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第11章 それぞれの思い編

第60話 初恋の人達を想う

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 先輩達との試合から結構な月日が流れた。
 今は昭和六十年四月

 俺は中学三年になった。
 
 『この世界』にタイムリープしてから約八年になる。
 あいだで一度『前の世界』に戻ってしまった事はあったが、それにしてもあっという間の八年だった。

 少しだけここ数年を振り返ってみよう……


 あの後の『秋の大会』の団体戦……
 練習の甲斐あって先輩達のAチームは四位(三位決定戦で敗北)

 そして俺達一年生がメインのBチームはベスト16となる。
 両チームベスト8という目標は達成出来なかったが、俺達はとても満足していた。

 それにうちの『卓球部』としては久しぶりの上位入賞という事で学校も大々的に取り上げてくれ、次回の大会ではもっと上に行けるのではという期待も持ってもらい、次の週から俺達卓球部は毎日、体育館で練習しても良いという許可が出たのだ。

 『前の世界』では俺達の世代が掴んだ毎日体育館での練習であったが、『この世界』では一年早く実現する事が出来たのだ。

 そしてその期待通りに次の年の『夏の大会』……羽和さん達にとっては最後の大会。
 その大会で羽和さん達は団体戦で念願の三位になり、有終の美を飾る事となる。

 先輩達の活躍のお陰で学校側は俺達『新チーム』に対し、新しい卓球台を数台購入してくれた。新入部員も増えて合計五十名以上もいるのだ。

 ここ数年で俺達『卓球部』は凄い活気のある部活となった。

 新キャプテンは『前の世界』同様に下田に、そして副キャプテンは藤木にやってもらう事になった。ちなみに当初、俺がキャプテンになるのがふさわしいと皆が言ってくれたが俺は頑なに断った。

 また村瀬や森重はやはり卓球の上達が早く、あの時以降、試合をしても俺が勝っていたが、最近は俺の方が結構負けている。やはり俺のレベルはアレ止りなんだろう……

 いずれにしても俺達は『青葉第三中学校始まって以来の最強卓球部』として注目されており、念願の『団体戦優勝』に向けて必死に練習をしている。


 あと俺達、三年生は『受験生』でもある。
 そんな中、俺は勉強も頑張り、いつの間にか『空白の一年』を克服し、『前の世界』と同じレベルにまでなっていた。

 これでどうにか『前の世界』で通っていた『青葉東高校』に合格できそうだ。
 まぁ、油断は禁物であるが……

 一つ気になるのは同じ塾に通っていた石田が中二の秋頃に突然、塾を辞めた事だ。
 
 実は『前の世界』でも同じ時期に塾を辞めている。ただ俺は石田に何故塾を辞めたのか理由を聞けないまま彼女は死んでしまった。

 だから今回こそは理由を聞こうと思っていたんだが、クラスも違い、最近、部活も欠席する事が多くなっている石田と会話をする機会が減っていて、結局塾を辞めた理由を聞けずじまいになっている。

 もう、あまり時間が無い。
 
 俺は『この世界』で石田の命を救いたいと思っている。

 前にも言ったが、『前の世界』での俺の初恋の人は『つねちゃん』ではなく、ずっと石田だと思っていた。志保さんから『つねちゃん』が死んだと聞かされた時にようやく俺が最初に好きになった人が『つねちゃん』だったと思い出せたくらいだから……

 だから俺にとっては石田もとても大切な人なんだ。
 彼女を死なせたくない!!

 それもあんな悲惨な事故で……

 ただ俺はたまに思う事がある。あの悲惨な事故で多くの人が亡くなっている。
 それなのに俺の個人的な思いで石田だけを助けるなんて都合が良すぎはしないか?
 石田だけを助けて他の人は見捨てて良いのか!?
 
 でも俺には全員を助ける事なんて出来ない。
 『八月某日、何時何分発の飛行機には乗らないでくれ!!』って俺が叫んだところで、おそらく誰も聞いてはくれないだろう。

 逆に俺が『おかしな奴』と思われて警備員にどこかに連れて行かれるのがオチだ。
 だが、一人くらいなら……石田だけなら……
 俺の力で何とか助ける事が出来るかもしれない。
 しかし、こんな俺がどうやって石田を助けるんだ……!?

 俺は『その日』が近づくにつれて、そういった心の葛藤が増えていた。

 たしか石田が死んでしまってから一週間も経たないうちに俺達の『最後の大会』が開催されたんだよなぁ……

 あの時はとても辛かった……
 どうしても頭から石田が離れなくて、全然試合に集中出来ずに自分の実力を出し切れないままに負けてしまったんだよなぁ……

 おそらく俺だけが落ち込んでいた訳じゃ無いはずだ。
 高山や他の小学生から付き合いのあった奴は皆、なんらかの影響を受けていたはずだ。

 ただ俺は石田が死んでから彼女の事が『大好き』だった事に気付いてしまった為に落ち込み方が尋常で無かったのは間違いないのだが……


 『死んでから大好きだった事に気付いた』と言えば『つねちゃん』も同じだ。

 正しくは大好きだったけど、その頃は幼稚園児という事もあり、また卒園後、『つねちゃん』に全然会えていなかった為、俺の記憶からドンドン薄れていってしまっていたんだ。

 まぁ、普通の幼稚園児だったらそんなものだろう……
 成長していく過程で好きな人が次々現れていく内に記憶は上書きされていってしまうものだ。

 まさに俺はそれだった。
 
 しかし志保さんから『つねちゃんの死』を聞かされた時、俺は今までにない衝撃を受けてしまった。

 何か心の中の『封印』が解かれた様な感覚だった。石田が死んでから好きだった事に気が付いたのと同じ、いや、それ以上に俺は『つねちゃん』の事を『心の底から愛している』事に気付いたんだ。そして昔の……あの楽しかった『つねちゃん』との思い出が次々と甦って来た……

 それに数ヶ月続いていた『あの頭痛』とも重なって、いつの間にか『この世界』に俺は飛ばされてしまい……

 何故、俺は『この世界』にタイムリープしたんだろうか……?
 俺はやり直しが出来て非常に喜んではいるが、俺だけの思いでこんな現象が起こるものなのか?

 それとも、一度戻った『前の世界』で分かった事だが、『つねちゃん』も俺にずっと会いたがってくれていた事も関係するのだろうか……

 『お互いの思いが一つになった時に』……みたいな……
 さぁ、どうだろう……?

 いずれにしても考えたって答えは見つからない。
 俺は『この世界』で精一杯、頑張るしか無いんだ。
 
 そして三年後、俺が高校三年生……十八歳になったら……

 俺は『つねちゃん』に正式に『プロポーズ』をする。
 それだけは俺の中で決まっている。


 さぁ、俺の決意を改めて確認もした事だし、今夜は久しぶりに『つねちゃん』に電話をしてみようかな。中三になって初めての電話だな…………

 またお父さんかお母さんが先に電話に出てくるんだろうな……
 べ、別に構わないけどさ……

 しかし、誰でもいいから早く『携帯電話』を開発してくれないか!?
 不便で仕方が無いぜ…………




――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。

新章『それぞれの想い編』が始まりました。
どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆
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