あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

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第7章 試練編

第72話 喜びと悲しみと/加奈子

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 平成23年9月、遂にりょう君が目覚めた!!

 私は急いで電車に乗りりょう君が入院している国立青葉病院に行く。

 ロビーを走りたい気持ちを抑えながらエレベーターへと向かった私。ふとある女性の事を考える。

 もう、千夏さんは来ているのかな?

 私はりょう君の病室に通っている間、何度も田中千夏さんというりょう君や広美さんの幼馴染のお姉さんだという田中千夏さんと遭遇している。

 この人が前にりょう君が言っていた告白された人なのかも……

 そんな千夏さんと知り合って約1年半、私達は挨拶程度で大した会話はしていない。私が病室に行けば千夏さんは直ぐに帰るし、私も千夏さんが来ると何故だか直ぐに帰ってしまう……そんな関係だった。

 そうしているうちに平日は学校が終わってからの夕方5時頃に私はお見舞いに行っていたけど、いつの日からか千夏さんは仕事終わりの夕方6時頃にお見舞いに来るようになる。そして土日の休日の日は私が午前中にお見舞いに行き、午後からは受験勉強に勤しんでいた。逆に千夏さんはお昼にお見舞いに来て面会時間ギリギリまで病室にいるそうなので最近は私達が遭遇することはなくなっていた。

 ちなみにこの情報は真保さんが教えてくれた。

 そんな事を考えながら病室の近くまで行くと、りょう君の部屋から見覚のある3人の姿が……

 その3人はりょう君が所属していたボランティア部のメンバーで今年、社会人になった元部長の立花さんと、現在部長を務めている橋本さん、そしてりょう君の事故後に何故か突然ボランティア部に復活した大石さんの3人だった。

 3人の顔を見るのはいつ以来だろう……

 私は事故後、ショックでボランティア活動ができなくなった。私が活動をしない間、沙耶香や桃花が頑張ってくれたけど、彼女達にはメインの部活もあり、受験勉強もあった為、活動が出来なくなっていき、そのままボランティアサークルは自然消滅してしまった。

 なので青葉学院大学ボランティア部との交流が無くなると同時に立花さん達に会う機会が無くなった。だから彼女達に会うのは久しぶりだったので声をかけようと思ったけど、私は声をかけるどころか壁に隠れてしまった。

 隠れてしまつたのは3人の顔がとても暗く声をかけ辛い雰囲気だったから……

 大石さんは肩を震わせて泣いているし、立花さんも泣きながら大石さんの背中をさすっている。隣にいる橋本さんも声は出していないけど涙を流していた。

 どうみても3人の涙はりょう君が2年ぶりに目を覚まし嬉しくて泣いている様には私の目には見えなかった。

 ど、どうしたんだろう?

 私は3人が立ち去るのを待ってから、緊張しながら軽く深呼吸をした後、病室のドアをノックした。

 コンコン

「はーい、どうぞ」

 返事の声はりょう君のお姉さん、真保さんだ。

 ガチャッ

「し、失礼します……」

「加奈子ちゃん、待っていたわ」

 真保さんは私の顔を見て直ぐに何か焦った感じの言い方をしている。口元は笑顔だけど目が笑っていないように思えた。その横にはりょう君のご両親も少しうつむき加減で立っている。2年ぶりに弟、息子が目を覚ましたのに何でみんなこんなにも暗い表情をしているのだろうと私は不思議に思いながら真保さんに問いかけた。

「りょ、りょう君が目を覚ましたっていうのは本当ですか!?」

「そ、そうなの……でも、今お見舞いの人達が部屋を出た途端にまた眠っちゃって……」

「そうなんですか? そういえば私もさっき来られていた3人を見かけたんですが、なんだか3人共泣いていて……その涙に違和感があったというか……何かあったんでしょうか?」

「そ、それは……」

 真保さんは言葉を詰まらせた。

「少しだけ待ってね? 今、亮二を起こしてみるから……そうすれば今の3人が泣いていた理由が分かるかもしれないし……でも私としては加奈子ちゃんには同じ思いをさせたくないんだけど……」

「同じ思い?」

「だ、大丈夫よ。加奈子ちゃんならきっと亮二も……」

 真保さんが返事をする前にりょう君のお母さんが涙目でそう言ってきた。

 一体、何があったんだろう?

 真保さんはりょう君の耳元で優しく声をかける。

「亮二、起きて。あなたに会う為に加奈子ちゃんが来てくれたわよ」

「う、うーん……」

 りょう君の声……少し唸っただけだけど、私からすれば2年ぶりに聞くりょう君の声に感激した。

「りょう君……」

「う、うーん……真保姉ちゃん……誰が来てくれたって……?」

 遂にりょう君の言葉を聞く事ができ、私は感無量になり涙が流れ落ちる。そして私は静かにりょう君に近づくとしゃがみ込み、りょう君の手を握る。

「りょ、りょう君……お帰りなさい……」

「・・・・・・」

 りょう君は何も言わず私の顔をじっと見つめている。なので私から再び声をかける。

「この日を……ずっとこの日が来るのを待っていたわ……りょう君、私の為にこんな姿にさせてしまってゴメンね? そして私の命を救ってくれてありがとう……」

「・・・・・・」

「うっ……」

 隣で真保さんが泣き出した。でも、りょう君は私の顔を見つめながら何も話してくれない。どうしたのかな? やはり2年ぶりに目を覚ましたからしゃべりにくいのかな?

 そう私が思っていると、握っている手をりょう君から放した。

「え?」

 私を見つめていたりょう君の表情に変化が現れた。少し不思議そうな顔をしているように見える。そして、遂にりょう君の口が開き、ゆっくりと話し始める。

「ず、ずっと……」

「うん……」

「ずっと今、考えていたんだけど……」

「う、うん……」

「ゴメン……」

「え? 謝るのは私の方だよ」

「違うんだ……ゴメン……」

「何がゴメンなの……?」

「君は誰なの? お、俺は君が誰なのか全然分からなくて……」

「えっ!?」

 う、嘘でしょ? りょう君は私を驚かせる為に嘘を言っているんだよね?

「本当にゴメン……君の事を全然、思い出せないんだ。俺と君とはどういった関係なんだろうか……?」

 私は慌てて真保さんの方を見た。すると真保さんは悲しい表情をしながら頷いた。
 嘘じゃないんだ……

 そ、そんなことって……

 2年もの間、この日が来るのを待ちわびていた私の心に何とも言えない悲しみと絶望感が漂ってきた。
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