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第10章 波乱の部活編

第58話 初恋の人の前でピンチになる俺

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「つ……つねちゃんが……何で……?」

 まさか『つねちゃん』が応援に来てくれるとは思ってもいなかった俺は茫然と立ち尽くす。

 そんな俺を笑顔で見ている『つねちゃん』は俺の方に小さく手を振り『女子バレー部兼卓球部顧問』の武田先生のところに挨拶に行った。

 武田先生の反応で二人は知り合いだという事が分かる。

 はぁ……これで俺は絶対に『本気』を出さなくてはいけない……
 『つねちゃん』と電話であれだけの話をして期待を裏切る訳にはいかないと俺は思った。

 ただ、他の四名のうち一人でも二年生に勝ってくれたら俺の『本気』はまたの機会にって事にはなるのだが……


 試合開始!!

 まずは一番手の村瀬対羽和キャプテンの試合が始まった。

 やはり村瀬は『卓球の申し子』だ。俺達一年生とはレベルが違い過ぎる。
 
 対戦している羽和さんも最初は少し余裕の表情をしていたが試合が進むうちに、表情が厳しくなっていった。

 点数が『10対10』になった時点で突然、羽和さんの目の色が変わる。

 あの動きは『本気』の動きだ。

 村瀬の打ち返しにくいところにピン球を次から次へと打っていき、いつの間にか村瀬は返すだけで精一杯な状況に追い込まれていった。

 そして羽和さんはすかさず卓球台ギリギリのところに『スマッシュ』を打ち、村瀬も必死に食らい付こうとするが、ラケットが届かずに羽和さんのポイントになった。

 このパターンが何度も続き、結果『21対14』で羽和さんが勝利した。
 後半村瀬は4点しか取れなかったのだ……
 さすがはキャプテンだな。と俺は『敵』ながら関心をしてしまった。

 続く森重対松井副キャプテンとの第二試合

 『サウスポー』の森重に最初はやりにくそうに試合をしていた松井副部長だったが、次第に森重の動きに慣れてきたと同時にまだ一年の森重との体力の差も現れ出し、ジワジワと点差が広がって行く。

「オイオイ、シゲまで負けちゃったら、もう俺達に勝てるチャンスなんて無いよぉ……」

 と、俺の横で高山が嘆いていたが、結局『21対15』で松井副キャプテンが勝ってしまった。

「 「なんだぁ~……せっかく一年が二年に勝つところを楽しみにして来たのに、そう簡単に一年が二年に勝てるわけないのかなぁ……」 」

「当たり前だろ!! 俺達は一年よりもたくさん練習してきたんだからな!!」

 試合結果に対してガッカリしている二年生女子達に対して今田さんが言い返しているのが見てた。

 そして俺は『つねちゃん』の方を見てみると、俺の視線に気づき、俺に対してニコッと微笑んだ。きっと『つねちゃん』の希望通りの試合の流れになっているんだろうなと俺はあの笑顔でそう思った。


 結局、第三試合の下田対轟さん、第四試合の藤木対井口さんの試合も二年生の勝利で終わってしまう。特に井口さんの『カット』はとても綺麗で俺は見とれていた。

 いや、見とれている場合じゃ無かった。

 遂に俺の番が来てしまった……
 
 それも俺が一番望んでいなかった状況、逆に『つねちゃん』が一番望んでいた状況で第五試合を行う事になってしまった。

「五十鈴君、頑張って~っ!!」 「五十鈴君、最後まで諦めちゃダメよ~っ!!」

 寿や石田の声援が体育館の中をこだまする。

 そして『つねちゃん』までもが……

「隆君、『本気』を見せてねっ!!」

「本気?」「本気ってどういう事?」

 高山や大石が首を傾げながら俺に聞いてきたが俺は何も返事をせずに右川さんが待っている卓球台へと歩いて行った。そして右川さんが笑顔で俺に話しかけてくる。

「五十鈴、悪いけど俺の方が『本気』でいくからね。 俺達二年生のプライドに賭けて一年に完全勝利で終わりたいしね……」

 だろうな……


 試合開始!!

 俺はもう開き直って最初から『本気』で行く事にした。
 しかし……

 パシッ!!

「あっ!?」

 右川さんは俺のサーブした球をあっさりスマッシュしたのだ。
 俺は一歩も動けなかった。

 はぁぁぁ……

 高山達のため息が聞こえてくる。

 そして俺はある事に気付いた。いや、気付くのが遅すぎた。
 
 俺の使用しているラケットは通称『いもラケ』と言われている、『スポーツ用品店』に安い値段で売られている『初心者』が最初に購入するラケットであった。

 なので『ラバー』のかかりも悪く、俺がいくら『スピン』をかけたサーブをしても右川さんの『本物のラバー』からすれば屁でもなく、あっさりスマッシュを決められてしまうのだ。

 そしてその逆もしかり……

 右川さんの『スピン』のかかったサーブを俺のラケットでは対応出来ない。
 俺のラケットに球が当たったと同時に『強烈なスピン』のせいで全然違う方向に球が飛んでしまうのだ。

 その結果、俺は一点も取れずに『10対0』まで来てしまった。

 このままではマズイ……
 
 『本気』を出す以前の問題だ。
 『つねちゃん』の前で全然良いところを見せる事無く俺の試合も終わってしまうのか?

 またしても俺は『前の世界』と同じように肝心なところで活躍出来ずに終わるのか!?

 そう思っている俺の視線に『井口さん』が入って来た。

 あっ!!

 そっ、そうか!! その手があったんだ!!

 俺はギリギリのところである事を思い付く事が出来た。

「タッ、タイムお願いします!!」

 俺は審判にそう言うと一目散に井口さんの所まで走りだす。

 自分に迫って来る俺を見て井口さんは凄く驚いた顔をしているが俺は気にせずに目の前まで立ち止まる。

 そして俺は井口さんにこう言った。

 「井口さん、すみません!! 申し訳ないですが井口さんのラケットを貸して頂けないでしょうか!?」


――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。

『波乱の部活編』ですが次回最終話にまります。
隆の勝敗の行方は!?

どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆
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