あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

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最終章 永遠の愛編

第89話 幼馴染からのプレゼント/加奈子

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「あれ、加奈子ちゃん?」

 ボランティア活動をしている私に誰かが声をかけてきた。

「え? あっ!!」

 声の主はりょう君の大学時代の後輩、あの橋本さんだった。そしてその隣には少しお腹が大きく見える奥さんもいる。そう、あの旧姓大石さんだ。

「加奈子ちゃん、久しぶりだねぇ? まさか今日のセレモニーに加奈子ちゃんが来ているなんて驚いちゃったよ。うーん、しばらく見ないうちにとても大人っぽくなっちゃって……それにますます美人さんに……ほんと、僕の妹になってもらいた……」

 ボコッ

「フグッ!!」

 話しの途中で橋本さんは奥さんの大石さんに横腹をひじうちされて痛そうにしている。

「加奈子ちゃん、お久しぶり。うちの旦那が変な事を言ってゴメンね? でも、この人が言うように成長している加奈子ちゃんを見て私も驚いちゃったわ。しかし、まさかこんなところで久しぶりの再会をするなんて……あっ、もしかして鎌田さんもここに来ているのかしら?」

「は、はい……りょう君の勤めている会社がジャンプスターの部品の一部を製造している関係で今日はセレモニースタッフとして頑張ってます」

「そ、そうなんだ!? お見舞いに行った日以来だから久しぶりに……あ、それで鎌田さんの記憶は戻ったのかしら!?」

 私が首を横に振ると大石さんはとても残念そうな表情をした。それとは逆に橋本さんは笑顔で「仕事をするくらいに元気になられたって事なんだから喜ばないと」と言ってくれた。
 
 前から橋本さんは少し変なところがあったけど根はとても優しい人だ。

「そ、それでお二人はどうしてここに? もしかしてお二人共、このセレモニーの関係者なんですか?」

「フフフ……そうなのよぉ。聞いてビックリしないでよ? まぁ、私は結婚式の日に知ってめちゃくちゃ驚いたんだけどさ……」

 ビックリ? 結婚式の日に驚いた?

「実はね、うちの旦那、めちゃくちゃお坊ちゃんだったのよ。『ハシモトコーポレーション』って知っているかな? 全国や海外にもたくさんのグループが会社がある大企業なんだけど」

「え? あ、はい聞いた事はありますし、りょう君の会社に一番お仕事を回してくれているのが『橋本金属青葉工場』らしいんですが、その会社もグループ会社ですよね? ん? 橋本……? えっ!? って事は……」

「気付いたみたいね? そうなのよ。うちの旦那は『ハシモトコーポレーション』創業者の曾孫ひまごだったのよ。その事を結婚式ギリギリまで教えてくれなかったから大石家全員が驚いたわ!!」

 それから大石さんの説明が始まったけど、まとめるとこんな感じになる。

 現在、橋本さんのお父さんが今回のセレモニーの主催者でグループ会社『橋本開発』の社長さんで長男であるお兄さんが常務らしい。そして橋本さんの叔父さんにあたる人が『橋本金属』の社長をされており2番目のお兄さんが青葉工場の所長をされているそうだ。

 そして橋本さんは今年から『橋本開発』で働く様になり、数年間、営業マンとして修行後、課長になる事が決まっている。

「橋本さんって見かけによらず実は凄い人だったんですね?」

「み、見かけによらずって……でもまぁ、そう見られても仕方ないかもね? それと僕自身は凄くなんて無いしね。家族が凄い人達ばかりだって事だけで、それに兄弟の中で僕だけが国立大学に行けなかったかし……」

「でも、やっぱり凄いですよ。学生結婚されているし、それに奥さんのお腹の中にはお子さんもいるんですよね? それだけでも凄いと思います」

「ありがとう、加奈子ちゃん。君にそう言って貰えると本当に嬉しいなぁ……僕って男兄弟ばかりだからさ、女兄妹に凄い憧れがあって……それで加奈子ちゃんの事を妹のように思いたいっていう気持ちがあり過ぎて変な言動もあったと思う……あの頃はこんな気持ち悪い僕なんかの話し相手をしてくれてありがとね? 今でも感謝してるんだ」

「そ、そんな感謝だなんて……私、何もしてませんよ。それに橋本さんのそういう優しいところを大石さんは好きになったんじゃないのですか?」

「えっ!? ええ、まぁ、そ、そうかもねぇ……」

 私が急に話をふったので大石さんは少し顔を赤くしながら返事をするのだった。 

 3人で当時の思い出話をしている最中、会場近くに設置されている大きな時計台の針が10時を指し、ゴーン、ゴーンと10回、大きな音が鳴り響く。

 いよいよジャンプスター開業記念セレモニー開始時間が来た。

 司会者の合図と共に壇上にはたくさんのセレモニー関係者の人達が上がり始める。そしてその中には隆おじさんの姿も……あれ? もしかしてあの女性は千夏さんでは? それと隣にいる隆おじさんに雰囲気が似ている人……そっか、千夏さんは橋本金属の社員だし、ここにいても不思議では無いんだ……はぁ……少しだけ緊張が解けたなぁ……
 
 壇上に知り合いが一人でもいると安心してしまう自分がいた。

 そして壇上に最後に上がって来た二人の女優に会場からは大歓声が。岸本順子さんと五十鈴広美さん……とても華やかな二人が現れて会場全体がざわついている。

 私も声には出していないが少し興奮している感じはする。そして、有名女優二人のうち五十鈴広美さんと私は面識があるという事で少し誇らしげな気持ちにもなっている。

 順調にセレモニーが進んでいき、広美さんに対し司会者が話をふりだした。

「本日は開業記念という事で青葉市が誇る2大スターのお二人に乗客第1号としてジャンプスターに乗車して頂く事になっていますが、五十鈴さん、今のお気持ちはいかがですか?」

「はい、そうですね。新米女優の私なんかに一番最初の乗客として乗車させていただけるなんてとっても光栄に思っています。でも……」

「でも? どうかされましたか?」

「突然、こんな事を言うのは大変申し訳ないですし、ワガママだと思われるかもしれませんが一つお願いがあるんです」

「え? といいますと?」

 広美さんの発言に会場内がざわつきだした。でも隣にいる岸本さんはニヤリとしているので広美さんが何を言おうとしているのか分かっている感じがする。

「前に私は映画の記者会見で意識不明の幼馴染がいるとお話させていただいたと思います」

 えっ!? 広美さんがここでりょう君の話を……

「はい、そのお話は私も覚えていますよ。それでその幼馴染の方がどうかされましたか?」

「実は昨年、その幼馴染の意識が戻りまして、今は社会復帰も果たし、本日もこのセレモニー関係者の一人として会場スタッフとして頑張っているんです」

「えーっ、そうなんですか!?」

 司会者の驚きの声と共に会場中にどよめきが走る。

「それで今回、私と岸本さんが一番にジャンプスターに乗車という事ですが、私としてはその幼馴染に少し遅くはなりましたが復帰祝いと『奇跡的に』今日が彼の誕生日ですので誕生祝いを兼ねて『ジャンプスター最初のお客様ペア券』をプレゼントしたいんです!!」

「おーっ!! そ、そいう事ですか~っ!?」

 司会者の驚きの声と共に会場の人達も驚いている。勿論、私も驚いているし、壇上下でロープ張りをしていたりょう君なんかは今まで見た事がないくらいの驚きの表情をしている。

 その後、りょう君は広美さんに呼ばれて緊張した面持ちで壇上に上がる。そして司会者から子供の頃の広美さんとの思い出などを色々と質問され凄く汗をかいていた。

 その近くで岸本さんは終始笑顔でその様子を見ている。逆に隆おじさんや千夏さんは緊張しているのか顔が強張っていた。

「それでですね、五十鈴広美さんから『ジャンプスター最初のお客様ペア券』をプレゼントされたわけですが、こちらとしてはやはり幼馴染同士の鎌田さんと五十鈴広美さんと二人で乗車していただきたいと思うのですが、それでよろしいですよね?」

「え、広美と僕がですか……?」

 え? そ、そんな……

 でも……そ、そうだよね。司会者さんの言う通りだよね。あの二人の方が絵になるし、一番感動的だし……マスコミの人達もその方が良いって思っているだろうし……広美さん自身もそう思って提案したのかもしれないし……

 しかし広美さんとりょう君が一番に乗ってしまったら……その後、次々とたくさんの人が乗るだろうし、もしかしたら今日は私、りょう君と一緒に乗れないかもしれない……ゴンドラの中で告白できないかもしれない……

 そう考えると悲しくなってしまった私は目から涙が溢れてきた。

「ちょっと待っていただけませんか?」

 突然、広美さんが大きな声を出した。

「五十鈴さん、どうかされましたか?」

「あのですね、別に幼馴染だからといって私と亮君が一緒に乗る必要は無いと思うんです。これは私から亮君へのプレゼントですから、一緒に乗る人……一緒に乗りたい人は亮君が決めれば良いと私は思います」

「ひ、広美……」

「うーん、五十鈴さんはこうおっしゃっていますが、鎌田さんはどうされますか? 私とすればですねぇ……やはりここはですねぇ……」

 司会者さんの言っている事を聞きながらも返事はせずに、ずっと何か考えているようなりょう君が遂に口を開く。

「す、すみません。あなたのマイクを貸していただけませんか?」

「え? 私のマイクを?」

 司会者さんが戸惑っている間に広美さんが笑顔で自分のマイクを手渡した。

「はい、私のマイクを使ってちょうだい」

「ありがとう、広美……」

 りょう君もまた壇上に上がってから初めての笑顔を見せる。

 りょう君は一体、何を言うつもりなんだろう?

 キーンッ

 マイクがハウリングし会場が静まり返った瞬間、りょう君は私の方を向き、右手を前に差し出しながら、いつもの優しい笑顔でこう言った。

「三田加奈子さん、俺と一緒にジャンプスターに乗ってくれませんか?」
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