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1話・高校生死す

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 令和X年20XX年の夏、炎天下の中でとある工場跡地で不良高校生たちが血まみれになりながら拳と拳をぶつけ合う。世間では「殴り合い」もしくは「喧嘩」というのが現世の表現になるのだろうか。
 俺の名前は黒生義麗(こくしょうちから)高校3年生である。学力は小学校高学年頃から机と向き合うのを辞めて以降、中学・高校の学力は下から数えた方が早い順位の点数だ。通知表も2や1のオンパレードだった。
運動は得意であったが、そんなの現世の教育においては平均的に物事をこなせない人間は不要な存在としてあしらわれる。
 先公に楯突いたり、手を挙げたりしたのも両手の指では数え切れないほどだった。以降、学校生活の大半は寝ているか顔中を血まみれ痣まみれにするのが日常であった。
 今日も軽く20人ほどを戦闘不能にした。負ける気もしなかった。生まれて喧嘩に負けた記憶がない。唇が切れようが痣が出来ようが2、3日すれば治る。もうその程度の感覚でしかない。
 警察のお世話になったのも一度や二度ではない。しかし、この世の中に存在すること自体が俺にとって息苦しさでしかなかった。
 今日も家に帰ると家中に父親の怒鳴り声が響き渡る。
「お前は何度同じことを言えば分かるんだ」
「知るかよ」
「我が家の恥さらしが、お前は会社で私がどんだけ恥をかかされているか分かってるのか?」
「お偉い社長さん大変だな……」 

(パン!)

「父親に向かって何て口の利き方をしてるんだ」

父親は怒りのあまりに俺の頬を平手打ちにした。頬のヒリヒリした感覚が燃え盛る炎のように俺の怒りに火をつける。

(ガツン!)

 俺は反撃で親父の頬を右フックでぶん殴り返した。殴られた反動で親父は床に転がる。唇が切れて出血した状態で俺を睨みつける。
「お前、親に手を挙げる何て本当に人間の屑だな」
「てめえ、親だと思って好き勝手言ってんじゃねえぞコラ」
 両者は一歩も引かずに胸倉をつかんでもみ合いになる。母親と一緒に妹と弟が間に入って止めに入る。
「お父さん、義麗お願いだからもうやめて」
「お兄ちゃん落ち着いて」
「兄ちゃんやめろって」
 妹が身を挺して俺を押さえつける。妹は俺と違って成績優秀だが、兄として常に俺を立ててくれるし、親父と喧嘩しても夜食を作ってくれたりと気を使ってくれる。そんな妹を傷つけることは出来ない。
 俺は怒りの炎を沈下されたかの様にその場で動きを止めた。対して親父は母親と弟の制止を振り切って殴りかかろうとするが弟が足元ブロックし続けたので自由に身動きが取れずに遂には諦めた。
 そして、不貞腐れたように最後に暴言を吐いて自室に戻った。
「お前は、この家の屑だ。さっさと消えろ」
 そんな親父を俺は睨み返した。しかし、そんな中で妹が殴られた頬を擦った。
「痛む? まずは冷やそ」
「大丈夫だ。兄ちゃんは大丈夫だから優奈と啓太は勉強あるんだろ? 部屋に戻れよ」
 俺には3歳したの中3の妹と中1の弟がいる。妹は心配そうに目を潤ませながら見つめる。
弟は、頭の出来は優奈ほどではないが俺なんかとは比較にならないくらい頭は良い。でも、弟も俺のことを兄として見てくれている。
「兄ちゃん、父さんの言うことなんて気にするなよ。兄ちゃんは弱虫な俺をいつも助けてくれる優しい誇れる兄さんだから」
 弟は俺や優奈と違い気が弱い。幼い頃から何度もいじめられているのを目撃して、その度に喧嘩して助けていた。弟が泣いて抱き着いてくる姿を見て、俺が守らないと思った。
 そんなこんなで俺は頭こそ悪いけど、妹と弟は守ろうと思い、喧嘩だけは生涯で負けなかった。しかし、会社の社長である親父は勉強のできない出来損ないの長男を認める訳がなく、常に邪見にしてきた。
「義麗、あんたが心底優しいのは知ってる。でも、お父さんに手は上げたらダメよ」
「お袋は親父に何も言えないのかよ。アンタがあのクソ親父のさばらせておくから、好き勝手してんじゃねえかよ」
 母は優しい。でも、その優しさが親父に何も言えない原因でもある。親父は言葉と行動で常に母に圧を掛けて従わせている。その姿を俺は18年の人生で何度も見てきた。母が不憫でならなかった故に怒りが湧き、拳に力が入る。
「俺はここにいるべき人間じゃねえんだよ」
「義麗、あなたにはあなたなりの良さがある。それはお父さんにもきっと……」
「俺の良さ? あいつが俺に何て言ったか忘れたのか?」
 俺は、母親の言葉に耳を貸さずに家を飛び出した。行くところ行くところの物に当たり散らしながら、目的もなくウロウロしていた。

その時……
「ちょっと、離してください」
ふと顔を上げると、目の前で素行の悪そうな男3人組に絡まれている女子高生を見つけた。
「いいじゃんかよ。可愛いからデートして欲しいって頼んでるだけじゃん」
「楽しい所、沢山紹介してやるって言ってんじゃん」
「おまけに5万あげるって言ってのに何が不満なんだよ」
 どう見ても援助交際の強要のやり取りにしか、見えない状況だった。面倒くさい気持ちはあったが俺は彼女の手を掴んでいる野郎に後ろから飛び蹴りを喰らわせた。
 男は蹴られた反動で倒れ込む。相当強く蹴り込んだので野郎は痛みで顔を顰めて暫く動けずにいた。
「何だてめぇー」
「彼女嫌がってんじゃんかよ。それを男3人で出せえな」
「てめぇー、調子乗ってんじゃねえぞ」
 他の野郎二人は楽しみを邪魔されたことに憤っているのか、近くの鉄パイプや手に殴る為のリングを装着して喧嘩する気満々で構える。
 しかし、今は喧嘩が優先ではない。そう、彼女を逃がすことが先決だ。
「俺が奴らを抑えておくから、君はその隙に大通りに出て逃げるんだ。ここに来たことは誰にも言うな。というよりも忘れろ」
「で、でも……」
「早く逃げろ」
 俺は声を荒げて彼女に指示を出した。彼女は涙目で心配そうに見つめながら一歩また一歩後ろに歩きながら、方向を変えて一目散に逃げて行った。
(これで良い)
 休む間もなく、野郎3人の2人が攻撃を仕掛けてくる。モーションが大きいので簡単に見切って攻撃を交わす。そして隙の出来たところを狙って拳を入れる。
顔や腹を集中的に攻撃を加えると簡単に道端に転がり込む。
「ったく、弱すぎるんだんだよ」

一通り片づけたと思い気を一息ついたその時……

(グサッ)

一瞬、俺の中の時間が停止したようだった。
(ぐふっ)
 俺は口から血を吐き出した。ゆっくりと後ろを振り向くと最初に蹴り飛ばした奴がナイフを後ろから突き刺していた。
「調子に乗るなよ。クソヤローが」
「ぐっ!」
 俺は痛みに耐えきれずにその場に倒れ込む。意識が少しずつ遠のいていく。
(俺、死ぬのか)
 視界がどんどん狭ばっていく。音も近くに聞こえるパトカーのサイレンの音が聞こえるだけだった。少しずつ目の前が暗くなる。

 その瞬間、俺の現代の時間は止まった。
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