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第15章 アルバイト編
第95話 初恋の人との将来の為に
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ある日の日曜日の朝……
「お兄ちゃん、今日もアルバイト?」
俺がバイトに行く準備をしている時に妹の奏が眠たそうな顔をしながら聞いていた。
「えっ? ああ、そうだけど……それにしても今日は日曜日なのに珍しく奏も早起きなんだな?」
「珍しくって何よぉぉ? お兄ちゃん失礼ねっ!!」
「ゴメンゴメン、いやでもさ……」
「ウソウソ、冗談よ。フフフ……今日はね朝から先輩達とお出かけするから早起きしたのよ」
へぇ、そうなのか。
奏は先輩達ともプライベートで遊びに行けるくらいの関係になっているんだなぁ……
『前の世界』での奏は石田の『死』のショックで部活も辞めてしまい、性格も大人しくなり、友達付き合いもあまりしていなかったけど、『この世界』の奏は真逆な人生を歩んでいるようで本当に良かったと心から思う俺である。
「それで今日は朝からどこに行くんだ?」
「フフフ……それは内緒!!」
なんだよ、ケチと心の中でそう思う俺であったが奏の笑顔が可愛すぎるので俺は何も言わずに苦笑するのだった。
そして俺がバイトに行こうと玄関で靴を履こうとしていると珍しく親父が話しかけてきた。
「急いでいるところ悪いが隆、少しだけいいか?」
「ん? ああ、いいよ。何だい、父さん?」
親父は頭を掻きながら少し照れくさそうに話し出す。
「実はなぁ、父さんの仕事なんだけど八月に大きな仕事が入ってくることになっててさ……ただそれを終わらせるのには人手が足りなくてだなぁ……それでもし、お前さえ良ければ……たまにでもいいから父さんの仕事も手伝ってくれないかなぁと思ってな……勿論、バイト代は弾むからさ……」
「うん、いいよ。夏休みは毎日アルバイトがあるけど週に一、二回は休みがあるみたいだから、その時に父さんの仕事の手伝いをするよ。でも俺なんかが行って役に立つのかなぁ……?」
俺がそう言うと親父は笑顔でこう言った。
「大丈夫だ!! 隆は小さい時から父さんの仕事は見てきているし、全然素人じゃ無いからな。それにお前は俺の子だ。俺と同じ血が流れているんだから絶対大丈夫だ!!」
どこからそんな自信のある言葉が出てくるんだろうと俺は思ったが親父の嬉しそうな顔を見ていると突っ込む気も消えてしまい俺も微笑みながら靴を履き終わり、急いでバイトに行くのであった。
五十鈴誠……俺の親父……
親父は田舎の貧しい農家の三男として生まれた。
そして本当は高校に進学したかったが家が貧しかった為に兄達と同様に進学を諦め、中学を卒業すると『集団就職』で都会にやって来た。
そして『鉄工所』で働く事になった親父は必死に頑張り、収入の一部を田舎に仕送りしていたらしい。
それからその『鉄工所』で働くようになって十年後、会社で一番の職人と呼ばれる様になったが、同期や先輩達の妬みや嫉妬からの嫌がらせが頻繁に起こり、会社にいるのが辛い状況になった親父は退職をしてしまう。
しかし親父の腕にほれ込んでいた後輩達や得意先の人達から『独立』を勧められ、親父はその人達の支えによって若干二十六歳で会社を起こすこととなる。
そう、親父は二十六歳で『社長』になったのだ。
まぁ、社長といっても親父一人の会社だから全てのことを親父がやらなければならないので大変だったと思う。
その数年後、親父の弟達が一緒に働く様になり、今は兄弟三人で隣の市にある町工場を借りて商売をやっている。
勿論、『前の世界』の親父は将来俺が会社を継ぐことを期待していただろう……
しかし俺はその期待を裏切り違う会社に就職してしまった。
四年後、落胆していた親父を救ったのが俺より四つ下の弟、博だった。
それは俺が就職した会社が嫌になっていた頃で辞めて親父の会社を継ごうかと思っていた矢先の事でもあった。
博は将来何か『やりたい夢』があったみたいなのだが、親父の元気の無い姿を見て、『やりたい夢』を諦め親父の会社を継ぐ決心をしたそうだ。
博は高校卒業後、夜間大学に通いながら昼間は親父の会社で働き、そして大学卒業後には経営の一部を託されると、必死に頑張った博は次々と結果を出していき、会社はみるみると成長していく。
いつの間にか従業員が何十人もいる会社へとなっていったのだ。
その頃、会社を辞めずにいた俺ではあったが、何の取り柄も無い俺は『年功序列』のお陰で自動的に昇進はしていったが、それも高卒の範囲内なので限界はあった。
それに俺は『言っている事とやっている事』がちぐはぐな所があり上司からはよく叱られ、後輩達からも信頼を得られるような先輩では無かったと思う。
そんな状況の俺が自宅に帰ると親父と博が楽しそうに仕事の話をしている姿を見ると俺はとても引け目を感じてしまった。
特に博に対しては『自分のやりたい夢』を諦めてでも必死に頑張って、ここまで上り詰めて来た親孝行者の弟の姿に俺は引け目を感じてしまい、いつの間にかあまり家族と会話をしなくなっていた。
こういった経緯のある俺は『この世界』では同じ事にならないようにしようと心に決めている。
まず、『前の世界』で全然勉強をせずに常に『赤点』だらけだった俺だったが、『この世界』ではちゃんと勉強をやっている。
何故かと言えば、『大学』に進学したいという気持ちが少しだけ俺の中で芽生えてきていたからだ。
『前の世界』でも年齢を重ねるごとに『あの時、ちゃんと勉強をしていれば』『あの時、大学に進学していれば……』というような後悔をしていたので、『この世界』の俺は実際に大学に行けるかどうかは別として将来の為に『選択肢を広げておきたい』という思いがある。
それに親父の会社を将来的には『継ぐ』ということも考えている。
そして『この世界』の博には……親思いの優しい弟には『本当にやりたいこと』……『夢』を叶えて欲しいという兄としての思いもあった。
こうした思いになれたのも、また色々と真剣に将来を考えているのは全て『つねちゃん』との結婚後を考えての事だ。
まだ絶対に『つねちゃん』と結婚できるという保証は無いが、今の内から『つねちゃん』が俺に対して抱くかもしれない不安を少しずつ取り除いていていき、安心して俺からの『プロポーズ』を受け入れてくれる様な状態にしようと思っている。
そんな事を考えながら俺は今、自宅から自転車で片道四十分かかる『エキサイトランド』に向かい必死にペダルをこいでいるのであった。
――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
『前の世界』とは違う『将来』のことを考えて行動している隆
そんな隆の行動は、思いは、そして夢は叶うのか?
ということで次回もお楽しみに。
「お兄ちゃん、今日もアルバイト?」
俺がバイトに行く準備をしている時に妹の奏が眠たそうな顔をしながら聞いていた。
「えっ? ああ、そうだけど……それにしても今日は日曜日なのに珍しく奏も早起きなんだな?」
「珍しくって何よぉぉ? お兄ちゃん失礼ねっ!!」
「ゴメンゴメン、いやでもさ……」
「ウソウソ、冗談よ。フフフ……今日はね朝から先輩達とお出かけするから早起きしたのよ」
へぇ、そうなのか。
奏は先輩達ともプライベートで遊びに行けるくらいの関係になっているんだなぁ……
『前の世界』での奏は石田の『死』のショックで部活も辞めてしまい、性格も大人しくなり、友達付き合いもあまりしていなかったけど、『この世界』の奏は真逆な人生を歩んでいるようで本当に良かったと心から思う俺である。
「それで今日は朝からどこに行くんだ?」
「フフフ……それは内緒!!」
なんだよ、ケチと心の中でそう思う俺であったが奏の笑顔が可愛すぎるので俺は何も言わずに苦笑するのだった。
そして俺がバイトに行こうと玄関で靴を履こうとしていると珍しく親父が話しかけてきた。
「急いでいるところ悪いが隆、少しだけいいか?」
「ん? ああ、いいよ。何だい、父さん?」
親父は頭を掻きながら少し照れくさそうに話し出す。
「実はなぁ、父さんの仕事なんだけど八月に大きな仕事が入ってくることになっててさ……ただそれを終わらせるのには人手が足りなくてだなぁ……それでもし、お前さえ良ければ……たまにでもいいから父さんの仕事も手伝ってくれないかなぁと思ってな……勿論、バイト代は弾むからさ……」
「うん、いいよ。夏休みは毎日アルバイトがあるけど週に一、二回は休みがあるみたいだから、その時に父さんの仕事の手伝いをするよ。でも俺なんかが行って役に立つのかなぁ……?」
俺がそう言うと親父は笑顔でこう言った。
「大丈夫だ!! 隆は小さい時から父さんの仕事は見てきているし、全然素人じゃ無いからな。それにお前は俺の子だ。俺と同じ血が流れているんだから絶対大丈夫だ!!」
どこからそんな自信のある言葉が出てくるんだろうと俺は思ったが親父の嬉しそうな顔を見ていると突っ込む気も消えてしまい俺も微笑みながら靴を履き終わり、急いでバイトに行くのであった。
五十鈴誠……俺の親父……
親父は田舎の貧しい農家の三男として生まれた。
そして本当は高校に進学したかったが家が貧しかった為に兄達と同様に進学を諦め、中学を卒業すると『集団就職』で都会にやって来た。
そして『鉄工所』で働く事になった親父は必死に頑張り、収入の一部を田舎に仕送りしていたらしい。
それからその『鉄工所』で働くようになって十年後、会社で一番の職人と呼ばれる様になったが、同期や先輩達の妬みや嫉妬からの嫌がらせが頻繁に起こり、会社にいるのが辛い状況になった親父は退職をしてしまう。
しかし親父の腕にほれ込んでいた後輩達や得意先の人達から『独立』を勧められ、親父はその人達の支えによって若干二十六歳で会社を起こすこととなる。
そう、親父は二十六歳で『社長』になったのだ。
まぁ、社長といっても親父一人の会社だから全てのことを親父がやらなければならないので大変だったと思う。
その数年後、親父の弟達が一緒に働く様になり、今は兄弟三人で隣の市にある町工場を借りて商売をやっている。
勿論、『前の世界』の親父は将来俺が会社を継ぐことを期待していただろう……
しかし俺はその期待を裏切り違う会社に就職してしまった。
四年後、落胆していた親父を救ったのが俺より四つ下の弟、博だった。
それは俺が就職した会社が嫌になっていた頃で辞めて親父の会社を継ごうかと思っていた矢先の事でもあった。
博は将来何か『やりたい夢』があったみたいなのだが、親父の元気の無い姿を見て、『やりたい夢』を諦め親父の会社を継ぐ決心をしたそうだ。
博は高校卒業後、夜間大学に通いながら昼間は親父の会社で働き、そして大学卒業後には経営の一部を託されると、必死に頑張った博は次々と結果を出していき、会社はみるみると成長していく。
いつの間にか従業員が何十人もいる会社へとなっていったのだ。
その頃、会社を辞めずにいた俺ではあったが、何の取り柄も無い俺は『年功序列』のお陰で自動的に昇進はしていったが、それも高卒の範囲内なので限界はあった。
それに俺は『言っている事とやっている事』がちぐはぐな所があり上司からはよく叱られ、後輩達からも信頼を得られるような先輩では無かったと思う。
そんな状況の俺が自宅に帰ると親父と博が楽しそうに仕事の話をしている姿を見ると俺はとても引け目を感じてしまった。
特に博に対しては『自分のやりたい夢』を諦めてでも必死に頑張って、ここまで上り詰めて来た親孝行者の弟の姿に俺は引け目を感じてしまい、いつの間にかあまり家族と会話をしなくなっていた。
こういった経緯のある俺は『この世界』では同じ事にならないようにしようと心に決めている。
まず、『前の世界』で全然勉強をせずに常に『赤点』だらけだった俺だったが、『この世界』ではちゃんと勉強をやっている。
何故かと言えば、『大学』に進学したいという気持ちが少しだけ俺の中で芽生えてきていたからだ。
『前の世界』でも年齢を重ねるごとに『あの時、ちゃんと勉強をしていれば』『あの時、大学に進学していれば……』というような後悔をしていたので、『この世界』の俺は実際に大学に行けるかどうかは別として将来の為に『選択肢を広げておきたい』という思いがある。
それに親父の会社を将来的には『継ぐ』ということも考えている。
そして『この世界』の博には……親思いの優しい弟には『本当にやりたいこと』……『夢』を叶えて欲しいという兄としての思いもあった。
こうした思いになれたのも、また色々と真剣に将来を考えているのは全て『つねちゃん』との結婚後を考えての事だ。
まだ絶対に『つねちゃん』と結婚できるという保証は無いが、今の内から『つねちゃん』が俺に対して抱くかもしれない不安を少しずつ取り除いていていき、安心して俺からの『プロポーズ』を受け入れてくれる様な状態にしようと思っている。
そんな事を考えながら俺は今、自宅から自転車で片道四十分かかる『エキサイトランド』に向かい必死にペダルをこいでいるのであった。
――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
『前の世界』とは違う『将来』のことを考えて行動している隆
そんな隆の行動は、思いは、そして夢は叶うのか?
ということで次回もお楽しみに。
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