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第3章 想い編

第27話 想い続けた数年間/千夏

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 私が小さい頃にお母さんは再婚した。

 そして新しいお父さんの家で暮らす事になりアパートから一軒家に引っ越したけど、その家の近所に広美ちゃん達家族が住んでいた。

 実は広美ちゃんの両親は新婚当初、私達母娘と同じアパートに住んで居たお隣さんで、広美ちゃんが生れて直ぐに旦那さんの実家で同居する事になり引越したんだけど、まさか、その後、私達も広美ちゃん達の近所に住むことになるとは……

 こうして4つ年上の私はお姉ちゃん的立場として広美ちゃんの面倒を見る事になったんだけど、同じ時期に出会ったのが亮君だった。

 亮君は広美ちゃんのお母さんの後輩である鎌田志保さんという人の息子さんで1つ上にお姉ちゃんの真保ちゃんもいた。

 真保ちゃんは現在大学1年生で地方の大学に通っている為に大学の寮で一人暮らしをしているそうだけど、そういえば最近、真保ちゃんに会ってないなぁ。

 今年の夏は実家に帰って来るのかな? 久しぶりに会って話がしたいんだけどなぁ……

 最初の頃は4人でよく遊んでいた。でも、いつの頃からか真保ちゃんが私達とは一緒に遊ばなくなっていく。その時の私は弟と一緒に遊ぶのが嫌になったのかなって思ったけど、常は姉弟仲良さそうだったから別の理由があったのかもしれない。

 いずれにしてもその後は3人で遊ぶようになっていた。当時から広美ちゃんはしっかり者で亮君は泣き虫な子……対照的な二人だった。

 私は泣き虫亮君に対して仕方なく面倒は見ていたけど、いつも亮君に対してイライラしていたよなぁ……それとは逆に広美ちゃんは何でもよく気が付く賢い子で世話がかからなかったなぁ。

 私が中学生になった頃、義理のお父さんとギクシャクしだした。義父さんは私の事を本当の娘だという思いで叱ってくれていたのだろうけど、当時の私は本当の娘じゃないから厳しく叱るんだと思い込んでいた。

 そして最初は我慢していた私も義父への反発心が最高潮に達した時、遂に私はグレてしまい、不良達とつるむ様になり、ほとんど家に帰らない状態になった。

 そういった状況の頃に私は不良仲間の先輩相手と初体験を済ませている。

 お母さんはそんな私をなんとか更生さようと色々頑張っていたけど、当時の私は「うるせぇ、ババァ!! あんたがあんな奴と結婚したから、こんなことになったんじゃねぇか!!」と酷い言葉を浴びせ続けているだけだった。

 はぁ……本当に今考えても私にとって『黒歴史』だった。

 月日が流れ私は中学3年生、広美ちゃんや亮君は小学5年生になっていた。
 相変わらず私はグレていたけど何故か広美ちゃんと亮君にだけは昔の様に優しく接していたのを覚えている。

 そして6月、私がまたしても義父さんと喧嘩して家を飛び出し、友達の家を転々としながらの生活が一週間くらい経った日……

 私は隣の中学の不良女子数名と公園近くで出くわし、直ぐに喧嘩になってしまう。何とか私が勝ったものの、身体の意たるところに怪我をしてしまった。特に足をくじいてしまい歩けない状態になっていた。

 その日は雨が降っていて私は公園の屋根のあるベンチで目を閉じながら座り、足の痛みに耐え雨宿りをしていた。すると私の目の前で聞き覚えのある声がする。

「ち、千夏ねぇ、ここで何をしているの? うわっ!! 身体中怪我だらけじゃないか? 大丈夫なの? もしかして死んじゃうんじゃ!?」

 ん? うるさいガキだな……って、千夏ねぇ? ってことは亮君か……?

 怪我をしている私の姿を見て亮君は突然泣き出した。「千夏ねぇが死んじゃう!!」と言いながら大泣きしている。

「バ、バカ!! これくらいの怪我で私が死ぬはずないだろ? 亮君は大袈裟過ぎるんだよ。そんな泣かないでいいからさ……ほんと、亮君は相変わらず泣き虫だなぁ……」

「グスン……ほ、本当に死なないの? で、でも、足も怪我してるから歩けないんだよね?」

「だ、大丈夫よ。しばらくここで身体を休めていたら少しは歩けるようになると思うから……だから亮君は早く家に帰りな」

「だ、ダメだよ。雨も降っていて少し寒くなってきているし、風邪引いちゃうよ。ぼ、僕が千夏ねぇをおんぶして家まで連れて行ってあげるから!!」

「そ、そんな事しなくてもいいよ。私は家に帰りたくないし」
「ダメ!! オジサンやおばさんが凄く心配しているよ!! 絶対に僕がおんぶしてでも家に連れて帰るから!!」

 亮君があんなにも真剣な表情を見せたのは初めてだったので、私も拒否することができず、とりあえず家の近くまで連れて行ってもらうことにした。

 そして亮君は私よりも小さな体で私をおぶり、雨の中、フラフラとした足取りで必死に家の前まで送ってくれたのだった。

 泣き虫亮君の事を初めて頼もしく思えた瞬間だった。そして、その時の亮君の背中の温かさを今でも覚えている。

 ようやく家の前までたどり着き、亮君が急いでお母さんを呼びに行ってくれた。そしてお母さんは驚いた顔をしながら家から出てくる。

 そしてたまたま仕事が早く終わって家に帰っていた義父さんも慌てて外に飛び出して来たので私は殴られると思ったけどその真逆だった。

 私のところへ駆け寄って来た義父さんは私を抱きしめ涙を流しながら「やっと家に帰って来たと思えば、お前は……今まで何をしていたんだ!? お父さんもお母さんもどれだけ心配していたと思ってるんだ!! そ、それに女の子がこんな怪我をして……顔に傷でもついたらどうするんだ!? 本当にお前は……お前は……でも良かった……大した怪我じゃなくて本当に良かった……」と言っていた。

 その横で再び亮君も「本当に良かったよ」と言いながら泣きだした。私は二人の姿を見て男が泣くんじゃないよと思いながらも、こんな自分でも愛されてるんだと初めて思えた。

 そしてこの日から私はグレるのを止め、高校受験を頑張るようになった。

 その頃からかなぁ……私が亮君を意識しだしたのは……

 でも私は亮君より4つも年上だし、ヤンキー中学生が小学5年生を好きになるなんてあり得ないという思いもあり自分の気持ちを押し殺していた。

 そんな中、亮君も広美ちゃんに好意があるようなそぶりが見え始めてきたので、私は必死に亮君の事を異性として見ない努力をしていたけど、結構、辛かったなぁ……

 それから私達はお互いに成長していき私は大学生になり、亮君は中学3年生……

 身長は私よりもはるかに亮君の方が高くなったけど、まだ彼は15歳……大学生の私が告白するのはどう考えても無理がある。

 それに 亮君は広美ちゃんと同じ演劇部に入っていて、部長さんにまでなって広美ちゃんのサポートとをしている。何とか広美ちゃんの気を引こうと頑張っている亮君の想いが手に取る様に分かった。

 だから私はなんとか亮君を意識しないようにする為に何人もの好きでもない男性と付き合うようになっていた。でもやはり誰とも長続きしない。

 私から全然、愛を感じない相手は直ぐに嫌気がさしてしまい、いつの間にか違う女性と浮気をする。そしてそのまま私が好きでもない男にフラれるというパターンが続いてた。

 でも私にも転機が訪れる。高校生になった亮君に私がアルバイトをしている焼き鳥屋さんを誘ったのだ。その時は一応、別で広美ちゃんにも声をかけたけど部活が忙しいからと断られた。こんなに断られて嬉しい気持ちになったのは生まれて初めてだったなぁ……

 そして亮君は焼き鳥屋さんでアルバイトをする事が決まり、私はこの数年の中で一番、亮君と同じ空間で長い時間を過ごせる日々が続き、毎日アルバイトに行くのが楽しみで仕方なかった。

 それから2年以上が経ったけど、相変わらず亮君と広美ちゃんには何も進展が無い様に見えた私は先日、勢いで亮君に告白をしてしまった。

 亮君と付き合いたい為に誘惑するかのようなセリフも連発してしまい、言ってから後悔したけど、亮君はそれに対して恥ずかしそうな表情はしたけど、怒ることもなく、返事は少しだけ待って欲しいと言ってきた。

 本当は直ぐにでも良い返事をもらって直ぐに彼を抱きしめたい衝動にかられたけど、そこを何とか我慢して私は返事を待つことにした。

 その後、亮君から夏休みに入ったらエキサイトランドで広美と一緒にアルバイトをするので、その期間に広美に告白するというメールが届いた。

 ようやく亮君が本気を出すんだぁと思った。

 そして……

 遂に亮君から返事をもらう日がやってきた。って事は広美ちゃんとは決着がついたってことだよね?


 ファミレスの座席にお互い向き合いながら座る。
 二人共、どことなく緊張している感じだ。

 そして亮君が固い表情をしながら話し出す。

「ご、ゴメン千夏ねぇ……」

「えっ?」

「俺は……千夏ねぇとは付き合えない……」






――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
千夏に対しての亮二の返事は予想通り?の「NO」だった。
果たして千夏はどうする?そして亮二は千夏にどんな話をするのか?
次回もどうぞお楽しみに。
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