あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

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第1章 片思い編

第7話 理想のキスじゃない/加奈子

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 私が住む街は青葉市の西側にある『青葉西町』といって大きなビルがたくさんあり有名な会社も多い街だ。
 
 前にお父さんから聞いたことがあるけど、この地域は昔、田んぼと畑ばかりで都会の中に田舎があるような地域だったらしいけど何十年も前に土地開発があり、いつのまにか青葉市の中でも一番発展した街になったみたい。

 そんな街に住んでいる私が通っている小学校は『青葉第二小学校』といい、青葉市で2番目に古い小学校だ。

 そして私のクラスは5年3組……

「ねぇ、加奈ちゃん? 6年生の山田翔太やまだしょうたさんって家が近所で幼馴染なんでしょ?」

「え? まぁそうだけど、それがどうかしたの?」

 同じクラスの大塚桜おおつかさくらちゃんが一つ年上で幼馴染の山田翔太の事を聞いてきた。

「こ、こないだね、私が学校の階段で足を踏み外して落ちそうになったところを山田さんが助けてくれたの……」

「へぇ、そうなんだぁ……翔太も良いところがあるんだね?」

 山田翔太……翔太は私と幼馴染だけど、昔から私に意地悪ばかりするからどちらかと言えば嫌いなタイプだ。家が近くて翔太の両親とうちのお母さんが同い年という事もあって仲良くなり、家族ぐるみの付き合いをしていたので仕方なく幼馴染を名乗ってはいるけど、私からすればただの幼馴染……でも桜ちゃんはとても羨ましそうな顔で私を見ている。

 もしかして桜ちゃん、翔太の事が好きになったのかな……

「はぁ……それで翔太に直接お礼が言いたいから私に紹介しろってことだねぇ?」

「うわぁああ、さすが加奈ちゃん、話が早いわぁ!! そうなの。本当に助けてくれたお陰で怪我をしなくて済んだしさ、あの時は気が動転していたからちゃんと山田さんにお礼を言えなかったし……それに凄くカッコイイし……」

 カッコイイって本音をそのまま言ってるよ、この子は……

 まぁ翔太は顔は悪く無いというか、イケメンの方だと私も思うけど、性格が最悪だからなぁ……もし桜ちゃんに意地悪をしたらと思うと喜んで紹介する気になれないなぁ……

「うーん…………」

「加奈ちゃん、お願い!!」

 可愛らしい顔でお願いされたら嫌だと言えないし……
 よしっ、もし私の大切なお友達に何か意地悪をしたら翔太をぶん殴ってやろう。

「わ、分かったわ。今日、帰ってから翔太に話してみるわね?」

「うわぁぁ、ありがとう、加奈ちゃん!!」

 はぁ……ちょっとだけ気が重いなぁ……


 ピンポーン

「はーい、誰だよ? 面倒くさいなぁ……」

 ガチャッ

「か、加奈子じゃないか!? い、一体どうしたんだ!?」

 そんなに驚くことないじゃない……

「あれ? おじさんとおばさんは? もしかしてもうお仕事に行ったの?」

「ああ、いつも3時には仕事に行ってるよ。仕込みがあるからな」

 翔太の両親は近くで焼き鳥屋をやっている。地元では結構、有名な焼き鳥屋さんだ。私も小さい頃、何度か食べた事があるけど凄く美味しかった。特に『つくね』が私のお気に入りだ。

 この3年くらい食べてないから久しぶりに食べたいなぁ……って思っている場合じゃないわ。

「今日は翔太に用事があって来たの」

「えっ!? お、俺に用事だって!? そ、それじゃぁ、ここじゃなんだし、家に上がれよ?」

「うん、お邪魔します……」


 私は久しぶりに翔太の部屋に入る。彼の部屋は私の倍くらいの広さがあって昔はとても羨ましいと思っていたけど彼は一人っ子で親はいつも家にいないし私だったらこんな広い部屋に一人でいるのは寂しいだろうなと最近思うようになった。

「それで、俺に用事ってなんだよ?」

「翔太さ、こないだ私のお友達の大塚桜ちゃんが階段から落ちそうになったところを助けてくれたんだよね?」

「え? ああ、あの子の名前、大塚桜っていうのか? まぁ、助けたけどさぁ……あっ、それでその子の代わりにお礼を言いに来たのか? お礼なんて別にいいのに……」

「違う違う、でもまぁ、お友達を助けてくれたんだからお礼は言わないとダメだね? ありがとね、翔太」

「う、うん……」

 私がお礼を言うと珍しく翔太は頬を赤くしながら照れている。翔太もこういう表情の時は可愛いんだけどなぁ……って、私の方が年下なのに今の感想はおかしいかな?

「そ、それで俺に用事っていうのは何なんだ?」

「あ、そうそう……その桜ちゃんがね、どうしても翔太に直接、お礼が言いたいから私に翔太を紹介して欲しいって頼まれたのよ。だから明日は土曜で学校休みだし、桜ちゃんを家に連れて来てもいいかな?」

「えーっ!? べ、別にわざわざお礼を言う為にうちに来なくてもいいよ」

「別に良いじゃない? 桜ちゃんは翔太の事を凄く気に入っているみたいだよ。カッコイイなんて言ってたしさ。私の勘だと桜ちゃんは翔太の事を好きになったんだと思うわ。このこのぉ、色男めぇ」

 いつも翔太には意地悪ばかりされるから今日はお返しよ。どうだ、恥ずかしいでしょ? それともモテ慣れているとか? それはそれで腹が立つわ。

「フンッ、人の気も知らないで……」

 あれ? 翔太の反応が想像と違う。
 凄く照れ臭そうにすると思っていたのに何だか不機嫌になった様な……

「何よ、翔太? もっと照れくさそうにしなさいよ。それに桜ちゃんに好かれて嬉しく無いの? 桜ちゃんは5年生の男子の中で結構人気のある子なのにさ」

「別に嬉しくない……」

「えーっ!? な、何でよ!? 翔太って女の子を見る目が無いの!?」

 私が少し強い口調でそう言うと翔太は顔を横に向け黙ってしまったので私は更に言い続けた。

「もしかして年下の女の子だから嫌なの?」

「多少あるけど、そういう事で嬉しく無いんじゃない」

「じゃぁ、何で嬉しく無いの?」

 翔太は何か言おうとしたけど、またしても黙り込んでしまう。

 何なのよ、翔太は? こんな態度をとるような男子に大切な友人の桜ちゃんを紹介するのは止めておこうかなと思っている私の両肩を突然、翔太が掴んできた。

「えっ、何よ!?」

 私の両肩を掴んでいる翔太の手は力強い。
 それに翔太の顔は凄く赤くなっている。
 一体、どうしたっていうのよ??

「お、俺は……好きな子から好きだと言われたいんだ。だから他の女子に好かれたって全然、嬉しくなんか無いんだよ!!」

 私は翔太の言葉を聞いて反省した。そうだよね。翔太だって同級生に好きな子の一人や二人くらいてもおかしくないもんね? 

 それなのに突然、年下の子に好かれていると聞かされて……それも私なんかに意地悪っぽく言われたんだから……翔太も腹が立つよね……

「ご、ごめん……私、翔太の気持ちを全然考えていなかったわ」

 それと、そろそろ私の両肩を掴んでいる手を離してくれないと痛いんだけどと思っていると翔太が突然、真剣な顔をして信じられない事を言った。

「お、俺は加奈子に好かれたいんだ!!」

「へっ?」

「だ、だから俺は加奈子の事が小さい頃から好きだって言ってるんだよ!!」

 翔太はそう言うと更に顔を真っ赤にしながら私の肩を掴んでいた手を離すと私に背を向けてしまった。

 イヤイヤイヤッ、ちょっと待ってよ!?

 冗談でしょ!? 何で翔太が私の事を好きなのよ!?
 そんな事あるはず無いじゃない。

 いつも顔を合わす度に私に意地悪なことばかり言ってくる翔太なのに……
 そんな翔太に小さい頃から好きだったなんて言われても信じられるわけが無いじゃない。

 ははぁん、これはきっとドッキリだわ。
 私の驚いた様子を後でバカにする気なんだわ。うん、きっとそうよ!!

「翔太、6年生のくせして、私が桜ちゃんの為に大事な話をしに来たのに、何、冗談を言っているのよ!? さすがの私も怒るわよ!!」

 私がそう言うと背中を向けていた翔太が急に振り返った。顔は私以上に怒った表情をしている。そして翔太は大きな声でこう言った。

「冗談じゃないよ!! 俺は本当の事を言ったんだ!!」

「バ、バカな事を!! 冗談じゃないって言うのなら証拠を見せなさいよ!?」

 『証拠を見せなさいよ』と言ってしまった事を後で私が凄く後悔してしまう行動を翔太はとってきた。

 ガバッ

 翔太は再び私の両肩を掴み、そして顔を私の顔に勢いよく近づけ、私が顔を背ける間もなく自分の唇を私の唇に重ねてきたのだ。

 えっ、嘘!? これってキス!?
 翔太が初キッスの相手だなんて……

 そして、そのままの勢いで翔太が私に被さる形で二人とも倒れてしまった。

 翔太は自分の唇を私の唇から離そうとしない。

 ヤダ、ヤダ、ヤダ……こんなの絶対に嫌だ!!

 お願い離れて、翔太!!

 誰か助けて……

 助けて……

 りょう君……






――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
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