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第14章 新たな出会い編
第87話 初恋の人の事を熱く語ってしまった
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なんてことだ……
まさか俺の座席の横が水井京香だなんて……
女子達の様子を見ていると座席は最初から決めていたように思える。
何でだ? お前は『前の世界』で二度も俺を振っているんだぞ!!
それなのに何故……
俺は複雑な心境になりながら窓の外を見たり、目を閉じたりしていた。
勿論、俺から彼女に話しかけることは決してない。
しかし水井の方が積極的に俺に話しかけてくる。
それを俺は適当に相槌したり、言葉を選びながら質問に答えたりしている。
なんて気の遣う会話なんだ。
でも仕方が無い。俺の言葉次第で『前の世界』ではあり得ないことが次から次へと進んでしまう可能性があるからな……
いずれにしても俺が避けなければいけないのは小中の頃の寿と同様に水井が俺のことを好きにならないようにすることだ。
さすがに鈍感な俺でも理解できる。
年齢を増すごとにこういった状況が増えていっているなと......
この歳になりようやく分かってきた。
本当に『つねちゃん』の予言通りになってきているのか……?
「でね、五十鈴君……前から一つ五十鈴君に聞きたかったことがあるんだけど、聞いてもいいかな?」
えっ、まだ俺になんか聞いて来るのかよ?
「えっ、ああ……別にいいよ……」
「あのね、前に五十鈴君が自己紹介の時に『好きな女性のタイプは幼稚園の頃の先生』って言っていたけど、その先生ってどんな人だったのか知りたくて……もし良ければ教えてくれない?」
うーん……やはりその事を聞いてきたか……
でもここは普通に『つねちゃん』のことを語っても問題は無いと判断した俺は『つねちゃん』の人柄について水井に話し出した。
後で俺は『つねちゃん』のことを褒めまくっていた自分を思い出し、恥ずかしくなるくらい熱く語ってしまっていた。
水井は俺の話を色々な表情をしながら聞いていた。
『つねちゃん』の人柄を別に水井が聞く必要は無いはずだが、俺が話すたびに大きな瞳を更に大きくして驚いた表情をしたり、少し真剣な目をしながら何か考えているような表情をしたり……
そんな感じで水井はとても聞き上手だった。
『前の世界』で水井と付き合っていた頃、俺達はこんなに会話が続いたことがあっただろうか?
いや、無かったな……
それなのに何故、『この世界』の水井はこうまで違うのだろうか?
それとも俺が違うのか? その可能性の方が高いかもしれないな。
だって今の俺は水井に好かれたい訳でも無く、まして中身が『大人』の俺だから、いくら『高校生』に成りきろうとしても、心のどこかで『大人の余裕』というものがあるのかもしれない。
今思えば『前の世界』の俺は水井に対してどこか『遠慮』もしくは『引け目』があったのかもしれない。まぁ一応、俺が水井の事を好きになったのだから『惚れたものの弱み』ということで、仕方の無いこところなんだが、そういったことが原因で俺は水井に余計な気を遣い過ぎて徐々に疲れていき、気持ちが冷めていったのではないだろうか……
いずれにしてもバスの中で『つねちゃん』には申し訳無いが、『つねちゃん』の事を話しまくったお陰で俺は水井の『本当の姿』を知ることが出来たのは本当に良かったと心から思えた。
だから水井に対して『前の世界』とは違う形で好感が持てたのだった。
あとは水井が俺に好意を持たせないように気を付けるだけだな……
こうして俺が水井に『つねちゃん』の良いところを語りつくしている間にバスは目的地に到着する。
俺達は『合宿所』にある各班の部屋に行き、それぞれの荷物を置いてからジャージに着替えて外にある『バーベキュー場』前に集合した。
もう時間はお昼前、今から俺達は各班毎に『カレーライス』を作ることになっていた。定番だがこれが一番、班で助け合って一つのものを作るにはもってこいなのだろう。
役割分担は各班自由だが、俺達の班は男子が『お米研ぎ』と『飯盒炊飯』をやり、女子が『野菜のカット』や『カレーの味付け』をすることにした。
俺達男子は上野と入谷が薪を運び、俺が『火起こし』の担当をする。
前に彼等との会話の中で俺が小さい時から父親の影響でこういったことが得意だという話をしたことがあったので、すんなりと担当が決まったのである。
「おーい、五十鈴!! 薪を持ってきたぞっ!!」
「これで足りるかなぁぁ?」
「あっ、二人共有難う。薪はそこへ置いておいてくれないか? うーん、でもあと少しだけ薪が欲しいかな。悪いけどあと少しだけ薪を運んでくれないか?」
「 「オッケー!! 任せとけ!!」 」
二人はそう言うと、最初に持って来た薪を置き、直ぐに『薪置場』まで小走りで行くのであった。
実を言うと俺は『前の世界』でも『ホームルーム合宿』でこういう事をやっていたのかどうか覚えていない。かなり記憶が無くなっている。
唯一はっきり覚えているのが寝る前の部屋での『あの話』だ……
そう……『クラスの女子で一番可愛いと思う子』を言い合いしていた場面だけは覚えていた。
人間、嫌な事はなかなか忘れないものだ……
俺がこんな事を考えながら火起こしをしていると、隣の班の飯盒の方から『パチパチ』という音が聞こえたかと思うと『熱い!!』と叫ぶ女子の声がした。
俺は驚いて隣の飯盒の方を見ると指を押さえて痛そうにしゃがみ込んでいる女子の後姿が目に入った。
あっ、これはきっと火花が指先に飛んできて火傷したんだ。と思った俺は直ぐに小さな手提げ袋の中にある家から持って来ていた消毒液と絆創膏を取り出し、その子の所へ行き声をかけた。
「大丈夫!? 指を火傷したんじゃない? 一度、水で指を冷やしてから、この消毒液をつけて絆創膏を巻けば大丈夫だと思うから……」
火傷の痛みで背中が少し震えていた女子は俺の声に反応し、震えが止まると同時に俺の方に振り向き、痛みを我慢しながらニッコリと微笑んでこう言った。
「ご、ゴメンね? それに……あ、有難う……イテテッ……」
その子の顔を見た途端、俺の心臓の動きが一瞬止まった感覚になった。
何故、この場面で……
「さ……佐々木……真由子……」
――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
『前の世界』で隆のことを二度も振った水井だが『この世界』では様子が少し違う……
そんな中、飯盒で火傷をした少女を助けた隆だったが、その助けた少女はあの佐々木真由子だった。
まさかの場面で『人生で一番好きだった人』と出くわしてしまった隆
果たして隆はどんな行動をとるのか!?
どうぞ次回もお楽しみに!!
まさか俺の座席の横が水井京香だなんて……
女子達の様子を見ていると座席は最初から決めていたように思える。
何でだ? お前は『前の世界』で二度も俺を振っているんだぞ!!
それなのに何故……
俺は複雑な心境になりながら窓の外を見たり、目を閉じたりしていた。
勿論、俺から彼女に話しかけることは決してない。
しかし水井の方が積極的に俺に話しかけてくる。
それを俺は適当に相槌したり、言葉を選びながら質問に答えたりしている。
なんて気の遣う会話なんだ。
でも仕方が無い。俺の言葉次第で『前の世界』ではあり得ないことが次から次へと進んでしまう可能性があるからな……
いずれにしても俺が避けなければいけないのは小中の頃の寿と同様に水井が俺のことを好きにならないようにすることだ。
さすがに鈍感な俺でも理解できる。
年齢を増すごとにこういった状況が増えていっているなと......
この歳になりようやく分かってきた。
本当に『つねちゃん』の予言通りになってきているのか……?
「でね、五十鈴君……前から一つ五十鈴君に聞きたかったことがあるんだけど、聞いてもいいかな?」
えっ、まだ俺になんか聞いて来るのかよ?
「えっ、ああ……別にいいよ……」
「あのね、前に五十鈴君が自己紹介の時に『好きな女性のタイプは幼稚園の頃の先生』って言っていたけど、その先生ってどんな人だったのか知りたくて……もし良ければ教えてくれない?」
うーん……やはりその事を聞いてきたか……
でもここは普通に『つねちゃん』のことを語っても問題は無いと判断した俺は『つねちゃん』の人柄について水井に話し出した。
後で俺は『つねちゃん』のことを褒めまくっていた自分を思い出し、恥ずかしくなるくらい熱く語ってしまっていた。
水井は俺の話を色々な表情をしながら聞いていた。
『つねちゃん』の人柄を別に水井が聞く必要は無いはずだが、俺が話すたびに大きな瞳を更に大きくして驚いた表情をしたり、少し真剣な目をしながら何か考えているような表情をしたり……
そんな感じで水井はとても聞き上手だった。
『前の世界』で水井と付き合っていた頃、俺達はこんなに会話が続いたことがあっただろうか?
いや、無かったな……
それなのに何故、『この世界』の水井はこうまで違うのだろうか?
それとも俺が違うのか? その可能性の方が高いかもしれないな。
だって今の俺は水井に好かれたい訳でも無く、まして中身が『大人』の俺だから、いくら『高校生』に成りきろうとしても、心のどこかで『大人の余裕』というものがあるのかもしれない。
今思えば『前の世界』の俺は水井に対してどこか『遠慮』もしくは『引け目』があったのかもしれない。まぁ一応、俺が水井の事を好きになったのだから『惚れたものの弱み』ということで、仕方の無いこところなんだが、そういったことが原因で俺は水井に余計な気を遣い過ぎて徐々に疲れていき、気持ちが冷めていったのではないだろうか……
いずれにしてもバスの中で『つねちゃん』には申し訳無いが、『つねちゃん』の事を話しまくったお陰で俺は水井の『本当の姿』を知ることが出来たのは本当に良かったと心から思えた。
だから水井に対して『前の世界』とは違う形で好感が持てたのだった。
あとは水井が俺に好意を持たせないように気を付けるだけだな……
こうして俺が水井に『つねちゃん』の良いところを語りつくしている間にバスは目的地に到着する。
俺達は『合宿所』にある各班の部屋に行き、それぞれの荷物を置いてからジャージに着替えて外にある『バーベキュー場』前に集合した。
もう時間はお昼前、今から俺達は各班毎に『カレーライス』を作ることになっていた。定番だがこれが一番、班で助け合って一つのものを作るにはもってこいなのだろう。
役割分担は各班自由だが、俺達の班は男子が『お米研ぎ』と『飯盒炊飯』をやり、女子が『野菜のカット』や『カレーの味付け』をすることにした。
俺達男子は上野と入谷が薪を運び、俺が『火起こし』の担当をする。
前に彼等との会話の中で俺が小さい時から父親の影響でこういったことが得意だという話をしたことがあったので、すんなりと担当が決まったのである。
「おーい、五十鈴!! 薪を持ってきたぞっ!!」
「これで足りるかなぁぁ?」
「あっ、二人共有難う。薪はそこへ置いておいてくれないか? うーん、でもあと少しだけ薪が欲しいかな。悪いけどあと少しだけ薪を運んでくれないか?」
「 「オッケー!! 任せとけ!!」 」
二人はそう言うと、最初に持って来た薪を置き、直ぐに『薪置場』まで小走りで行くのであった。
実を言うと俺は『前の世界』でも『ホームルーム合宿』でこういう事をやっていたのかどうか覚えていない。かなり記憶が無くなっている。
唯一はっきり覚えているのが寝る前の部屋での『あの話』だ……
そう……『クラスの女子で一番可愛いと思う子』を言い合いしていた場面だけは覚えていた。
人間、嫌な事はなかなか忘れないものだ……
俺がこんな事を考えながら火起こしをしていると、隣の班の飯盒の方から『パチパチ』という音が聞こえたかと思うと『熱い!!』と叫ぶ女子の声がした。
俺は驚いて隣の飯盒の方を見ると指を押さえて痛そうにしゃがみ込んでいる女子の後姿が目に入った。
あっ、これはきっと火花が指先に飛んできて火傷したんだ。と思った俺は直ぐに小さな手提げ袋の中にある家から持って来ていた消毒液と絆創膏を取り出し、その子の所へ行き声をかけた。
「大丈夫!? 指を火傷したんじゃない? 一度、水で指を冷やしてから、この消毒液をつけて絆創膏を巻けば大丈夫だと思うから……」
火傷の痛みで背中が少し震えていた女子は俺の声に反応し、震えが止まると同時に俺の方に振り向き、痛みを我慢しながらニッコリと微笑んでこう言った。
「ご、ゴメンね? それに……あ、有難う……イテテッ……」
その子の顔を見た途端、俺の心臓の動きが一瞬止まった感覚になった。
何故、この場面で……
「さ……佐々木……真由子……」
――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
『前の世界』で隆のことを二度も振った水井だが『この世界』では様子が少し違う……
そんな中、飯盒で火傷をした少女を助けた隆だったが、その助けた少女はあの佐々木真由子だった。
まさかの場面で『人生で一番好きだった人』と出くわしてしまった隆
果たして隆はどんな行動をとるのか!?
どうぞ次回もお楽しみに!!
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○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
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