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第2章 再会編
第12話 奇跡の再会/亮二
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エキサイトランドでバイトを始めてから3週間が経とうとしていた。
俺はいつも早めに出勤して開園するまで事務所でゆっくりしているが、今日は山田さん家族が友人家族と一緒に遊びに来ると言っていたので少し落ち着かないでいた。
そして今日に限って珍しく広美も早く出勤している。
「亮君、今日は日曜だからお客さんたくさん来るといいわね?」
広美はなんだか嬉しそうな顔をしている。
「俺はあまりお客が多いのは……ってか、広美なんだか嬉しそうだな? 何か良い事でもあったのか?」
俺がそう尋ねると、広美の口から驚く言葉が出てきた。
「実は今日ね、幼稚園の頃の先生家族がお友達家族と遊びに来るの。仕事しているところを見られるのは少し恥ずかしいけど、やっぱり来てくれるのは嬉しいなぁって思ってさ……」
「えっ、広美もなのか? 俺も今日、マスター家族が友人家族と一緒に遊びに来るって昨日の夜に連絡があったんだよ。だから全然落ち着かなくてさ……」
「へぇ、それは奇遇だねぇ? って事は今日一日、私達緊張しながらの仕事になるかもしれないわね? フフフ……」
広美が緊張しながら仕事をするってのはあり得ないな。今までたくさんの観客の前で演劇をしてきたんだからな。
「いずれにしても特に今日はマスター達の前で失敗しているところは見せたく無いから慎重にやらないと……」
マスターにエキサイトランドに遊びに行くと聞かされた時はもしかして千夏ねぇも付いて来るんじゃないかとビクビクしたけど、そうじゃないみたいだから少しホッとしたんだけどな。
「チュンチューン!!」
ん? 所長の根津さんがスズメに餌をやっているみたいだな?
相変わらず、見た目とやっている事のギャップが半端ないよな?
ガラッ……ガラガラッ
「おはよう。あれ? 鎌田君はいつも来るのが早いけど広美ちゃんも今日はやけに早い出勤だねぇ?」
「根津さん、おはようございます。そうなんです。今日は知り合いが遊びに来るのでそれを考えていたらだと思いますが早く目が覚めてしまって……」
「ハハハ、なるほど、そういうことか。それでその知り合いは何時くらいに来るんだい? 出来れば休憩時間を合わせてあげるよ」
「ありがとうございます。でも合わせてもらわなくて大丈夫ですよ。それに亮君の知り合いも今日、来るらしいので私だけっていうのは気を遣いますし……亮君もとなると他の先輩達に申し訳ないですし……」
ん? そういう事は俺に気を遣うんだな?
「オッケー、それじゃぁ、いつも通りの体制で仕事をしてもらおうか? で、広美ちゃんの知り合いってどんな人が来るんだい?」
根津さんがそう問いかけると広美の顔がニヤリとする。
「フフフ……今日来る私の知り合いの名前を聞けば根津さん、ビックリしますよぉ」
「え、そうなの?」
「はい、今日来る人はぁ……三田さん家族です!!」
「えーっ!? そうなのかい!? それはビックリだよ。そうかぁ、三田君と佐々木さん、いや真由子ちゃんが来るのかぁ……それは楽しみだねぇ。会うのは五年ぶりくらいになるかなぁ……その後、私は別の遊園地へ移動になったからねぇ……あの時、連れて来ていた娘ちゃんも大きくなっただろうねぇ……」
「私も三田さんご夫婦に会うのは久しぶりなんですよ。それに娘ちゃんも2歳か3歳くらいの時に会った以来ですし……」
それから広美は根津さんに五年の間に下の子も生まれた事や一緒に来る数家族のうちのひとつが大塚という人で、その名前を聞いた根津さんは更に驚いていた。
「へぇ、大塚さんも来てくれるのかぁ。懐かしいなぁ……ちょっとしたプチ同窓会みたいだね? もし広美ちゃんのお父さんまで来ちゃったら凄いことになるだろうねぇ? ……でも大塚さん、子供さんもいて今の苗字が大塚って事は……いや、大人の事情があるだろうからそこらへんは聞かないようにしよう」
しかし、とてもいかつい根津さんが一番ワクワクしている様に見えるけど、なんだか奇妙な感じだな。
「ところで鎌田君の知り合いはどんな人が来るんだい?」
「え? ああ、僕が高1の時からバイトをさせてもらっている焼き鳥屋のマスター家族が来るんですよ。マスター達も友人家族と来るって言ってましたけど」
「ほぉ、焼き鳥かぁ……私は焼き鳥が大好きなんだよ。お店の名前は何ていうだい? 今度、次の日が休みの時にでも行こうかなぁ」
「是非、いらしてください。店の名前は『焼き鳥やまだ』っていいますので。後で住所をお教えしますよ」
「おお、ありがとう。それじゃ後で教えてね?」
「やまだ……?」
突然、広美が首を傾げながらマスターの名前を呟いている。
「どうした、広美? 山田さんがどうかしたのか?」
「いえ、その山田さんって私の知っている人かなぁって思ったんだけど、でも全国に山田っていう人はたくさんいるから、さすがにそんな偶然は無いよねぇ……」
「ハハハ、そりゃそうだよ。山田さん夫婦は7年くらい前に東京からこの青葉市に引っ越して来たらしいし……ん? でも二人共、元々こっち出身だって言っていたような……いやいや、だからって広美が知っている山田さんってことは無いと思うんだけどなぁ」
もしマスター達が広美の知り合いだったらこんな奇跡はないけどな。
広美が鶏肉嫌いじゃなかったら一度くらいうちの店に来て知っている人かどうかハッキリさせることができたかもしれないけど……それに千夏ねぇだって今までそんな事は言っていなかったしな。
千夏ねぇだって広美の知っている山田さんって人を知っているだろうから……
『まもなくエキサイトランド開演です』
「あっ、ヤバい!! 広美、そろそろ時間だぞ。開園の準備をしないと」
「う、うん……そうだね」
「よーし、今日は日曜日でお客さんも多いだろうし、二人の知り合いも来るしみんな張り切って頑張ろう!!」
「 「はい!!」 」
やはり予想通り日曜日ということで朝からお客さんが多かった。俺が働いている雨の日だけ人気のある『ハリケーン・エキスプレス』もさすがに今日はお客さんの入りが凄かった。
隣のお化け屋敷の方まで客の列が伸びている。
「鎌田君、大丈夫かい? 顔色が悪い気がするんだけど。早めに休憩に行ってくれても構わないよ」
俺の顔色を見て心配して声をかけてくれたのは『ハリケーン・エキスプレス』の責任者を5年前に根津さんから引き継いだ松本さんだった。
「大丈夫です。顔色が悪いのは疲れているんじゃなくて、もうすぐ知り合いが来ると思ったら少し緊張してきたからだと思いますので」
「ハハハ、そういう事かい。オッケー、それじゃぁ本当に疲れたら遠慮せずに言ってくれよぉ?」
「はい、ありがとうございます!!」
いつも思うけど本当に俺って良い人に恵まれているよなぁ……
これが人徳っていうやつなのか?
イヤイヤイヤッ、俺に人徳だなんて……そんなのがあればとっくに広美と……
それに調子に乗った途端にいつも失敗をしてしまうのが俺なんだ。ここは慎重にしないとな。
俺は気を引き締め直して操縦室前に立ち、前方に回転中の乗り物の安全確認をしていた。すると俺から少し離れた搭乗口付近が騒がしくなっている。
ん? 何かあったのかな?
「広美ちゃん-ん、久しぶり~!! しばらく見ないうちにすっかり大人の顔になっちゃって~!! ほんとお母さんにソックリだわ!!」
搭乗口付近が賑やかになったのは広美の知り合いの人達が来たからみたいだ。
「ありがとうございます。マーコ先生も相変わらずお綺麗ですよ。あれ? この可愛らしいお嬢さんはもしかしてカナちゃんですか?」
「フフフ……そうよ、広美ちゃんがよくあやしてくれていた、あの加奈子よ」
「やっぱりそうなんだぁ。ん? でもカナちゃんの顔……うーん、どこかで会った事があるような……どこだったかなぁ……?」
しかし広美のやつ、仕事を忘れて喋り過ぎじゃないのか?
他のお客さんに迷惑をかけてしまうじゃないか。よし、俺が広美に注意を……
あれ!?
広美の知り合い家族の後ろに並んでいるのはマスター達じゃないか!?
いや、絶対にそうだ。もしかして広美の知っている山田さんと同一人物ってことなのか!? そんな奇跡ってあるものなのか?
それに……さっきから広美が話かけている女の子が広美の方を見ずにずっと俺の方を見ている様な気が……
イヤイヤイヤッ、さすがに自意識過剰だろ?
さっき調子に乗らないって思ったところだし……でも、やはり俺を見ている様な……
えっ!?
あの子、泣いていないか!?
もしかして広美のやつ、あの子になんか失礼な事を言ったんじゃないだろうな!?
でも待てよ。あの子の顔に似た子をどこかで見た事があるような……
ん? あの子、俺に向かって何か言おうとしているぞ。
「りょ、りょう君……」
えっ!?
も、もしかして……
「か、カナちゃん……なのか……?」
――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
遂に奇跡の再会か!?
俺はいつも早めに出勤して開園するまで事務所でゆっくりしているが、今日は山田さん家族が友人家族と一緒に遊びに来ると言っていたので少し落ち着かないでいた。
そして今日に限って珍しく広美も早く出勤している。
「亮君、今日は日曜だからお客さんたくさん来るといいわね?」
広美はなんだか嬉しそうな顔をしている。
「俺はあまりお客が多いのは……ってか、広美なんだか嬉しそうだな? 何か良い事でもあったのか?」
俺がそう尋ねると、広美の口から驚く言葉が出てきた。
「実は今日ね、幼稚園の頃の先生家族がお友達家族と遊びに来るの。仕事しているところを見られるのは少し恥ずかしいけど、やっぱり来てくれるのは嬉しいなぁって思ってさ……」
「えっ、広美もなのか? 俺も今日、マスター家族が友人家族と一緒に遊びに来るって昨日の夜に連絡があったんだよ。だから全然落ち着かなくてさ……」
「へぇ、それは奇遇だねぇ? って事は今日一日、私達緊張しながらの仕事になるかもしれないわね? フフフ……」
広美が緊張しながら仕事をするってのはあり得ないな。今までたくさんの観客の前で演劇をしてきたんだからな。
「いずれにしても特に今日はマスター達の前で失敗しているところは見せたく無いから慎重にやらないと……」
マスターにエキサイトランドに遊びに行くと聞かされた時はもしかして千夏ねぇも付いて来るんじゃないかとビクビクしたけど、そうじゃないみたいだから少しホッとしたんだけどな。
「チュンチューン!!」
ん? 所長の根津さんがスズメに餌をやっているみたいだな?
相変わらず、見た目とやっている事のギャップが半端ないよな?
ガラッ……ガラガラッ
「おはよう。あれ? 鎌田君はいつも来るのが早いけど広美ちゃんも今日はやけに早い出勤だねぇ?」
「根津さん、おはようございます。そうなんです。今日は知り合いが遊びに来るのでそれを考えていたらだと思いますが早く目が覚めてしまって……」
「ハハハ、なるほど、そういうことか。それでその知り合いは何時くらいに来るんだい? 出来れば休憩時間を合わせてあげるよ」
「ありがとうございます。でも合わせてもらわなくて大丈夫ですよ。それに亮君の知り合いも今日、来るらしいので私だけっていうのは気を遣いますし……亮君もとなると他の先輩達に申し訳ないですし……」
ん? そういう事は俺に気を遣うんだな?
「オッケー、それじゃぁ、いつも通りの体制で仕事をしてもらおうか? で、広美ちゃんの知り合いってどんな人が来るんだい?」
根津さんがそう問いかけると広美の顔がニヤリとする。
「フフフ……今日来る私の知り合いの名前を聞けば根津さん、ビックリしますよぉ」
「え、そうなの?」
「はい、今日来る人はぁ……三田さん家族です!!」
「えーっ!? そうなのかい!? それはビックリだよ。そうかぁ、三田君と佐々木さん、いや真由子ちゃんが来るのかぁ……それは楽しみだねぇ。会うのは五年ぶりくらいになるかなぁ……その後、私は別の遊園地へ移動になったからねぇ……あの時、連れて来ていた娘ちゃんも大きくなっただろうねぇ……」
「私も三田さんご夫婦に会うのは久しぶりなんですよ。それに娘ちゃんも2歳か3歳くらいの時に会った以来ですし……」
それから広美は根津さんに五年の間に下の子も生まれた事や一緒に来る数家族のうちのひとつが大塚という人で、その名前を聞いた根津さんは更に驚いていた。
「へぇ、大塚さんも来てくれるのかぁ。懐かしいなぁ……ちょっとしたプチ同窓会みたいだね? もし広美ちゃんのお父さんまで来ちゃったら凄いことになるだろうねぇ? ……でも大塚さん、子供さんもいて今の苗字が大塚って事は……いや、大人の事情があるだろうからそこらへんは聞かないようにしよう」
しかし、とてもいかつい根津さんが一番ワクワクしている様に見えるけど、なんだか奇妙な感じだな。
「ところで鎌田君の知り合いはどんな人が来るんだい?」
「え? ああ、僕が高1の時からバイトをさせてもらっている焼き鳥屋のマスター家族が来るんですよ。マスター達も友人家族と来るって言ってましたけど」
「ほぉ、焼き鳥かぁ……私は焼き鳥が大好きなんだよ。お店の名前は何ていうだい? 今度、次の日が休みの時にでも行こうかなぁ」
「是非、いらしてください。店の名前は『焼き鳥やまだ』っていいますので。後で住所をお教えしますよ」
「おお、ありがとう。それじゃ後で教えてね?」
「やまだ……?」
突然、広美が首を傾げながらマスターの名前を呟いている。
「どうした、広美? 山田さんがどうかしたのか?」
「いえ、その山田さんって私の知っている人かなぁって思ったんだけど、でも全国に山田っていう人はたくさんいるから、さすがにそんな偶然は無いよねぇ……」
「ハハハ、そりゃそうだよ。山田さん夫婦は7年くらい前に東京からこの青葉市に引っ越して来たらしいし……ん? でも二人共、元々こっち出身だって言っていたような……いやいや、だからって広美が知っている山田さんってことは無いと思うんだけどなぁ」
もしマスター達が広美の知り合いだったらこんな奇跡はないけどな。
広美が鶏肉嫌いじゃなかったら一度くらいうちの店に来て知っている人かどうかハッキリさせることができたかもしれないけど……それに千夏ねぇだって今までそんな事は言っていなかったしな。
千夏ねぇだって広美の知っている山田さんって人を知っているだろうから……
『まもなくエキサイトランド開演です』
「あっ、ヤバい!! 広美、そろそろ時間だぞ。開園の準備をしないと」
「う、うん……そうだね」
「よーし、今日は日曜日でお客さんも多いだろうし、二人の知り合いも来るしみんな張り切って頑張ろう!!」
「 「はい!!」 」
やはり予想通り日曜日ということで朝からお客さんが多かった。俺が働いている雨の日だけ人気のある『ハリケーン・エキスプレス』もさすがに今日はお客さんの入りが凄かった。
隣のお化け屋敷の方まで客の列が伸びている。
「鎌田君、大丈夫かい? 顔色が悪い気がするんだけど。早めに休憩に行ってくれても構わないよ」
俺の顔色を見て心配して声をかけてくれたのは『ハリケーン・エキスプレス』の責任者を5年前に根津さんから引き継いだ松本さんだった。
「大丈夫です。顔色が悪いのは疲れているんじゃなくて、もうすぐ知り合いが来ると思ったら少し緊張してきたからだと思いますので」
「ハハハ、そういう事かい。オッケー、それじゃぁ本当に疲れたら遠慮せずに言ってくれよぉ?」
「はい、ありがとうございます!!」
いつも思うけど本当に俺って良い人に恵まれているよなぁ……
これが人徳っていうやつなのか?
イヤイヤイヤッ、俺に人徳だなんて……そんなのがあればとっくに広美と……
それに調子に乗った途端にいつも失敗をしてしまうのが俺なんだ。ここは慎重にしないとな。
俺は気を引き締め直して操縦室前に立ち、前方に回転中の乗り物の安全確認をしていた。すると俺から少し離れた搭乗口付近が騒がしくなっている。
ん? 何かあったのかな?
「広美ちゃん-ん、久しぶり~!! しばらく見ないうちにすっかり大人の顔になっちゃって~!! ほんとお母さんにソックリだわ!!」
搭乗口付近が賑やかになったのは広美の知り合いの人達が来たからみたいだ。
「ありがとうございます。マーコ先生も相変わらずお綺麗ですよ。あれ? この可愛らしいお嬢さんはもしかしてカナちゃんですか?」
「フフフ……そうよ、広美ちゃんがよくあやしてくれていた、あの加奈子よ」
「やっぱりそうなんだぁ。ん? でもカナちゃんの顔……うーん、どこかで会った事があるような……どこだったかなぁ……?」
しかし広美のやつ、仕事を忘れて喋り過ぎじゃないのか?
他のお客さんに迷惑をかけてしまうじゃないか。よし、俺が広美に注意を……
あれ!?
広美の知り合い家族の後ろに並んでいるのはマスター達じゃないか!?
いや、絶対にそうだ。もしかして広美の知っている山田さんと同一人物ってことなのか!? そんな奇跡ってあるものなのか?
それに……さっきから広美が話かけている女の子が広美の方を見ずにずっと俺の方を見ている様な気が……
イヤイヤイヤッ、さすがに自意識過剰だろ?
さっき調子に乗らないって思ったところだし……でも、やはり俺を見ている様な……
えっ!?
あの子、泣いていないか!?
もしかして広美のやつ、あの子になんか失礼な事を言ったんじゃないだろうな!?
でも待てよ。あの子の顔に似た子をどこかで見た事があるような……
ん? あの子、俺に向かって何か言おうとしているぞ。
「りょ、りょう君……」
えっ!?
も、もしかして……
「か、カナちゃん……なのか……?」
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お読みいただきありがとうございました。
遂に奇跡の再会か!?
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