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5章(途中まで)
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「いったい何事?久しぶりの同窓会が、オランダって。」「すずも素直じゃないな!本当は俺たちに会えて嬉しくてしょうがないんじゃないか?」「僕はみんなに会えて嬉しいよ!」「おう、とうま元気そうでなによりだ!」「あんまり元気でもないけどね、海外旅行なんて僕は初めてだよ。」「とうま、仕事辞めたんだってな?」りょうすけは、相変わらずストレートだ。こういう所は羨ましい。「いま何をしてるんだ?」「そうだね。あいにお世話になりながら、ゆっくりしてるよ。」「いいな、ゆっくり休めて!俺なんて休みの日にも仕事してるわ。」「まあ、仕事人間が偉いって訳でもないだろ。」「そうだけど、やっぱりゆっくり休むのは必要な事だと思うぜ。」「本当にデリカーシの欠片もないんだから!」「逆に気を遣われた方が居心地悪いと思うぜ。」「まあ、そんなだけどさ。段階を飛ばし過ぎなんだって、りょうすけは。ちゃんとまわりの人と足並みを揃えないと。」「分かったよ。ちょっと静かにしまーす。」「みんな変わらないね。僕は基本的にあのコテージにいるけど、もう社会に出てしばらくたつでしょ?」「まだまだぺーぺーだぜ。」「まあ、必至に背伸びしてる感じかな。」「やりたいこともあるし、やらなきゃいけないこともある感じー!」「あきのは?」「俺か?俺は…。」「途方に暮れてるんだよなー!」「こいつは、また!」「みんなそれぞれの道を歩んでいるね。また色々話したいな。」「じゃあもうここで話そうよ!」「話すって言っても、何を話すんだよ?」「まあ、近況とか?」「ゼストって知ってる?」れんだ。「ぜすと?」すずだ。「知ってるというか、結構有名かも。」「そうなの?」「うん。今は少し落ち着いたけど、一時期は凄かったよ。もう、業界に激震が走ったよ。あっという間に、ありとあらゆる技術提携をして、あっという間に存在が消えたのよ。」「技術提携?」「うん、言葉で表現するとそうなんだけど、役員会議で決定して、事後報告が社員に降りてきたの。」「それの何が激震なんだ?」「うん、基本的に医療、製薬会社は技術やノウハウが会社の宝。だって何十年もかけて研究を重ねた結果だもん。それをぜすと?か何だか得たいの知れない所にノウハウを提供しちゃうんだよ?まあ、その後社内のシステム?とか色々と効率化されて、仕事はしやすくなったんだよね。多分、コンサルティング業務と技術提供を天秤にかけて、ゴーサインを出したんだろうね。」「何だか訳がわからない話だな?」「そうなんだよ。ちょっと薄気味悪いよね。」「でも、会社はより良い方向に向かってるんだよね?」「うん、おじさん達も最初は騒いでたけど、結局効率化した結果、リストラとか変な人事異動もなくなって、今はみんな好きな仕事を無理なくできてるって感じなんだよね。」「一番の変化は?」「一番はちょっと難しいけど、今までは口に出して言えなかった不満?がみるみるうちに改善されて、働き方に関しても完全にフレキシブルになったんだよね。まあ、強いて言えば人事制度の改革が大きいと思う。」「どんな風に?」「今までは、社内の等級とか独自の査定で、昇給したり、出世をしてたんだよね。実際の人事資料を見た訳じゃないけど、今は公平になったのかな。」「営業って基本的に数字じゃないのか?」「そう、基本は数字。だけど、長い年月をかけて、個人が守られるようになった。その結果、エリア、部署、チームの割合が大きくなって、連帯責任になってきたみたい。まあ、個人を守って、チームで一丸となっていこうって方向性になったみたい。」「それの何がいけないの?」「結局、個人の頑張りが自分の評価に繋がらないのよ。新人なんて、配属先を選べないし、中堅社員なんて、自分の成果を上の人に取られたりして、やる気がなくなってしまうみたい。」「でもそんなのどの企業でも同じだぜ。」「うん、同じだから問題なのよ。段々と抱いていた違和感が、普通になっていく。声を上げるのも億劫になる。下手に声をあげると自分が目をつけられる。まあ、組織はそうやって成り立つし、日本の大きな企業は頑張って今の基盤を作り上げてきた。」「だから、みんな必至に組織で働いて、個人がチームの為に、チームがエリアの為、各エリアの数字が会社の数字になっていく。結局、個人が一人ひとり工夫すれば、相乗効果を産んでいく。スポーツと同じだろ?」「それも1つの正解だと思う。だけど、その考え方が性格に合わない人がいる。その人達の責任かもしれないけど、できれば個を尊重して全員が納得しながら働ければもっと良いと思わない?」「そんなことできないだろ?」「うん、不可能だと思う。」「でもそうなりつつある空気を体感している。ゼストが関わってから。」とうまだ。「うん、必ず集団では、足を引っ張ったり、馴染めない人が一定数出てくる。だけど何故かその雰囲気が一向に出てこないのよ。」「何でだろう?」「わからない。わからないけど、結局社員が現状ある程度納得して働けていく。」「ねぇ、私たちも会社作らない?」「その前にゼストについて調べてみたいな。」「おいおい、起業やらゼストやら、話が飛躍し過ぎてないか?」「確かに。もう少し冷静になったら?」「僕はゼストについてもう少し調べてみるよ。」れんだ。「俺は取り敢えず今の仕事を辞めるつもりはないから、情報収集ならできるな。」「私は少し起業の事を考えようと思ってたから、ちょっと真剣に考える。」あいだ。「私も転職しようと思ってたから、半分副業みたいな形で参加はできるかも。ようやく社内の雰囲気が良くなって来たからね。」「とうまは?」「僕はあいにお世話になること多いし、起業はありだと思ってる。僕はきっと組織には適応しにくい人だと思うし。」「あきのは?」「俺はまだ駆け出したばかりだ。だから、りょうすけと同じように情報収集ならできるよ。出来ることはあると思う。」「みんな集まった瞬間に凄いね。昔話に花を咲かせる訳でもなく、いきなり本題に入れる仲なのは素晴らしいと思う。」れんだ。れんは、常にクールだ。嫌みがなく、取り繕ってもいない。こういうスタイルなんだろう。「れんさ、親父さんが、ゼストの研究に没頭してるんだろ?」「うん、そうなんだ。落ち着きがないんだよ。どう見てもみんなが来た時に比べて、性格が変わったとしか思えない。だけど、時々元の父さんに戻るときもあるから、なかなか接し方が難しくてさ。」「直接聞けないの?」「なんかタイミングを見失っちゃってさ。元々変わった人だし、何をどのように聞いたら良いか分からなくてさ。」「確かに、どこか不思議な空気を持った親父さんだったよな?」「まあ、でも俺らの誰かが直接聞くこともできないし、れんがやるしかないよな?」「んー、ゼストに起業か…。俺たち大丈夫か?」「確かに、まわりの人がコツコツと積み重ねてる時に、特殊な事をしようとしている。楽になることはないと思う。」「でもさ、意外と仕事と自分の生き甲斐みたいのがリンクしたら、全然平気なのかも。」「まあ、選択は個人の自由だし、このまま今の仕事を続けるのも良いし、起業するのも良いと思うよ!こうやって頼りになる仲間がいるわけだしさ。」「組織に属せる人、属せない人、もがいてる人、沢山いるけど、要はどれだけ納得感と満足感を持てるかだと思う。」「そういえば、れんの母親っているのか?」「また、りょうすけ。あなたはオブラートに包む事を覚えたら?」「それが良く分からないんだよ。物心が付いた時から、父さんと二人三脚だった。父さんも僕に母親の話をしたことはなかったな。」「とうまは?」「僕は歩み方をゆっくり考えながら、焦らずにやってみるよ。」「とうまらしいな。何があったかは分からないが、不可抗力も一つの原因な気がする。」「不可抗力?」「まあ、何とも言えないが、とうまの場合、誤解されやすいんだと思う。」「俺たちはとうまのことをある程度知ってるから、とうまのペースに合わせることができる。ただし、世の中の平均値から見ると、やる気が見えない、無愛想、無気力みたいに捉える人もいる。そういう人達の意識を変えるには、相当の時間と労力が必要になる。」「要するに?」「まあ、たまたまとうまの理解者がまわりにいなかっただけってこと。そういう環境に身を置くと、いつの間にか大事な物が磨り減っていく。」「それは、誰もが通る道じゃないのか?」「それは正しい。だが、感受性が特別強い人には適してはいない。」「何となく分かる気がする。だってさ、そもそも組織の構造の問題もあるけど、そういう激しい環境を生き抜いてきた、ある意味適応できた人が組織の中心になる。そうなるとさ、どうしてもその人の価値観が社風を作る。」「それに適応しようとするのが、社会人だろ?大人はそうやって折り合いを付けて何とかやっている。」「そう。正しい。言葉で表現すると論理的だし、非の打ち所もない。だけど、それ以外の人は少し歩み方が違ってくる。」「それが僕?」「うん。まあ、王道ルートを通るか、まわり道をするか、その違いにも似ているね。」「話を戻そう。不可抗力については?」「そうだな。やっぱりどうしても不可抗力に巻き込まれやすいというか、貧乏くじを引きやすい人はいる。まあ、優しい人がだいたいそうなるんだけどな。みんなどこかで、弱い人間を心のどこかで探っている。自分の身を守る為に。」「僕は優しいのかな?」「優しいかどうかは問題じゃない。そう見えるかが、一つの判断基準になるのさ。」「何だか頭が混乱する。」「まあ、少しスピリチュアルな話になるんだけどな。やっぱり人の波には、王道、巻き込まれやすい人、壊れた歯車を常に巻き返す人とか色々いるんだけど、やっぱり王道ルートを辿る人がフォーカスされて、それが基準になる。」「端的に言うと、人の人生はある程度パターンが決まってる。まあ、歴史を辿ると、そう紐解いている人もいる。」「でもさ、それを知った所で、今どうこう出来るって話じゃないよね?」「うん、だから歩み方は人それぞれだけど、全体で見るとだいたい区分けができるってことだと思う。」「何だか頭がこんがらがっちまうな!とにかく楽しく生きたいって俺は思う。」「それより、とうまお前いまどうなんだ?」「本当に、もうちょっと言葉を選んだらどうなの?」「僕は平気だよ。」「とうまくんも、嫌なときは嫌だってちゃんと言いなよ!」「確か、あいに色々とアドバイスもらってんだってな?」「うん、私がアドバイスしてる。」「具体的にはどんなことなんだ?」「基本的には、普通の事なんだと思う。食事とか、運動のこと、生活リズムとかかな。」「それをアドバイスしてもらって何か変わったか?」「いや、特には変わらない。だけど、そんな劇的に変化が起きたら逆に怖いよね。」「栄養素、身体、生活リズムとか色々な角度からカウンセリングをして、アドバイスしてるよ!」「それぐらい自分で管理して普通じゃないのか?」「色んな原因があってさ、外的要因、潜在的要因、その両方が要因な場合。」「僕の場合は多分、自分で自分をコントロールできなくなったんだと思う。」「何かイメージないな。コントロールできなくなるって、どうしても暴走してしまう人を想像するよ。抑えが効かなくなるっていうかさ。」「そういう人もいるんだと思う。とうまくんの場合は、おそらく、消化不良を起こしたんだと思う。」「消化不良か…少しは分かるけど、消化不良っていうとやっぱり食事のことをイメージしてしまうな。」「要するに、僕の中でストレスを適切に解消できなくなって、その影響で生活リズム、食生活が少しずつ乱れて、エネルギーが無くなってしまったんだと思う。僕の中の歯車が噛み合わなくなって、適切な循環ができなくなった。」
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