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第7章 試練編
第74話 本当の試練/加奈子
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りょう君が目を覚ました日、りょう君の記憶から私が消えている事が分かった日、私は絶望感しか湧かずその場で泣き崩れてしまった。
りょう君は私に謝り必死に思い出そうとしてくれたけど、途中で激しい頭痛に襲われると苦しみだした。そして薬の影響でそのまま眠ってしまい、私も肩を落としながら病室を出た。
でも真保さんがそんな私を呼び止めて「ロビーで少しお話しよう」と言ってくれたので私はそのまま真保さんについて行き、ロビーの椅子に腰を掛ける。
そして真保さんが口を開く。
「加奈子ちゃん、ゴメン……亮二が目を覚ましたという連絡をした時に記憶障害の事もお母さんに伝えてもらえば良かったのだろうけど……前もって知っていれば加奈子ちゃんもこんなにも落ち込むことは無かったのに……」
「いえ、どのタイミングでりょう君の記憶障害の事を知っても私はショックだと思うので気にしないでください……」
「ありがとう……ただ私はね、もしかしたら亮二は加奈子ちゃんの事は覚えているんじゃないかと……覚えていなくても顔を見れば突然、思い出すんじゃないかと少し期待をしていたの……でも今はまだ難しいみたいだなぁ……」
「そうですね……無くした記憶を思い出そうとしたら激しい頭痛が起きるみたいですし、あんな苦しそうなりょう君を見るのは辛いですから無くした記憶はこれからゆっくり時間をかけて思い出してくれたらいいと思います……」
「そう言ってもらえると助かるわ。うーん、それにしても加奈子ちゃんは本当に優しい子だね」
「え? いや……別に私は優しい子ではないですよ……昔は同級生に冷たい性格って陰で言われていたこともありましたし……」
「そうなんだ。じゃぁ、亮二と出会ってこんなにも暖かくて優しい子になったのかな?」
「優しいかどうかは分かりませんがりょう君と出会って私が変わったのは否定しません。りょう君は思いやりがあって常に私の事を考えてくれる優しさがあって……だからいつの間にか私もりょう君の様にどんな事があっても誰に対してでも優しい女性でありたいと思う様になりましたから……それに私はりょう君が目を覚ました時、どんな状態であっても、これからどんな事が起ころうとも私はりょう君の傍にいるんだって決めましたから……ただ、まさかりょう君の記憶から私が消えるとは思っていませんでしたのでショックだったというか……これからどうすればいいんだろうって不安になってしまって……」
「加奈子ちゃん……」
会話が途切れ少しの間、ロビーがシーンと静まりかえっている。横目で真保さんを見ると何か考え事をしている様に見えた。
「不思議なのよねぇ……」
真保さんが小さな声で呟く。
「え? 何が不思議なんですか?」
「亮二の記憶障害の状況が不思議だなぁって……だって、あの子の記憶は中学1年生の1学期くらいまでは残っているのよ。だから私を含めた家族や広美ちゃん家族、それに千夏ちゃん家族の記憶は残っているの。まぁ、亮二からすれば中学生のはずの私が突然、大人になって現れた感じがして驚いてはいたけどさ……」
そうなんだ。りょう君は中学1年の1学期までの記憶はあるんだ……なんか中途半端な時期までの記憶しかないんだなぁ……
ん? あれ? 私が初めてりょう君に出会ったのって、たしか……
「あっ!! 中学1年の1学期って……」
「だよね? 私が気付くくらいだから加奈子ちゃんも気付くよね? あなた達がエキサイトランドで初めて出会ったのって、前にお母さんから聞いたけど亮二が中学1年の夏休みで加奈子ちゃんが幼稚園児の時なんでしょ?」
「そうなんです!! だからあと1ヶ月だけでも長く記憶が残ってくれていれば私と出会った時の記憶も残っていたのに……何で神様はこんな意地悪をするのよって思ってしまいます」
「そうだね。加奈子ちゃんならそう思うよね? でも私は少し違う捉え方をしたというか……」
「え? ど、どんな捉え方をされたんですか?」
「逆におかしいと思わない? というか、こんな中途半端な時期で記憶が途切れるなんておかしいと思わない? 加奈子ちゃんと出会う1ヶ月前までの記憶しかないなんて絶対におかしいわ」
中途半端な時期だと私も思うし歯がゆい気持ちは凄くあるけど、こればかりは私にはどうにもできないし、仕方が無い事だとも思う自分もいる……
「ま、まぁ中途半端だとは私も思いますが……」
「でしょう? だから私、これには何か理由があるんじゃないかと思ったのよ」
「り、理由ですか?」
「そう、理由……前に私、加奈子ちゃんに『夢』の話をしたのを覚えてる?」
「夢? あの時ですか? りょう君の病室で真保さんと初めて会った日の……」
「そうよ。あの日、加奈子ちゃんにした話よ。私は夢の中で亮二と亡くなった亮一兄さんの会話をしている夢を見て、その会話の中に『試練』という言葉が出ていたって言ったよね?」
「は、はい……そう言ってました……だから私はりょう君が目覚めるまで、全てが私達が幸せになる為の試練なんだと思いながら一日も欠かさず、りょう君のお見舞いに行き語りかけたり、目を覚ました時に少しでも早くリハビリが始めれる様にと足や腕などをマッサージしたり、りょう君が目覚めた時に喜んでもらおうとりょう君が通った高校に行こうと必死で受験勉強も頑張っています……」
「そうだね。加奈子ちゃんの亮二に対する想いは私にも伝わっていたわ。そしておそらく亮二にも加奈子ちゃんの想いが伝わったから奇跡が起きて目を覚ましたんだと思うの。でも本当の試練はそこじゃない……もしかしたら亮二が加奈子ちゃんの記憶を無くしたまま目を覚ました事こそが本当の試練じゃないかなって思ったの……」
「本当の試練……」
「加奈子ちゃんは亮二があなたの記憶を無くしているからといって、このまま落ち込んで亮二の事は諦めちゃうの?」
「いえ、そんな事は……多分ないと思います……」
「多分なの?」
「いえ、絶対にないです!!」
「だったら落ち込んでいる場合じゃないよね? 明日からこの『最後の試練』にどう立ち向かって行くかを考えていかないと……」
そうだ。私は何を落ち込んでいるのだろう? もしかしたら、このまま目を覚ますことなく死んでしまう可能性もあったりょう君がこうして目を覚ましてくれたのよ。それだけでも感謝しかないわ。私の記憶が無いからといって落ち込んでいる場合じゃ無いし、このまま諦めることなんてあり得ない。
記憶が無くなっているりょう君に対して私ができる事はきっとあるはずだわ。
そして精一杯、りょう君の為に私が出来る事を頑張った結果……一から私の事を好きになってもらえれば……欲を言えば少しずつ記憶を取り戻してくれれば……
「真保さん、私、明日から、いえ、今から頑張ります!! だから今のりょう君の病状を詳しく教えていただけませんか?」
「加奈子ちゃん、良い顔に戻ったわ。うん、何でも教えるから私に任せてちょうだい」
「はい、よろしくお願いします!!」
こうして私の……いえ、私達の『本当の試練』が始まった。
りょう君は私に謝り必死に思い出そうとしてくれたけど、途中で激しい頭痛に襲われると苦しみだした。そして薬の影響でそのまま眠ってしまい、私も肩を落としながら病室を出た。
でも真保さんがそんな私を呼び止めて「ロビーで少しお話しよう」と言ってくれたので私はそのまま真保さんについて行き、ロビーの椅子に腰を掛ける。
そして真保さんが口を開く。
「加奈子ちゃん、ゴメン……亮二が目を覚ましたという連絡をした時に記憶障害の事もお母さんに伝えてもらえば良かったのだろうけど……前もって知っていれば加奈子ちゃんもこんなにも落ち込むことは無かったのに……」
「いえ、どのタイミングでりょう君の記憶障害の事を知っても私はショックだと思うので気にしないでください……」
「ありがとう……ただ私はね、もしかしたら亮二は加奈子ちゃんの事は覚えているんじゃないかと……覚えていなくても顔を見れば突然、思い出すんじゃないかと少し期待をしていたの……でも今はまだ難しいみたいだなぁ……」
「そうですね……無くした記憶を思い出そうとしたら激しい頭痛が起きるみたいですし、あんな苦しそうなりょう君を見るのは辛いですから無くした記憶はこれからゆっくり時間をかけて思い出してくれたらいいと思います……」
「そう言ってもらえると助かるわ。うーん、それにしても加奈子ちゃんは本当に優しい子だね」
「え? いや……別に私は優しい子ではないですよ……昔は同級生に冷たい性格って陰で言われていたこともありましたし……」
「そうなんだ。じゃぁ、亮二と出会ってこんなにも暖かくて優しい子になったのかな?」
「優しいかどうかは分かりませんがりょう君と出会って私が変わったのは否定しません。りょう君は思いやりがあって常に私の事を考えてくれる優しさがあって……だからいつの間にか私もりょう君の様にどんな事があっても誰に対してでも優しい女性でありたいと思う様になりましたから……それに私はりょう君が目を覚ました時、どんな状態であっても、これからどんな事が起ころうとも私はりょう君の傍にいるんだって決めましたから……ただ、まさかりょう君の記憶から私が消えるとは思っていませんでしたのでショックだったというか……これからどうすればいいんだろうって不安になってしまって……」
「加奈子ちゃん……」
会話が途切れ少しの間、ロビーがシーンと静まりかえっている。横目で真保さんを見ると何か考え事をしている様に見えた。
「不思議なのよねぇ……」
真保さんが小さな声で呟く。
「え? 何が不思議なんですか?」
「亮二の記憶障害の状況が不思議だなぁって……だって、あの子の記憶は中学1年生の1学期くらいまでは残っているのよ。だから私を含めた家族や広美ちゃん家族、それに千夏ちゃん家族の記憶は残っているの。まぁ、亮二からすれば中学生のはずの私が突然、大人になって現れた感じがして驚いてはいたけどさ……」
そうなんだ。りょう君は中学1年の1学期までの記憶はあるんだ……なんか中途半端な時期までの記憶しかないんだなぁ……
ん? あれ? 私が初めてりょう君に出会ったのって、たしか……
「あっ!! 中学1年の1学期って……」
「だよね? 私が気付くくらいだから加奈子ちゃんも気付くよね? あなた達がエキサイトランドで初めて出会ったのって、前にお母さんから聞いたけど亮二が中学1年の夏休みで加奈子ちゃんが幼稚園児の時なんでしょ?」
「そうなんです!! だからあと1ヶ月だけでも長く記憶が残ってくれていれば私と出会った時の記憶も残っていたのに……何で神様はこんな意地悪をするのよって思ってしまいます」
「そうだね。加奈子ちゃんならそう思うよね? でも私は少し違う捉え方をしたというか……」
「え? ど、どんな捉え方をされたんですか?」
「逆におかしいと思わない? というか、こんな中途半端な時期で記憶が途切れるなんておかしいと思わない? 加奈子ちゃんと出会う1ヶ月前までの記憶しかないなんて絶対におかしいわ」
中途半端な時期だと私も思うし歯がゆい気持ちは凄くあるけど、こればかりは私にはどうにもできないし、仕方が無い事だとも思う自分もいる……
「ま、まぁ中途半端だとは私も思いますが……」
「でしょう? だから私、これには何か理由があるんじゃないかと思ったのよ」
「り、理由ですか?」
「そう、理由……前に私、加奈子ちゃんに『夢』の話をしたのを覚えてる?」
「夢? あの時ですか? りょう君の病室で真保さんと初めて会った日の……」
「そうよ。あの日、加奈子ちゃんにした話よ。私は夢の中で亮二と亡くなった亮一兄さんの会話をしている夢を見て、その会話の中に『試練』という言葉が出ていたって言ったよね?」
「は、はい……そう言ってました……だから私はりょう君が目覚めるまで、全てが私達が幸せになる為の試練なんだと思いながら一日も欠かさず、りょう君のお見舞いに行き語りかけたり、目を覚ました時に少しでも早くリハビリが始めれる様にと足や腕などをマッサージしたり、りょう君が目覚めた時に喜んでもらおうとりょう君が通った高校に行こうと必死で受験勉強も頑張っています……」
「そうだね。加奈子ちゃんの亮二に対する想いは私にも伝わっていたわ。そしておそらく亮二にも加奈子ちゃんの想いが伝わったから奇跡が起きて目を覚ましたんだと思うの。でも本当の試練はそこじゃない……もしかしたら亮二が加奈子ちゃんの記憶を無くしたまま目を覚ました事こそが本当の試練じゃないかなって思ったの……」
「本当の試練……」
「加奈子ちゃんは亮二があなたの記憶を無くしているからといって、このまま落ち込んで亮二の事は諦めちゃうの?」
「いえ、そんな事は……多分ないと思います……」
「多分なの?」
「いえ、絶対にないです!!」
「だったら落ち込んでいる場合じゃないよね? 明日からこの『最後の試練』にどう立ち向かって行くかを考えていかないと……」
そうだ。私は何を落ち込んでいるのだろう? もしかしたら、このまま目を覚ますことなく死んでしまう可能性もあったりょう君がこうして目を覚ましてくれたのよ。それだけでも感謝しかないわ。私の記憶が無いからといって落ち込んでいる場合じゃ無いし、このまま諦めることなんてあり得ない。
記憶が無くなっているりょう君に対して私ができる事はきっとあるはずだわ。
そして精一杯、りょう君の為に私が出来る事を頑張った結果……一から私の事を好きになってもらえれば……欲を言えば少しずつ記憶を取り戻してくれれば……
「真保さん、私、明日から、いえ、今から頑張ります!! だから今のりょう君の病状を詳しく教えていただけませんか?」
「加奈子ちゃん、良い顔に戻ったわ。うん、何でも教えるから私に任せてちょうだい」
「はい、よろしくお願いします!!」
こうして私の……いえ、私達の『本当の試練』が始まった。
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