あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

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第3章 想い編

第25話 思い出話/加奈子

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 エキサイトランドでりょう君と再会した次の日の昼……

 うちにお客さんがやって来た。

「山田さん、今日はお疲れのところわざわざ来てくれてありがとう」

「いえいえ、こちらこそ、お疲れのところを、お邪魔しちゃって……」

 そう、翔太のお母さん、久子おばさんが遊びに来たのだ。

 でも昨日、二人は広美さんを囲んで散々、お話をしたはずだし、帰りの車の中でも桜ちゃんのお母さんも一緒になって大盛り上がり過ぎたのか途中で疲れて三人共寝ちゃったくらいなのに、まだお話することなんてあるのかな?

「お母さん、私ここにいてもいいの?」

「ええ、いいわよ。でも静香と一緒に遊んであげてくれるかな? 今日は山田さんがお店に行く時間までたっぷりとお話するつもりだから」

「うん、いいよ」

 良かった。私は二人の話に興味津々だったから。でも静香の面倒は見ないといけないから集中して話を聞く事はできないかもしれないなぁ……

 私は二人からは少し離れたリビングの端の方で静香の相手をすることにした。

「山田さんとは長い付き合いだけど、よく考えたらお互いに若い頃のお話って意外としてなかったよねぇ?」

「そうね。いつも子育てについてや学校行事について、あと旦那の愚痴とかだったものね……」

 えっ、お母さんもお父さんの愚痴を言ってたの?

 あんなに優しいお父さんなのにさ……で、でも昨日はお父さんに携帯電話を持つのは早過ぎる。中学生になってからだって言われてしまったから私もちょっと愚痴りたい気持ちはあるんだけどね。

「昨日、広美ちゃんに久しぶりに会えたのは嬉しかったけど、まさか山田さんも広美ちゃんの知り合いというか、お父さんの隆君と小中学校が一緒の幼馴染だっただなんて、とても驚いちゃったし世間って本当に狭いなぁってつくづく思ったわ」

「私もまさか三田さんが五十鈴君と同じ高校の同級生だっただなんて……それに昨日行ったエキサイトランドで一緒にアルバイトもしていただなんて驚いたわ」

「ハハハ、そうだね。まぁ、私は2年生の時に福岡へ引っ越ししちゃったから隆君と一番長くアルバイトをしていたのはチーチュ、いえ、大塚さんなんだけどね……で、その娘の桜ちゃんと翔太君が小学生から付き合っているというのも不思議な感じよねぇ……」

 ドキッ!!

 お母さん、お願いだから今日は翔太と桜ちゃんの話はしないでよ。二人が付き合う様に仕向けたのは私なんだから、聞いているだけでドキドキしちゃうし……

「でも付き合うなら本当は加奈ちゃんと付き合って欲しかったんだよねぇ……まぁ、桜ちゃんも良い子だけど、やっぱり小さい頃から知っている加奈ちゃんの方が人柄も良く知っているし、私も接し易いしね。でもまぁ、あれだけ加奈ちゃんに対して意地悪ばかりしていた翔太を加奈ちゃんが好きになってくれるとは思わなかったけど……」

 久子おばさんが少し残念そうな表情をしながらそう言うと、一瞬お母さんがニヤリとしながら私の方を見た気がした。

「ゴホッゴホッ」

 私はむせてしまい静香が「お姉ちゃん、大丈夫?」と言って心配してくれた。

「ハハハ、大丈夫よ。それよりも静香、今日は何して遊ぼうか?」

「うーん、えっとねぇ……パズルがしたい」

「オッケー、パズルね? お姉ちゃん、パズル得意なんだよぉ」



「それでさ、今日は山田さんに一つだけ確認しておきたいことがあってね……」

「確認? 一体何の確認かしら?」

「あのね……確認したいのは広美ちゃんのお父さんの事なんだけどね……」

「えっ、五十鈴君の事?」

「そう、五十鈴隆君の事なの……」

 お母さんは久子おばさんに広美さんのお父さんについて何を確認したいのだろう?

「もしかしてだけどさぁ……山田さんも学生の頃、五十鈴隆君が好きだったって事は無いかなぁって思ってね……」

「えっ!? 山田さんもって事は三田さんもなの!?」

「あらぁ、やはりそうだったのね……私の勘ってよく当たるから、もしかしたらって思ったんだけど……やはり山田さんもだったんだぁ……」

「そ、そうなの……五十鈴君は私の初恋の人だったの……」

「ハハハ、初恋っていうのも私と同じだねぇ……しかし彼は今まで何人の女子を失恋に追いやったんだろうね……ほんと罪な男だわ」

「フフフ、ほんと、そうだね……」

 う、嘘でしょ!? 久子おばさんも広美さんのお父さんが初恋の人だったの!?
 しかし、広美さんのお父さんって一体どんな人なんだろう?
 私も一度会ってみたいと思っちゃうわ。

「それで山田さんも常谷先生、いえ、今の奥さんの存在を知って諦めたクチかな?」

「いいえ、最初は諦めなかったわ。私ね、小さい頃から恋愛には興味があって、小学生になって直ぐに同じクラスになった隆君に一目惚れをしたんだけど、数日位で彼には好きな人がいるというのは何となく分かったわ。でも私の中ではその好きな人って浩美だと思っていたの」

「えっ、広美?」

「ああ、ゴメンなさい。浩美って広美ちゃんの事じゃなくて私の同級生で親友でもあった石田浩美の事なの。当時、結構クールだった五十鈴君が浩美にだけは笑顔で話をしているところを何度も見ていたから……二人共、小4の時には同じ演劇部だったしさ……だから私はてっきり五十鈴君の好きな人は浩美だと思っていたの」

「へぇ、そうなんだ……」

「でも、それは違っていた。まぁ、浩美も実際は隆君の事をずっと好きだったというのは中学生になって直ぐに浩美本人から聞かされたんだけどね。まぁ、あの子はあの子で五十鈴君に振り向いてもらえるように凄く頑張っていたと思う……でも中3の時に浩美は病気で亡くなってしまって……」

「えっ、そうなの!? 中3で亡くなるなんて気の毒過ぎるわ。まだまだこれからっていう歳なのに……」

「そうね。あの時はとても悲しかったわ……」

 今の会話で広美さんのお父さんの事が好きだった人がお母さん、久子おばさん、そして浩美さんの3人になったわよ。もしかすると二人が会話している間にあともう1人や2人、増えるかもしれないわ。

「それで話を戻すけどね、まさか五十鈴君が幼稚園の頃の先生を好きだなんて思わなかったわ。それを知った時は信じれなかったし、あり得ないって思った。それに私がそんなおばさんに負けるはずが無いとも思ったわ!!」

「ハハハ、私と全く同じだわ。普通はそう思うよねぇ? 10代の女子が30代の女性に負けるなんて思わないもの」

「でも……私達はあの人に負けた……っていうか、諦めてしまった。五十鈴君の想いが全然ブレなかったのも凄いなって思ったなぁ。きっとそれまでに色んな誘惑はあったはずだし……まぁ、その誘惑の一つを担ったのは私達かもしれないけど。フフフ……」

「ハハ、それは言えるわね。それに常谷先生も彼の事を心の中でずっと想っていたんだから、この『二人の愛』は誰も邪魔出来なくて当然だったのかもしれないわねぇ……」

「だよね。それにしても私と三田さんって五十鈴君に関してはとても似た人生を歩んでいたんだね? もっと早くこの話をしておけば良かったなぁ」

「私もそう思ったわ。という事でこれからも『似た者同士』仲良くしてちょうだいねぇ?」

「ええ、こちらこそよろしく~」

 何かあの二人、広美さんのお父さんの話題のお陰で今まで以上に仲良しになった気がするわ。

「あ、そうだわ。今日の話を今度、チーチュにもしてあげようかしら。おそらくあの子も高校時代、隆君の事が好きだったはずだからさ……」

「へぇ、そうなんだぁ? それじゃぁ今度は3人でゆっくりお話しましょう」


 へっ?

 広美さんのお父さんを好きだった人がまた1人増えちゃったみたい……
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