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4話・武士の鍛錬
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俺は勝家に連れられて陣中の武器庫に通された。そして木製の先端に布をぐるぐるに巻いた長い棒を彼より手渡される。
「これは?」
「いきなり刃を交えるのは危険だ。まずはこの棒で槍の扱いに関して伝授する」
「槍?」
「見たところ、お前は体つきも良いし、腕の長さもあるから距離を取れる槍を振るった方が効果的な戦いが出来るであろう」
「まあ、でもそこそこ重量はありそうだな」
「本物は先端に刃が付くから、より振り回される。それを操れれば容易に打ち取られることは無い」
俺は槍を突いたり、振ったりする動きを見せる。槍術の基本は突きから始まって払いや回しを行う。
勝家が基本の姿勢から型まで手取り足取りを厳しく教えてくれた。
時代劇などで見る物とはまるっきり違い、数回振っただけで肩が上がらなくなるくらい筋肉に張りを感じた。
「よし、試しにわしと打ち合ってみる。どっからでもかかって参れ」
「おっさんを恥かかせても良いんだな?」
「小生意気な。その言葉はわしに一撃加えてから言え」
「覚悟!」
俺は勢いよく木製の槍棒を振りかざす。しかし、勝家はお遊戯の如くすべての攻撃を受け止める。そして一瞬で木製の棒を強烈な一振りで真っ二つに砕いた。
そして、槍棒の先端を心臓に向けた身体の手前で止める。
「まだまだだな」
「もう一本だ」
俺は珍しくやけになった。この男に一発喰らわせたい。見返したいという強い想い出、何度も槍を取り直した。何度も棒を折られても、叩かれて身体中が痣だらけになっても繰り返し立ち上がった。
一つのことに熱中して練習したのは何年ぶりだろう。
部活でやっていたボクシングの練習をしていた日々を思い出す。
勝家も俺が倒れる度に「立て」と激を飛ばすが、決して見放すこともなく、最後まで付き合ってくれた。
小一時間ほどの稽古で俺は勝家の持つ槍棒を手元から弾き飛ばし、無防備な状況で先端を首元に突き出した。
「一本だろ?」
「参ったわい。若造に一本取られるとはな」
余りの疲労と身体中の痛みで俺は地べたに座り込んだ。
しかし、達成感は今までに無いほどあった。
勝家は少し表情を和らげる程度であったが、その心意気は成長した息子を見守る父親のような感じであった。
「明日、京の御所を占拠する敵の軍勢と激突する。お前をその戦に駆り出す」
説明をする勝家が本物の槍を俺に手渡した。練習の棒とは重みも威圧感も異なった。
「その先端の刃となる部分は相手を貫くことが出来る。そしたら、人は死ぬ」
「ああ、ひしひしと伝わるよ。生半可に気持ちで行けば死ぬってことも、負けられないって思いが……」
「信長様に話を通す。お前も付いてまいれ」
戦を前に俺は織田信長との再度謁見することとなった。
信長・陣所
信長は本陣にて京の地図と囲碁の駒で戦に備えた戦術のシミュレーションをしているようであった。
その表情は獲物を狩る虎のような鋭い眼光であった。
「親方様、ご無礼仕ります」
勝家の後に続いて俺は陣の中に入り、信長の前で頭を下げた。相手に見下されるのは元々好きではないがこの時の俺の行動は自然にそう動いた。
今まで見た中で喧嘩でも勝てる空気をこの信長という男には感じなかったからだ。
「権六よ。如何した?」
「夜分お疲れの所、申し訳ありませぬ」
「京の男も一緒とはよほど話したいことがあるのではないか?」
「ご察しの通り。この男……いや、我が弟子である黒生義麗を明日の戦にお加えいただきたく。参陣した次第です」
「この男、出来るのか?」
「筋は確かです。そして、明日は某めも戦の最前線に加えていただきたく存じます」
信長、ふと一瞬表情を緩めた。そして、立ち上がり自身の刀を鞘に入れたまま、俺の身体に当てる。
「確かにこの体つきはわしもただ者ではないと感じておった」
そう言うと信長は俺の目の前に肩を差し出す。
「であるなら、脇差も必要であろう。お前にこれを取らせる。功を挙げて参れ」
正直、話は呑み込めなかったが、どうやら俺は織田信長という男に認められたようだ。
信長はその後は特に言葉を残さず立ち去った。
「黒生よ。明日は其方にとっての初陣となる。親方様の顔に泥を塗らぬように必死にわしについてまいれ」
勝家の言葉は、まるで部活で監督が始動するような感覚であった。それはすごく暖かく懐かしい感覚だった。
「すぐにあんたも超えるぐらい強くなってみせる」
その一言を俺は力強く述べた。
「これは?」
「いきなり刃を交えるのは危険だ。まずはこの棒で槍の扱いに関して伝授する」
「槍?」
「見たところ、お前は体つきも良いし、腕の長さもあるから距離を取れる槍を振るった方が効果的な戦いが出来るであろう」
「まあ、でもそこそこ重量はありそうだな」
「本物は先端に刃が付くから、より振り回される。それを操れれば容易に打ち取られることは無い」
俺は槍を突いたり、振ったりする動きを見せる。槍術の基本は突きから始まって払いや回しを行う。
勝家が基本の姿勢から型まで手取り足取りを厳しく教えてくれた。
時代劇などで見る物とはまるっきり違い、数回振っただけで肩が上がらなくなるくらい筋肉に張りを感じた。
「よし、試しにわしと打ち合ってみる。どっからでもかかって参れ」
「おっさんを恥かかせても良いんだな?」
「小生意気な。その言葉はわしに一撃加えてから言え」
「覚悟!」
俺は勢いよく木製の槍棒を振りかざす。しかし、勝家はお遊戯の如くすべての攻撃を受け止める。そして一瞬で木製の棒を強烈な一振りで真っ二つに砕いた。
そして、槍棒の先端を心臓に向けた身体の手前で止める。
「まだまだだな」
「もう一本だ」
俺は珍しくやけになった。この男に一発喰らわせたい。見返したいという強い想い出、何度も槍を取り直した。何度も棒を折られても、叩かれて身体中が痣だらけになっても繰り返し立ち上がった。
一つのことに熱中して練習したのは何年ぶりだろう。
部活でやっていたボクシングの練習をしていた日々を思い出す。
勝家も俺が倒れる度に「立て」と激を飛ばすが、決して見放すこともなく、最後まで付き合ってくれた。
小一時間ほどの稽古で俺は勝家の持つ槍棒を手元から弾き飛ばし、無防備な状況で先端を首元に突き出した。
「一本だろ?」
「参ったわい。若造に一本取られるとはな」
余りの疲労と身体中の痛みで俺は地べたに座り込んだ。
しかし、達成感は今までに無いほどあった。
勝家は少し表情を和らげる程度であったが、その心意気は成長した息子を見守る父親のような感じであった。
「明日、京の御所を占拠する敵の軍勢と激突する。お前をその戦に駆り出す」
説明をする勝家が本物の槍を俺に手渡した。練習の棒とは重みも威圧感も異なった。
「その先端の刃となる部分は相手を貫くことが出来る。そしたら、人は死ぬ」
「ああ、ひしひしと伝わるよ。生半可に気持ちで行けば死ぬってことも、負けられないって思いが……」
「信長様に話を通す。お前も付いてまいれ」
戦を前に俺は織田信長との再度謁見することとなった。
信長・陣所
信長は本陣にて京の地図と囲碁の駒で戦に備えた戦術のシミュレーションをしているようであった。
その表情は獲物を狩る虎のような鋭い眼光であった。
「親方様、ご無礼仕ります」
勝家の後に続いて俺は陣の中に入り、信長の前で頭を下げた。相手に見下されるのは元々好きではないがこの時の俺の行動は自然にそう動いた。
今まで見た中で喧嘩でも勝てる空気をこの信長という男には感じなかったからだ。
「権六よ。如何した?」
「夜分お疲れの所、申し訳ありませぬ」
「京の男も一緒とはよほど話したいことがあるのではないか?」
「ご察しの通り。この男……いや、我が弟子である黒生義麗を明日の戦にお加えいただきたく。参陣した次第です」
「この男、出来るのか?」
「筋は確かです。そして、明日は某めも戦の最前線に加えていただきたく存じます」
信長、ふと一瞬表情を緩めた。そして、立ち上がり自身の刀を鞘に入れたまま、俺の身体に当てる。
「確かにこの体つきはわしもただ者ではないと感じておった」
そう言うと信長は俺の目の前に肩を差し出す。
「であるなら、脇差も必要であろう。お前にこれを取らせる。功を挙げて参れ」
正直、話は呑み込めなかったが、どうやら俺は織田信長という男に認められたようだ。
信長はその後は特に言葉を残さず立ち去った。
「黒生よ。明日は其方にとっての初陣となる。親方様の顔に泥を塗らぬように必死にわしについてまいれ」
勝家の言葉は、まるで部活で監督が始動するような感覚であった。それはすごく暖かく懐かしい感覚だった。
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その一言を俺は力強く述べた。
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