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最終章 永遠の愛編
第85話 ワガママ女優/広美
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ある日、久しぶりに五十鈴君、いえ父から電話がかかってきた。
電話の内容は来年4月29日に私の地元、青葉市で行われる『ジャンプスター開業記念セレモニー』に私と順子が出席する件について……
なんとかして29日の開業を30日に変更したいから二人に協力してほしいとの事だった。
最初、彼の話を聞いた時は、せっかくたくさんの人が集まりやすい祝日に開業するのを何でわざわざ平日の30日に変更したいんだろうと思ったけど、よく考えてみれば4月30日って……
私は彼が何を考えているのか、何を期待しているのか何となく分かった気がした。だからもし順子が日程変更を渋っていたら私からも説得しようと思っていた矢先……
トルルルゥ トルルルゥ
ピッ
「もしもし、岸本さん、おはようございます」
「おはよう、広美ちゃん。今、いいかしら?」
「はい、いいですよ。もしかして、岸本さんにもうちの父から連絡がきましたか?」
「ええ、そうなのよ。私達が来年4月に出席する『ジャンプスター開業記念セレモニー』の日程を29日から30日に変更してくれないかって言ってきたんだけど、五十鈴君、何も理由を教えてくれないのよ。たださぁ、私に言われてもねぇ……事務所やスポンサーさん、セレモニー関係者にまずは言ってもらわないとダメじゃないのとは思うんだけど、広美ちゃんはお父さんから何か詳しい事情を聞いているのかなと思ってさ」
「いえ、私も詳しい事は……ただ、父の事ですから何か大事な理由があるとは思うんです。だから私は父のお願いを利きたいとは思っているんですが、岸本さんは無理なんでしょうか?」
「いえ別に私も五十鈴君のお願いなら出来るだけ利こうとは思っているのよ。ただ何も理由を言ってくれないからさぁ……でも広美ちゃんも彼に協力する気でいるのなら私も喜んで協力させてもらうわ」
「ありがとうございます。父も喜びます」
「別に広美ちゃんがお礼を言う事ではないし、私も同級生の頼みだし、まして五十鈴君は私に女優になることを勧めてくれた恩人みたいなものだしさ……ただ、本当はその4月30日って大切な知り合いと会う約束をしていたのよねぇ。でも昨日その知り合いから30日は都合が悪くなったから別の日にしてほしいと連絡があってね、だから私としては30日にセレモニーの日程が変わっても支障が無くなったから助かったわ」
そうなんだ。その順子の大切な知り合いっていう人に感謝しなくちゃね。
「そうだったんですね? それは助かります」
「その知り合いもいつか広美ちゃんに紹介する時が来るかもしれないわね」
「え? 岸本さんの大切な人ってこの業界の方なんですか?」
「そうねぇ……今は女優ではなくて脚本家をされている方なんだけど、昔私が上京した時に一番お世話になった恩人なのよ。東京に知り合いなんて誰もいなかったから当時は本当に助かったのよねぇ……まぁ、いつか広美ちゃんにも紹介させてもらうわ。今はケイティっていう名前で活動されているんだけど楽しみにしていて。恐らくお父さんも驚くから」
「ケイティ? 父も驚く? って事は父もその方を知っていると……」
「ハハハ、この話はまた今度ね」
「え? は、はい分かりました。それでは楽しみにしておきますね」
「うん、ところで広美ちゃんは年末年始もお仕事だったかしら?」
「そうですね。ドラマの撮影や正月用のバラエティー番組にも何本か出演させて頂く予定になっていますので地元に帰れるのはやっぱりジャンプスター開業記念セレモニーの日になっちゃいそうです」
「そうなんだぁ……地元のお友達も広美ちゃんに会いたがっているだろうなぁ……特にあの子、えっとぉ幼馴染の鎌田君だっけ? 彼は数年間の記憶を無くして目覚めたらしいけど、広美ちゃんの記憶は残っているって聞いているし、凄く会いたいんじゃないかなぁ? あ、でも広美ちゃんって大きな声では言えないけど今、彼氏がいたんだよね?」
「ハハハ、そうですね。私も亮君には会いたいですよ。それに亮君は私がお付き合いしている人がいるというのは父から聞いて知っているみたいですし、亮君にも今は大切な人がいますので、どうか岸本さんはご心配なくです。フフフ……」
「ふーん、そうなのね? それならいいんだけどさぁ。片思いの人が自分の前からどんどん離れて行ってしまうのって結構辛いものだから……まぁ、私の場合は自分から離れていったんだけどね……お陰で私は今も独身よぉ。未だに片思いの人以上の人に巡り合えていないんだなぁ……って私は広美ちゃんの前で何を言っているのかしらね!? お願い、今のは忘れてちょうだい?」
「えーっ? 忘れられるかなぁ? ハハハ……」
岸本さんの片思いの人って誰なんだろう?
も、もしかして……
「もう、広美ちゃんったら意地悪ねぇ」
「 「ハハハハハ」 」
片思いの人が自分の前からどんどん離れて行ってしまう辛さかぁ……
順子、私はとっくの昔にそれを経験しているんだよ。それも何度も何度も……
『前の世界』でも『タイムリープしたこの世界』でも……そして彼の娘として『転生した今の時代』でも五十鈴隆君の事がずっとずっと大好きなんだよ。
できる事なら私は彼のお嫁さんになりたかった……
だから私は他の男性には全く興味が持てないでいた。子供の頃から亮君の私に対っする想いも気付いていたけど、私は彼を受け止める事が出来ずに逃げていた。だから私は亮君に対して常に申し訳無い気持ちでいっぱいだった。亮君が私の気を引こうと努力をしている姿を見る度に辛かった。
だからいつも亮君に私の事なんて忘れてしまうくらいの人が現れますようにと心から願っていたなぁ。
でもある日、私の願いが届いたのかどうかはその時は分からなかったけど、亮君の前に彼女が現れた。
三田加奈子ちゃん……
私達が中1の時に遊びに行っていたエキサイトランドで迷子になっていた幼稚園児の加奈子ちゃんを見かけ、心優しい亮君が加奈子ちゃんを助けたのが最初の出会い……
その出会いが今の今まで続き、まして亮君が事故にあって加奈子ちゃんの記憶を無くしてしまった今でも、二人は新たな関係として続いていると五十鈴君、いえ、父から聞いている。
これは私だけではなく昔から二人を知っている人達が見ても『お互いの運命の人』だと分かるはず。きっと亮君だって分かっているはずよね? だから今も二人は……
二人の影響のお陰で私も新たな恋をする気持ちになる事ができたんだよ。そして今こうしてお付き合いさせてもらっている人がいる。亮君の主治医だった青木啓介先生……意識不明だった亮君のお見舞いに何度か行くうちに青木先生と親しくなり……
これもまた運命の出会いなのかもしれないなぁ……
話を戻すけど、そんな亮君と加奈子ちゃんの姿を近くで見ている一人で、まして『タイムリープ者』である父が今回、私達に無理なお願いをしてきたって事は……
4月30日……この日は亮君の誕生日……たしか、生まれて直ぐに亡くなったお兄さんの命日でもあったと思う。この日に父は何か感じたのだろう。だから日程の変更をお願いしてきたに違いない。
まして、あのジャンプスターの開業記念だし……飛行機事故で死んだはずの私が『この世界』に再び石田浩美としてタイムリープ後、病気で死んでしまう前に彼から聞いた事がある。
彼は『この世界』にタイムリープしてから一度だけ『前の世界』に逆戻りしてしまった事がある。でも再び『この世界』に戻って来れたのは『前の世界』のジャンプスターに『この世界』に戻りたいけど戻れないという現実を突きつけられ途方に暮れた状態で一人乗りこんだ時だったと……
二人が彼の様にタイムリープしちゃったら困るけど、それは無いと思う。だって二人にとってタイムリープは意味が無いと思うから。まぁ、ジャンプスターに何か奇跡的なものがあるのかどうかは分からないけど、それに賭けてみてもいいと思う。もし何も起こらなければ次を考えればいいだけなんだし。別にあの二人が今のままでも幸せならそれはそれでいいんだから……
いずれにしても私は父のお願いを利く為に一芝居しなくちゃいけないのは確かよね?
「岸本さん、いずれにしても日程を変更する為に私達は少し演技をしなくちゃいけませんよね?」
「そうね。それも『ワガママ女優』の演技をしなくちゃねぇ? まぁ、基本的に私はワガママな性格だから演技なのかどうか微妙なところだけど。フフフ……」
「ハハ、しかし私達、事務所やスポンサーさん、ジャンプスター関係者に凄く嫌われるかもしれませんね?」
「まぁね。でも私は気にしないわ。嫌われることには慣れているから。私達のお仕事はファンも多いけど逆に同じ数だけアンチも多いと思っているし。今回でアンチが少し増えるだけだと思えば大したことは無いわ。私はファンも大切だけど友人はもっと大切だから!!」
「岸本さん……私も同じです。それにこれから仕事をもっともっと頑張ればアンチの人達だってファンになってくれるかもしれませんしね?」
「ええ、そういうこと」
来年の4月30日……
その日が来るのを待ち遠しくなっている私がいた。
――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
電話の内容は来年4月29日に私の地元、青葉市で行われる『ジャンプスター開業記念セレモニー』に私と順子が出席する件について……
なんとかして29日の開業を30日に変更したいから二人に協力してほしいとの事だった。
最初、彼の話を聞いた時は、せっかくたくさんの人が集まりやすい祝日に開業するのを何でわざわざ平日の30日に変更したいんだろうと思ったけど、よく考えてみれば4月30日って……
私は彼が何を考えているのか、何を期待しているのか何となく分かった気がした。だからもし順子が日程変更を渋っていたら私からも説得しようと思っていた矢先……
トルルルゥ トルルルゥ
ピッ
「もしもし、岸本さん、おはようございます」
「おはよう、広美ちゃん。今、いいかしら?」
「はい、いいですよ。もしかして、岸本さんにもうちの父から連絡がきましたか?」
「ええ、そうなのよ。私達が来年4月に出席する『ジャンプスター開業記念セレモニー』の日程を29日から30日に変更してくれないかって言ってきたんだけど、五十鈴君、何も理由を教えてくれないのよ。たださぁ、私に言われてもねぇ……事務所やスポンサーさん、セレモニー関係者にまずは言ってもらわないとダメじゃないのとは思うんだけど、広美ちゃんはお父さんから何か詳しい事情を聞いているのかなと思ってさ」
「いえ、私も詳しい事は……ただ、父の事ですから何か大事な理由があるとは思うんです。だから私は父のお願いを利きたいとは思っているんですが、岸本さんは無理なんでしょうか?」
「いえ別に私も五十鈴君のお願いなら出来るだけ利こうとは思っているのよ。ただ何も理由を言ってくれないからさぁ……でも広美ちゃんも彼に協力する気でいるのなら私も喜んで協力させてもらうわ」
「ありがとうございます。父も喜びます」
「別に広美ちゃんがお礼を言う事ではないし、私も同級生の頼みだし、まして五十鈴君は私に女優になることを勧めてくれた恩人みたいなものだしさ……ただ、本当はその4月30日って大切な知り合いと会う約束をしていたのよねぇ。でも昨日その知り合いから30日は都合が悪くなったから別の日にしてほしいと連絡があってね、だから私としては30日にセレモニーの日程が変わっても支障が無くなったから助かったわ」
そうなんだ。その順子の大切な知り合いっていう人に感謝しなくちゃね。
「そうだったんですね? それは助かります」
「その知り合いもいつか広美ちゃんに紹介する時が来るかもしれないわね」
「え? 岸本さんの大切な人ってこの業界の方なんですか?」
「そうねぇ……今は女優ではなくて脚本家をされている方なんだけど、昔私が上京した時に一番お世話になった恩人なのよ。東京に知り合いなんて誰もいなかったから当時は本当に助かったのよねぇ……まぁ、いつか広美ちゃんにも紹介させてもらうわ。今はケイティっていう名前で活動されているんだけど楽しみにしていて。恐らくお父さんも驚くから」
「ケイティ? 父も驚く? って事は父もその方を知っていると……」
「ハハハ、この話はまた今度ね」
「え? は、はい分かりました。それでは楽しみにしておきますね」
「うん、ところで広美ちゃんは年末年始もお仕事だったかしら?」
「そうですね。ドラマの撮影や正月用のバラエティー番組にも何本か出演させて頂く予定になっていますので地元に帰れるのはやっぱりジャンプスター開業記念セレモニーの日になっちゃいそうです」
「そうなんだぁ……地元のお友達も広美ちゃんに会いたがっているだろうなぁ……特にあの子、えっとぉ幼馴染の鎌田君だっけ? 彼は数年間の記憶を無くして目覚めたらしいけど、広美ちゃんの記憶は残っているって聞いているし、凄く会いたいんじゃないかなぁ? あ、でも広美ちゃんって大きな声では言えないけど今、彼氏がいたんだよね?」
「ハハハ、そうですね。私も亮君には会いたいですよ。それに亮君は私がお付き合いしている人がいるというのは父から聞いて知っているみたいですし、亮君にも今は大切な人がいますので、どうか岸本さんはご心配なくです。フフフ……」
「ふーん、そうなのね? それならいいんだけどさぁ。片思いの人が自分の前からどんどん離れて行ってしまうのって結構辛いものだから……まぁ、私の場合は自分から離れていったんだけどね……お陰で私は今も独身よぉ。未だに片思いの人以上の人に巡り合えていないんだなぁ……って私は広美ちゃんの前で何を言っているのかしらね!? お願い、今のは忘れてちょうだい?」
「えーっ? 忘れられるかなぁ? ハハハ……」
岸本さんの片思いの人って誰なんだろう?
も、もしかして……
「もう、広美ちゃんったら意地悪ねぇ」
「 「ハハハハハ」 」
片思いの人が自分の前からどんどん離れて行ってしまう辛さかぁ……
順子、私はとっくの昔にそれを経験しているんだよ。それも何度も何度も……
『前の世界』でも『タイムリープしたこの世界』でも……そして彼の娘として『転生した今の時代』でも五十鈴隆君の事がずっとずっと大好きなんだよ。
できる事なら私は彼のお嫁さんになりたかった……
だから私は他の男性には全く興味が持てないでいた。子供の頃から亮君の私に対っする想いも気付いていたけど、私は彼を受け止める事が出来ずに逃げていた。だから私は亮君に対して常に申し訳無い気持ちでいっぱいだった。亮君が私の気を引こうと努力をしている姿を見る度に辛かった。
だからいつも亮君に私の事なんて忘れてしまうくらいの人が現れますようにと心から願っていたなぁ。
でもある日、私の願いが届いたのかどうかはその時は分からなかったけど、亮君の前に彼女が現れた。
三田加奈子ちゃん……
私達が中1の時に遊びに行っていたエキサイトランドで迷子になっていた幼稚園児の加奈子ちゃんを見かけ、心優しい亮君が加奈子ちゃんを助けたのが最初の出会い……
その出会いが今の今まで続き、まして亮君が事故にあって加奈子ちゃんの記憶を無くしてしまった今でも、二人は新たな関係として続いていると五十鈴君、いえ、父から聞いている。
これは私だけではなく昔から二人を知っている人達が見ても『お互いの運命の人』だと分かるはず。きっと亮君だって分かっているはずよね? だから今も二人は……
二人の影響のお陰で私も新たな恋をする気持ちになる事ができたんだよ。そして今こうしてお付き合いさせてもらっている人がいる。亮君の主治医だった青木啓介先生……意識不明だった亮君のお見舞いに何度か行くうちに青木先生と親しくなり……
これもまた運命の出会いなのかもしれないなぁ……
話を戻すけど、そんな亮君と加奈子ちゃんの姿を近くで見ている一人で、まして『タイムリープ者』である父が今回、私達に無理なお願いをしてきたって事は……
4月30日……この日は亮君の誕生日……たしか、生まれて直ぐに亡くなったお兄さんの命日でもあったと思う。この日に父は何か感じたのだろう。だから日程の変更をお願いしてきたに違いない。
まして、あのジャンプスターの開業記念だし……飛行機事故で死んだはずの私が『この世界』に再び石田浩美としてタイムリープ後、病気で死んでしまう前に彼から聞いた事がある。
彼は『この世界』にタイムリープしてから一度だけ『前の世界』に逆戻りしてしまった事がある。でも再び『この世界』に戻って来れたのは『前の世界』のジャンプスターに『この世界』に戻りたいけど戻れないという現実を突きつけられ途方に暮れた状態で一人乗りこんだ時だったと……
二人が彼の様にタイムリープしちゃったら困るけど、それは無いと思う。だって二人にとってタイムリープは意味が無いと思うから。まぁ、ジャンプスターに何か奇跡的なものがあるのかどうかは分からないけど、それに賭けてみてもいいと思う。もし何も起こらなければ次を考えればいいだけなんだし。別にあの二人が今のままでも幸せならそれはそれでいいんだから……
いずれにしても私は父のお願いを利く為に一芝居しなくちゃいけないのは確かよね?
「岸本さん、いずれにしても日程を変更する為に私達は少し演技をしなくちゃいけませんよね?」
「そうね。それも『ワガママ女優』の演技をしなくちゃねぇ? まぁ、基本的に私はワガママな性格だから演技なのかどうか微妙なところだけど。フフフ……」
「ハハ、しかし私達、事務所やスポンサーさん、ジャンプスター関係者に凄く嫌われるかもしれませんね?」
「まぁね。でも私は気にしないわ。嫌われることには慣れているから。私達のお仕事はファンも多いけど逆に同じ数だけアンチも多いと思っているし。今回でアンチが少し増えるだけだと思えば大したことは無いわ。私はファンも大切だけど友人はもっと大切だから!!」
「岸本さん……私も同じです。それにこれから仕事をもっともっと頑張ればアンチの人達だってファンになってくれるかもしれませんしね?」
「ええ、そういうこと」
来年の4月30日……
その日が来るのを待ち遠しくなっている私がいた。
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