あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

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第1章 片思い編

第8話 苛立ちと条件/加奈子

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 助けて、りょう君……

 でもりょう君が助けてくれるはずないんだし、自分で何とかしないと……

 私は顔を激しく横に振り、ようやく翔太の唇から逃れると同時に右手の拳を強く握りしめ大きく上げる。そして……

「離せ、翔太!!」

 バコンッ

「イテッ!!」

 私は翔太のこめかみを思いっ切りぶん殴ってしまった。そして翔太は痛さのあまり部屋の中を転げまわっている。

 ハァハァハァ……

 私は息づかいが荒くなりながらも痛みで唸っている翔太に大声で怒鳴った。

「な、何で私が翔太にキスをされなくちゃいけないのよ!? 何で初めてのキスがよりによって翔太なのよ!?」

 翔太は半泣き状態でこめかみを抑えながらゆっくりと起き上がり、そして正座をする。

「ご、ゴメン……加奈子に証拠を見せろと言われた途端に突然身体が動いてしまって……本当にゴメン……抱きしめるだけにしようと思っていたのに加奈子の顔を間近で見てしまったら思わず……ただ俺は好きな子とキスができて嬉しいというか……」

 はぁぁあ? 何を言ってるの、こいつは!?

「無理矢理キスをして何が嬉しいのよ!? 私は全然嬉しく無いわよ!! よりによって一番嫌いな翔太なんかに!!」

 小さい頃から初めてのキスはりょう君って決めていたのに……ウッ……

 私はショックと悔しさで涙が出てきた。

「……加奈子が俺を嫌いなのは昔からずっとお前に意地悪をしていたからだろ?」

「そうよ!! 他に何の理由があるの!? ってか翔太は私に意地悪をしている自覚はあったってことよね!?」

 よく聞く話だけど男子は好きな子に対してつい意地悪をしてしまうって言うけど、翔太に関してはそんな感じには思えなかった。逆に私に何か恨みでもあるのって思ってしまう程の意地悪の数々……

 いきなりキスをされたのだって本当は意地悪の一つじゃないの!? って思ってしまうくらいだ。

「意地悪は意地悪だけど……それは……」

「好きな子に対してするような意地悪じゃ無かったじゃない!!」

「そ、それは……ゴメン……でも俺は悔しかったんだ……」

「何が悔しいっていうのよ!? 今の私の方が悔しいわよ!!」

 私はどんどん翔太に対して怒りが込み上げる。

「加奈子はさ、昔から会えるはずも無い奴のことばかりを嬉しそうな顔をして俺に話していたじゃないか。「りょう君、りょう君」って……俺はその名前を聞くたびにイライラしてたんだ……何で加奈子はいつも近くにいる俺の事を見てくれないで会えるはずもない奴の事ばかり思っているんだって……だからドンドン腹が立ってきて……そして気付いたら加奈子に意地悪ばかりしてしまっていたんだよ……」

 私は翔太が意地悪をしていた理由を聞かされて少しの驚きと多少の理解はしたけど、でも納得はできなかった。だってそうじゃない。私がりょう君を勝手に想うのは自由なんだから。いくら会える可能性が低くても翔太には関係無いわ……だから私は翔太に厳しい言葉を言ってしまう。

「翔太とは絶交よ!! 金輪際、アンタとは会わないし、一生、口も利かないから!!」

「えっ!? そ、それは勘弁してくれ!! それに親同士が仲良しなんだから会わないってのは無理があるだろ!?」

「無理じゃない!! お父さんやお母さんがおじさん達に会う時があっても私が付いて行かなければいいだけなんだから」

「で、でも……」

 翔太はいつになく困惑した表情をしている。でも実は私もこんなことを言いながら心の中では困惑していた。ああ言ったものの、私が付いて行かないとなればお父さんやお母さんが理由を聞いてくるだろうし、最初は誤魔化せてもさすがにずっと誤魔化せれるとも思えないし……

「ほんとにゴメン!! 今のキスは加奈子の中でカウントしなくてもいいから。キスの事は忘れてくれていいから、お願いだから絶交だけはしないでくれよ!?」

 何がカウントしなくていいよ!?
 何が忘れていいよ!?
 都合の良いことばかり言わないでよ!!

 こんな衝撃的な事、忘れられるはずないし、いくら嫌いな子とキスをしたといってもキスはキスだし嫌でもカウントされちゃうわよ。

 ほんと、腹が立つ……いくら謝られても怒りは収まらない。
 何か翔太が嫌がることを……せめて困らせることができるようなことは無いかしら?

 うーん……

 あっ、そうだわ。良い事を思い付いた……
 でも、だからといって今のショックが消える訳では無いけど……

「翔太、本当に悪いと思ってる? 本当に反省している?」

「う、うん、反省してるよ……だから……」

「翔太を許す気にはなれないけど、絶交だけは取りやめる方法が一つだけあるわ」

 私がそう言うと落ち込んだ表情をしていた翔太の顔に少しだけ生気が戻ってきた。

「え!? ど、どんな方法なんだ!? 絶交されないなら何でもするよ!!」

「へぇ……今、何でもするって言ったわね?」

「あ、ああ……」

 生気が戻ってきた翔太の表情が再び消え、今度は不安な表情へと変化した。

「明日、予定通り桜ちゃんを連れて来るから翔太は桜ちゃんとお友達になりなさい。そして何回かデートに行きなさい!! それをするなら絶交だけは止めてあげるわ」

「えっ!?」

 翔太は数十秒くらい考え込んだ後、こう言った。

「わ、分かった。その大塚桜って子と友達になるよ」

「デートもするのよ!?」

「分かってるって。どこに行けば良いのか悩むけどデートも行くから……だから絶交だけは……」

「最終的には桜ちゃんと付き合って幸せにするのよ!?」

「えーっ!? 絶交を取りやめる方法が増えてるじゃないか!! それに俺達はまだ小学生なんだし、付き合うってのは早過ぎるというか……好きでもない子と付き合うなんて……」

 その早過ぎるはずの小学生がさっき私に無理矢理キスをしたクセに何を言っているのこいつはと腹が立ったけど、

「ふーん、嫌ならいいのよ。絶交するだけだし……」

「分かったよ。付き合うよ。でも俺が大塚さんにフラれる可能性だってあるだろ?」

 それは絶対にない!! でも万が一ってこともあるかなぁ……?

「そ、その時はその時よ。とりあえず明日、桜ちゃんを連れて来るから優しくしてあげてちょうだい」

「わ、分かったよ……優しくするよ……」

 私は翔太との取引が成立し少しホッとしたと同時に弱みに付け込んで翔太に脅迫みたいなことをしてしまった自分が嫌になった。

 無理矢理、好きでもない桜ちゃんと付き合えって脅してしまったのだから……きっと、りょう君が知ればこんな私を好きにはなってくれないだろうなぁ……


 翔太との話が終わり私は家に帰ると直ぐに自分の部屋に置いているぬいぐるみの『りょう君』を抱きしめながら何度も何度もキスをした。

 何とかして翔太の唇の感触をりょう君の感触に変えようと必死に消そうとした。

「ううっ……」

 私の瞳から大粒の涙が溢れ出す。

 きっと今日のショックは一生消える事は無いと思えば思う程、涙がドンドン流れていった。

 コンコン……

「加奈ちゃん、夕飯食べないと冷めちゃうわよ。帰って直ぐに自分の部屋に入るなんて珍しいわね? どうしたの? 何かあったの?」

 お母さんが心配して部屋越しから声をかけている。

「な、何でもないよ。悪いけど先お風呂に入ってもいい? 夕飯は後でチンして欲しいんだけど構わないかな?」

「オッケー、分かったわ。それじゃ早くお風呂に入ってね? もうすぐお父さんも帰って来る頃7だから」

「うん、分かった……」

「お姉ちゃんがお風呂に入るなら私も入る~」

「ダメ、きっとお姉ちゃんは一人でお風呂に入りたいと思うから」

「えーっ、私もお姉ちゃんと一緒にお風呂に入りたいよぉ」

 部屋の外で妹の静香とお母さんの会話が聞こえてくる。でもさすがはお母さん……私の気持ちを察してくれているようだ。

 ようやく涙がおさまったので部屋を出ようとドアを開けると、

 ガチャッ

「え?」

 部屋のドアを開けるとお母さんが笑顔で立っていた。

「ど、どうしたの、お母さん!?」

「加奈ちゃん、落ち着いてからでいいから、またお母さんにお話を聞かせてね? お母さんはいつでも加奈ちゃんの味方なんだからね?」

 グスン……

「う、うん……ありがとう、お母さん……」

 私はそう言うとまたしても涙が出そうなのをこらえながらお風呂場へ急いで行った。


 ザバーンッ
 
 ・・・・・・

 ブハッ

 私は湯船の中に入って直ぐに体全体で潜り、そして数十秒経ってから顔を出す。

「ハァハァハァ……」

 お風呂に入ったからといって直ぐに嫌な事が消えるわけではないけど、少しだけ気持ちが落ち着いたと同時に私の事を常にちゃんと見てくれているお母さんに感謝した。

 ほんとに気持ちが落ち着いたらお母さんに今日の事を思い切って話してみようかな……

 翔太に無理矢理キスをされたって言ったらどんな反応するのかな?
 山田さんちに怒鳴り込みに行ったらどうしよう?

 それと私が翔太に出した条件を聞いたら……
 逆に私が怒られてしまうかもしれないなぁ……






――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
第1章終了しました。次回から第2章になります。
どうぞ新章も宜しくお願い致します。
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