あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

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第5章 嫉妬編

第57話 信じてるよ/加奈子

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 りょう君に告白してもらってから一週間、私は幸せ過ぎて一日中、顔が緩みっぱなしだったと思う。

 まさか、りょう君から結婚の話まで出るなんて、夢の様で嬉しくて嬉しくて……

 そんな放課後の教室で私は帰り支度もせずに窓の外を眺めていると、誰かが話かけてきた。

「加奈子、最近、いつもニヤニヤしているけど大丈夫?」

「え? なんだ、桃花かぁ……」

「なんだとは何よ? それよりも最近、あんた変よ。何かあったの? そう言えば沙耶香も青二小の七夕祭り以降、とても変というか、あの子もニヤニヤして気持ち悪いのよ……加奈子もボランティアで行ってたんでしょ? もしかして二人が変なのは同じ理由なの? 沙耶香に聞いても何も教えてくれないのよ」

 そうだったわ。私が幸せ過ぎて沙耶香の様子に気付かなかったけど、あの子は憧れのりょう君に会えて凄く喜んでいたのよね……私も小5の頃にりょう君と再会した時は凄く嬉しかったから沙耶香の気持ちは分るけど……
 
 でも私はあの夜、久しぶりにりょう君とキスをして、それも何回もキスをして、その後にりょう君からプロポーズをされた……沙耶香には悪いけど、ニヤニヤのレベルが違うんだよなぁ……

「あっ、噂をすれば……沙耶香!! そろそろ、あんたがニヤニヤしている理由を教えてよ!?」

「い、嫌よ。なんで桃花に教えないといけないのよ? それよりも加奈子? ちょっと話があるんだけどいかな?」

「え? 別にいいけど……」

「それじゃぁ、廊下に行きましょうか?」

「えーっ!? 私は聞いちゃいけないの?」

「当たり前じゃない!! 桃花は大人しく自分の教室に戻りなさいよ!?」

「何よ、沙耶香のケチ!!」


 私と沙耶香は廊下に出て行った。

「加奈子、お願いがあるの!!」

「え? どんなお願いかな?」

「この間、憧れの鎌田さんと出会えたでしょ? そして私の演技も観てくれて、私はそれだけで大満足だったの。でも、あれから一週間経って、やはりせっかく運命の出会いができたんだし、また会ってお話がしたいと思ってさ……それでね、できれば鎌田さんの連絡先を教えて欲しいなぁと思って……だ、ダメかな?」

 ど、どうしよう……本当は直ぐにでも『ダメ』って言いたいのに、言えない……

 沙耶香に今の私達の関係を言うべきかな? でもそれを知った沙耶香が引いてしまうかもしれないし、場合によれば他の人達にも知れ渡ってしまう可能性もある。

 ど、どうすれば……

「加奈子、どうしたの? 鎌田さんの連絡先を教えてくれないの?」

「そ、そんな事は無いけどさぁ……でも、一度しか会っていないのに、いきなり連絡してもりょう君が驚くかもしれないわよ。いえ、絶対に驚くだろうし沙耶香に対して引いちゃうかもよ」

「うっ、言われてみればそうね……」

「だからこうしない? 私さ、近々この学校に『ボランティア部』を創ろうと思っているの。それで沙耶香も良ければ演劇部と兼任でいいから一緒にボランティア部をやってみない? そうすればりょう君と一緒にボランティア活動をする約束もしているし、自然に沙耶香もりょう君と親しくなれるだろうし、連絡先も聞きやすくなるんじゃないかな?」

「それは良い考えね!! 分かったわ。私も兼任でボランティア部に入部するわ!!  それで部活は毎日あるの? 部室はどの教室を使うのかな? 顧問の先生は誰なの?」

「沙耶香、先走らないでよ!! 今、近々ボランティア部を創るって言ったばかりでしょ? 学校の許可をもらって顧問の先生も決まったら直ぐに沙耶香に連絡するからそれまで待ってくれないかな?」

「うん、分かったわ!! 楽しみに待ってるわね!? それじゃぁ私は今から演劇部の練習に行って来るわ!!」

 ふぅ……なんとか沙耶香にりょう君の連絡先を教える事は引き延ばせたわ。

「ちょっと、加奈子? 今、沙耶香とボランティア部がどうこうって言ってたよね? どういうことか私にも教えてよぉ?」

「えっ、桃花まだ教室に戻っていなかったの?」

「エヘ、あなた達の話が気になってさぁ……でも何の話をしていたのかあまり聞き取れなかったけどねぇ……ただ、ボランティア部を創るとか沙耶香も兼務で入部するとかは聞こえてきたわよ。加奈子、もしかしてボランティア部を創る気なの? もしそうなら私もバスケ部と兼務だけど入部するからね!!」

「そ、そうなの!? わ、分かったわ。準備ができ次第、桃花にも連絡するわね?」

「オッケー、よろしっくねぇ?」

 ということで、まだ創部もしていないボランティア部に早くも二人の入部が決まった。

 そしてその夜、今日は珍しくりょう君から電話がかかってきた。りょう君と直接話をするのはプロポーズ以来だからとても嬉しい。

「もしもし……」

 当初、りょう君はたわいもない話を明るい口調で話していたけど、次第に声のトーンが落ちて行くのが分かった。そして……

「今日はカナちゃんに大事な話があってさ……言わないでおこうかと思ったけど、やはり早めに知っていてもらった方が良いんじゃないかと思って……」

「え、大事な話? 何だろう? なんかドキドキするんだけど……」

 私の心臓の鼓動が少しだけ激しく動き出す。

「じ、実はさ……今日のバイトで……」

 りょう君は今夜のバイトで起こった事を全て話してくれた。
 二つの事柄で驚いたけど、意外に冷静にりょう君の話を聞けている自分がいた。

 そ、そうなんだぁ……大石さんが焼き鳥やまだでアルバイトを……

 それも、わざわざ部活を辞めてまでりょう君と同じアルバイトをするなんて……そしてその理由が……

「違う土俵で勝負する為かぁ……大石さんも本気でりょう君の事が好きだったんだね? それにまさか立花部長までりょう君の事が好きだなんて驚いちゃったなぁ……」

「でも、立花部長の件は大石さんの思い込みの可能性もあるから……」

「そうだね。立花部長の事は考えないようにするわ」

「うん、その方がいいよ。これからも立花部長とは会う機会はあるしね。でも大石さんはなぁ……あ、でも心配しなくてもいいから!! 俺は大石さんの事はなんとも思ってないから!! って言ってもカナちゃんとすれば不安だと思うけど……」

「フフフ……私は大丈夫よ。だって……」

 私は七夕祭りの日にりょう君が大石さんにハッキリと断っているところを見ているから。その時に『好きな人がいる』って言ってくれているし。あの言葉がどれだけ私の不安な気持ちを消してくれたことか……

 そして、その夜にプロポーズをしてくれたりょう君……
 たくさんキスをしてくれたりょう君……

 もしかすると昼間に大石さんと校舎裏であんな感じになったから余計に急いで私にプロポーズをしてくれたのかもって今になってそう思う。

 という事は逆に大石さんに感謝しなくちゃいけないかも。

 だから今の私はりょう君の事を……

「信じてるから……私はりょう君のことを信じてるよ。これからだって私はずっと、りょう君の事を信じて生きていくって決めているから……」

「か、カナちゃん……」

「だから、くれぐれも私に気を遣って焼き鳥やまだを辞めるなんて言わないでね? りょう君に辞められると久子おばさん達も困るだろうし、常連のお客さんも寂しいだろうし……私は大丈夫だから……それに私ね、ボランティア部を本格的に創る気になったから、部ができればこれまで以上にりょう君と一緒にいられると思うしね。違う土俵でも私は誰にも負けないわ」

 そう、私は大石さんにも沙耶香にも立花部長にだって負けやしない。これから先もずっと愛するりょう君は誰にも渡さないんだから。

「カナちゃん、ありがとう……今の言葉で救われたよ。俺もこれから先、二人の間にどんな障害が降りかかって来てもそれを跳ねのけれる様な強い男になる。そして何があっても俺はカナちゃんを守ってみせる……そして一生、カナちゃんのことを愛し続けることを誓うから」

「ありがとう、りょう君……大好きだよ」

「俺も大好きだよ、カナちゃん……」

 私は今の会話で二人は絶対に幸せになれると心から思えたのだった。





――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
嫉妬編はこれで終わりです。
次回から新章へ!!
新章も是非、読んでくださいね。
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