あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

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第6章 衝撃の事実編

第67話 約束を守れなくてゴメン……/亮二

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 今日は俺達ボランティア部として大学近くのコミュニティーセンターで行われている催しの手伝いをしている。

 ここの館長さんと立花部長が知り合いということで急きょ、依頼があったらしい。

「鎌田君、今日はゴメンね? 本当は用事があったんでしょ?」

「え?」

「フフフ……やっぱり用事があったのに無理をしてくれたのね?」

「いや、まぁ、約束はあったんですけど……ほとんどの部員が参加するのに俺だけが参加しないというのも気が引けますし……それに部長になれば、これから急にボランティア活動が入っても俺が参加しない訳にはいきませんので今から練習をしているって感じで参加させていただいたんですが……」

「フフフ……ほんと、鎌田君は真面目で優しい人だね? そういうところを私は……」

「え?」

「いえ、何でもないわ。それよりも約束を断ってまで参加してくれたのがとても申し訳ないわ。もし遅れてでもその約束に間に合うのあるなら途中で抜けてくれても構わないから。今日はたくさんの部員が参加してくれているから人手も足りているし……」

「あ、ありがとうございます。そう言ってくださると助かります。それなら11時くらいに抜けさせてもらってもいいですか? それなら約束に間に合うと思うのですが……」

「うん、いいわよ。そうしてちょうだい。とりあえず今日は段取りのほとんどを鎌田君がやってくれたから1年生も凄くスムーズにお手伝いができているし、後は他の部員でなんとかなるから……」

「分かりました。それではお言葉に甘えさせていただきます」

 11時に抜ければここから自転車を必死にこいでカナちゃんのいる町まで約30分……

 昼からもゴミ拾いをするって言っていたから午後からは参加できるよな?

 今は太陽が隠れているみたいだけど、やっぱ夏だし、カナちゃん達、暑くて大変だろうなぁ……


 10時半、俺は立花部長からストックのお菓子とジュースを橋本君と一緒に取りに行って欲しいと言われたのでストックを置いている控室へと向かった。

 控室に入るとテーブルの上に置いてある携帯電話がチカチカと点滅していることに気が付いた。

 あっ、そう言えば俺、携帯をテーブルの上に置きっぱなしにしていたんだっけ?

 朝からバタバタしていて全然気が付かなかったよ。

 俺は何気に折り畳み式の携帯電話を開く。すると隆おじさんから何度も着信があったみたいだった。そして最後にメールが……

 どうしたんだろ……?

 ピッ

 俺はメールを開けると隆おじさんからのメール内容に身体が凍り付く。

『亮二君、忙しいところゴメン。10時のニュースであの山本次郎がこの青葉市で目撃されたという情報が何件もあったらしいんだ。君達には直接関係は無いと思うけど、山本が逮捕されるまでは十分に気を付けてほしい』

 俺はすぐさま行動にでる。

「橋本君、悪いけど急用ができてしまったから直ぐにここから抜けさせてもらうよ。立花部長には予定よりも30分も早く抜けてしまってすみませんって伝えてもらえないかな?」

「え? は、はい!! 分かりました。でも鎌田先輩? 顔色が凄く悪いですけど大丈夫ですか?」

「あ、ああ、大丈夫さ。無事に目的地に到着さえできればこの顔色は直ぐに変わるから」

「ハハハ、そうなんですね? 分かりました。それじゃぁ荷物は僕一人で運びますから先輩は急いでその目的地に向かってください。でもくれぐれも慌て過ぎて事故に遭わないように気を付けてくださいよ?」

「ありがとう。肝に銘じておくよ。それじゃぁ後の事よろしく頼む!!」

 俺は急いでコミュニティーセンターを出て自転車置き場へと向かった。

 はぁ……こんな時、バイクに乗れたらもっと早くカナちゃんのところへ行けるのになぁと10代のうちにバイクの免許を取得していなかったことをとても悔やんだ。



 俺は橋本君の忠告をあっさりと無視し、猛スピードで自転車をこいでいる。

 まぁ、こんなに慌ててカナちゃんのいるところへ到着しても別に何も無いかもしれない。でも何故か俺の心がとても焦っていた。ポジティブな事を考えながら運転しようと努力するが、直ぐにネガティブな想像をしてしまう。

 ダメだ。ダメだ。こんなことを考えていたら余計に悪い物を引き寄せてしまうかもしれない。

 そんな心の中で戦いながら俺は30分かけてカナちゃん達、ボランティアサークルが活動している街に近づいた。

 不安な気持ちの時には余計に不安を煽る様な事が起こるものだ。

 街の方からパトカーのサイレンらしき音が聞こえてきたのだ。

 でも、これはたまたまで違う事件か事故が近くで起こり、パトカーのサイレンの音が聞こえているのだろうと思った矢先、パトカーの拡声器から耳を疑いたくなるような言葉が発せられた。

「山本ーっ!! 止れ!! 止るんだ!! 無駄な抵抗は止めろーっ!!」

「山本!?」

 キキキッ!!

 俺は急ブレーキをかけ自転車を止める。

 今、山本って言ったよな? 俺の聞き間違いじゃないよな?

 だとしたら、隆おじさんが言っていた通り……

 か、カナちゃん……

 俺は再び自転車をこぎカナちゃん達を必死に探す。

 たしか青二中前のコンビニからゴミ拾いを開始するって言っていたから、この時間だと……

「よし、今ならあの大きな交差点付近にいるかもしれない!!」

 俺は無我夢中で自転車をこぐ。そして大きな交差点に着くと横断歩道の真ん中で転んで身動きが取れなくなっている少女を見つける。

 か、カナちゃん!!

 ブォォォオオオオオン!!

 ウーーーーーーッ ウーーーーーーッ

 一台のタクシーがカナちゃんに向かって猛スピードで近づいて来ている。

 もしかしてあのタクシーを運転しているのが……

 俺はブレーキをかけずに自転車を乗り捨てるような形で飛び降り、そして転げそうになるのを何とか抑えてダッシュでカナちゃんがいる交差点へ向かう。

 カナちゃんは目を閉じてうずくまっている。

 もしかして助からないと諦めたのか……?

 ダメだ!! 諦めちゃダメだ!!

 カナちゃんはこんな所で絶対に死んではいけない!!

 『この世界』で幸せに生きる為に生まれてきた女の子なんだ!!

 その為に……カナちゃんを守る為に俺も『この世界』に生まれたきたんだーーーっ!!

「カナちゃんは俺が守る!!」

 俺は叫びながらカナちゃんを抱き上げた。

 その瞬間、俺の身体に衝撃が走る。

 ボッコッーーーーーーーンッ!!

 今までに味わったことのない痛み、事故で死ぬ時ってこんなにも痛かったのか……

 カナちゃんを抱いたまま俺達は宙に浮いていた。

 そんな宙に浮いた状態の俺は全身が激痛にも関わらず以外にも冷静だった。

 このまま地面に落ちればカナちゃんもただでは済まない。カナちゃんだけでも守る為には俺がクッションにならなければ……

 俺は最後の力を降り注絞りカナちゃんを強く抱きしめながら身体を横に回転させる。そして、そのまま俺は背中から地面に叩きつけられたのだった。

 地面に叩きつけられた際に俺は後頭部も強く打ったみたいだ。どんどん呼吸も苦しくなり意識が薄れていく。というか即死だったらこんなに痛く苦しい思いをしなくて良かったのにと考えてしまう。でもその考えは取り消した。

「りょ、りょう君!! りょう君!! しっかりして!! お願い、お願いだから死なないでーっ!! 私を一人にしないでーっ!!」

 ああ……

 カナちゃんが助かったという事が分かっただけで俺は十分だ……

 最後にカナちゃんの声が聞けて本当に良かった……

 カナちゃん……今までありがとう……俺なんかの事を好きになってくれてありがとう……

 カナちゃんと結婚できなくてゴメンね……約束を守れなくてゴメンね……

 次、生まれ変わった時には……

 今度は俺からカナちゃんを探し出してプロポーズするから……

 だから……『この世界』では……他の人と……幸せに……

 俺の分も幸せに……なって……ほしい……

 …………




――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。

これで『衝撃の事実編』は終了です。
次回から新章開始。
果たしてどんな物語が待っているのか……
どうぞ次回も宜しくお願い致します。
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