91 / 93
最終章 永遠の愛編
第90話 神様からのプレゼント/亮二・加奈子
しおりを挟む
俺と加奈子ちゃんはどことなく落ち着かない状態でゴンドラに迎え合せで座っている。
でもそんな落ち着かない俺でも制服姿の加奈子ちゃんがとても可愛くて見とれてしまっているのも事実だ。
ただ、さっきからずっと気になるのは加奈子ちゃんの横にある学校のカバンにぶら下がっているペンギンのぬいぐるみ……昔、広美と一緒に買ったペンギンのペンちゃんに良く似ているのだが……
汚れている部分も同じなんだよなぁ……もしかして俺が記憶を失う前に加奈子ちゃんにあげたのか? でも俺にとってペンちゃんは広美との大切な思い出の一つだ。
そう簡単に他の人にあげるなんて事を俺がするのだろうか?
それだけ俺と加奈子ちゃんは親密な間柄だったのだろうか?
そんな事を考え、なんとか思い出そうとすると少し頭が痛くなる。それでも俺は痛みを気にせずに加奈子ちゃんのカバンを見つめていると「りょう君、本当に私で良かったの?」と不安そうな表情で加奈子ちゃんが話してきた。
「えっ? あ、当たり前だよ。俺が今一番一緒に乗りたい人は加奈子ちゃんだよ。意識不明の時も回復してからもずっと俺の傍にいてくれた加奈子ちゃんだよ。でもまぁ、俺達の下に見える次のゴンドラに乗っている本日主役だったはずの広美や岸本さん達より先に乗っているっていうのは少し気が引けるけどさ……ハハハ」
この状況は広美が前から考えていた演出なのかどうかは定かでは無い。しかしそのお陰で当初はめちゃくちゃ緊張していた俺も今は最高に幸せな気分だ。だから不安そうな表情をしている加奈子ちゃんに笑顔になってもらいたい。俺の今の気持ちを彼女に伝えたい、今日というチャンスを逃したくないという思いでいっぱいになっていた。
「でも会場の人達は幼馴染同士で乗る事を期待していたんじゃ……」
「そんなのは関係無いよ。広美だってそうさ。今はマスコミにバレないよう秘密にしているけど、実は広美にはお付き合いしている人がいるんだよ」
「えっ、そうなの?」
「うん、そうだよ。だから広美は元から俺と一緒に乗りたいなんて思っていなかったというか、最初からこういう状況になる事を願っていたような気がするんだ。じゃないと司会者の言う通りにしていたと思うし……これは幼馴染としての勘だけど……」
そう、広美の性格ならあんな提案をしてもおかしくない。昔から誰にでも優しく、いや特に俺には優しくて気配り上手だったし……だから俺は……そんな広美の事が小さい頃から好きだったんだ。
「もしそうなら嬉しいなぁ……りょう君に一緒に乗ろうと言われた時は凄く緊張しちゃって身体が固まってしまったけど、やっぱりこうしてりょう君と二人きりで観覧車に乗れるのは嬉しい……」
「俺も嬉しいよ。それに前にジャンプスターが完成したら一緒に乗る約束してたしね? でもまぁ、まさかこんな状況で約束を果たす事になるとは思わなかったけど……」
「フフッ、そうだね……」
ゴロゴロゴロゴロ……
「えっ何!? 今のは雷!?」
雷が苦手な加奈子ちゃんの身体がビクッと震えた。
「そういえば今日の天気は曇り時々雷雨だったような……昨日の祝日だったら快晴で景色も凄く綺麗だったのに……いくら広美や岸本さんの予定に合せたとはいえ、普通はこんな大事なセレモニーを平日にはやらないとは思うんだけどなぁ……」
俺は加奈子ちゃんの前ではそう言っているけど、本当はこの日しか都合がつかなかったというのも今となれば広美や岸本さんが俺の誕生日に合わせる為の作戦だったような気もしている。
ゴロゴロゴロゴロ
「キャッ!!」
「だ、大丈夫だよ、加奈子ちゃん。俺がついているんだから」
「そ、そうなんだけど、私達のゴンドラに雷落ちて来ないかな?」
「ハハハ、それは絶対に大丈夫さ。そうならないように設計されているはずだし。それにうちの会社の部品も使われているんだからさ」
「えっ? りょう君の会社で雷避けみたいな物まで造っているの?」
「さぁ、俺はよく分からないけどね……プッ」
「えーっ!? 今のは冗談だったの? んもう、私、信じちゃうところだったわ!!」
「ハハハ、ゴメンゴメン。でもお互いに身体が楽になった気しない?」
俺は今の会話でようやくいつもの自分に戻れた感じがした。
「フフッ、そうだね。私も楽になったかも。りょう君の笑えないギャグのお陰で緊張が取れた感じがするわ。ただ、雷はやっぱり怖いけど……」
「えーっ!? 笑えないギャグって……でも俺のギャグが加奈子ちゃんにも役に立って良かったよ。そろそろゴンドラも頂上に着く頃だろうし、加奈子ちゃんに本題を話したいしさ……」
「え、本題? そうなんだぁ……りょう君も私に何か話があったんだね?」
りょう君も? ってことは……
「もしかして加奈子ちゃんも俺に何か話があったのかい?」
「うん、そうだよ。とっても大事な話があるの……」
「とっても大事な話し?」
ゴロゴロゴロゴロ
「キャッ!!」
加奈子ちゃんは再三鳴り響く雷の音に驚いているが俺は加奈子ちゃんの大事な話が気になって仕方がなかった。さっきから俺と一緒に乗れて嬉しいっていうのは本当の気持ちなんだろうか?
もしかしたら俺とはもう会うのを止めるとか、本当は広美と俺でゴンドラに乗って欲しかったとか……そして俺が一番、言われて辛くなる言葉……学校で好きな人ができたとか……
そういえば今日の加奈子ちゃんは朝からあまり元気が無かった感じがしたよな? 俺ともあまり話をしていなかったし……それって大事な話の内容が原因だったとかなのか!?
ゴロゴロゴロゴロ
この雷は俺にとってあまりにも不吉に感じてしまう。そういえば俺が正月に引いたおみくじって吉だったよな? 運気が上昇する可能性もあるけど、逆に一気に下降してしまう可能性だってある……それにあの時、加奈子ちゃんは大吉を引き当てたんだ。その大吉効果で加奈子ちゃんの運気がこの数ヶ月の間に上昇して遂に同年代の理想の男子と出会ってしまったということはないだろうか……
元々、7つも歳の差がある俺達って……無理があったのかな……
はぁ……正月、加奈子ちゃんにあれだけポジティブ発言をしていた男とは思えないが……
そんな突然ネガティブ野郎に変身してしまった俺に加奈子ちゃんが口を開く。
「りょう君、あのね……」
――――――――――――――――――――――――
広美さんとりょう君が一緒のゴンドラに乗るだろうと半ば諦めかけていた矢先のりょう君の言葉……本当嬉しくて嬉しくて……涙が止まらなかった。
これでお正月に神社で神様にお願いした事が実行できる。そう思うと逆に緊張してしまい、表情が暗くなってしまう。それでなくても今日は朝からその事が気になって朝食も取れず、りょう君の顔を見ると意識してしまい、あまり会話もできなかった。
きっと、りょう君は私が元気の無い事に気付いているだろうなぁ……だからさっきから私を元気づけようと冗談を言ってくれているのかもしれない。
もしかして私を元気づける為に一緒に乗って欲しいって言ってくれたの? 本当は初恋で幼馴染、今は超有名女優の五十鈴広美さんと一緒に乗りたかったのでは……
どうしてもそんなネガティブな事を考えてしまう。そしてそんな気持ちに拍車をかける様にさっきから雷の音も鳴り出して……
何でこんな時に雷なんて鳴るのよ? 怖くてりょう君にちゃんと想いを伝える事が出来ないじゃない!! と、心の中で雷に八つ当たりをしている私がいる。
でも、いつまでもそんな事を考えている場合じゃ無い。今日の……広美さんがお膳立てしてくれたかもしれないこのチャンスを逃す訳にはいかない。
そうよ。フラれてもいいのよ。私はりょう君に自分の想いを全てぶつける事ができればそれでいいんだって思っていたじゃない? 何を恐れているの?
恐れるのは雷だけで十分よ!!
私は覚悟を決めて口を開いたが……
「りょう君、あのね……」
ゴロゴロゴロ……ピッシャーーーンッ
私が話かけた途端、今日一番の激しい雷の音と共にゴンドラが激しく揺れだし私は泣き叫びながらりょう君に抱きついた。
「キャーッ!! りょう君!!」
ガバッ
私は身体を震わせながらりょう君の胸の中に顔をうずめている。りょう君はそんな怖がりの私が迷惑かな? 早く離れて欲しいと思っているのかな?
でも、しばらくこのままでいて欲しい。お願いだからこのままで……
何秒くらい経ったんだろう? しばらくして雷がおさまり薄暗かったゴンドラの中に明るい光が差し込んできたのが分かる。
すると、私の両肩にりょう君が手を置いたかと思うと片方の手が私の頭を撫でだし、そして私の頭の上に何か冷たいものが落ちてきたような気がした。
え? 何? 何が落ちて来たの? もしかしてりょう君、泣いているの?
私は逆にりょう君が心配になり、ゆっくり顔を上げる。そしてりょう君の顔を見ると目から大量の涙が流れていた。
「りょ、りょう君……?」
私が小さな声で名前を呼ぶとりょう君は涙をこらえながらこう言った。
「お、俺が泣いている場合じゃないよね……でも……うっ……こ、こんな場面で……大切な女の子が怖がっている場面なんだから……俺はこう言わないと……ね?」
「え?」
「俺がいるんだから大丈夫さ、カナちゃん……」
――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
遂に最終話、エピローグ(予定)と続きます。
どうぞ次回も宜しくお願い致します。
でもそんな落ち着かない俺でも制服姿の加奈子ちゃんがとても可愛くて見とれてしまっているのも事実だ。
ただ、さっきからずっと気になるのは加奈子ちゃんの横にある学校のカバンにぶら下がっているペンギンのぬいぐるみ……昔、広美と一緒に買ったペンギンのペンちゃんに良く似ているのだが……
汚れている部分も同じなんだよなぁ……もしかして俺が記憶を失う前に加奈子ちゃんにあげたのか? でも俺にとってペンちゃんは広美との大切な思い出の一つだ。
そう簡単に他の人にあげるなんて事を俺がするのだろうか?
それだけ俺と加奈子ちゃんは親密な間柄だったのだろうか?
そんな事を考え、なんとか思い出そうとすると少し頭が痛くなる。それでも俺は痛みを気にせずに加奈子ちゃんのカバンを見つめていると「りょう君、本当に私で良かったの?」と不安そうな表情で加奈子ちゃんが話してきた。
「えっ? あ、当たり前だよ。俺が今一番一緒に乗りたい人は加奈子ちゃんだよ。意識不明の時も回復してからもずっと俺の傍にいてくれた加奈子ちゃんだよ。でもまぁ、俺達の下に見える次のゴンドラに乗っている本日主役だったはずの広美や岸本さん達より先に乗っているっていうのは少し気が引けるけどさ……ハハハ」
この状況は広美が前から考えていた演出なのかどうかは定かでは無い。しかしそのお陰で当初はめちゃくちゃ緊張していた俺も今は最高に幸せな気分だ。だから不安そうな表情をしている加奈子ちゃんに笑顔になってもらいたい。俺の今の気持ちを彼女に伝えたい、今日というチャンスを逃したくないという思いでいっぱいになっていた。
「でも会場の人達は幼馴染同士で乗る事を期待していたんじゃ……」
「そんなのは関係無いよ。広美だってそうさ。今はマスコミにバレないよう秘密にしているけど、実は広美にはお付き合いしている人がいるんだよ」
「えっ、そうなの?」
「うん、そうだよ。だから広美は元から俺と一緒に乗りたいなんて思っていなかったというか、最初からこういう状況になる事を願っていたような気がするんだ。じゃないと司会者の言う通りにしていたと思うし……これは幼馴染としての勘だけど……」
そう、広美の性格ならあんな提案をしてもおかしくない。昔から誰にでも優しく、いや特に俺には優しくて気配り上手だったし……だから俺は……そんな広美の事が小さい頃から好きだったんだ。
「もしそうなら嬉しいなぁ……りょう君に一緒に乗ろうと言われた時は凄く緊張しちゃって身体が固まってしまったけど、やっぱりこうしてりょう君と二人きりで観覧車に乗れるのは嬉しい……」
「俺も嬉しいよ。それに前にジャンプスターが完成したら一緒に乗る約束してたしね? でもまぁ、まさかこんな状況で約束を果たす事になるとは思わなかったけど……」
「フフッ、そうだね……」
ゴロゴロゴロゴロ……
「えっ何!? 今のは雷!?」
雷が苦手な加奈子ちゃんの身体がビクッと震えた。
「そういえば今日の天気は曇り時々雷雨だったような……昨日の祝日だったら快晴で景色も凄く綺麗だったのに……いくら広美や岸本さんの予定に合せたとはいえ、普通はこんな大事なセレモニーを平日にはやらないとは思うんだけどなぁ……」
俺は加奈子ちゃんの前ではそう言っているけど、本当はこの日しか都合がつかなかったというのも今となれば広美や岸本さんが俺の誕生日に合わせる為の作戦だったような気もしている。
ゴロゴロゴロゴロ
「キャッ!!」
「だ、大丈夫だよ、加奈子ちゃん。俺がついているんだから」
「そ、そうなんだけど、私達のゴンドラに雷落ちて来ないかな?」
「ハハハ、それは絶対に大丈夫さ。そうならないように設計されているはずだし。それにうちの会社の部品も使われているんだからさ」
「えっ? りょう君の会社で雷避けみたいな物まで造っているの?」
「さぁ、俺はよく分からないけどね……プッ」
「えーっ!? 今のは冗談だったの? んもう、私、信じちゃうところだったわ!!」
「ハハハ、ゴメンゴメン。でもお互いに身体が楽になった気しない?」
俺は今の会話でようやくいつもの自分に戻れた感じがした。
「フフッ、そうだね。私も楽になったかも。りょう君の笑えないギャグのお陰で緊張が取れた感じがするわ。ただ、雷はやっぱり怖いけど……」
「えーっ!? 笑えないギャグって……でも俺のギャグが加奈子ちゃんにも役に立って良かったよ。そろそろゴンドラも頂上に着く頃だろうし、加奈子ちゃんに本題を話したいしさ……」
「え、本題? そうなんだぁ……りょう君も私に何か話があったんだね?」
りょう君も? ってことは……
「もしかして加奈子ちゃんも俺に何か話があったのかい?」
「うん、そうだよ。とっても大事な話があるの……」
「とっても大事な話し?」
ゴロゴロゴロゴロ
「キャッ!!」
加奈子ちゃんは再三鳴り響く雷の音に驚いているが俺は加奈子ちゃんの大事な話が気になって仕方がなかった。さっきから俺と一緒に乗れて嬉しいっていうのは本当の気持ちなんだろうか?
もしかしたら俺とはもう会うのを止めるとか、本当は広美と俺でゴンドラに乗って欲しかったとか……そして俺が一番、言われて辛くなる言葉……学校で好きな人ができたとか……
そういえば今日の加奈子ちゃんは朝からあまり元気が無かった感じがしたよな? 俺ともあまり話をしていなかったし……それって大事な話の内容が原因だったとかなのか!?
ゴロゴロゴロゴロ
この雷は俺にとってあまりにも不吉に感じてしまう。そういえば俺が正月に引いたおみくじって吉だったよな? 運気が上昇する可能性もあるけど、逆に一気に下降してしまう可能性だってある……それにあの時、加奈子ちゃんは大吉を引き当てたんだ。その大吉効果で加奈子ちゃんの運気がこの数ヶ月の間に上昇して遂に同年代の理想の男子と出会ってしまったということはないだろうか……
元々、7つも歳の差がある俺達って……無理があったのかな……
はぁ……正月、加奈子ちゃんにあれだけポジティブ発言をしていた男とは思えないが……
そんな突然ネガティブ野郎に変身してしまった俺に加奈子ちゃんが口を開く。
「りょう君、あのね……」
――――――――――――――――――――――――
広美さんとりょう君が一緒のゴンドラに乗るだろうと半ば諦めかけていた矢先のりょう君の言葉……本当嬉しくて嬉しくて……涙が止まらなかった。
これでお正月に神社で神様にお願いした事が実行できる。そう思うと逆に緊張してしまい、表情が暗くなってしまう。それでなくても今日は朝からその事が気になって朝食も取れず、りょう君の顔を見ると意識してしまい、あまり会話もできなかった。
きっと、りょう君は私が元気の無い事に気付いているだろうなぁ……だからさっきから私を元気づけようと冗談を言ってくれているのかもしれない。
もしかして私を元気づける為に一緒に乗って欲しいって言ってくれたの? 本当は初恋で幼馴染、今は超有名女優の五十鈴広美さんと一緒に乗りたかったのでは……
どうしてもそんなネガティブな事を考えてしまう。そしてそんな気持ちに拍車をかける様にさっきから雷の音も鳴り出して……
何でこんな時に雷なんて鳴るのよ? 怖くてりょう君にちゃんと想いを伝える事が出来ないじゃない!! と、心の中で雷に八つ当たりをしている私がいる。
でも、いつまでもそんな事を考えている場合じゃ無い。今日の……広美さんがお膳立てしてくれたかもしれないこのチャンスを逃す訳にはいかない。
そうよ。フラれてもいいのよ。私はりょう君に自分の想いを全てぶつける事ができればそれでいいんだって思っていたじゃない? 何を恐れているの?
恐れるのは雷だけで十分よ!!
私は覚悟を決めて口を開いたが……
「りょう君、あのね……」
ゴロゴロゴロ……ピッシャーーーンッ
私が話かけた途端、今日一番の激しい雷の音と共にゴンドラが激しく揺れだし私は泣き叫びながらりょう君に抱きついた。
「キャーッ!! りょう君!!」
ガバッ
私は身体を震わせながらりょう君の胸の中に顔をうずめている。りょう君はそんな怖がりの私が迷惑かな? 早く離れて欲しいと思っているのかな?
でも、しばらくこのままでいて欲しい。お願いだからこのままで……
何秒くらい経ったんだろう? しばらくして雷がおさまり薄暗かったゴンドラの中に明るい光が差し込んできたのが分かる。
すると、私の両肩にりょう君が手を置いたかと思うと片方の手が私の頭を撫でだし、そして私の頭の上に何か冷たいものが落ちてきたような気がした。
え? 何? 何が落ちて来たの? もしかしてりょう君、泣いているの?
私は逆にりょう君が心配になり、ゆっくり顔を上げる。そしてりょう君の顔を見ると目から大量の涙が流れていた。
「りょ、りょう君……?」
私が小さな声で名前を呼ぶとりょう君は涙をこらえながらこう言った。
「お、俺が泣いている場合じゃないよね……でも……うっ……こ、こんな場面で……大切な女の子が怖がっている場面なんだから……俺はこう言わないと……ね?」
「え?」
「俺がいるんだから大丈夫さ、カナちゃん……」
――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
遂に最終話、エピローグ(予定)と続きます。
どうぞ次回も宜しくお願い致します。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説

両親や妹に我慢を強いられ、心が疲弊しきっていましたが、前世で結ばれることが叶わなかった運命の人にやっと巡り会えたので幸せです
珠宮さくら
恋愛
ジスカールという国で、雑草の中の雑草と呼ばれる花が咲いていた。その国でしか咲くことがない花として有名だが、他国の者たちはその花を世界で一番美しい花と呼んでいた。それすらジスカールの多くの者は馬鹿にし続けていた。
その花にまつわる話がまことしやかに囁かれるようになったが、その真実を知っている者は殆どいなかった。
そんな花に囲まれながら、家族に冷遇されて育った女の子がいた。彼女の名前はリュシエンヌ・エヴル。伯爵家に生まれながらも、妹のわがままに振り回され、そんな妹ばかりを甘やかす両親。更には、婚約者や周りに誤解され、勘違いされ、味方になってくれる人が側にいなくなってしまったことで、散々な目にあい続けて心が壊れてしまう。
その頃には、花のことも、自分の好きな色も、何もかも思い出せなくなってしまっていたが、それに気づいた時には、リュシエンヌは養子先にいた。
そこからリュシエンヌの運命が大きく回り出すことになるとは、本人は思ってもみなかった。


悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。


婚約者の様子がおかしいので尾行したら、隠し妻と子供がいました
Kouei
恋愛
婚約者の様子がおかしい…
ご両親が事故で亡くなったばかりだと分かっているけれど…何かがおかしいわ。
忌明けを過ぎて…もう2か月近く会っていないし。
だから私は婚約者を尾行した。
するとそこで目にしたのは、婚約者そっくりの小さな男の子と美しい女性と一緒にいる彼の姿だった。
まさかっ 隠し妻と子供がいたなんて!!!
※誤字脱字報告ありがとうございます。
※この作品は、他サイトにも投稿しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる