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第5章 謎めいた合宿編

第52話 舞奈の寝顔を見ていたら

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 【六月某日、金曜日 『謎めいた合宿』1日目の朝】


「さあ皆、早くバスに乗ってちょうだい!! 出発まであまり時間無いわよーっ!!」

 ほ~お!!
 凄い豪華なバスだぞ。トイレもついてるし……さすが私立高校って感じだな!!

 それにバスの座席から同じ班一緒に座るってのは有難い話だぞ。
 俺とモブオ、そして舞奈と和久塁わくるい……完璧じゃないか!!

「まっ、舞奈……今日はよ、よ、よろしくね?」

「こ、こ、こちらこそよろしく。せ、せ、聖香……」

 うわ~あの二人、お互いにめちゃくちゃ緊張してるじゃないか!!
 座席が隣通しだから2人仲良くなる早道だと思って喜んだけど大丈夫かよ!?

 これから数時間も2人で会話が出来るのだろうか? っていうか、舞奈が数時間もこの状況に耐えれるのか心配になってきたぞ。
 


「ところでモブオぉ~俺達は今からどの県にある合宿所に向かうんだ?」

「さあな。情報屋の俺でもさすがに知らないよ。先輩達が言うには毎年行く合宿所も違うらしくて、到着するまで分からないらしいぜ」

「そうなのか!? まさに謎めいているっていうか、バスツアーでよくある『ミステリーツアー』みたいだな!?」

 おっ? 和久塁が舞奈に話しかけようとしているぞ。

「ま、舞奈……お、菓子食べない?」

「あ、ありがとう聖香……い、いただくわ……」

 ぎこちないけど、2人共それなりに頑張ってるようだな。頑張っている二人を見ていたら微笑ましく感じるぜ。っていうか俺って保護者感覚になっていないか?

――――――――――――――――――――――――
【出発から2時間後】

「皆起きてるかなぁ? 学園長から合宿1日目についての詳細メールが届いたので今から説明するわねぇ」

 マジで担任も合宿の内容については事前に教えてもらっていないんだな?

「合宿所に到着したら、まずは全員、合宿所前広場に集まって所長さんやスタッフさん達との『対面式』が行われるから。その後に皆、合宿所玄関ホールに貼り出されている部屋割り表を確認してからそれぞれの部屋に行って荷物を置いて来てちょうだい。そして直ぐに体操服に着替えるようにね?」

 体操服に着替えるのか? まぁ、その方が動きやすいし合宿らしいよな。

「そして着替え終わったら合宿所から出て隣にある集会所へ11時に集合してちょうだい。そこで所長さんの挨拶及び注意事項等の説明を聞きます。それから班ごとに分かれて昼食を作ってもらうのだけど、昼食に関しての説明は所長さんがされるそうだから今は何も言えません。ただ昼食を作る際は火の取り扱いには十分気を付ける様にとだけは言っておくわねぇ」

 まぁ時間も時間だけにまずは班ごとで昼食作り……ここまでの話は普通の合宿のように思えるけども……

 それと班毎で昼食を作るとなると、舞奈と和久塁がもっと親しくなれるチャンスだな。俺としては今のところ順調に来ているし、何も謎めいた合宿には思えないんだが……

「モブオ、ところでさ、昼食は何を作るんだろうな? 定番のカレーライスか何かかな?」

「さあな。これも謎めいた合宿らしくギリギリまで謎なんじゃね」

「ふ~ん……しかしうちの学園って変なところが多いよな? まず部活名からして変だしさ。でもまぁ、そんな学園を選んだのは自分だから文句は言えないけどさ……」

「まぁ、そういう事だな」



「あっ、追加メールが届いたわ。ええ、なになに? ふむふむ。えっと昼食前後に『軽い運動』をやってもらうって書いてあるわね。ということは食前はともかくとして、あまりお昼ご飯を食べ過ぎちゃうと食後の運動は大変かもしれないから皆気を付けてねぇ?」

 『軽い運動』ねぇ……その言葉を素直に鵜呑《うの》みにして良いのだろうか?
 この合宿は『名染伊太学園なぞめいたがくえん』主催の『謎めいた合宿』だからな。

 それに昼食のメニューだってまだ分からないんだ。普通はカレーライスだろうけど、謎めいた合宿だからなぁ……逆に焼き肉とかなら嬉しいんだけどな。



 そしてバスが出発してから3時間後……

「そろそろ合宿所に到着するわよ~っ!! 寝ている人がいたら起こしてあげてねぇ?」

「うわあぁ~疲れた~!! 俺達3時間くらいバスに乗っていたよな~っ!?」

「ほんと、疲れたよなぁ……」

 でもモブオは最後の1時間くらいは爆睡してたんだしまだマシだろ?
 俺なんか寝たくても色々と考えていたら目が冴えちまって全然眠れなかったぞ……

 ところであの二人はどうだったんだ!?
 少しは友達らしい会話ができたのか……ってか舞奈も爆睡かよ!?

 そしてその寝顔を和久塁はずっとニヤニヤしながら眺めていたのか?

「おい和久塁、舞奈を早く起こしてくれないか?」

「え? ご、ごめんなさい……舞奈の寝顔を見ていたら、私とても癒されちゃって……それに私が起こしてしまって舞奈に嫌われでもしちゃったら……」

 舞奈の寝顔を見て癒されるだと?
 聖香ってもしかしたら実はヤバイ奴って事は無いだろうな!?
 ってかそんな事を思っている場合じゃ無いよな。仕方が無い、俺が起こすか。

 俺は和久塁と席を代わり舞奈を起こす事にしたけど……舞奈の奴、腹が立つくらいに可愛らしい寝顔をしてやがる……こいつマジで美人だし色気があるんだよなぁ……

「布津野君、舞奈を起こすんじゃなかったの?」

「え? い、いや、今から起こすんだよ。舞奈が気分よく目を覚ます為にはタイミングってのがあってさ……和久塁も分かるだろ? こいつは基本的にワガママだからさ」

 聖香が癒される気持ちも分からないではないよな。こんな気持ち良さそうな寝顔を見せられたら俺だっていつまでも見てしまいそうだ。

 起きている時の舞奈はほとんど俺に文句ばかり言っているからな。静かな舞奈もなかなか良いもんだなぁ……耳元で優しく「舞奈、起きるんだ。そろそろ時間だよ」ってささやきたくなる衝動にかられてしまうぜ……まぁ絶対に俺には似合わないセリフだけどな!!

「おいっ舞奈、もうすぐ合宿所に着くみたいだから起きるんだ!!」

「うっう~ん……ムニャムニャ……私もうこれ以上食べれないよぉ~ムニャムニャ……」

「何を寝ぼけているんだ!? もうすぐ着くから早く……」

 キキキーーーッ!!

「うあわーっ!?」
「 「 「キャーッ!!」 」 」

 イテテテ……運転手さん、急に左に曲がらないでくれよな!?
 急に曲がるから舞奈の方に俺の身体が飛んでしまっじゃないか。この衝撃で目を覚ましちまったら舞奈のことだから一日中、機嫌が悪くなってしまうかもしれないだろ!! って……

 ん? な、なんだこの感触は?

 俺の唇に何かが当たって……それに舞奈の寝顔がドアップで見えるって……

 ・・・・・!!??

 うっ、うわぁぁあああああ!!!!

 お、お、お、俺の唇が舞奈の唇に当たっているぞーっ!!!!
 こ、こ、これってキスしてるって事なのかーーーっ!!??
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