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最終章 永遠の愛編

第86話 誕生日プレゼント/亮二・加奈子

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「亮二君、話があるんだけどいいかな?」

「え? はい」

 ある日、事務仕事をしている俺に社長の隆おじさんが声をかけてきた。

「実はね、まだ先の話なんだけどジャンプスターの開業日が決まってねぇ」

「えっ、そうなんですか!?」

「ああ、そうなんだよ。俺も関係者の一人という事で先日、その打ち合わせに参加していてね、それで開業日は来年4月30日に決まったんだ」

「し、4月30日ですか? その日って……」

「ハハハ、そうなんだよ。凄い偶然だろ? そう、亮二君の誕生日の日がジャンプスターの開業日に決まってね、その日は盛大に記念セレモニーを行う予定なんだよ」

「でも何でまた、そんな大事な日がよりによって平日の4月30日なんでしょうね? 普通に考えれば前日の祝日である29日や5月3日から5日のいずれかになりそうなのに……」

「うん、まぁ……色々とあってね……実はそのセレモニーには青葉市出身女優の岸本順子や娘も参加する予定になっていたんだが、二人揃ってゴールデンウイーク期間は4月30日しか予定が空いていなかったそうで、運営側も仕方なく彼女達のスケジュールに合わせたっていうのが本当のところなんだよ」

「ああ、なるほど、そういう事ですか? それなら納得です。そりゃぁ青葉市が生み出した2大女優が来るのと来ないとでは盛り上がり方が全然違いますもんね。へぇ、そうなんだぁ……広美も参加するのかぁ……」

 俺の幼馴染がいつの間にか大女優になっていて、ジャンプスターの開業記念セレモニーにゲスト扱いで参加するなんて未だに信じられない話しだよ。

 でも前に加奈子ちゃんと広美が出演していた映画を観たけど、演劇部時代よりもはるかに凄い演技だったし感動して思わず泣きそうになったからやっぱり広美は凄い人になっているんだよなぁ……

「それでそのセレモニーには私もこの事業に携わった一人として出席するんだけど、こんな事は滅多にあるもんじゃないし、開始が午前10時という事だから、その日は会社を休みにしてうちの従業員も全員、出席してもらおうと考えているんだ」

「えっ!? ということは僕も出席できるという事ですか?」

「勿論、亮二君にも出席してもらうよ。それで一つ提案があるんだけどねぇ」

「提案? 何でしょうか?」

「ああ、提案というのはジャンプスターに一番近い高校に通っている加奈子ちゃん達『ボランティア部』もスタッフとして参加してもらったらどうかなって事なんだ」

「えっ、加奈子ちゃん達も!? そ、それはとても良い提案ですけど、30日は平日ですから普通に授業もあるしどうなんでしょうねぇ……?」

「まぁ、そこらへんは俺から学校の方に話をしてみるよ。青葉東高校は俺の母校でもあるし、今でも数名、知っている先生もいるしね」

「分かりました社長。よろしくお願いします」

「任せておいてくれ。これは俺から亮二君へここ数年分まとめた感じの誕生日プレゼントみたいなものだから……」

「た、隆おじさん……」

――――――――――――――――――――――――

「加奈子ちゃん、誕生日おめでとう」

「あ、ありがとう、りょう君」

 月日が流れるのは早いもので今日は平成24年11月22日、この日は私の16歳の誕生日でりょう君の家でお祝いをしてもらっている。

 本当は部活終わりの私は仕事終わりのりょう君と勉強をする為、家にお邪魔するはずだったのだけど、まさかのサプライズでとても驚いた。

「おばさん、久しぶりに気合いを入れて料理したから遠慮せずにたくさん食べてね?」

「は、はい、ありがとうございます。とても美味しそうです!!」

 目の前にりょう君のお母さん手作りの誕生日ケーキや豪華な料理が並べられて私は凄く興奮していた。

「あの小さかった女の子がもう16歳かぁ……そりゃぁ、おじさんが歳をとるのも当然だよなぁ……」

 りょう君のお父さんが感慨深い表情をしながら言っている。

 16歳といえば法律上では結婚できる年齢……

 あの日、夏のエキサイトランドでこの年に11歳になる私と18歳になっていたりょう君が再会した日……これまでの色んな出来事を話をした後、私からりょう君に告白してキスまでしちゃって……

 そんな私に対して戸惑っていたりょう君が『カナちゃんが18歳になってお互いに彼氏彼女がいなくて、お互いにまだ両想いだったらその時に正式な彼氏彼女になって付き合う付き合おう』と言ってくれた。

 でも私は一日でも早くりょう君と付き合いたいという気持ちが強かった為、りょう君に『16歳になれば結婚できる』って言ったらとても苦笑いしていたのを思い出す。もう5年も前になるんだなぁ……

 そしてその2年後、私の母校で行われた七夕祭りにボランティアとして参加した日の夜……

 りょう君は私にプロポーズをしてくれた。

「カナちゃんが高校生になった時、まだカナちゃんが俺の事を好きでいてくれるのなら正式に付き合ってほしい。勿論、その時はご両親の承諾もいただくし、誰にも変な目で見られないように、カナちゃんに迷惑をかけないように健全な付き合いをするって誓うよ。そしてカナちゃんが高校を卒業した時には……お、俺と結婚してくれないかい?」

 今、思い出しても身体が熱くなってしまう。でも……これらの会話を私は鮮明に覚えていても、今のりょう君は何も覚えていない。

 それを思うととても辛くなっちゃうから今まで思わないように努力していたけど、さすがに16歳になった私の頭の中は久しぶりにその光景が次から次へとよみがえってしまう。

「加奈子ちゃん、どうかしたのかい?」

「え? いえ、何でもないよ。皆さんに誕生日を祝ってもらえてとても感動しているの」

「ハハハ、そっかぁ。それじゃぁ、これを加奈子ちゃんにプレゼントしたらもっと感動してくれると嬉しいんだけどなぁ……」

「え、プレゼント?」

「はい、俺からの誕生日プレゼント」

 りょう君は笑顔で綺麗にラッピングされている小さな箱を差し出した。

「あ、ありがとう」

 私はそれを受け取り「開けてもいい?」と言うと、りょう君は優しい表情で「うん、開けてみて」と言ってくれたので私はゆっくりとリボンをほどいて包装紙を外し、箱の蓋を開ける。

「あっ!?」

「どうかな? 気に入ってくれたかな?」

「うん、勿論よ。とても可愛いわ。それにこのデザインって……」

 りょう君が私にプレゼントしてくれたのは大きなハートと小さなハートが恋人のように重なり合っているシルバーのピアスだった。そう、前に私がりょう君の誕生日にプレゼントしたネックレスと同じデザイン……

 そして、今頃気付いたけど、りょう君の首にはその時、私がプレゼントしたネックレスがかけてあった。あの事故以降、一度も身に付けていなかったネックレス……

「りょ、りょう君がしているネックレスって……」

 すると、りょう君のお母さんが申し訳なさそうな表情で私に話し出す。

「ゴメンね、加奈子ちゃん。実はあの時の事故で亮二がつけていたネックレスの一部が破損しちゃっていて亮二が意識不明の間、私が保管していたのよ。それでつい最近、亮二から加奈子ちゃんへの誕生日プレゼントの相談をされている時にそのネックレスの事を思い出しちゃって慌てて修理にだしたの。それで先日、無事に修理が終わりこうして亮二の元に戻ってきたって訳なのよぉ」

「そ、そうだったんですね……」

 そして、りょう君が口を開く。

「それでさ、俺は加奈子ちゃんからこのネックレスをプレゼントしてもらったという記憶は消えてしまっているけど、もしかしたら、事故で俺が死ななかったのは加奈子ちゃんがくれたこのネックレスが身代わりになってくれたんじゃないかもって思う様になってさ……」

「でも本当はあの時、私が車に轢かれるはずだったんだし……」

「そんな事は気にし無くていいんだよ。事故の記憶は無いけど、俺が加奈子ちゃんを守る事ができたってのは事実なんだし、俺は何も後悔していないし、逆に誇りに思っているんだ。だから今も家族と、加奈子ちゃんとこうして幸せな日々をおくれているんだし……俺は目覚めてからずっと俺のお世話をしてくれている加奈子ちゃんに心の底から感謝しているんだ」

「りょう君……」

「だから今回は俺から加奈子ちゃんにそういった感謝を込めたプレゼントがしたくなっちゃってさ……でも俺と同じデザインのピアスって引いちゃうかもしれないけど、良ければ受け取ってほしいんだ……」

「ひ、引くわけないよ……すごく嬉しい……ウグッ……本当に凄く凄く嬉しいよ。一生大切にするね? ただ私、耳に穴をあけていないからまずは先に穴をあけに行かないと……」

「あっ、そっか!! 俺そこまで考えていなかったよ。イヤリングにすればよかったよね? 気が利かなくて……ご、ゴメン、加奈子ちゃん……」

 ガチャツ

「ただいま~!! 話は全部聞いたわよぉ」

「あ、真保さん!?」

「ま、真保姉ちゃん、突然ビックリするじゃないか!! こっちに帰って来るって言っていたかい? それに話を全部聞いてたって……さっさと部屋の中に入ればいいじゃないか!?」

「亮二、お母さんが真保に連絡を入れておいたのよ。今日は加奈子ちゃんのサプライズ誕生日パーティーをやるからってね」

「そ、そうだったんだ」

「フフッ、そういうこと。だから急いで仕事を終わらせて駆けつけたんだからねぇ。まぁ明日から土日で仕事休みだし今夜は泊まるつもりだから、明日は祝日の土曜日だけど午前中はやっているはずだから私が穴をあけた病院に一緒に行こうよ。ねっ、加奈子ちゃん?」

「え、いいんですか? 助かります。是非お願いします!!」

「さすが私の娘ね。仕事が早いわ」

「まぁねぇ」

「はぁ……好きにしてくれ……」

 りょう君だけがため息をつき他の人達は大笑いをしていた。

「 「 「ハハハハハ」 」 」

 私はりょう君家族の温かい愛に包まれ一生忘れる事の無い16歳の誕生日となった。
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