンで生活し、死ねば他の魔物のエサになりまたダンジョンの栄養となり成長していく。 
 
 輝き鳥やキャラメル豚、五月雨牛など美味いく金銭面でもおいしい魔物が大量繁殖する事もあれば、殺人特化の凶悪な魔物が異常繁殖して人間を襲う事もまた当たり前なのである。 
 
 ウェールズダンジョン遠征組、クランエスパーダは最近なにかと噂になっているウェールズに遠征に来たクランであり、トップPTはS級冒険者で構成されている。 
 
 上級クランである。 
 
 団長、不屈のグランバランは殿をしながら下層深くから脱出する中強力な魔物の大軍に遭遇、戦線は崩壊、グランバラン率いるトップPTが殿を務めながらも下層から抜け出そうとし、行軍、だが不運にも計画的とも思えるダンジョンからの魔物の産出、それはトレインとなりパレードに進化し襲ってくる。 
 
 犠牲者を出しつつも、グラン率いるPTは走った。 
 
 走って、走って、走って、走って、ダンジョンの崩落なども味わいながら後続の魔物をなんとか断ち切り、地上に帰ってきた。 
 
 ぼろぼろで上がってくる、グランのPTにすれ違う冒険者達と情報交換をしながら物資の支援も受け、なんとかウェールズの街まで戻ってきた。 
 
 街の冒険者たちは彼らの絶望した顔を見て、「ああっ」と察する様に彼らが通る道を開ける。 
 
 こういったボロボロの冒険者達が来るのは、夜だったり昼だったり、時には夜中だったりする事もある。 
 
 街の冒険者に誘導される様に、グラン達のクランが到着したのは街の外れの飯屋、八百万だった。 
 
 本当なら街に入った時点で、停止して座り込みたかった、けど声が聞こえたんだ。 
 
 グラン、こんな時はあの店にいけ、悪い様にはされないからって、そんな野次馬の声に乗せられ街の外れの飯屋兼宿屋の前でクラン、エスパーダは行軍を停止した。 
 
 昼も夜も馬鹿みたいに客がいる、人気の飯屋。 
 
 今はもう夕方に差し掛かり、夜の客がくるまでの空いた時間なのか人通りも少ない。 
 
 大きな道の通りを30人から40人の団体がどっかりと小休止している。 
 
 どいつもこいつも泥だらけ、汚れていない奴なんていない。 
 
 行きとは違い、いなくなった奴らも大勢いる、朝に隣にいた奴、途中まで横を歩いていた奴がいない事・・・・・・そう俺たちは失敗したのだ。 
 
 全員が力なく座っていると、中から子供二人とギルマスのニーアさん、そして飯屋の店主が子龍や子供を引き連れやってくると、全員に水を配ってくれた。 
 
 めちゃめちゃ冷たくて胃の中に落ちていくのがわかる冷たい水、それを無我夢中で飲んだ。 
 
 美味い、そして生き残ったという実感がグッとわいてきて、中には涙を流す奴もいた。 
 
 店主は次に、豚汁を配ると大声で全員に言う。 
 
 するとみんなに肉のたっぷり入ったスープを配り始めた。 
 
 「ハァ・・・・・・・ハァ・・・・・・・・・いいのか?俺たちは失敗した。金なんてねぇぞ、逃げる時に投げつけれるもんは全部投げた」 
 
 すると店の店主、斗真といったか?俺よりも断然若いまだまだ小僧っこに見える男が。 
 
 「冒険者ってのは、命懸けで、当たり前の様に魔物を狩っているけど、そんなあたりまえの狩りって行為がどれだけ必死なものか、僕は冒険者じゃないけど冒険者のみんなが村や町の為、もちろん自分の為でもあるかもしれないけど、体を張って命のやり取りをして獲物をもってきてくれている事知ってますから、こんな時は助け合ってもいいじゃないですか」 
 
 そういって次は飯をもってくると奥に引っ込んだ。 
 
 そんな事言われるの初めてだった。 
 
 冒険者になったのは、俺が他にまともな職につけないからだ。 
 
 命をかけて獲物を狩る事しか、俺には出来ない。 
 
 確かに、それでも感謝される事もあった。 
 
 村に魔物が現れれば死活問題だ。 
 
 礼を言われる事も少なくはない。 
 
 でもいざ自分が無一文の金なしになった時、ギリギリで生き延びて帰ってきた時、俺の、俺達の帰りを祈って待ってくれる人間なんて何人いる?俺たちは村や街の専属冒険者でもない、ただの流れの冒険者に、それも金のないこんな負けて帰ってきた集団に手を貸してくれる奴はいるか? 
 
 きっとどこの街でも、失敗して帰ってきやがってと舌打ちされることだろう、いつもはお高く止まった高位冒険者様がこのざまとはなと。 
 
 「さぁ、団長さん冷たいけど握り飯って美味いもんですよ。どうぞ」 
 
 握り飯、米って奴におかずを詰め込んだのか?確かに冷えているが、ダンジョン探索にもってく飯よりも断然うめぇ・・・・・。 
 
 「生きてりゃあね、誰だって打ちのめされる日があるんですよ。僕らみたいな料理してる人間もね、ガツンと芯に響くような事言われる事もあります。立ち止まっても振り返ってもいい。これに懲りて冒険者を辞めたっていいんです。でもね、癒えたら立ち上がらなきゃ、立って歩かなきゃいけないんです。人生ですから、打ちのめされて、挫けたっていいんです。最後に立っていたら、それでいいんです」 
  
 俺は握り飯を食う、そして豚汁を飲む。 
 
 「うめぇ・・・・・・・うめぇなぁ・・・・・・・死んだ奴らぁこれをもう食えねぇんだよなぁ・・・・・・ちくしょう・・・・・・・・チクショウ・・・・・・・」 
 
 精一杯やっても全身全力でやっても、確実になんて事はない世界冒険者。 
 
 俺はまだ飯を食い、立って歩く。
 
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