あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

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第5章 嫉妬編

第51話 気が気じゃない/加奈子

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 私の目の前でりょう君に手を差し出す沙耶香……

 複雑な表情で私をチラっと見ているりょう君……

 りょう君、私に気を遣ってくれているのかな?

 握手くらいどうってことないようにも思えるけど、正直なことを言えば沙耶香にも亮君の手、肌に触れて欲しくないっていう思いがあるのは確かで……

 さっき大石さんがりょう君に抱きついていたけど、それは着ぐるみ越しだったからかろうじて許せたというか、いえ許してはいないけど、まだあの時は私の気持ちは冷静だった。それはりょう君が大石さんに好意を持っていないことも分かっていたからだと思う。

 でも沙耶香の場合、小さい頃に一度、りょう君の演技を観ただけで、りょう君にとっては沙耶香に会ったのは今日が初めてみたいなものだしお互いにどんな性格かも知らないから、これからの付き合い方によっては二人の関係は……

 ワッ、私何を考えているの? りょう君が今日会ったばかりの沙耶香の事を好きになると思っているの? この数年間、りょう君に気に入られようと頑張ってきた私があっさり沙耶香に負けると思っているの?

 そんな事を考えている間に二人は握手をした。そして沙耶香はもう片方の手もりょう君の手に添えて嬉しそうに握手している。

 でも、りょう君は嬉しそうな表情ではなく、少し苦笑いをしていたので、私にとってはそれが救いだった。

 握手を終えた二人は私に近づいてきた。

「加奈子!! もしかして前に言っていた知り合いの大学生っていうのが鎌田さんだったの?」

「う、うん、そうだよ……」

「そうなんだぁ!! これって凄い偶然だよね? まさか友達の知り合いが私の憧れの人だなんて……私、今も感動して手が震えているわ!!」

「ハハハ、ほんと、凄い偶然だよね? 私も驚いたわ……」

 仕方ないけどなんか、りょう君のことを『知り合い』扱いされるのは嬉しく無いなぁ……本当はもっと違う関係だよって言いたくなる……

「加奈子は鎌田さんと住んで居る校区も違うのにさ、どうして知り合いになれたの?」

「え? そ、それは……」

「平田さんだったかな?」

「え? そうですけど、私の事は沙耶香って呼んでくれた方が嬉しいです!!」

 ちょっと沙耶香?
 会ったばかりの人に名前呼びをお願いするなんてちょっと図々しくない?

「そ、それじゃぁ沙耶香ちゃん。俺とカナちゃんは昔、エキサイトランドで出会ってね……」

 りょう君は沙耶香に私達が初めて出会った時のこと、5年後に再びエキサイトランドで再会したことを簡単に説明してくれた。

「えーっ、そうなんですか!? それは凄いですね!? そ、それじゃぁ、加奈子も私と同じで『運命の出会い』をしたんだね!?」

「ハハハ、そ、そいうことになるかな……」

 あなたと同じにされるのは異議があるけど、とりあえず私とりょう君の出会いを『運命の出会い』と言ってくれたのは嬉しかった。

「そっかぁ……こんな偶然ってあるんだなぁ……あ、ところで鎌田さん? 五十鈴広美さんはお元気にされていますか?」

「え? ああ、広美は今、東京に行っていてさ、女優の岸本ひろみさんの元で女優になる為の勉強を頑張っているみたいだよ」

「えーっ!? あの青葉三中伝説のOG、岸本ひろみさんと一緒におられるんですか!? そ、それは凄すぎる……やっぱり私が小さい頃に感じた通り、五十鈴広美さんは只者では無かったんだわ……でもあの時、私は鎌田さんも只者ではないと感じたんですけど、今は演劇をされていないんですね?」

「そうだね。俺は中学生で演劇はやり切った感があったからね。高校生になってからはアルバイトばかりしていたよ」

「そうなんですねぇ……なんか勿体ないような気もしますけど、こればっかりは仕方無いですもんねぇ……」

「沙耶香? あなたも早くみんなの所に行かないとダメなんじゃないの?」

「えっ? ああ、そうだったわ!! 鎌田さんに会えた嬉しさですっかり演劇部のことを忘れていたわ!! 早く行かないと『あの荻野部長』にさっきのことの八つ当たりも兼ねて嫌味を言われかねないわ。そ、それじゃぁ私、行くわね、加奈子!? 鎌田さんも是非、あとで私の演技を観てくださいね!?」

「ああ、後でカナちゃんと一緒に観させてもらうよ。しっかり頑張ってね、沙耶香ちゃん」

「はい、頑張ります!!」

 こうして沙耶香は私達というか、りょう君に満面の笑顔で手を大きく振りながら急いで演劇部の控室に慌てて行くのであった。

 その場に残った私とりょう君はどことなく疲れ切った表情をしているのだった。

「沙耶香ちゃんってとても元気で明るい子だね?」

「うん、そうだね……それに美人だし、りょう君は沙耶香のことどう思う?」

 え? 私、何でそんな事をりょう君に聞いちゃうの?

「えっ!? どう思うと言われても……まぁ、美人だとは思うけど……俺は普通の女子中学生としか思えないけどなぁ……何でそんな事を聞くんだい?」

「うーん……美人の沙耶香に憧れの人って言われたらりょう君も嬉しいだろうし……なんか違う感情が出て来ちゃうんじゃないかって思ってしまって……」

 校舎裏でりょう君が私に対しての思いを大石さんに話していたのに、どうしても何かあると直ぐに不安になってしまう私がいる。

「なんか違う感情って……ハハハ、カナちゃんが何に対して心配しているのかは何となく分かるけどさ、それは大丈夫。絶対に大丈夫だから……そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫だから……」

「う、うん……分かった……」

「不安と言えばさ……」

「え?」

「いや、俺は俺で少し不安はあるんだよ。俺のせいでカナちゃんが中学生らしい生活が出来ていないんじゃないかって……無理に俺達大学生と付き合っているんじゃないかって……」

「それは無いよ。私からりょう君にお願いしてボランティア活動に参加させてもらっているんだし……それに私、このボランティア活動が大好きになったの。青六中にも『ボランティア部』を創ろうかと思っているくらいなんだよ」

「そうなんだ。それを聞いて安心したよ。もし『ボランティア部』ができれば俺達と共同でボランティア活動ができるかもしれないね? そうなれば今以上にうちの部も盛り上がるだろうなぁ……これは楽しみだよ。部発足の為の協力は何でもするからいつでも言ってよね?」

「うん、ありがとう。その時はよろしくです」

 私はりょう君の色々な話を聞けて心が落ち着いた。そしてボランティア部発足に対して私と同じ思いを持ってくれた事がとても嬉しかった。

「それじゃ、休憩しよっか?」

「うん、そうだね」


 私達は立花部長の計らいで午後からりょう君と一緒に沙耶香達、演劇部のお芝居を観させてもらう事ができ、その後、『七夕祭り』も無事に終わりを迎え、私にとって初めてのボランティア活動もりょう君達のお陰で無事に終わることができた。

「さぁ、今から打ち上げに行くわよ。鎌田君、お店は確保できているんだよね?」

「大丈夫です、立花部長。マスターにお願いして今日は早めに開店してもらいますので。それで最初の数時間は貸し切りにしてもらっていますから安心してください」

 マスター? も、もしかして……
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