あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

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第5章 嫉妬編

第47話 着ぐるみと香水/亮二

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 俺達は青葉第二小学校に着いた。

 すると他のボランティア部員達は全員揃っていて談笑をしている。

「鎌田先輩、おはようございまーす!! 一番家が近いのに一番来るのが遅かったですねぇ? あ、そういうことですねぇ? 女子は準備に時間がかかりますからねぇ」

「お、おはよう、大石さん。いや、別にカナちゃんの準備に時間がかかった訳じゃなくて、俺が家を出るのが遅れたんだよ。やはり近いと油断してしまうよね? ハハハ……」

 大石さんにそう言うと隣でカナちゃんが俺の服の袖を引っ張り申し訳無い表情をしている。それに対して俺は「大丈夫だよ」という顔をしながら少しだけ顔を横に振った。

 するとカナちゃんは何か開き直ったのか大きな声で大石さんに挨拶をする。

「大石さん、おはようございます!! 今日はよろしくお願いします!!」

「へっ? ええ……こちらこそよろしくねぇ? 今日は頑張りましょうねぇ?」

 大石さんは少し驚いた表情をしたけど直ぐにいつもの笑顔でカナちゃんにそう言った。

 俺は二人の様子を見て何となくだがホッとした。そんな俺に橋本君が話かけてくる。

「鎌田先輩、本当に僕達一年生は『アオタン』の着ぐるみを着ないとダメなんですか? 今日はとても暑くなるって朝のニュースの天気予報で言っていたので大丈夫かなと思いまして……」

「そうだね。昨日、立花部長が今日は暑くなるから一人15分ずつの交代で着ぐるみを着てもらいましょうって言っていたからそれでいこう」

「15分ずつですかぁ……それでも僕はとても不安です……」

「もし15分経たなくても具合が悪くなったら直ぐに交代してくれて構わないから。それに今日はそんな堅ぐるしいボランティアじゃないし無理をする必要はないから……でも地域のお年寄りの安全面は十分に注意してくれよ? 俺達はそれがメインのボランティアだからね」

「はい、分かりました!!」

 俺が橋本君との会話を終えてふとカナちゃんの顔を見ると俺の顔をジッと見ながらとても瞳が潤んでいるように見えたのでどうしたのか聞いてみた。

「カナちゃん、どうしたんだい? 何だか瞳が潤んでいる様に見えるんだけど……もしかして目の中に埃が入ってしまったのかい?」

 するとカナちゃんは俺の耳元に顔を近づけ小声でこう言った。

「違うよ。りょう君が橋本さんに話をしている姿が凄くカッコよかったから……思わず見とれちゃったの……」

「えっ!?」

 俺はカナちゃんにそんな事を言って貰えるとは思っていなかったのでとても恥ずかしくなり顔が熱くなってしまった。

「りょう君、顔が赤いよ。大丈夫?」

「え? ハハハ、俺は全然、大丈夫だよ……」

 カナちゃん、君は日に日に『小悪魔』みたいになっているよ。俺はそんなカナちゃんにいつまでも冷静でいられるのだろうか……?


「さぁ、そろそろ時間だね? みんな集まってくれるかな? 最後の打ち合わせをしましょう!!」

 立花部長の号令のもと、俺達ボランティア部とカナちゃんを含めた総勢30名は最後の打ち合わせをするのだった。


――――――――――――――――――――――――

 午前9時、定刻通りに『青葉第二小学校七夕祭り』は始まり、青二小の児童や近くの幼稚園や保育園の園児達、保護者は勿論のこと、地域のお年寄りの人達も続々と小学校に集まって来ている。

 俺達は各班4人ずつのグループで活動をしてるが人だかりが落ち着くまでは全員体制で行い休憩なしで頑張っていた。

 カナちゃんも笑顔でお年寄りに声をかけながら色々な催し会場や休憩所などを案内している。時にはお年寄りの手を引きながら一緒に催し会場や休憩所、またはトイレにもついて行ったりしていて、俺はそんなカナちゃんの様子を見て暑さや疲れを忘れるくらいに癒されていた。

 そんな中、大石さんと橋本君は現在交代で青葉市のマスコットキャラ『アオタン』の着ぐるみを着て大勢の小さい子供達に囲まれている。

 今はどうも大石さんが着ているみたいで隣にいる橋本君がサポートをしている。

「こらこらボク達、アオタンを叩いたり蹴ったりしちゃぁいけないよぉ」

「うるさいなぁ、おじさんはあっち行けよ」

「はぁあ!? ぼ、僕はまだ18歳だよ!! おじさんって何だよ!?」

 プッ……俺は橋本君が子供達に怒っている様子を見て思わず吹き出してしまった。

「は、橋本君? もう15分経ったんじゃない? 私、そろそろ限界よ。暑いし、さっきから叩かれたり蹴られたりして痛くはないけど、イライラしてきたしさぁ……早く私と交代してくれないかな?」

「え? まだ10分も経ってないよ。それに僕は今この子達の相手で忙しいからもう少し頑張ってくれないかなぁ?」

「な、何を言っているのよ!? おじさんって言われたくらいで怒らないでよ!! 鎌田先輩も言っていたでしょ? 具合が悪くなったら直ぐに交代しても構わないって……」

「ああ、アオタンがしゃべっているぞーっ!!」
「ほんとだ、生意気だな!!」
「みんなでアオタンに突撃しようぜ!?」

「へっ!? この子達、何を言ってるの? ま、マズイわ……橋本君、マジでヤバいから早く交代してよ!?」

 これはマズイな。よしっ……

「カナちゃん、ちょっと着ぐるみチームを助けて来るから少しだけ一人でお願いできるかな?」

「うん、いいよ。ここは任せておいて」

「ありがとう」

 俺は直ぐに大石さんの着ぐるみに近づき両手を横に広げて悪ガキたちを制止した。

「よーし、僕達ここまでだーっ!! 今からアオタンは5分だけ休憩をするから少しだけ良い子で待っててくれるかなぁ? もし待ってくれたら休憩後のアオタンは凄いアオタンになっているぞーっ!!」

「 「 「ほんとに~? それじゃぁ待ってるよ」 」 」


 こうして俺は橋本君を残して着ぐるみを着ている大石さんを校舎裏に連れて行き着ぐるみを脱がせた。

「はぁ、はぁ、はぁ、鎌田先輩助かりました。ありがとうございます……」

「いや、俺こそゴメンよ。まさか今年の子供達があんなにも悪ガキが多いとは思わなかったからさ……さすがに女子では厳しいよね? でも今の橋本君では着ぐるみを着て子供達に何をするか分からなくて不安だからとりあえず俺が着ぐるみを着て次の交代が来るまで繋いでおくよ」

「えっ!? で、でもそれじゃぁ……」

「大丈夫だから。それよりも大石さんは少し休憩してからで構わないからカナちゃんの応援をお願いできるかな?」

「は、はい……分かりました……」

 そして俺はアオタンの着ぐるみを1年ぶりに着た。

 1年しか経っていないのに何だか懐かしく感じるよなぁ……

「か、鎌田先輩……私凄く汗をかいていたから……着ぐるみの中、汗臭くないですか? 大丈夫ですか?」

「ハハハ、大丈夫さ。どちらかと言えば大石さんがいつもつけている香水の香りがしているから……」

「えっ!? 私の香水の匂いは大丈夫ですか? きつくないですか!?」

「大丈夫、大丈夫。いつも大石さんはとても良い香りの香水をつけているなぁって思っていたくらいだしさ……」

「鎌田先輩……」

 ん? 急に大石さんが大人しくなったような……着ぐるみからの視界が狭くて大石さんの表情が分かりにくいんだが……

 ガバッ

「えっ!? な、何!?」

 こ、これは大石さんが着ぐるみ越しに抱き着いて来たんだ。

「お、大石さん!? 何故突然抱き着いてくるんだよ!? ビ、ビックリするじゃないか!?」

「鎌田先輩が私のつけている香水の香りがとっても良いって言ってくれたから……だから思わず着ぐるみの中だけじゃなくて外側にも私の香りをつけたくなってしまって……お願いです。もう少しだけこのまま抱き着かせてください……」

「お、大石さん……」

 これはマズイぞ……こんなところをカナちゃんに見られてしまったら……
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