上 下
6 / 8

明日ありと思う心の仇桜

しおりを挟む
「マコトの勝ち」

ど う し て こ う な っ た 。

・・・・・

仕方なくそのままの服で、レネ様のお兄様の鍛錬をすることになった。
鍛錬の相手って何って思ったけど、この人、警察のお偉い人なんだって。身分があると大変ですね。
で、犯人が見つからない殺人事件のことは覚えていたし、印象にも残っていたらしい。

「で、マコトが犯人だってか。まあ、そこまでたちの悪い冗談をいう弟ではないからな。さ、手合わせ願おう。俺が勝ったらこの女連れて行くぞ、レネ」

「やだなあ、連れて行かないでよ。まだまだやってもらうことあるんだから。ね、マコト、勝ってね」

「善処します。ちなみに、その連れて行かれて刑罰を受ける場合、どのくらいの刑になるんでしょうかね」

「あー、最悪40年の労役だろうけど、ま、あいつらもゴロツキだったし、20年くらいですむんじゃないか。異能を使っての殺人は刑が重いんだよ」

はー、なるほど。流石に労役は無理。人権は絶対にないやつだ。

「因みに女性の労役は夜の慰めのお仕事もあるから病気には気をつけたいよね。異能持ちの女性は身体が頑丈にできてるから重宝されてるよ」

おおう、レネ様、そういう話もにこやかにいうのね。なるほどなるほど、こんな年齢いっててもそういうのがあるのか。まあ、なんにせよ、気ままにこのまま過ごして帰れたら万々歳だな。やだやだ。

「大丈夫、ヘテ兄貴に勝てばいいんだから!」

簡単にいってくれてるけど、無理無理でしょ。見て欲しい。この動くのに向いてない格好。まあ、着替えとかもないだろうし、このままでいくっぽい。

「覚悟は決まったか。じゃ、始めようか」

おいおい、誰もこの格好については聞いてくれないし鍛錬という名の手合わせですね、ええ、こちら、誰も聞かない。なるほど、これが身分。自己主張をしていかないといけない文化だ。

「あの、この格好で私はやるんでしょうか」

今気がついた、というような顔をしている。ちょっと、もう!でも、このまますすめるらしい。だめだこりゃ。

「じゃ、始め!」

レネ様の開始の合図がある。とりあえず何があっても防御できるようにフラワーちゃんをたくさん出しておく。

「フラワーちゃんたち、殺し以外はなんでもあり。開始」

日光浴したり十分休んだからかかなりウキウキらしい。攻撃なんてしないからね、普段。この子たち好戦的なんだよね、こんなにも可愛いのに。

「そりゃ花か。まあ、数はたくさんあってもひとつひとつはそこまで威力がないっていうのが鉄板だ。ほれ」

あちらは風を使う、風以外にもなんか飛んでくるし、え、殴ってくる。殴り合いもしたことないよ、私。本当に本当に一般人なんだって。レネのお兄様の拳が肩にぶつかったとき、痛すぎて泣いた。

「もういや、早く終わって欲しい。信じられない。確かに人を殺したかもしれないけどさ、あちらも殺してるしなんなら私はいいことをしたよね、うん。ゴミクズのゲスだったし?今までおとなしくしてたのに、なんでこんなことしなきゃいけないわけ。あー、ムカつく」

肩は痛くてじんじんするし、殴られたときに転ぶし、風で飛んでくる木々は痛いし、散々だ。フラワーちゃんたちが私を守ってくれてるけど、もういい。もういいよ。

「ムカつく。本当全部ムカつく。何もかもイラつく。そもそもなんなの」

この世界にくることになってしまった不条理にも、自分の日常が失われてしまったこともふつふつとした怒りが湧いてきた。
怒りとともに自分の中からなにか湧き出ている。ああ、最初におさめたオーラ?モヤ?みたいなやつか。

「もういい、殺さなければ何知てもいいよ、お願い」

自分が出せる最大の花を3つだす。うん、この子たちは人を食べたりしたよね。風に毒をフラワーちゃんたちが混ぜているけど、レネのお兄様は気づいているかな。この世界にない花だからよく分かってないでしょ。ぽかぽか殴ったり葉っぱで切りつけたりするだけじゃないんだよね。

花から種をだしたり、花びらで目潰しをしたり、蔓をだして足止めをしたりとこちらは数でそれなりにおしている。
もちろん、レネお兄様も風で花を切り裂いたりしているけど、彼女ら切ったら増殖するんでそれの対応に追われている。だんだん毒で麻痺して腕が鈍ってきているところでばくばく最大のフラワーちゃん3輪が留めを刺そうとしている。うん、風くらいじゃ切れないよね。あと切るごとに毒まみれになってるけど大丈夫かな、お兄様も庭も。まあ、好きにしてもらおう。

少し離れたところにいるレネ様とクルリさんの近くにいく。ここから先は出ちゃいけないとか聞いてないし。

「いいのかい、指示とかしなくて」

「ええ、フラワーちゃんたちは優秀なので。戦ったことのない私がいた方が邪魔になりますね」

「なるほどな、なら、こいつを人質にしたらいいのか」

知らぬ間に後ろにレネのお兄様がいた。手を後ろにされて肩がぐぎぎとあらぬ方向に捻じ曲げられている。容赦ない。痛い。

「おい、お前らいいのか。そっちに気を取られているうちに大事な宿主が俺の手にいるぞ」

レネのお兄様は多少のふらつきとかすり傷はあるけど、ほぼ無傷。そりゃそうだ、戦いをほぼなにもしてこない人間と普段から身体を動かしている人間とじゃ、出来が違う。

フラワーちゃんたちの動きが止まる。頼りなくてごめん、足をひっぱっちゃったね。フラワーちゃんたちが動きをとめると容赦なく風が襲い、細切れになる。ああ、あそこまで細切れにされたら再生は難しいか。

「さ、これで俺の「フラワーちゃん、お願い」…は?」

髪の下に一輪潜ませていたつるぎのようなチューリップに自分の首を切ってもらう。いったい。
いきなり出てきた花が自分の宿主を切りつけたらそれは驚くでしょう。ただね、私の血、浴びましたね。

「なんだこれ、身体が動かん」

「毎日毒を摂取していたら血液が毒になりました。だなんてよくある話でしょう。そういうことです」

私の血を浴びてふらついているレネのお兄様の目、首、股間、足の腱にフラワーちゃんたちを配置する。ここまで至近距離なら一撃でいけるか。

「このまま続けますか」

私も血を流しすぎて朦朧としてきたし、冷や汗もすごいが、どうにかして立っている。いくら異能持ちが頑丈にできているといっても、流石に血が足りない。

それから冒頭に戻るってわけだ。なんとか勝てたけど、たぶん次は勝てない。
今はレビーさんの治療を受けている。

「マコト様の血液、とっても気になるので少しください。あと髪の毛と皮膚と唾液も、それと、「おいおい、その辺にしておけ」うぐぐ、はい。では、少しだけ…」

助かった…。マッドサイエンティストだ、怖い。しかも、少し貰っていくんだ、まぁ出てる分は好きに使うといいよ。

「しかしまぁ、よく自分の首を切れたな。普通はしないぞ!あはは」

レネ様がご機嫌そうだが、私は貧血でそれどころではない。ここの人たちはどこか壊れているのか。

「ヘテ兄貴、少し経ったらピンピンしてた!異能持ちであそこまで動けないのも珍しいから訓練してやる、っていってたけど」

面白そうな顔をしてこちらをみてくる。碌な人間じゃないな。

「丁重にお断りします」

「はは!そういうと思ってお願いしておいた。実際さ、本当にもう少しは動けたほうがいいよ。僕のほうが動けるし」

歩きの移動が多いからそこそこ体力はあるけど如何せん人に殴られたりするのは怖い。格闘技も習ったことがない人間なので痛みの耐性はない。理不尽な暴力に合うとムカムカしてくるのはそういう性分だからだろうか。平和な世の中が懐かしい。拳を握って、とか剣を、とかはもうあと数十年若かったら楽しめたかもしれないけど無理よ、無理。疲れるし。スローライフの異世界転移を希望する。そもそも転移を希望しないが。

「ま、それもその傷が治ってからかな。異能持ちが手合わせで骨折したり傷だらけで、それなのに勝ってるなんて面白いね、本当。ね、クルリも思うでしょ」

言い返す気力もない。好きに言ってくれ。肩の他にも足も捻ってるし首からは出血してるし腕も折れてるし擦り傷たくさんあるし、顔も殴られて腫れているし散々だ。

「…なかなかに斬新な戦い方をするな、と思いました。普通ならば自分自身も動きつつ戦うので」

やっぱりそうなんだ。このフラワーちゃんたちが異常なのか。私としてはありがたいけど。テイムしてるみたいな感じなのか。分からないけど。

「それ、普通の花なの?例えばさ、こっちの世界の花とかもできるの?傷治るまで暇でしょ、やっておいてよ」

「多分できる、できるかな、うーん、やってみますが。あの、今更なのですが、この世界の文字を教えていただけますか」

レネ様とクルリさんが顔を見合わす。

「もしかして読めない?ひとつも?」

「あー、屋台の文字を何となくでしたら判別してますがまぁほぼ読めないですね」

「至急手配をします」

読めないのはやばいらしい。クルリさんが急いで部屋を出ていった。レビーさんは私の手当もどきをしている。勝手に髪を切ったりするのはやめてほしい。まあ、少しだからいいか。

「文字を読めないのは他言無用だ。ヘテ兄貴にもだ。いいね?まさか、異能持ちで文字を読めない人がいたとは」

あー、そもそも異能持ちってなんなんだろ。そこからだ。

「すみません、そもそもこの世界のことをほぼ知らないです。異能持ちや使いの者とかそこらへんも、あとこの国がどんな制度とかも。本当は税金とか払わないといけないのでしょうが、なんもしてないですし、すみません」

多分この国では身分が高いであろうレネ様にいうのも気が引けるけど、伝えておく。職はストリートマジシャンなので、、戸籍もないし。

「そうだった。やることが山積みだな」

別にやりたいことではないし、ストリートマジシャンを続けられて生活ができたらそれがいいのだけど。いや、ここの生活を知ってしまったらモトには戻りたくはない、か。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

キーナの魔法

小笠原慎二
ファンタジー
落とし穴騒動。 キーナはふと思った。今ならアレが作れるかもしれない。試しに作ってみた。そしたらすんばらしく良くできてしまった。これは是非出来映えを試してみたい!キーナは思った。見回すと、テルがいた。 「テルー! 早く早く! こっち来てー!」 野原で休憩していたテルディアスが目を覚ますと、キーナが仕切りに呼んでいる。 何事かと思い、 「なんだ? どうした…」 急いでキーナの元へ駆けつけようとしたテルディアスの、足元が崩れて消えた。 そのままテルディアスは、キーナが作った深い落とし穴の底に落ちて行った…。 その穴の縁で、キーナがVサインをしていた。 しばらくして、穴の底から這い出てきたテルディアスに、さんざっぱらお説教を食らったのは、言うまでもない。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...