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宗教国家オセの悲劇
不死者転生57 帝国の挫折
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その日は皇帝即位20年を祝う式典が催されていた。皇帝の即位祭はある種独特だ。帝国は信仰を捨て、人の手により未知を解明し、神代の名残濃いこの世界を取り戻す事を国是としているといっても良い。そして、神話の時代、山を砕き、海を裂いた神々に対抗する軍事力をこそ正義として信仰する軍事国家である。だからこそ、華やかな式典ではなく、全軍の行軍、演習を大々的に行うのが慣例となっている。質実剛健を旨とする帝国軍でも、特別な演習として精鋭はもちろん一般兵に至るまで総動員されるこの演出は、しかし兵士への労いを兼ねる。
1週間に及ぶ皇帝の為の演習を終えた後、全ての兵士が皇帝を前に、葡萄酒を飲み干しグラスを叩き割る慣例がある。帝国の敵を飲み干し、打ち砕く様を表現したものだ。使われる葡萄酒はこの日のために専用の農園で作られた際高級品である。全ての兵士に1杯の葡萄酒を用意する為だけに結構な額の予算が使われているのだ。たった1杯、されど兵士の為だけに作られたその葡萄酒を飲み干し敵に見立てたグラスを叩き割る時、軍人として、帝国への忠誠心は嫌がおうにも高まるのだ。大切な儀式となっている。
皇帝を前に、整然と並んだ兵士たちが葡萄酒を空へ掲げる。皇帝も応えるように葡萄酒を空へ掲げるとグッと飲み干すと威勢よく地面にに叩きつける!それを確認し、兵士たちも続く。数万人の兵士がグラスを叩き割る音が大地を震わせ大気に満ちる。普段なら、この後、兵士は一斉に大地を蹴るようにして踏み抜き、皇帝へ跪くのだが、、、崩れるようにその場に倒れ始める。うめき声のような、、惚けたような声、、、頑強なはずの兵士がうな垂れたようにある者は崩れ落ちるようにして倒れ、ある者は動く死体のように緩慢な動きで彷徨い始めた。
「な、、なんだこれは!?どうなっている!!」
皇帝は目の前に広がる廃人の群れを前に驚愕し、流石に狼狽している。
「フィル!!フィルはおるか!?」
「はっ!ここにおります!」
「フィル!これはどうなっている!!」
「、、わかりません。部下に命じ残った葡萄酒を確保させております。早急に分析を行いますが、、、これだけの量の、、厳重に管理された葡萄酒にどうやって、、、」
いつも冷静なフィル上級研究員も流石に予想していなかった兵士達の変化に動揺を隠せずにいた。
「将軍!!とにかく皇帝を安全な場所へ避難させてください!」
「言われんでもわかっておるわ!皇帝陛下をお守りしろ!!」
命じられた近衛達が皇帝を守り隠しながら不測の事態に備え警戒を続けるが、それ以上のことは起きなかった。後にフィル上級研究員により成分の一部を特定することに成功した帝国は囚人を使ってその効果を検証し治療を試みたがその全てが徒労に終わることになる。帝国はたった一夜にして精強な軍隊を文字通り失うことになる。数万人の兵士が一瞬だ、一瞬で廃人のに変わったのだ。箝口令がしかれたが敵には当然この事態がわかっている。帝国はその歴史上、外敵に完全に無防備になっただけでなく、軍事力の基礎となる人材全てを失ったと言っても過言ではない。そう、全ての兵士を失ったのだ。隠し切れるものではない、、が隠さねばならない。幸いしたのは、フィル上級研究員の判断でノエル教対策の為に国境沿いを強化する為に、最低限の兵士は残されていた点だ。戦争する体力は既にないが、国境線の封鎖は出来ている。本当に最低限の兵力で、、だが。無理を通さなければならない。帝国は旧思想の周辺諸国とはうまくいっていない
のだから、、、。
そして、ただ人員が減っただけではない。治療の方法もわからぬ数万人の軍属が、、いや、亡者を抱えることになったのだ。治療ができぬ以上、彼らを養う事も管理することも難しい。。幸か不幸か、犠牲者達はまともに動く事もなく、まさにアンデットのように緩慢で、ほとんど移動する事もない。ただ、呻いているだけだ。だが、葡萄酒への強い執着はあるようで、地面に散らばったグラスの欠片を必死に舐め、、いや、食べ始めるものさえいた。口だけではない、内臓まで傷つけながらも止めることができないというように貪るのだ。大半の兵士はその行為が原因で血を撒きながら死んだが、その血が葡萄酒にでも見えたのか、生きていた兵士が死体を貪る。その光景は地獄でしかなかった。数万人の兵士が、、たった一杯の葡萄酒で全滅したのだ。
皇帝のショックは計り知れないものがあった。我が子のような、国軍の兵士たちがまさに目の前で屍人と化した。人間による世界の統治、神代からの解放を自らの代で達成すると目を輝かせていた彼にとって全てを失ったと言って良い。憔悴し、目に見えて衰えた皇帝は、わずか数日で数十年も年老いたようにやつれ精気を失ってしまったのだ。彼はショックから食事を取る事もできなくなり、祭典からわずか2週間後、崩御することになる。
1週間に及ぶ皇帝の為の演習を終えた後、全ての兵士が皇帝を前に、葡萄酒を飲み干しグラスを叩き割る慣例がある。帝国の敵を飲み干し、打ち砕く様を表現したものだ。使われる葡萄酒はこの日のために専用の農園で作られた際高級品である。全ての兵士に1杯の葡萄酒を用意する為だけに結構な額の予算が使われているのだ。たった1杯、されど兵士の為だけに作られたその葡萄酒を飲み干し敵に見立てたグラスを叩き割る時、軍人として、帝国への忠誠心は嫌がおうにも高まるのだ。大切な儀式となっている。
皇帝を前に、整然と並んだ兵士たちが葡萄酒を空へ掲げる。皇帝も応えるように葡萄酒を空へ掲げるとグッと飲み干すと威勢よく地面にに叩きつける!それを確認し、兵士たちも続く。数万人の兵士がグラスを叩き割る音が大地を震わせ大気に満ちる。普段なら、この後、兵士は一斉に大地を蹴るようにして踏み抜き、皇帝へ跪くのだが、、、崩れるようにその場に倒れ始める。うめき声のような、、惚けたような声、、、頑強なはずの兵士がうな垂れたようにある者は崩れ落ちるようにして倒れ、ある者は動く死体のように緩慢な動きで彷徨い始めた。
「な、、なんだこれは!?どうなっている!!」
皇帝は目の前に広がる廃人の群れを前に驚愕し、流石に狼狽している。
「フィル!!フィルはおるか!?」
「はっ!ここにおります!」
「フィル!これはどうなっている!!」
「、、わかりません。部下に命じ残った葡萄酒を確保させております。早急に分析を行いますが、、、これだけの量の、、厳重に管理された葡萄酒にどうやって、、、」
いつも冷静なフィル上級研究員も流石に予想していなかった兵士達の変化に動揺を隠せずにいた。
「将軍!!とにかく皇帝を安全な場所へ避難させてください!」
「言われんでもわかっておるわ!皇帝陛下をお守りしろ!!」
命じられた近衛達が皇帝を守り隠しながら不測の事態に備え警戒を続けるが、それ以上のことは起きなかった。後にフィル上級研究員により成分の一部を特定することに成功した帝国は囚人を使ってその効果を検証し治療を試みたがその全てが徒労に終わることになる。帝国はたった一夜にして精強な軍隊を文字通り失うことになる。数万人の兵士が一瞬だ、一瞬で廃人のに変わったのだ。箝口令がしかれたが敵には当然この事態がわかっている。帝国はその歴史上、外敵に完全に無防備になっただけでなく、軍事力の基礎となる人材全てを失ったと言っても過言ではない。そう、全ての兵士を失ったのだ。隠し切れるものではない、、が隠さねばならない。幸いしたのは、フィル上級研究員の判断でノエル教対策の為に国境沿いを強化する為に、最低限の兵士は残されていた点だ。戦争する体力は既にないが、国境線の封鎖は出来ている。本当に最低限の兵力で、、だが。無理を通さなければならない。帝国は旧思想の周辺諸国とはうまくいっていない
のだから、、、。
そして、ただ人員が減っただけではない。治療の方法もわからぬ数万人の軍属が、、いや、亡者を抱えることになったのだ。治療ができぬ以上、彼らを養う事も管理することも難しい。。幸か不幸か、犠牲者達はまともに動く事もなく、まさにアンデットのように緩慢で、ほとんど移動する事もない。ただ、呻いているだけだ。だが、葡萄酒への強い執着はあるようで、地面に散らばったグラスの欠片を必死に舐め、、いや、食べ始めるものさえいた。口だけではない、内臓まで傷つけながらも止めることができないというように貪るのだ。大半の兵士はその行為が原因で血を撒きながら死んだが、その血が葡萄酒にでも見えたのか、生きていた兵士が死体を貪る。その光景は地獄でしかなかった。数万人の兵士が、、たった一杯の葡萄酒で全滅したのだ。
皇帝のショックは計り知れないものがあった。我が子のような、国軍の兵士たちがまさに目の前で屍人と化した。人間による世界の統治、神代からの解放を自らの代で達成すると目を輝かせていた彼にとって全てを失ったと言って良い。憔悴し、目に見えて衰えた皇帝は、わずか数日で数十年も年老いたようにやつれ精気を失ってしまったのだ。彼はショックから食事を取る事もできなくなり、祭典からわずか2週間後、崩御することになる。
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