あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

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第2章 再会編

第14話 奇跡の連鎖/亮二

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「か、カナちゃん……なのかい……?」

 俺は自分の目を疑ったが広美の前にいる子は間違いなくカナちゃんだ。
 あの可愛らしかった女の子がそのまま大きくなった感じだ。

 あの頃のカナちゃんは髪は短かめだったけど今は長くて綺麗な黒髪だなぁ。
 小学生高学年くらいなっているのかな? 
 本当に大きくなったよなぁ……

 それに後ろにいる夫婦にも見覚えがある。
 あの人達はカナちゃんのご両親だ。
 この二人は5年前とそんなに変わっていないし全然、老けてないよな。美男美女夫婦だ。

 俺はハリケーン・エキスプレスがまだ回転中だったのでその間に搭乗口に行ってカナちゃんに声をかけようと思い急いで近づこうとした。

「お嬢ちゃん、危ないよ!! まだ回転中だから鎖の外で待っててね!?」

 搭乗口にいる先輩の女性がカナちゃんに注意をしている。

 どうもカナちゃんは俺に何か言いたくて中に入れないようにしている鎖の下をくぐろうとしたみたいだ。

 広美の方は相変わらずカナちゃんのお母さんと話をしていてカナちゃんの行動に全然気付いていない。

 あちゃぁ、広美のやつ後で先輩に叱られるぞと思いながら俺はカナちゃんの方に行くのを止めて急いで操縦室にいる松本さんの所へと向かった。そして操縦室のドアを開けて松本さんに次の休憩時間は仕事をするので今から休憩させて欲しいとお願いした。

「ああ、構わないよ。操縦室から見ていたんだけどあの女の子、鎌田君に何か用事があるみたいだね? うんうん、早く行ってあげなさい」

「ありがとうございます!!」

 俺は松本さんにお礼を言うと急いでカナちゃんの所へと向かう。

 そして俺は彼女の前まで行き、少し緊張した感じでカナちゃんに話しかける。

「か、カナちゃんだよね?」

「う、うん……加奈子だよ。りょう君……本当にりょう君なの?」

「ああ、本当にりょうだよ。あの日、お互いのぬいぐるみを交換したりょう、鎌田亮二だよ」

 俺がそう言うとカナちゃんの大きな瞳から更に涙が溢れ出している。

 俺は鎖を外して搭乗口の外に出る。そしてカナちゃんの手を軽く握ると、

「カナちゃん、さっき俺に何か言おうとしたんだよね? 俺もカナちゃんと色々とお話したいし、今から休憩に入るから二人でハリケーン・エキスプレスの裏にあるベンチに行ってお話しないかい?」と言うとカナちゃんは「うん」と言いながら頷く。

  そして俺は傍にいたカナちゃんのご両親にもその事を伝えると快く了承してくれた。

「それじゃカナちゃん、行こうか?」

 俺がそう言った瞬間、広美の叫び声が聞こえてきた。

「久子!!」

 えっ!?

 俺とカナちゃんは驚きながら互いの顔を見合わせ、そして広美の方を見た。すると広美は泣きながら山田さんの奥さんに抱き着いている。

「え?」

 っていうか今、広美のやつ、山田さんの奥さんのことを『久子』って呼び捨てにしていなかったか? だから奥さんも凄く驚いた顔をしているぞ。

 それに気づいたのか広美は「ひ、久子おばさん!!」と言い直している。

 俺は少しホッとしたけど、とても大事なことも思い出し焦ってしまった。

 何故なら山田さん達は俺に会いに来てくれたのに俺はカナちゃんのことで頭がいっぱいになっていて山田さん達に挨拶をするのをすっかり忘れていたからだ。

 それにカナちゃんの家族と山田さん達が知り合いだったということも更に驚きなので本当はそれについても聞かなければという思いにもなり悩んでしまっていた。

「りょう君、行かないの?」

「そ、そうだね」

 カナちゃんが俺の袖を引っ張って早く行こうという催促をしてきたので俺は山田さん達に「明日、お店で今日のお話しをしましょう」とだけ伝えようとゆっくりと広美達に近づいた。そんな中、奥さんも少し涙ぐみながら広美に話をしている。

「広美ちゃん、久しぶりだね……まさか泣くほど私との再会を喜んでくれるとは思わなかったわ。私が広美ちゃんと会ったのはとても小さい頃だったし、数える程しか会ってなかったし……よくおばさんのことを覚えてくれていたわねぇ……」

「わ、忘れるはずない……ずっと会いたかった……」

「ひ、広美ちゃん……おじさんの事も覚えてくれているのかな?」

 苦笑いをしながら二人の会話に入って行くマスター……しかし……

「覚えてない……」

「えーっ!? 嘘ーっ!! 久子の事はめちゃくちゃ覚えているのにぃ?」

 俺はマスターがあんなに落ち込んでいる姿を見るのは店で奥さんに叱られていた時以来だ。でも女性と男性では違いもあるだろうし仕方ないのではと思っていると広美は涙を拭い笑顔でこう言った。

「ハハハ、冗談ですよ。ちゃんとおじさんの事も覚えていますから……」

「ああ、良かったぁ!! おじさんなんて一度、広美ちゃんのオムツを取り替えたこともあったくらいだからねぇ……」

 そうなのか!? と思わず反応してしまう俺……広美は少し顔を赤くしながら「そんなことを此処で言わないで」と笑顔で言っている。

 すると奥さんが広美に対して不思議な言葉を投げかける。

「それにしても広美ちゃんとの再会って『何年も会えなかった親友と再会した』みたいな感覚だわぁ。なんだか不思議な気持ちだねぇ……まぁ名前も『ひろみ』だから余計にそう感じたのかもしれないわねぇ……」

「わ、私も……です」

 たしか広美の名前の由来って……
 あっ、いかんいかん、今はそんな事を考えてる場合じゃなかったよな。


 結局、広美も松本さんの計らいで休憩させてもらうことになった。まぁ、仕事に集中できそうもない俺達がいると邪魔だろうし、もしお客さんに怪我でもさせてしまったら大変だという事なんだろうなと俺は思い、少し申し訳無い気持ちでカナちゃんの手を引きながら事務所裏のベンチに行くのだった。

 その時、俺は数回しか顔を見ていないのでハッキリとは言えないが、恐らく山田さんの息子さんと思われる翔太君が俺の事を凄い目で睨んでいるような感じがしたが会釈だけして彼の前を通り過ぎた。

 とりあえず1時間くらいはそれぞれ別行動をとる事になったみたいで昼前にハリケーン・エキスプレスの前に集合となり、広美は三田さん夫婦とカナちゃんの妹、そして山田夫婦と一緒に少し離れた屋根のある大きなテーブル付きのベンチへと歩いて行った。

 後でカナちゃんから名前を聞いて知ったけど翔太君の横にいた女の子のお母さんで大塚さんという人は根津さんに会う為に事務所の中へと入っていった。

 結局、ハリケーン・エキスプレスに乗車したのは翔太君と大塚さんの娘でカナちゃんの友人でもある桜ちゃんの二人だけとなったみたいだ。



 そして俺達二人はベンチに座っている。

 カナちゃんは少し緊張しているのかずっと下を向いている。そんなカナちゃんの緊張を解いてあげなくてはと思った俺だけどありきたりな言葉しか出てこない。

「まさかもう一度カナちゃんに会えるとは思っていなかったよ。本当に驚いたなぁ……それに山田さん達とも知り合いだったなんてこれは奇跡としか思えないよねぇ? それに広美が幼稚園の時の先生がカナちゃんのお母さんだってこともメチャクチャ驚いたよ。あっ、広美っていうのはさっき久子さんに泣きながら抱き着いていた子で俺達は幼馴染なんだよ」

 俺、勢いよく喋り過ぎたかな?

「私は思っていたよ……」

「え?」

「私はいつかまたりょう君に会えるとずっと思っていたよ」

「そ、そうなんだ……カナちゃんって凄いね? 思いって通じるんだって事を教えてもらったよ。カナちゃんの強い思いのお陰でまたこうやってあえて嬉しいよ。ありがとね」

「私、凄くなんかないよ……」

「ハハハ、そんな事はないさ。高校生の俺よりもしっかりしているように見えるしさ。ところでカナちゃんって今は何年生なんだい?」

「5年生……」

「へぇ、そうなんだぁ。もう5年生なんだぁ。って事は前に会ったのが5年前だから、あの時はまだ幼稚園生だったんだね?」

「うん……」

 なんだかカナちゃん、元気が無いよなぁ……それとも俺の話がつまらなさ過ぎてカナちゃんの緊張が解けていないのかもしれないな? さっきから全然、笑顔を見せてくれないし……

 うーん、何か面白い話題……話題……さっき俺の事を睨んでいた翔太君の事でも聞こうかな? マスター達の息子さんなのに俺は翔太君のことを全然知らないし……でも翔太君はもう一人の女の子と一緒にハリケーン・エキスプレスに……

 あっ、もしかしてこの三人は三角関係とかなのか? 
 実はカナちゃんは翔太君の事が好きだけど友達に譲ったみたいな……

 ってなると全然、面白い話題じゃないよな!?
 真逆だよ。余計に暗くなってしまう。
 危ない危ない、地雷を踏むところだったぞ。

 俺が勝手な妄想をしているとカナちゃんが話し出す。

「りょう君、一つ質問してもいい?」

「え? ああ、いいよ。何でも聞いてちょうだい」

「あ、あのね……りょう君って……キ……」

 キ?

「キスしたことある……?」

「え……えーっ!?」

 俺の驚く声が二人しかいないベンチの周りに鳴り響く。





――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
遂に奇跡の再会を果たした亮二と加奈子
しかし加奈子の口から思いもよらぬ質問が……
次回は加奈子視点です(何でそんな質問をしたのかが分かります)
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