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宗教国家オセの悲劇
不死者転生56 魅惑の花
しおりを挟む(ご主人様、帝国の諜報と思わしき人物を捉えました。)
早い段階からノエルを排除した帝国だ。かならず探りを入れてくると思っていたが、予想通りだったな。
(ご苦労。1人とは限らないから引き続き警戒してくれ。)
(ご主人様自らに尋問されますか?)
(そうだな、、そうしよう。つれてきてくれ。)
(承知しました。)
アリアに先導される形で聖騎士に運ばれてきた諜報員、エリオットは寝台に手足を拘束され、口には真ん中に穴が空いた特製の猿轡を噛ませている。
「ご主人様、見事に捕らえてきましたよ。」
「ああ、よくやってくれたね。」
ご褒美♪ご褒美♪と聞こえてきそうな笑顔のアリアを抱き寄せ唇を奪うと甘い吐息が漏れる。
「アリア、この続きは後だ。帝国は他の国々とは違い現実的な考え方をするからな。我々の差し当たっての脅威なんだよ。」
「わかりました、、、」
口とは裏腹に巻き付いた腕を離そうとしないアリアは気にせず尋問する事にした。
聖騎士の一体に指示して水をかけるとえづきながら男は目を覚ました。
意識が覚めたエリオットは自らの身体が拘束されている事に気付き凍りつく。
「おはよう。よく眠っていたじゃないか。」
声の主を一目見て彼が魔人、、それも、先程のおぞましかった女性の魔人よりも高位の魔人であると確信し声にならない悲鳴をあげる。
「君が何者で、ここで何をしていたのかを聞きたいんだが、、、オレは暴力は好きじゃないんだ。」
その一言を聞いたアリアは「えっ??」という顔をして見てくる。抜けている所があるよな、、。
「君が自分から話したくて話す方がいいと思うんだが、、どうだ?」
穏やかな声とは裏腹に、モルモットを見るようなその瞳から慈悲を感じることはできない。
「君が帝国から来た事は分かっている。国境を封鎖し検問を強化した帝国と同じように、我々も国境への監視は強化していたからね。」
「ところでこれを知っているかね?」
その魔人は袋から白い錠剤のようなものを取り出す。
「これは我々が精製したお薬だ。飲むととても気分が良くなるから、今の君にはぴったりだと思うんだよ。」
それだけ言うと魔人は猿轡の穴から錠剤を一粒入れると水を流し込む。
むせながらも強引に飲まされたエリオットにはすぐに変化が訪れる。
恐怖心が和らぎ、、何度言えない心地よささえ感じ始めていた。瞳は虚になり、身体は弛緩したようにだらりと力を失う。あれ程悍ましかった瘴気がまるで滝の近くにいるように澄んだ空気のように感じられる。
「ご主人様?なんだか思ってたのと違いますね。」
「ん?どうなると思っていたんだ?」
「いえ、楽しくて笑ったり陽気になるのかと、、、」
「はは、そうだな。見た目はこの通り、動く死体みたいだけどな、脳内は快楽物質が溢れ出ているはずだよ。」
「よくわからないです。。」
一度、魅惑の花を使うと激しい禁断症状が出るようになる。最初の一回で脳の大脳皮質、とくに前頭葉が著しいダメージを受ける事で理性的な判断が難しくなり、本人の意思で止める事が出来なくなる。時間経過で回復することもない。
「魅惑の花の効果は6時間ほどでなくなる。その頃にまた話そう。」
不死者はそう言い残すと、アリアと言われた魔人を伴って姿を消した。
エリオットは未だかつて感じたことのない一体感を感じていた。世界はどこまでも繋がっている。自分という個の根底には、、その深い部分では全てが繋がっている。世界と繋がっている感覚は彼に死を超越きた安心感を与えていた。この世界はなんて素晴らしいのだろう??
「アリア、そろそろ6時間経つから一旦終わるぞ。」
6時間は独占できると考えたアリアに押し倒されるようにして求められ(感覚的には襲われ)、無限の体力も尽きるかもしれないと思っていたところだ。
「もう、、ですか?」
オレを愛しそうに咥えながらアリアは不満をつぶやく。
「最後に出すからしっかり味わえ。」
その言葉を聞いてより深く迎え入れるアリアに吐き出すと残り香を楽しむように執拗に咥えたまま舌を這わしてくる。
「アリア、続きはまた後でしよう。」
ふぁい、、とくぐもった返事をすると最後に強く吸い取ってアリアは口を離した。
エリオットは、先ほどまで感じていた全てに許され受け入れられていたような安心感から置き去りにされ、言葉にできない例えようのない後ろめたい感情に支配されていた。空気の流れ一つ、それどころか存在する全てが自分を脅かす何かに思えて居た堪れなく、この追い詰められるような黒い感情には名前がない。表現できない負の感情が、表現できないからこそじわりじわりと心を蝕んでいく。焦燥感とでもいうのだろうか?いや、それも違う。言葉がないのだ、この負の感情の、心を蝕む感情の名前がないのだ。表現できない、言い表せられない、それがこんなに深く苦しいとは知らなかった。解放されたい、この名前のない何かから、なんでもいい誰か、、誰か解放してくれ!!
エリオットの心の葛藤はしかし見た目にはわからなかった。怯えたように目に小刻みに震える四肢。彼は考えているようで、実は何も考えていないのかもしれない。感じているようで、そうではないのかもしれない。魅惑の虜になったエリオットは、その効果が切れた瞬間から黒いザワメキに体も心も蝕まれ、耐え難い感覚に呑み込まれていた。それは耐えようと思えば耐えられそうな、だが決して無視はできない、そういう類の苦しみだ。致命的ではない。だが、致命的になり得るかもしれない。彼の健全だった精神は弾力を失い、腐ったゴムのように引けば千切れ、押せば潰れる。正常な思考回路など既にない。
「見た目には震える子ウサギのようでなんだか可哀想ですね。」
アリアは見たままの印象を口にする。
「オレたちを見ているようで、見えていない。この会話も聞いているようで彼には聞こえていないのかもしれないな。生ある限り、薬が切れればこの状態が続くんだ。全くたいした薬だよ。」
オレは白い錠剤を取り出すと彼に見えるように持つ。
「これが欲しいだろ?」
焦点が定まらなかったエリオットの視線が震えながらも確かに捉えたのがわかる。
「あぁ、、あぁあぁあああ!!くれ!!それを!それをくれ!!」
苦しみからの解放を意味するそのちっぽけな白い錠剤を凝視しながら彼は叫ぶ!
「やってもいいが、、帝国の兵士一同にこれを振る舞いたいんだが、、良い情報を喋ればくれてやろう。」
「くれ!それをくれ!!!はやく!はやぐ!!」
たった1錠で話もできないか、、、。男の額を打ちつけるように手をあてがうと瘴気を流し込み強引い前頭葉を活性化させる。
「あぁ、、ああ、、、おでに、、なにを、、じた、、、」
憎しみのこもった視線を向け今にも襲いかかりそうな敵意を剥き出しにする男を感情を無視する。
「いいか、2度は言わんぞ。帝国兵にこれを拡める為に有益な情報を吐け!そうすれば、好きなだけこれをやる。情報がないなら、お前には2度と与えない。」
錠剤を再び見せると先程までの憎しみはキレイに消え去り、恋い焦がれるような視線をソレに向け唸り出す。
「・・・どうやら、いらないらしいな。」
ッ!!
「ま、、待って、、待って、、お願いします!言う、なんでも言うから待ってくれ!!」
「なら、、さっさと言うんだな」
額に当てた手から瘴気を注ぎ意識を保っているが、それでももう数分もすれば瘴気が更にダメージを与えて彼の自我は回復不能なレベルで破壊されるだろう。必死に有益と思える情報を喋るエリオットからは有益な情報を得る事ができた。先に捉えた尋問した諜報員から得た情報と相違なかった為、この情報は正しいとして計画に組み込んでいいだろう。
「アリア、こいつはもう用済みだ。メアに作らせたアレの食料に丁度いいだろ。」
「承知しました。それでは、聖騎士に命じてメアに届けます。」
「そうしてくれ」
用は済んだと立ち去るオレたちに向け、男の懇願する呪いのような叫び声が響き渡る。帝国兵に薬を1錠でも多く届けないといけないから、、お前にやれる余はもうない。
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