あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV

文字の大きさ
上 下
28 / 93
第3章 想い編

第28話 別れのキス/亮二

しおりを挟む
「俺は……千夏ねぇとは付き合えない……」

 やはり千夏ねぇとは恋人にはなれない。
 それが俺の出した結論だ。

「ハハハ、そっかぁ……ってことは、やっと亮君にも春が来たんだねぇ?」

「えっ!?」

「だからぁ、昨日、広美ちゃんにちゃんと告白してオッケーもらったんでしょ? そして二人は晴れてカップルに……」

「ち、違うよ」

「えっ!?」

 今度は逆に千夏ねぇの方が驚いた表情をしている。

「昨日、広美には好きだという事は伝えたよ。でも付き合って欲しいとは言わなかったんだ」

「えーっ!? 何でなの!? 好きだって言ったんでしょ? なら普通はそのまま付き合って欲しいって言うもんじゃない!?」

 うーん、納得していない千夏ねぇにどう説明すれば……

「お、俺さ……千夏ねぇが告白してくれてから今日までの間に色々と考えさせられることがあって……それでその考えた中の一つに広美に対して好きだという思いは知って欲しいけど、付き合って欲しいとは言わないって決めたんだよ……」

「なっ、何それ!? 亮君は小さい頃から広美ちゃんの事が好きでたまらかなったクセに何で急に付き合って欲しいって言わないなんて決めちゃったのよ? そ、それと……広美ちゃんと付き合わないなら私と付き合えばいいことじゃん。なのに何で私とは付き合えないの?」

 そ、それは……

「私が亮君にあんなことを言ったからダメなの? それに何人もの男性と付き合っていた事もマイナス要素なのかな……」

「千夏ねぇ、それは違うよ。あの時、千夏ねぇに『亮君の初めてになりたい』って言われた時は本当に心が揺らいだんだ。マジで童貞を卒業たいと思っていたし……そこまで言ってくれた千夏ねぇに感謝すらしたんだよ。それと今まで千夏ねぇがいくらたくさんの人と付き合おうが俺には関係無いし、決してマイナス要素では無い。千夏ねぇは美人だし、世話好きで優しいし、魅力いっぱいの女性だよ。ただ……」

「ただ何?」

「ただ、俺の中の千夏ねぇは今も、これから先も幼馴染のお姉ちゃんなんだ。小さい頃から千夏ねぇに対して憧れみたいなのはあったけど、どうしても恋愛対象にはならなくて……それなのに童貞を捨てる為だけに千夏ねぇと付き合うっていうのは、やっぱおかしいというか、俺の事を本気で好きだといってくれている千夏ねぇに失礼というか……先で絶対に後悔すると思うんだ……」

「・・・・・・」

 千夏ねぇは俯きながら黙っている。次に言う言葉を考えているのかもしれない。だから千夏ねぇが次の言葉を言う前に俺はもう一つの理由を言う事にする。

「そ、それとさ……俺さ、大学に進学する事にしたんだよ。だからこれから必死に勉強をしなくちゃいけないし、彼女をつくっている場合じゃないっていうのも理由の一つかな……」

 俺がそう言うと千夏ねぇが少し驚いた表情をしながら顔を上げ俺の顔を真っすぐ見ながら話し出す。

「驚いたなぁ……亮君、大学に進学する事にしたんだ? あれだけ就職するって言っていたのに意外だね?」

「そうだね……自分でも驚いてるよ。でも決めたからには勉強を頑張らないと……だから、せっかく千夏ねぇに紹介してもらった焼き鳥屋でのバイトも近いうちに辞めようと思っているし、エキサイトランドのバイトも夏休みが終わったら辞めるつもりなんだ」

「そっかぁ……山田さん達、とても寂しがるだろうなぁ……亮君の事、とても気に入っていたから……」

 本当は焼き鳥屋のバイトは辞めたくないけど、今の俺の成績ではどこの大学にも受からない気がするし、出来ることなら塾に行きたいと思っている。まぁ、父さんや母さんが承諾してくれたらの話だが……

「ほんと、辞めるのは辛いけど……ただ20歳になったら今度は客として通うつもりだけどね」

「ハハハ、それはいいねぇ。私もそうしよっかな……っていうか、亮君の想いはとても分かったわ。まぁ、私も大人だしさ、フラれたからって18歳の少年に駄々をこねる気もないし……はぁ、そうだよねぇ……私はいつまで経っても幼馴染のお姉さん役が似合っているのかもしれないなぁ……」

「千夏ねぇ……ゴメン……」

「別に謝らなくてもいよ。これで私も決断することができるから」

「え、決断?」

「うん、そうよ。実はさ、就職が内定している会社が一社あるんだけどね、そこの会社の子会社工場がこの青葉市にあるの。で、私はその子会社の事務系希望なんだけど、この会社の決まりとして最初の2年間は東京本社に勤務しないといけないみたいで……もし亮君と付き合う事が出来たら遠距離恋愛になっちゃうし、凄く迷っていたんだぁ。でもこれで私は何のためらいも無く東京に行けるかなと思ってさ……」

 そう言えばそうだった!! 今、千夏ねぇは大学4年生なんだ。来年には社会人になる人だった。それに比べてもし合格したとしても俺は学生……そう考えただけでも千夏ねぇと俺は釣り合わないよなぁ……

 そう考えると広美もだよな。女優とサラリーマン……千夏ねぇよりも厳しいよな? 直ぐに破局になっちまいそうだ。それと小学5年生と高校3年生……これは論外だな。ってか俺が犯罪者扱いになり完全にアウトになっちまう。今はだけど……


「そ、そうなんだ。なんか複雑な気持ちになるけど……」

「亮君が気にする必要は無いよ。元々、私はこの会社に就職したかったんだしさ。それに広美ちゃんと目的は違うけど、私も一度は東京で働くのも悪く無いんじゃないかって思っているしね。もしかしたらずっと東京に居座るかもしれないわよぉ」

 今まで当たり前のように俺の近くにいた広美や千夏ねぇがいなくなってしまうのかぁ……二人のいない日常ってどんな感じなんだろう? きっと慣れるまで寂しくなるんだろうなぁ……

 俺の少し寂し気な表情とは対照的に千夏ねぇはニコッと微笑み、そして……

「はい」

「え?」

「え? じゃないわよ。握手よ、握手」

「握手?」

「これから私達は新たな気持ちで前に進む感じになるでしょ? だからお互いに頑張ろうっていう握手よ」

「な、なるほど……」

 俺はそう言うとテーブル越しに少しだけ前かがみになる形で千夏ねえと握手をした。

 すると千夏ねぇの握手をしている方の手の握りが少し強くなったと思ったと同時に俺の手を千夏ねぇの方に引っ張ってきた。そして逆に千夏ねぇは俺に顔を近づけ……

「えっ!?」

 千夏ねぇから俺にキスをしてきたのだった。

「ち、千夏ねぇ……な、な、何でキスなんかを……?」

「フフフ、亮君、キスにも色んな種類があるんだよ。今のはお別れのキスだから、気にしなくていいから……」

 気にするなというのは無理があるだろ?
 それに俺は二日続けて女子からキスをされてしまったって事だよな?

 男として、それはそれで複雑だ……




――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。

次回は千夏視点を少しと加奈子&桜視点をお送りする予定です。
第3章は残り2話ですので宜しくお願い致します。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。 彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。 亀じゃなくて良かったな・・ と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。 結は吾郎が何度振っても諦めない。 むしろ、変に条件を出してくる。 誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...