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五臓六腑に染み渡る

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起きたら初めての場所のとき、貴方ならどうするだろう。そんな想像したことない?私はよくあった。けど現実には起きてほしくないことだよね。これは、ない。
お姫様仕様?この世界ではこれが普通?天蓋があるのだけれども、宿泊施設にはなかったけど、庶民よりもワンランク下だったし、分からない。分からないけど、落ち着かない。そこそこ大きな清潔なベッドに水差し。まだ自分の服をみてないけどサラサラの生地。ブラジャーとかはこの世界似たようなのがあってそれね、あとは、パンツは履いてる。寝てしまったのね、それも爆睡。下着を着せてもらったりしてるときに起きなかったなんて相当なものでしょ。一服盛られたのか。流石にこの世界でそこまで警戒心を持たずには生きてないのだけれど。どうした私の警戒心。危機管理さん、お仕事は…。
しっかりしなさい、私。まだ何も話してない、そうよ、待たせたままじゃない。ああ、もういっか。向こうがすすめてきたんだし、クルリさん優秀そうだったから連絡いってるでしょ。

どうしようかな、勝手に起きてもいいのか。…喉の乾きを覚えたので花を出して一応水差しに毒がないかの確認をして飲む。もう寝ちゃってるしやっても意味ないとは思いつつも…ね。

「フラワーちゃん、ありがと。そうだよね。あ、コップとってくれるのね」

自分のだした花にお世話をされつつ、談話する。傍から見たらヤバいやつだけど、人がいないし平気平気。

コンコンコンコン

ノックの音が聞こえた。一人で喋ってたもんね、そりゃ、起きたのわかるか。水差しの近くにあるベルで呼んだほうがよかったか。いや、でもこうしてまったりしてるのも久しぶり…この世界に来てからは初めてだったな。

「クルリです、失礼します」

まだ、まだどうぞっていってないのに入ってきてしまった。フラワーちゃんを隠そうか迷ってたところで入ってきた。私はお客様だったはずでは?もっと丁重に?いや、勝手に寝てしまった私が悪い。どのくらい寝てしまっていたんだろう。来たのがお昼すぎだったからそろそろ夜になっちゃったか?そういえば、お昼を食べ忘れてた。

ギュルルル~

お腹鳴った。恥ずかしい。クルリさんとは裸の付き合いしてしまったわけだし、恥ずかしくはない?私だけ裸ではあったな。というよりお風呂で着る浴衣?みたいなやつ、あったのでは!?着替えまでしてもらっちゃっただろうし、もういいか。

「起きてるならベル鳴らしてください。…よく眠れましたか」

呆れられてるような気がする。私の歳の半分くらい下の子にその表情、心にちょっとくるものがある。

「いつの間にか寝てしまっていてすみません。ありがとうございました。お陰様で日頃の疲れもとれたようです。リンはどうなってますか。あとここに連れてきてくださった金髪の青年をお待たせしてしまっているかと思うのですが」

「いえ、仕事ですから。レネお坊ちゃまでしたら、貴女を私に託したあと自分のお仕事に戻られました。まだ呼ばれていないのでそのままこちらの部屋でお待ち下さい。お客様のお連れ様のこともお坊ちゃまにお聞きくださいますよう。では、起きましたのでこれから私は厨房に行き、お客様の夕食を貰ってきます。何か食べられないもの等はございますか」

「何から何までありがとうございます。食べられないものはないです」

「かしこまりました。この部屋にあるものでしたら、好きに使ってよい、この部屋からは許可なく出ることのないように、とのことです。では、また後ほどお伺いいたします」

クルリさん、仕事のできる人だな。花は結局隠さずに隣においていたけどちらりと目線を送ってくるのみで他は何もなかった。
夕飯までは何もすることはないし、とりあえず部屋の探検でもしてみるか!
フラワーちゃんをいくつかだし、好きにさせる。私のマジック道具や宿から持ってきたものも一式きちんと置いてあったので安心。

「リンのことは心配してても仕方ないか。もう多分死にはしないはず、多分。ということで、分かるまでは少し羽根を伸ばすことにしましょう。わ、こっちはレストルームね。で、こっちはちょっとしたキッチン!まあでも包丁や食材はないから持ってきてもらうのかな。スイートルームのようだね?フラワーちゃん?こっちにきてみろって?」

フラワーちゃんについていった先は衣装がたくさんはいったクローゼットがあった。

「このケース?気になったの?装飾品はいってる、はい、どうぞ。へえ、ここに来る人はお洋服お好きなものをどうぞってこと?保存状態がいいから、手入れしてるんだろうね。さあ、もう全体的にざっと見終わったかな」

フラワーちゃんは装飾品が気に入ったようで自分の花びらを宝石にしようとにらめっこしている。花びら、宝石にしたいのか、この子。最初は動く花ってなんだろうって思っていたけど5年以上一緒にいるとそれはもう我が子のようで、とても可愛い。表情豊かだし、言いたいことが伝わってくる。これが異能か。
あれ以来あまり攻撃として使うことはないんだけど、いやでも最初はお金なくて山とかに野宿したとき魔物退治したか。あれはひもじかったな。フラワーちゃんたちは頼もしかった。
回想に浸りつつ、フラワーちゃんと戯れているとまたノックの音が聞こえた。

コンコンコンコン

「どうぞ」

ドアの前からとてもいい香りがしてくる。屋台や冷めたものしか食べてきてなかったのでとても胃が刺激される匂いだ。脳は食べたいっていってるけど果たして胃は受け付けるだろうか。
あの異能が開花した一件から今まであまりご飯を口に出来なくなってるんだよね。子どもたちを守れなかった自分の弱さを責めたり、悪夢をみたり散々だし。私が間に合ってたら死ななかったかもしれないじゃん?マジックの種明かししても練習もしないでできるはずがないし。質の悪い連中だったから強請ってきそうだけど。今ようやくこうやって持ち直してきてるけど。リンのことはただの自己満。

「お食事をお持ちしました」

見るからに美味しそうなご飯が並んでいる。色彩豊かだ。美しい。この世界では初めてのきちんとしたご飯だ。…果たして、胃は受け付けるかな。

「ありがとうございます」

机に並べてくれるのでそっと席につく。机も無駄に広い。どうなってるんだ、ここは。

「こちら、本来ならばシェフからの説明があるのですが…僭越ながら私が。手前にありますのは、、、」

ご飯の説明をしてくれる。食べやすそう。うーん、食べれるかな。お腹が鳴っても食べたい気持ちになっても受け付けてくれないんだよね。今まで何を食べてたかって?フラワーちゃんの花びらとか蜜だよ、自給自足できそう。ガリガリに痩せて栄養失調で死ぬのでは、とも思ったんだけど転移してきたときからあまり姿が変わらない。使いの者ってもしかして何か人とは違う体質なのかもしれない。詳しくは知らないけど。文字は未だに読めないから。本買ってる余裕はないし、ごはん屋とかメニューくらいしか分からない。

「以上になります。後ほどデザートをお持ちいたします。では、どうぞお召し上がりください」

知らない野菜や料理名が並んでいた。魔獣でも食べられるやついたのかな。動物も似てるようで違うから、家畜とかはどうなってるのだろう。

「…いただきます」

一番食べやすそうなスープを飲んでみる。大根ポタージュ?みたいな味がする。が、二口くらいで胃液が込み上げてくる。ここで吐くわけにもいかない。

「わ、美味しい。…クルリさん、これ、残したら破棄になりますか?」

なにを当たり前な、というような顔でみてくる。怪訝そうな顔のお手本だ。

「ええ、勿論そうですが。いかがなさいましたか」

食べられると思ったけど駄目だった。最初から量は少なめとかで言えばよかったな。

「あの、食欲がないのでギュルルル~いや、あるにはあるんですが、諸事情により、こちら、あの、このお花たち見えてますよね?この子たちにあげてもいいですか。とても勝手で申し訳ないのですが」

「…ええ、いいでしょう」

許可を貰ったので今だしているフラワーちゃんたちにご飯を譲る。とはいってもとても綺麗に食べるので何も心配はいらないのだけど。この子たちいつも出すとき何も考えてないんだけどどのくらいの種類があるのだろう。
宝石になろうとしてたのはヒスイカズラ。私の周りをちょこちょこしてるのは鈴蘭と福寿草。シュロソウもいる。あとはご飯食べていいよといったら、ちらほらとでてきたのは薔薇、ガーネット、パンジー。名前の知らないお花もたまにでてくる。10種類くらいはあるよな…20種類まではいかない?

「クルリさん、用意をしてなくてこれからだったらデザートはいらないです。食べられそうもないので…すみません」

フラワーちゃんたちの食事の光景をなんとも言えない顔でみていたクルリさんに話しかける。表情が豊かで可愛いな、この子。
デザートいらないというとフラワーちゃんたち数輪が抗議してるけど、勿体ないでしょ、君たちは食事を必要としてないでしょう。

「その方たちはデザートを欲してるみたいですが、いえ、差し出がましいことを申しました。確認してきます。失礼します」

クルリさん、ちょっと砕けてきたのかな?この子たちの姿みたらもうどうでも良くなるよね。カラフルで素敵。あら不思議、こちらからもあちらからもお花が出てきます。花を消したり増やしたりしてマジック、いや、もうこれは異能とマジックを組み合わせて楽しんでいると退室したクルリさんがデザートを持って帰ってきた。

「シェフから、お客様が食べられるものを教えてほしい、とのことでした。それと皆様にデザートです」

お花をイメージしたんだろうな、と思わしきデザート皿がでてきた。すごい、プロの仕事だ。
この世界のお花の名前はまったく分からないけれど、パンジーに近いお花が近くに飾ってあり、本人、いや、本輪が喜んでいる。あ、食べた。

「ありがとうございます。シェフの方にもお礼をお伝え下さい。こら、みんなもお礼をいって」

一斉にぺこりとお辞儀をした。うん、大事だからね。お辞儀をしながら食べてるものもいるけど見逃してもらおう。行儀がなってなくてすみません。

「い、いえ。彼も職務を全うしているだけですから」

ここの人たち、仕事人すぎない?というよりも全員が異能持ちってことなのもすごい。異能持ちは気が付かなかっただけで案外いたりするのか。使いの者もそれなりにいるはずだし。貧困層あたりにはあまりみられないだけかもしれない。

「それで、食べられないものはないと伺ったのですが、食べられてないですよね」

濁したけどバレてる。食べられないものは、ないのよ、今のところ。食べられるはずなんだけど胃が受け付けないのよ。

「…食べられるはずなんですけど、すみません。ちょっと色々あって数年ほどあまりきちんとしたものを食べてきてないので「数年?」…はい」

クルリさんからの圧が強い。なんなんだ、というよりもこんなにも良い待遇をうけるとあとが怖い。

「レネお坊ちゃまに報告をいたします。お客様はごゆっくり。食べ終わりましたらそこに並べておいておいてくださいね。失礼します」

クルリさんが血相を変えてでていった。食べてないくらいでそんな慌てることがあるのか。数年ほど食べてないけど、健康で生きてる意味もよく分からないけど異能持ちの人は身体が丈夫になるとかそういう世界じゃないのか。謎だ。
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