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旅は道連れ世は情け
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は??転移じゃん。
趣味で手品を嗜んでいるものなんですけれどもね、いやはや、駅前で手品をお披露目中に知らない場所にいました、とのことです。
メーデー案件ですね。こちら、身体にモヤ?オーラ?が見えており大変気持ちが悪いです。あと、なんとなくなのですが、これは、ずっと出し続けてたら死ぬやつです、多分ですが。チュートリアルなしの転移はきつい。
おさまれおさまれ、中には入れ…ほら、お母さんはここだよ、ここに収まるんだ。と必死にかき集め、死ぬ気でやり遂げました。死ぬかと思いました、半分くらい死んでいたんじゃ…?汗だくだし、時間の感覚はないけどだいぶ時間が経っているようだ。気持ち悪い。ナニハトモアレ、現状把握を。
ここは、知らない場所。
安全かは分からないけど、モヤをおさめてる間は何もなかった事実あり。日が傾いてきているが、夜になったら何かあるとかは、考えたくないな。
目の前は川、林?森?のような場所。ただ、拓けているし見通しも悪くはない。いや、悪いか。こちとらそこそこ都会人だったもんで判別はつかないが、キャンプ場みたいな感じか。ふむ、分からないな。
次は持ち物確認。服は手品やってたときの衣装のまま。ハットにジャケット、マジシャンローブとかだな。着替えなどの荷物はロッカーにいれていたからかないが、足元においていた看板やチラシや小道具一式、スマホや最低限の貴重品が入ってたポシェットはここにある、と。このままだと餓死一直線だ。
スマホはもちろん圏外。電池はなくなると困るから省エネにしておこう。ポータブルは荷物の中だ。
ふうむ、ここはどこだか考える必要があるみたいだな。ああ、子どもたちは元気だろうか。お母さんがこんなんですまん、冷蔵庫にあるもの、食べてくれ。何かあったら、夫、じじばば頼んだぞ。
色々なものを嗜んでいたから分かるが、これは異世界転移というやつではなかろうか。お母さんはこの手の話にとても詳しいのですが、間違いない、はず。鏡がないからわからないが、年齢も性別もそのままな感じがするし、特に美形になったというわけではないな。シワもそのままだし肌の乾燥具合もいつも通りだ。
この世界がどういったものかが謎ではあるが、さっきのモヤはなんなんだ?ファンタジーの世界にのは確実だな。モヤ?オーラ?をおさめるときに某少年漫画の念能力だと想定しておさめたら成功した、成功しているのか?まあ、一応落ち着いたけど、多分これだとまだまずそうだな。これから瞑想とかしていったらいいんだっけ。おさまったからには多分似たようなものなんだろう。魔法みたいなのも使えるのか?
昔に読んだから忘れてしまっているが、連載してないから読み返しもできてないよ、作者さん、頼む、連載開始を…っていやいや現実逃避してる場合ではない。
いや、というか元の世界に返してほしいのだけど、なんでいきなりこんなことに。夢ではないな、この感覚、現実だ。
ギャルギャルルール
バサッバサッ
えっ、怖い。なんの音?荷物を持って出来るだけ影を薄く気配を薄く私は空気、空気―…。
「ギャッギャッキャッ」
「ルルルールルルー!ギャッ」
上からなんか降ってきた…思わず目を閉じていたけど薄目を開けてみる。
!!!
化け物だ。でっかい。勝てない。逃げられない。
「おかしいねえ、ここにニンゲンの匂いがしてるよ」
「初めて嗅ぐニンゲンの匂いだ」
「そう、すぐそこに」
耳の後ろから声がしたと思ったら肩に手を置かれた。私はもう駄目だ―…
・・・・・
目を開けると洞窟の中だった。荷物は無事、服も無事。一緒に持ってきてくれたのか。
「目が覚めたかい」
あっ、そうだった。化け物が日本語を喋っていて肩に手を置かれて気を失って、それから…あら、人間?
「あ、はい。あの、助けていただいたようでありがとうございます。えっと、私はどこで?何をしていたんでしょうか」
「そりゃこっちが聞きたいよ。こんな場所にニンゲンがいるなんて聞いてない」
人間?あ、この声、さっきの?ということは化け物は人間になれるということ?ここで生活している感じがするし親切な魔物ってことか。異世界ファンタジーか?魔物がしゃべる知能の高いもの?ニンゲンってことは人間が他にもいるってことだし。
「気づいたら先程の近くにいまして、その前の記憶があやふやで…すみません。ここってどこですか」
「ここはそうさな、岩火山だな」
「ドラゴン…?」
「あまり見慣れない服を着ているじゃないか。あんなところにいたら他の奴らに殺られちまうよ。今日はここに泊まっていきな。明日街に送ってやろう」
「ご親切にありがとうございます。今って何年の何月何日か分かりますか?あとここらへんに文字の書いてある読み物ってありますか?図々しくてすみません」
「10800年の5月えーっと今日は何日だっけ「4日よ」そう、4日だ。で、文字の書いてあるやつか?ほれ、新聞だ。これでいいか」
「あ、ありがとうございます。あ、助けていただいて名乗らずすみません。私はマコトと申します。しがないマジシャンやってます。どうやってここに来たのかはわからないのですが「みたところ、使いの者だろ」…使いの者?」
「使いの者だろ?異能が使えるはずさ。ニンゲンがきたから異能試しかと思ったが随分と時期が早いと思ってね。たまに使いの者がここにやってくることもあるのさ。マジシャンといったかい?その格好と関係が?」
「あ、はい。では、助けていただいたお礼に…はい、こちらをどうぞ」
基本である花を手から出す。もちろんこれは仕込んである造花だけど。細い目が少し丸くなっているから成功かな。
「おや、驚いた。他にもできるのかい。…ああ、私はリコだ。友人のニンゲンが名付けた名前というやつだ」
リコさんが人間からドラゴンに戻る。リコさんの後ろにもチラホラと他の人の顔もみえる。様子を窺っているようだ。
「他にもできますよ。ではこちらを見ていてください」
ずっと寝かされていた場所で座っていたので立ち上がり、隣に置いてあった帽子をかぶって一礼。
「さてさて、助けていただき大変恐縮。私しがないマジシャンをやっております。こちらは種も仕掛けもございません。中には何も入っていない帽子になります。どうですか?中に入っていませんね?きちんと見てください。はい、逆さにしても、振っても何も出ませんよ。では、ここで呪文をかけますね。ワン・ツー・スリー!…リコさん、手を出してくださいね。この魔法をかけた帽子を逆さにしますと、こちら、リコさんにプレゼント。私の好きなクッキーになります。是非ご賞味を。ありがとうございました」
一礼をしてまた座る。いつの間にか他のリコさんと同じ顔の人?が増えている。リコさんの親族かな。
「へえ、面白いもんだね。まだ他にもできそうだね。またみたいものだ。…もう遅いからおやすみ。明日起きたら街に連れていくからね」
「ありがとうございます。こちら、お借りしますね。おやすみなさい」
・・・・・
うう、なんか声が聞こえる。うるさいな、子どもたちもう起きたのか。にしては声が低いような。今何時だろう、まだ眠いけど、朝なのか。アラーム鳴ったかな。手探りで枕元のスマホを探すが、見当たらない。
「起きたのか。おはよう」
「!!!おはようございます」
夢じゃなかった!忘れてた!危機感仕事して!!!
「ぐっすり眠れたようだね、良かった」
笑われている。ああ、昨日このまま寝ちゃったから衣装に皺が…。これしかないから仕方ないけど少し悲しい。
「じゃ、荷物を持って。…マコト、また遊びにおいで。また不思議なのを見せておくれ。私たちはここに住んでいるからね」
「…はい、ありがとうございます。必ず、必ずまた来ます」
リコさんに送ってもらい、街でお別れをする。
さて、身ぐるみ一つで街で何をしようかな。ここは海も近そうね、冷凍されていないお魚が売ってる。戸籍がないのに雇ってくれるところなんてあるかな。この世界ってどのくらい厳しいだろう。異世界ファンタジーあるある冒険者になる?でも今まで荒事なんてしたことないからな。ドラゴンがいるからそれなりに何かあるんだろうけど。
んー、そこそこ栄えている街だから、カフェ店員とかもあり?いや、履歴書もかけないし、だめだ。
噴水があるからそこの前で大道芸でもするか。幸い今は気候もいいし数日ならそこら辺で過ごせるか。
んー、天気もいいし、いっちょやるか。
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい。ここで見なきゃ損ですよ。あ、そこの可愛らしいお嬢さん、これどうぞ。さあさ、種も仕掛けもございません」
適当に花を手から出しつつ人集めをしてっと。鳩とかいたら良かったけど、仕込みができていないので、カラフルなハンカチを繋げて出したり、ボールをたくさん出してみたり、お子様向けのをやってみた。マジシャンする前はピエロもやってたことあるからそっち関係もしてもいいかもしれない。ああ、家にある荷物が懐かしい。というより地球が恋しい。
「…以上になります。ありがとうございました」
帽子をとって、空中に浮かせて一緒にお辞儀をさせたら大歓声。このままお客さんのところに帽子をすすませてっと。うん、なかなかの収穫だ。お金ゲット。デザインが円と似てる!銀貨とか金貨なのね、紙幣は高額なのかな。物価はどんな感じなんだろ。
さてと、今日はここまで、うん、とっても死にたくないな。裏路地あたりから視線が飛んでくる気がする。ここにいたら襲われる感じがしますね、はい。
「あーあ、どうしようかな」
日が暮れるまではもう少しあるし、ここにいても大丈夫だろう、多分。異能があって私が使えるとしたら一般人よりかは強くなっているはずだけど修行というかそういった武道的なものは何もしていないし、一般人の強い人よりかは弱いくらいかな…。痛いのは嫌だし、人と衝突するのも嫌だし。はてはて、困る。
「この世界はどんなところか分からないけど、向いてなさすぎる」
「…ねえ、さっきのもう一回やって」
マントを引っ張られたので、引っ張った先をみると男の子がいる。身なりがいい。それなりのお坊ちゃんかな。ああ、日本にいる子どもたち元気かな。
「いいよ、さっきのってどれかな」
「帽子が動くやつ」
「おっけー。じゃ、そこを動かないでね。そおれ!」
演出として帽子を高く上げてそこから少年の周りをくるくる回らせてみた。ふふふ、すごいでしょう。種も仕掛けもあるにはあるけど、上手でしょ。練習かなり、しました。うちの子たちもこれ、好きなんだよ。
「すげー「こら、何やってるの」…うお、姉ちゃん」
キラキラした目で帽子を見ていた少年が気まずそうな顔に変わった。お姉さんとお買い物だったのか、少年。帽子を元の位置に戻しつつ少年に声をかける。
「もうすぐ日が暮れるからおうちに帰りなさい。お迎えがきてよかったね」
「えー、まだ見てたいよー。姉ちゃん、母さんにも見せたくねえ?」
「…見せたいけど」
お、これはもしかしておうちにお呼ばれな感じ?そんな幸運なことある?神様ありがとう!そのまま私もおうちに返せ。
私は黙って様子をみている。いいぞいいぞ、このまま少年、押し切るんだ。生きるためなら年下にだって媚売れるぞ。異世界ファンタジーと思わしき世界についてから2日、幸運にも怪我せずに生きているなんてだいぶ運がいいじゃないか。
「だよなあ。じゃ、おばさん、またな」
「ありがとうございました」
そう、そういう結論になったのね、名も知らぬ少年少女。その選択は正しい。
「ええ、また見に来てくださいね。お待ちしています」
…はあ、どうするか。
・・・・・
色々あってなんやかんやあってこちらの生活も半年ほど経ちました。
拠点は変えてないけど、裏路地生活している不良グループに懐かれてそこの保母さん的存在になりました。裏路地生活、衛生面を考えなければ快適よ。まだまだ帰れなそうなんだけど。どうなってるの。
異能もどうにかこうにかしようとしているけど、こちらはどうにもならない。オーラ?モヤ?を器用に巡らせることができたくらいかな。指先から模様を書いたり、モヤモヤで遊ぶくらいならなんとか。このモヤ?オーラ?がみえない人には神の見えざる手となっているでしょう。物もつかめます。便利ね?筋トレのようなストレッチのようなことを毎日続けているけど、効果は謎。元の世界に戻れるのか。
「マコト、今日はどうするんだ?」
この子はここのリーダー役のリン。腕っぷしと頭の回転がいい。
「昨日はマジックやったから今日は違うのやるの?」
こっちはサブリーダー役のミコ。すばしっこさとお金稼ぎが得意。万引きやスリもしてたけど、私が来てからはやめさせてます。犯罪はいかんよ、犯罪は。
「あー、今日はどうしようか。なんかお金になるようなのない?家がほしい」
「まだそれ言ってんのか?文字も読めねえ、金もねえ、力もねえのにそんなのあるわけないだろ。マコトが来てからそりゃここも随分過ごしやすくなったけど、それでも金がねえのには変わりないんだから」
孤児なんだよね。孤児院や養護施設まで行かずに捨てられたとかそういう感じなのか。詳しくは聞いてないけど。そもそもそういう施設があるのかも分からないけど。
この街の人たちはそこそこ優しいから売れなくなったものとか着なくなったものとかはくれたり裏路地での生活を悪さをしない限りは見逃している感じ。世知辛い世の中よ。文字はそこそこ読めるようになったけど、まだ穴抜け状態。前途多難ではある。
「使いの者になったらお金持ちになれるよ」
ああ、それね。私も異能あるらしいけど、それって命を賭けてるやつでしょ?死んじゃう。いや、異能があったらいける?私は強くないけど、リンだったら強くなれそうな?いや、異能がどうやってあらわれるのか分からないんだけど。
「お前は使いの者になんかなれるわけないだろ。死んじまう」
リンとミコが喧嘩をし始めた。いいコンビなんだけど、どっちかがいなくなったらここは崩壊するかもしれない。その前に空き家を探してこの子たちをまとめて面倒をみたいし、戸籍がないと銀行もろもろすべてダメだし。詰んでる。
「はいはい、喧嘩はやめ。今日も広場にお金稼ぎにいくよ。休日だからね。新しい手品でもお披露目しようか」
新しい手品っていっても腕が切れた、とかそういう種も仕掛けもあるやつですね。うん、助手がいるって素晴らしい。
「はいはい、皆さまご注目!」
いつもの口上を述べてみる。ここでの変わりない日常。刺激的ではあるけど平和だったあちらの世界が懐かしい。家族は、友人はどうしているだろう。虚しいとはこういうことをいうんだろうな。大切なものたちがあちらにずっとある。異能をきちんと使いこなして、使いの者として冒険しつつ元の世界に帰る道を探すのがいいのかな。
「ねえ、今日のマジック、いつもよりキレがなかったよ」
終わったあとにミコに言われた。確かに物思いにふけりつつ、良くなかった。
「そうだぞ。まあ、俺らとか常連くらいしか分からないもんだったけどな。あー、楽しかった!今日はいい稼ぎだったな」
「んー、そうだね。ちょっと考え事しちゃってた。ちょっといいご飯を買って帰ろっかな。はい、これ、お金。みんなでご飯を買ってきてくれる?ちょっと寄るところあるからさ」
「いーよー!早く帰ってきてね」
リンとミコを見送って、人気のないところまで進む。よし、このへんでいいかな。
「もしもーし、気づいてます。えっと、なにか御用でしょうか」
「…あれ?バレちゃった?久しぶり」
ひょっこりと顔を出した人は、リコさんだ。久しぶりだなあ。
「わあ、お久しぶりです。ご無沙汰していてすみません。なかなか生活が安定してなくて…」
「いいよいいよ、近くにきたから見に来たの。元気そうで何より。マジックっていうのもいいね、すごい人気だ。隣町でも噂になっていたよ」
「ありがとうございます。新技もいくつかあの子たちとやっているんですよ」
「そうみたいだね、見てたよ。はい、これ。前のクッキーのお礼。また遊びにきてね」
リコさんたちから甘味をいただいた。もうストックも切らしていたし、あまりあげられてないから、子どもたち、喜ぶだろうな。いいお土産ができた。その後、リコさんと近況を報告しあった。
そろそろ異能試しが始まるらしい。リコさんたちも結構本気で相手にしなきゃいけないから大変、といいつつもなんだか楽しそう。岩火山が騒がしくなるからあんまり近寄らないように、とのことだった。異能試しにともない良くない輩も集まってくるらしい。
結構長く話し込んでしまったし、急いで帰らなくっちゃ。
幸せが壊れるときはいつも血の匂いがする、ああ、これはどこかの漫画の台詞だったな、そうね、なんで弱いものから死んでいくのか。異世界ファンタジーだとは思っていたけどこの世界、弱肉強食の世界っぽいから、わかっていたけど。
「ちびちゃんたち、みんな、一体…」
裏路地に帰ると血まみれで倒れているみんながいた。ちびちゃんたちは首が曲がっていてひと目で絶命しているのがわかる。
「あーあー、せっかく僕たちが聞いているのに、教えてくれないんだもの。マジックっていうの?僕たちにも教えてくれてもいいんじゃないの~?」
「リン?ミコ?」
まだ音の鳴っている方に足をすすめる。
「ちょっとちょっと~、オタクがそのマジックの親分でしょ~。僕らにも分けてくださいませんかね~」
「ちょっと、リン?ミコ?いるんでしょ?ねえ」
「…おい、聞いてんのかテメエ!!!ふざけんな!!!」
「うるさい。邪魔しないで」
手から大きなバラの花や鈴蘭が飛び出す。
「うわあああなんだこれえええ!やめろ、やめろって」
「リン、ミコ。ねえ、みんな…」
音がやんだほうに足を運ぶと変わり果てた二人がいた。顔はあまり傷はないが、手足が折れているし、下の服は着ていない。ゲス共が。リンの方はナイフが刺さってかなりの血が流れている。ミコも必死に抵抗したんだろう、目を見開いて涙の跡もある。
「ハアハア、手こずらせやがって。オイ、女の方は顔がいいから変態にでも売れそうだ。男もいけるか?」
「なんで?なんでなの?」
「おお、コイツがそうか。…なあ、お前のせいでこうなっているんだ。マジックっていうのをな、仕掛けを教えねえからさ。こいつたちも口がかてえ。何も黄泉の国まで持っていくことはないのにな。なあ、どんな気持ちだ。こいつら最期ま「うるさい。黙って」」
自分が何をしたのか分からないけど、タガが外れている気がする。さっきまで、二人とも笑っていたのに。もっと早く来ていたら?なんで?なんでこうなったの?
「ごめん、ごめんね、みんな」
「…」
リンの指が動いてる。まだ生きてる!?
「ねえ、ねえ、頑張って。ごめんね、痛いよね、苦しいよね。ごめんね」
自分のマントで包んでなんとか止血を試みる。
「お願い。治って、ごめんね、痛いよね。治って、元の世界に戻れなくていい。この傷は私が全部負うのでもいい。リン、頑張って。ねえ、貴方、パティシエになりたいっていってくれたでしょ?まだなってないよ、夢かなえてないよ。ねえ、お願い」
マントがオーラ?モヤ?に包まれたのが分かった。ミコの下の服が見つからないので自分のジャケットを被せて目を閉じさせる。首にどす黒いあとがある。
「ミコもごめんね、遅くなっちゃった。ねえ、お菓子あるんだよ。貰ったの、みんなで食べようって。ごめんね、怖かったよね、痛かったよね。綺麗にするからね。マジックのこと、ありがとうね、でも、君たちの命の方が私には大事だったよ。外にいるちびっこたちも綺麗にするからね。一緒にいたもんね、寂しくないよ」
ミコを綺麗にし終わり、周りの音が聞こえるようになったので、後ろを振り返る。アハハ、お花から足が出てる。
「ねえ、君たちはなんでこんなことをしたのかな。まあ、いいや。失われたものは戻らない。ここは弱肉強食の世界だってことすっかり忘れていたよ。もっと警戒しないといけなかったんだよね、それに危機感も足りてなかった。ここの街の人たちは優しいから、甘えていたよ」
足がじたばたしているから声は聞こえているみたい。
「そのまま聞いてくれる?ああ、大丈夫、お花さんたちには君たちを消化してもらうから大丈夫大丈夫、そのまま聞いててね。うん、私が悪かったの、そうだよね、私だけここでは大人なのに子どもたちに教わってばかりで、もっとちゃんとしないといけなかった。神様は優しくなんかないんだよね。お花さんたち、ありがとうね。そのまま続きをお願いね」
頷いているので意思疎通はできそう。小屋から一歩外にでるとまたお花がいる。こちらはなんかピクピクして麻痺してるのか死にかけ。
「お花さんたちありがとう。あ、ちびちゃんたちをさ、綺麗にできるかな?できる?じゃ、お願い」
お花さんたちが血まみれのちびちゃんを綺麗にしてくれるのでこれからのことを考える。
さて、どうしようかな。
・・・・・
この度、犯罪者を撃退したわけだけれども、この人達は賞金首とかだったりは、しないか。そんな都合のいいことはなさそう。弱かったし。まあ、ちびっこを殺害した罪で警察にきてもらえたり、しないか。
そしたら、私もお尋ね者になるな。それはちょっと避けたい。となるとこのままここに放置するしかない。みんなの遺体はここが家みたいなものだし埋めたいけど、ああ、路地裏まっすぐいったところに花の咲いている丘があるからそこに埋めよう。うん、お花さんたちに手伝ってもらえたらいいよね。あとは、そうだな、この人達は埋めておくか、生きてる?うん、じゃあ、空気吸えるように口と鼻だけだして。よし、思いついたら善は急げだ。
「お花さんたち、ちびちゃんたちやミコを運ぶよ。あとはこの人達はそう、数時間後には目が覚めるのね、ありがと、急いで埋めましょ。よろしくね」
お花を追加でだし、埋める作業とお墓づくりを並行してやる。このお花は私の異能なのかな。一般人にはどう見えているんだろう。これ、あとでしっかり考えないと。
・・・・・
作業を終えて、リンの様子をみる。まだ私のオーラ?モヤ?で包まれているからなんとなくそのままに。命は無事だったけど嬲られた跡があったな、ゲス共が。お花さんにきっちり処理してもらったけど、あー、どうしよ。旅にでるか。ここにはいられないものね。
今ならリンを運ぶのも平気なくらいだし、異能はすごいな。
お世話になった人たちに挨拶をして、みんなで出かける旨を伝える。名残惜しそうにしてくれてありがたい。またこの街に帰ってきたいものね。
「じゃ、リン、行こっか」
私の旅はここからはじまるのであった。
趣味で手品を嗜んでいるものなんですけれどもね、いやはや、駅前で手品をお披露目中に知らない場所にいました、とのことです。
メーデー案件ですね。こちら、身体にモヤ?オーラ?が見えており大変気持ちが悪いです。あと、なんとなくなのですが、これは、ずっと出し続けてたら死ぬやつです、多分ですが。チュートリアルなしの転移はきつい。
おさまれおさまれ、中には入れ…ほら、お母さんはここだよ、ここに収まるんだ。と必死にかき集め、死ぬ気でやり遂げました。死ぬかと思いました、半分くらい死んでいたんじゃ…?汗だくだし、時間の感覚はないけどだいぶ時間が経っているようだ。気持ち悪い。ナニハトモアレ、現状把握を。
ここは、知らない場所。
安全かは分からないけど、モヤをおさめてる間は何もなかった事実あり。日が傾いてきているが、夜になったら何かあるとかは、考えたくないな。
目の前は川、林?森?のような場所。ただ、拓けているし見通しも悪くはない。いや、悪いか。こちとらそこそこ都会人だったもんで判別はつかないが、キャンプ場みたいな感じか。ふむ、分からないな。
次は持ち物確認。服は手品やってたときの衣装のまま。ハットにジャケット、マジシャンローブとかだな。着替えなどの荷物はロッカーにいれていたからかないが、足元においていた看板やチラシや小道具一式、スマホや最低限の貴重品が入ってたポシェットはここにある、と。このままだと餓死一直線だ。
スマホはもちろん圏外。電池はなくなると困るから省エネにしておこう。ポータブルは荷物の中だ。
ふうむ、ここはどこだか考える必要があるみたいだな。ああ、子どもたちは元気だろうか。お母さんがこんなんですまん、冷蔵庫にあるもの、食べてくれ。何かあったら、夫、じじばば頼んだぞ。
色々なものを嗜んでいたから分かるが、これは異世界転移というやつではなかろうか。お母さんはこの手の話にとても詳しいのですが、間違いない、はず。鏡がないからわからないが、年齢も性別もそのままな感じがするし、特に美形になったというわけではないな。シワもそのままだし肌の乾燥具合もいつも通りだ。
この世界がどういったものかが謎ではあるが、さっきのモヤはなんなんだ?ファンタジーの世界にのは確実だな。モヤ?オーラ?をおさめるときに某少年漫画の念能力だと想定しておさめたら成功した、成功しているのか?まあ、一応落ち着いたけど、多分これだとまだまずそうだな。これから瞑想とかしていったらいいんだっけ。おさまったからには多分似たようなものなんだろう。魔法みたいなのも使えるのか?
昔に読んだから忘れてしまっているが、連載してないから読み返しもできてないよ、作者さん、頼む、連載開始を…っていやいや現実逃避してる場合ではない。
いや、というか元の世界に返してほしいのだけど、なんでいきなりこんなことに。夢ではないな、この感覚、現実だ。
ギャルギャルルール
バサッバサッ
えっ、怖い。なんの音?荷物を持って出来るだけ影を薄く気配を薄く私は空気、空気―…。
「ギャッギャッキャッ」
「ルルルールルルー!ギャッ」
上からなんか降ってきた…思わず目を閉じていたけど薄目を開けてみる。
!!!
化け物だ。でっかい。勝てない。逃げられない。
「おかしいねえ、ここにニンゲンの匂いがしてるよ」
「初めて嗅ぐニンゲンの匂いだ」
「そう、すぐそこに」
耳の後ろから声がしたと思ったら肩に手を置かれた。私はもう駄目だ―…
・・・・・
目を開けると洞窟の中だった。荷物は無事、服も無事。一緒に持ってきてくれたのか。
「目が覚めたかい」
あっ、そうだった。化け物が日本語を喋っていて肩に手を置かれて気を失って、それから…あら、人間?
「あ、はい。あの、助けていただいたようでありがとうございます。えっと、私はどこで?何をしていたんでしょうか」
「そりゃこっちが聞きたいよ。こんな場所にニンゲンがいるなんて聞いてない」
人間?あ、この声、さっきの?ということは化け物は人間になれるということ?ここで生活している感じがするし親切な魔物ってことか。異世界ファンタジーか?魔物がしゃべる知能の高いもの?ニンゲンってことは人間が他にもいるってことだし。
「気づいたら先程の近くにいまして、その前の記憶があやふやで…すみません。ここってどこですか」
「ここはそうさな、岩火山だな」
「ドラゴン…?」
「あまり見慣れない服を着ているじゃないか。あんなところにいたら他の奴らに殺られちまうよ。今日はここに泊まっていきな。明日街に送ってやろう」
「ご親切にありがとうございます。今って何年の何月何日か分かりますか?あとここらへんに文字の書いてある読み物ってありますか?図々しくてすみません」
「10800年の5月えーっと今日は何日だっけ「4日よ」そう、4日だ。で、文字の書いてあるやつか?ほれ、新聞だ。これでいいか」
「あ、ありがとうございます。あ、助けていただいて名乗らずすみません。私はマコトと申します。しがないマジシャンやってます。どうやってここに来たのかはわからないのですが「みたところ、使いの者だろ」…使いの者?」
「使いの者だろ?異能が使えるはずさ。ニンゲンがきたから異能試しかと思ったが随分と時期が早いと思ってね。たまに使いの者がここにやってくることもあるのさ。マジシャンといったかい?その格好と関係が?」
「あ、はい。では、助けていただいたお礼に…はい、こちらをどうぞ」
基本である花を手から出す。もちろんこれは仕込んである造花だけど。細い目が少し丸くなっているから成功かな。
「おや、驚いた。他にもできるのかい。…ああ、私はリコだ。友人のニンゲンが名付けた名前というやつだ」
リコさんが人間からドラゴンに戻る。リコさんの後ろにもチラホラと他の人の顔もみえる。様子を窺っているようだ。
「他にもできますよ。ではこちらを見ていてください」
ずっと寝かされていた場所で座っていたので立ち上がり、隣に置いてあった帽子をかぶって一礼。
「さてさて、助けていただき大変恐縮。私しがないマジシャンをやっております。こちらは種も仕掛けもございません。中には何も入っていない帽子になります。どうですか?中に入っていませんね?きちんと見てください。はい、逆さにしても、振っても何も出ませんよ。では、ここで呪文をかけますね。ワン・ツー・スリー!…リコさん、手を出してくださいね。この魔法をかけた帽子を逆さにしますと、こちら、リコさんにプレゼント。私の好きなクッキーになります。是非ご賞味を。ありがとうございました」
一礼をしてまた座る。いつの間にか他のリコさんと同じ顔の人?が増えている。リコさんの親族かな。
「へえ、面白いもんだね。まだ他にもできそうだね。またみたいものだ。…もう遅いからおやすみ。明日起きたら街に連れていくからね」
「ありがとうございます。こちら、お借りしますね。おやすみなさい」
・・・・・
うう、なんか声が聞こえる。うるさいな、子どもたちもう起きたのか。にしては声が低いような。今何時だろう、まだ眠いけど、朝なのか。アラーム鳴ったかな。手探りで枕元のスマホを探すが、見当たらない。
「起きたのか。おはよう」
「!!!おはようございます」
夢じゃなかった!忘れてた!危機感仕事して!!!
「ぐっすり眠れたようだね、良かった」
笑われている。ああ、昨日このまま寝ちゃったから衣装に皺が…。これしかないから仕方ないけど少し悲しい。
「じゃ、荷物を持って。…マコト、また遊びにおいで。また不思議なのを見せておくれ。私たちはここに住んでいるからね」
「…はい、ありがとうございます。必ず、必ずまた来ます」
リコさんに送ってもらい、街でお別れをする。
さて、身ぐるみ一つで街で何をしようかな。ここは海も近そうね、冷凍されていないお魚が売ってる。戸籍がないのに雇ってくれるところなんてあるかな。この世界ってどのくらい厳しいだろう。異世界ファンタジーあるある冒険者になる?でも今まで荒事なんてしたことないからな。ドラゴンがいるからそれなりに何かあるんだろうけど。
んー、そこそこ栄えている街だから、カフェ店員とかもあり?いや、履歴書もかけないし、だめだ。
噴水があるからそこの前で大道芸でもするか。幸い今は気候もいいし数日ならそこら辺で過ごせるか。
んー、天気もいいし、いっちょやるか。
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい。ここで見なきゃ損ですよ。あ、そこの可愛らしいお嬢さん、これどうぞ。さあさ、種も仕掛けもございません」
適当に花を手から出しつつ人集めをしてっと。鳩とかいたら良かったけど、仕込みができていないので、カラフルなハンカチを繋げて出したり、ボールをたくさん出してみたり、お子様向けのをやってみた。マジシャンする前はピエロもやってたことあるからそっち関係もしてもいいかもしれない。ああ、家にある荷物が懐かしい。というより地球が恋しい。
「…以上になります。ありがとうございました」
帽子をとって、空中に浮かせて一緒にお辞儀をさせたら大歓声。このままお客さんのところに帽子をすすませてっと。うん、なかなかの収穫だ。お金ゲット。デザインが円と似てる!銀貨とか金貨なのね、紙幣は高額なのかな。物価はどんな感じなんだろ。
さてと、今日はここまで、うん、とっても死にたくないな。裏路地あたりから視線が飛んでくる気がする。ここにいたら襲われる感じがしますね、はい。
「あーあ、どうしようかな」
日が暮れるまではもう少しあるし、ここにいても大丈夫だろう、多分。異能があって私が使えるとしたら一般人よりかは強くなっているはずだけど修行というかそういった武道的なものは何もしていないし、一般人の強い人よりかは弱いくらいかな…。痛いのは嫌だし、人と衝突するのも嫌だし。はてはて、困る。
「この世界はどんなところか分からないけど、向いてなさすぎる」
「…ねえ、さっきのもう一回やって」
マントを引っ張られたので、引っ張った先をみると男の子がいる。身なりがいい。それなりのお坊ちゃんかな。ああ、日本にいる子どもたち元気かな。
「いいよ、さっきのってどれかな」
「帽子が動くやつ」
「おっけー。じゃ、そこを動かないでね。そおれ!」
演出として帽子を高く上げてそこから少年の周りをくるくる回らせてみた。ふふふ、すごいでしょう。種も仕掛けもあるにはあるけど、上手でしょ。練習かなり、しました。うちの子たちもこれ、好きなんだよ。
「すげー「こら、何やってるの」…うお、姉ちゃん」
キラキラした目で帽子を見ていた少年が気まずそうな顔に変わった。お姉さんとお買い物だったのか、少年。帽子を元の位置に戻しつつ少年に声をかける。
「もうすぐ日が暮れるからおうちに帰りなさい。お迎えがきてよかったね」
「えー、まだ見てたいよー。姉ちゃん、母さんにも見せたくねえ?」
「…見せたいけど」
お、これはもしかしておうちにお呼ばれな感じ?そんな幸運なことある?神様ありがとう!そのまま私もおうちに返せ。
私は黙って様子をみている。いいぞいいぞ、このまま少年、押し切るんだ。生きるためなら年下にだって媚売れるぞ。異世界ファンタジーと思わしき世界についてから2日、幸運にも怪我せずに生きているなんてだいぶ運がいいじゃないか。
「だよなあ。じゃ、おばさん、またな」
「ありがとうございました」
そう、そういう結論になったのね、名も知らぬ少年少女。その選択は正しい。
「ええ、また見に来てくださいね。お待ちしています」
…はあ、どうするか。
・・・・・
色々あってなんやかんやあってこちらの生活も半年ほど経ちました。
拠点は変えてないけど、裏路地生活している不良グループに懐かれてそこの保母さん的存在になりました。裏路地生活、衛生面を考えなければ快適よ。まだまだ帰れなそうなんだけど。どうなってるの。
異能もどうにかこうにかしようとしているけど、こちらはどうにもならない。オーラ?モヤ?を器用に巡らせることができたくらいかな。指先から模様を書いたり、モヤモヤで遊ぶくらいならなんとか。このモヤ?オーラ?がみえない人には神の見えざる手となっているでしょう。物もつかめます。便利ね?筋トレのようなストレッチのようなことを毎日続けているけど、効果は謎。元の世界に戻れるのか。
「マコト、今日はどうするんだ?」
この子はここのリーダー役のリン。腕っぷしと頭の回転がいい。
「昨日はマジックやったから今日は違うのやるの?」
こっちはサブリーダー役のミコ。すばしっこさとお金稼ぎが得意。万引きやスリもしてたけど、私が来てからはやめさせてます。犯罪はいかんよ、犯罪は。
「あー、今日はどうしようか。なんかお金になるようなのない?家がほしい」
「まだそれ言ってんのか?文字も読めねえ、金もねえ、力もねえのにそんなのあるわけないだろ。マコトが来てからそりゃここも随分過ごしやすくなったけど、それでも金がねえのには変わりないんだから」
孤児なんだよね。孤児院や養護施設まで行かずに捨てられたとかそういう感じなのか。詳しくは聞いてないけど。そもそもそういう施設があるのかも分からないけど。
この街の人たちはそこそこ優しいから売れなくなったものとか着なくなったものとかはくれたり裏路地での生活を悪さをしない限りは見逃している感じ。世知辛い世の中よ。文字はそこそこ読めるようになったけど、まだ穴抜け状態。前途多難ではある。
「使いの者になったらお金持ちになれるよ」
ああ、それね。私も異能あるらしいけど、それって命を賭けてるやつでしょ?死んじゃう。いや、異能があったらいける?私は強くないけど、リンだったら強くなれそうな?いや、異能がどうやってあらわれるのか分からないんだけど。
「お前は使いの者になんかなれるわけないだろ。死んじまう」
リンとミコが喧嘩をし始めた。いいコンビなんだけど、どっちかがいなくなったらここは崩壊するかもしれない。その前に空き家を探してこの子たちをまとめて面倒をみたいし、戸籍がないと銀行もろもろすべてダメだし。詰んでる。
「はいはい、喧嘩はやめ。今日も広場にお金稼ぎにいくよ。休日だからね。新しい手品でもお披露目しようか」
新しい手品っていっても腕が切れた、とかそういう種も仕掛けもあるやつですね。うん、助手がいるって素晴らしい。
「はいはい、皆さまご注目!」
いつもの口上を述べてみる。ここでの変わりない日常。刺激的ではあるけど平和だったあちらの世界が懐かしい。家族は、友人はどうしているだろう。虚しいとはこういうことをいうんだろうな。大切なものたちがあちらにずっとある。異能をきちんと使いこなして、使いの者として冒険しつつ元の世界に帰る道を探すのがいいのかな。
「ねえ、今日のマジック、いつもよりキレがなかったよ」
終わったあとにミコに言われた。確かに物思いにふけりつつ、良くなかった。
「そうだぞ。まあ、俺らとか常連くらいしか分からないもんだったけどな。あー、楽しかった!今日はいい稼ぎだったな」
「んー、そうだね。ちょっと考え事しちゃってた。ちょっといいご飯を買って帰ろっかな。はい、これ、お金。みんなでご飯を買ってきてくれる?ちょっと寄るところあるからさ」
「いーよー!早く帰ってきてね」
リンとミコを見送って、人気のないところまで進む。よし、このへんでいいかな。
「もしもーし、気づいてます。えっと、なにか御用でしょうか」
「…あれ?バレちゃった?久しぶり」
ひょっこりと顔を出した人は、リコさんだ。久しぶりだなあ。
「わあ、お久しぶりです。ご無沙汰していてすみません。なかなか生活が安定してなくて…」
「いいよいいよ、近くにきたから見に来たの。元気そうで何より。マジックっていうのもいいね、すごい人気だ。隣町でも噂になっていたよ」
「ありがとうございます。新技もいくつかあの子たちとやっているんですよ」
「そうみたいだね、見てたよ。はい、これ。前のクッキーのお礼。また遊びにきてね」
リコさんたちから甘味をいただいた。もうストックも切らしていたし、あまりあげられてないから、子どもたち、喜ぶだろうな。いいお土産ができた。その後、リコさんと近況を報告しあった。
そろそろ異能試しが始まるらしい。リコさんたちも結構本気で相手にしなきゃいけないから大変、といいつつもなんだか楽しそう。岩火山が騒がしくなるからあんまり近寄らないように、とのことだった。異能試しにともない良くない輩も集まってくるらしい。
結構長く話し込んでしまったし、急いで帰らなくっちゃ。
幸せが壊れるときはいつも血の匂いがする、ああ、これはどこかの漫画の台詞だったな、そうね、なんで弱いものから死んでいくのか。異世界ファンタジーだとは思っていたけどこの世界、弱肉強食の世界っぽいから、わかっていたけど。
「ちびちゃんたち、みんな、一体…」
裏路地に帰ると血まみれで倒れているみんながいた。ちびちゃんたちは首が曲がっていてひと目で絶命しているのがわかる。
「あーあー、せっかく僕たちが聞いているのに、教えてくれないんだもの。マジックっていうの?僕たちにも教えてくれてもいいんじゃないの~?」
「リン?ミコ?」
まだ音の鳴っている方に足をすすめる。
「ちょっとちょっと~、オタクがそのマジックの親分でしょ~。僕らにも分けてくださいませんかね~」
「ちょっと、リン?ミコ?いるんでしょ?ねえ」
「…おい、聞いてんのかテメエ!!!ふざけんな!!!」
「うるさい。邪魔しないで」
手から大きなバラの花や鈴蘭が飛び出す。
「うわあああなんだこれえええ!やめろ、やめろって」
「リン、ミコ。ねえ、みんな…」
音がやんだほうに足を運ぶと変わり果てた二人がいた。顔はあまり傷はないが、手足が折れているし、下の服は着ていない。ゲス共が。リンの方はナイフが刺さってかなりの血が流れている。ミコも必死に抵抗したんだろう、目を見開いて涙の跡もある。
「ハアハア、手こずらせやがって。オイ、女の方は顔がいいから変態にでも売れそうだ。男もいけるか?」
「なんで?なんでなの?」
「おお、コイツがそうか。…なあ、お前のせいでこうなっているんだ。マジックっていうのをな、仕掛けを教えねえからさ。こいつたちも口がかてえ。何も黄泉の国まで持っていくことはないのにな。なあ、どんな気持ちだ。こいつら最期ま「うるさい。黙って」」
自分が何をしたのか分からないけど、タガが外れている気がする。さっきまで、二人とも笑っていたのに。もっと早く来ていたら?なんで?なんでこうなったの?
「ごめん、ごめんね、みんな」
「…」
リンの指が動いてる。まだ生きてる!?
「ねえ、ねえ、頑張って。ごめんね、痛いよね、苦しいよね。ごめんね」
自分のマントで包んでなんとか止血を試みる。
「お願い。治って、ごめんね、痛いよね。治って、元の世界に戻れなくていい。この傷は私が全部負うのでもいい。リン、頑張って。ねえ、貴方、パティシエになりたいっていってくれたでしょ?まだなってないよ、夢かなえてないよ。ねえ、お願い」
マントがオーラ?モヤ?に包まれたのが分かった。ミコの下の服が見つからないので自分のジャケットを被せて目を閉じさせる。首にどす黒いあとがある。
「ミコもごめんね、遅くなっちゃった。ねえ、お菓子あるんだよ。貰ったの、みんなで食べようって。ごめんね、怖かったよね、痛かったよね。綺麗にするからね。マジックのこと、ありがとうね、でも、君たちの命の方が私には大事だったよ。外にいるちびっこたちも綺麗にするからね。一緒にいたもんね、寂しくないよ」
ミコを綺麗にし終わり、周りの音が聞こえるようになったので、後ろを振り返る。アハハ、お花から足が出てる。
「ねえ、君たちはなんでこんなことをしたのかな。まあ、いいや。失われたものは戻らない。ここは弱肉強食の世界だってことすっかり忘れていたよ。もっと警戒しないといけなかったんだよね、それに危機感も足りてなかった。ここの街の人たちは優しいから、甘えていたよ」
足がじたばたしているから声は聞こえているみたい。
「そのまま聞いてくれる?ああ、大丈夫、お花さんたちには君たちを消化してもらうから大丈夫大丈夫、そのまま聞いててね。うん、私が悪かったの、そうだよね、私だけここでは大人なのに子どもたちに教わってばかりで、もっとちゃんとしないといけなかった。神様は優しくなんかないんだよね。お花さんたち、ありがとうね。そのまま続きをお願いね」
頷いているので意思疎通はできそう。小屋から一歩外にでるとまたお花がいる。こちらはなんかピクピクして麻痺してるのか死にかけ。
「お花さんたちありがとう。あ、ちびちゃんたちをさ、綺麗にできるかな?できる?じゃ、お願い」
お花さんたちが血まみれのちびちゃんを綺麗にしてくれるのでこれからのことを考える。
さて、どうしようかな。
・・・・・
この度、犯罪者を撃退したわけだけれども、この人達は賞金首とかだったりは、しないか。そんな都合のいいことはなさそう。弱かったし。まあ、ちびっこを殺害した罪で警察にきてもらえたり、しないか。
そしたら、私もお尋ね者になるな。それはちょっと避けたい。となるとこのままここに放置するしかない。みんなの遺体はここが家みたいなものだし埋めたいけど、ああ、路地裏まっすぐいったところに花の咲いている丘があるからそこに埋めよう。うん、お花さんたちに手伝ってもらえたらいいよね。あとは、そうだな、この人達は埋めておくか、生きてる?うん、じゃあ、空気吸えるように口と鼻だけだして。よし、思いついたら善は急げだ。
「お花さんたち、ちびちゃんたちやミコを運ぶよ。あとはこの人達はそう、数時間後には目が覚めるのね、ありがと、急いで埋めましょ。よろしくね」
お花を追加でだし、埋める作業とお墓づくりを並行してやる。このお花は私の異能なのかな。一般人にはどう見えているんだろう。これ、あとでしっかり考えないと。
・・・・・
作業を終えて、リンの様子をみる。まだ私のオーラ?モヤ?で包まれているからなんとなくそのままに。命は無事だったけど嬲られた跡があったな、ゲス共が。お花さんにきっちり処理してもらったけど、あー、どうしよ。旅にでるか。ここにはいられないものね。
今ならリンを運ぶのも平気なくらいだし、異能はすごいな。
お世話になった人たちに挨拶をして、みんなで出かける旨を伝える。名残惜しそうにしてくれてありがたい。またこの街に帰ってきたいものね。
「じゃ、リン、行こっか」
私の旅はここからはじまるのであった。
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