上 下
32 / 186

中級冒険者レオン

しおりを挟む
 中級冒険者レオン 
 
 俺は中級の冒険者レオン、冒険者なんて聞こえのいい事言ってるけど、要は個人で成果をあげる何でも屋だ。 
 
 子供の頃、両親は農家で自分は農家だけにはなりたくないと思っていた、朝から晩まで畑に心血注いで、丹精込めて作ったものが安値で買い叩かれていく日々を送っていれば、先祖の土地がなんて言って貧乏な生活をしていくなんて馬鹿らしいと思った。 
 
 子供の頃からゴブリンと戦って、なんとなく自分は冒険者になるんだろうな、なんて思っていた。 
 
 だが冒険者は冒険者で大変な職業だ、魔物に合わせた狩り方をしないといけない、皮をあまり傷つけるなや綺麗に捌けとか、現地で血抜きしろとか、薬草採取だってそうだ、この薬草は葉を使う、こっちの薬草は根を使う、そんなんは当たり前で、それでも近くに手ごろなダンジョンがあるので、数こなしていくとそれなりに金になってはしゃいだ。 
 
 大金貨を手にする様になって、生活が華やか?になり始めてやっと自分にはなんの楽しみもない事に気が付いた、日に日に溜まっていく金に執着しなくなり、仕送りもそれなりにやって、いっちょ前に酒なんか飲み始める様になっても、心はどこか空のままだった。 
 
 「おい!レオン!今日もつまんなそうな顔してんな!」 
 
 「ほっといてくれ」 
 
 「そんな事言うなって!例の店一緒にいこうぜ!なんでも夜営業始めたんだってよ!早速マスターが入り浸ってるって話だ!他の奴らが押し掛ける前に食いに行こうぜ!」 
 
 なんでもない顔なじみに引っ張られて、ふらふらと最近色々と噂になってる店まできた。 
 
 どいつもこいつも飯や酒ぐらいでガタガタ言いやがって、腹に溜まればなんでもいいじゃないか、飢えた事がないから味や質なんかを求める事になるんだ。 
 
 「いらっしゃい」 
 
 「うぃっす!斗真さん夜始めたって言うから、早速きちゃいました!夜はどんなメニューなんですか?」 
 
 「主に串物を出しています。串の盛り合わせなんか色々味わえていいですよ。それとエールもはじめましたんで、よかったらどうぞ」 
 
 「じゃあ串盛りとエール二つお願いします!」 
 
 「はい!いつもありがとうございます!」 
 
 可愛らしい狐人族の子が注文を取ったと思ったら、すぐに串盛りとエールは運ばれてきた。 
 
 随分と早いな、手を抜いているんじゃないだろうか? 
 
 「じゃあ乾杯すっか!んこれ、ああっこうやって開けんのか。それにしても随分冷えてるエールだな」 
 
 俺も同じ様にエールを開けると、とりあえず飲む。 
 
 「おお!なんだこれ!」 
 
 「くぅううう美味いなこれ!冷ええてるのがまたいい!」 
 
 喉を駆け抜ける爽快感!味わいのある苦味!こんなにエールって美味かったか? 
 
 「どれ串を一つ・・・おお!こりこりしてやがる!タレの甘味と何とも言えない旨味!なるほど!ここでエールをんぐんぐんぐっったは~!!!うめぇ!!」 
 
 一々美味そうに食いやがって、俺も遅れながら串を食う。 
 
 見た目じゃなんの肉かわかんねぇ、けどこいつはうめぇ!よく焼けて香ばしいのに甘味あるタレと脂の美味さがかけ合わさり何とも言えない美味さだ!次は?ねっとりこってりとしたうま味のある串!こりこりの食感が気持ちいい串!どいつもこいつも触感がまず違う!それでいてどいつもこいつも独特の風味を放ちやがる!嫌な臭いはねぇ・・・これは丁寧な仕事してんな。 
 
 そんでもってまたエールが美味い!組み合わせがいいのかわからねぇけど美味い!。 
 
 「なぁ店主さん!これなの肉なんだ!?ってすまねぇ答える訳ねぇよな商売のネタだもんな」 
 
 「これは肉屋で廃棄される予定だった、内臓達ですよ」 
 
 あっさり答えてくれたのと、普段は食わない内臓と聞いて二重に驚いた。 
 
 「これが内臓!?美味い肉ならいくらでも売ってるのに、なんで内臓?」 
 
 「だって手間暇かけてやれば、こんなに美味くなるのにもったいないじゃないですか。下処理さえちゃんとやってやれば、物によっては肉より内臓が好きなんて人もいるくらいですよ?」 
 
 確かにと思った、事実この人の出す串物は全部うめぇ、手を抜いてこんな味が出るわけもない、確かに手間暇かけた味だ。 
 
 「そんな簡単に教えていいんですか?真似する奴でるかも」 
 
 「真似する人が出るくらいで丁度いいんですよ。それにね普通に肉出すより手間も暇もかかるから、最初は挫折するでしょうね。それでも店に並ぶって事は自信があるって事です。お客さんに出して満足してもらえる品ってわけですよ」 
 
 なんかわからんが、心の空洞が埋まった感じがした。 
 
 じんわりと腹や胸が熱くなるのを感じる。 
 
 毎日どこか機械的で、ただ金稼いで、食って寝て、を繰り返していた俺の心に熱が入るのを感じる。 
 
 そうか、飯屋も客と勝負してんだな、自分の自信あるもんを客に出して美味いって言わせたら勝みたいな、そう考えると商売してるやつらは、みんな客と勝負してんだなと思った。 
 
 「それにお客さん、こんなにいい内臓他に中々ないですよ。きっと狩ってきた人が丁寧に扱ったんだろうね。血抜きもしっかりしてある、肉屋の中には肉にまで血が回って駄目な肉売ってる所もあるから、命がけで狩りしてきてくれた人の為にも、美味く料理してやんなきゃ可哀そうだってなもんだ」 
 
 俺達が狩ってきた獲物がこんなにも美味くなんのか?血抜きにも意味はあったんだな。 
 
 「なぁ大将!俺が獲物を狩ってきたら、ここで料理してくれるかい?」 
 
 そう言うと、斗真って大将は困った顔しながらも。 
 
 「俺なんかで良ければ精一杯やるよ」 
 
 そう言うと店内の客達もおぉ~と声が沸いた。 
 
 「おい!レオン!急に変な事言うから驚いたぞ!それにしてもお前、なんか楽しそうだな」 
 
 「酒も飯も、こんなに楽しいのは小僧だった時以来だ」 
 
 妙な感覚だった、周りの景色に色が付いた様な、そんな気持ちのいい風を浴びながら、宿に帰り、心地の良いまま眠りについた日だった
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

食の使徒 素人だけど使徒に選ばれちゃいました。癒しの食事を貴方に 幻想食材シリーズ

夜刀神一輝
ファンタジー
八戸 樹 は平凡な人生に幕を閉じた。    だが樹には強い一つの願望があった。    誰かの為になりたい、人の為に生きたい、日本人として日本人の為に、そう思って生きていても人生とは、そうそううまくいく事もなく、死ぬ最後の時まで自分は誰かの?国の?国民の?為に生きれたのだろうか?と疑問が残る様な人生だった。    そのまま魂が消え終わるかと思われた時に、女神様が現れ、異世界に使徒として転生してほしいと言われる。    使徒として転生してほしい世界では、地球の様に食事や調理法が豊かではなく、また今一進化の兆しも見えない為、樹を使徒として異世界に送り込みたいと、樹は自分は料理人じゃないし、食事も自分で自炊する程度の能力しかないと伝えるが、異世界に送り込めるほど清い魂は樹しかいないので他に選択肢がないと、樹が素人なのも考慮して様々なチートを授け、加護などによるバックアップもするので、お願いだから異世界にいってほしいと女神様は言う。    こんな自分が誰かの為になれるのならと、今度こそ人の役に立つ人間、人生を歩めるように、素人神の使徒、樹は異世界の大地に立つ

暇が祟って世界を滅ぼす 〜世界の敵だと言われたので、せっかくだから世界を滅ぼそうと思う〜

虹閣
ファンタジー
暇だった。そう、ただ1000年間暇を持て余し続けていた。ただ魔術と剣の鍛錬をしていただけだ。 それだというのに、俺は唐突に世界の敵とされて、世界から追われる身となった。 であれば、逃げる必要をなくすためにも、いっそのこと俺が世界を滅ぼしてしまおう。 せっかく刺激がなく退屈していたところなんだ。それに、久しぶりに山の下に降りて生活もしてみたい。 これは、そんな軽い気持ちで始まる、世界を滅ぼす旅の話である。 小説家になろう、カクヨムでも同タイトルで掲載してます

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

偽神に反逆する者達

猫野 にくきゅう
ファンタジー
 ・渓谷の翼竜  竜に転生した。  最強種に生まれ変わった俺は、他を蹂躙して好きなように生きていく。    ・渡り鳥と竜使い  異世界転生した僕は、凡人だった。  膨大な魔力とか、チートスキルもない──  そんなモブキャラの僕が天才少女に懐かれて、ファンタジー世界を成り上がっていく。

女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました

初昔 茶ノ介
ファンタジー
昔から低身長、童顔、お料理上手、家がお菓子屋さん、etc.と女子力満載の高校2年の冬樹 幸(ふゆき ゆき)は男子なのに周りからのヒロインのような扱いに日々悩んでいた。 ある日、学校の帰りに道に悩んでいるおばあさんを助けると、そのおばあさんはただのおばあさんではなく女神様だった。 冗談半分で言ったことを叶えると言い出し、目が覚めた先は見覚えのない森の中で…。 のんびり書いていきたいと思います。 よければ感想等お願いします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...