不死者転生 -救いのない物語- 転生した不死者は生きる為に侵略し美しい眷属を従える

ボロン

文字の大きさ
上 下
63 / 67
宗教国家オセの悲劇

不死者転生56 魅惑の花

しおりを挟む


(ご主人様、帝国の諜報と思わしき人物を捉えました。)

早い段階からノエルを排除した帝国だ。かならず探りを入れてくると思っていたが、予想通りだったな。

(ご苦労。1人とは限らないから引き続き警戒してくれ。)

(ご主人様自らに尋問されますか?)

(そうだな、、そうしよう。つれてきてくれ。)

(承知しました。)

アリアに先導される形で聖騎士に運ばれてきた諜報員、エリオットは寝台に手足を拘束され、口には真ん中に穴が空いた特製の猿轡を噛ませている。

「ご主人様、見事に捕らえてきましたよ。」

「ああ、よくやってくれたね。」

ご褒美♪ご褒美♪と聞こえてきそうな笑顔のアリアを抱き寄せ唇を奪うと甘い吐息が漏れる。

「アリア、この続きは後だ。帝国は他の国々とは違い現実的な考え方をするからな。我々の差し当たっての脅威なんだよ。」

「わかりました、、、」

口とは裏腹に巻き付いた腕を離そうとしないアリアは気にせず尋問する事にした。

聖騎士の一体に指示して水をかけるとえづきながら男は目を覚ました。

意識が覚めたエリオットは自らの身体が拘束されている事に気付き凍りつく。

「おはよう。よく眠っていたじゃないか。」

声の主を一目見て彼が魔人、、それも、先程のおぞましかった女性の魔人よりも高位の魔人であると確信し声にならない悲鳴をあげる。

「君が何者で、ここで何をしていたのかを聞きたいんだが、、、オレは暴力は好きじゃないんだ。」

その一言を聞いたアリアは「えっ??」という顔をして見てくる。抜けている所があるよな、、。

「君が自分から話したくて話す方がいいと思うんだが、、どうだ?」

穏やかな声とは裏腹に、モルモットを見るようなその瞳から慈悲を感じることはできない。

「君が帝国から来た事は分かっている。国境を封鎖し検問を強化した帝国と同じように、我々も国境への監視は強化していたからね。」

「ところでこれを知っているかね?」

その魔人は袋から白い錠剤のようなものを取り出す。

「これは我々が精製したお薬だ。飲むととても気分が良くなるから、今の君にはぴったりだと思うんだよ。」

それだけ言うと魔人は猿轡の穴から錠剤を一粒入れると水を流し込む。

むせながらも強引に飲まされたエリオットにはすぐに変化が訪れる。

恐怖心が和らぎ、、何度言えない心地よささえ感じ始めていた。瞳は虚になり、身体は弛緩したようにだらりと力を失う。あれ程悍ましかった瘴気がまるで滝の近くにいるように澄んだ空気のように感じられる。

「ご主人様?なんだか思ってたのと違いますね。」

「ん?どうなると思っていたんだ?」

「いえ、楽しくて笑ったり陽気になるのかと、、、」

「はは、そうだな。見た目はこの通り、動く死体アンデットみたいだけどな、脳内は快楽物質が溢れ出ているはずだよ。」

「よくわからないです。。」

一度、魅惑の花を使うと激しい禁断症状が出るようになる。最初の一回で脳の大脳皮質、とくに前頭葉が著しいダメージを受ける事で理性的な判断が難しくなり、本人の意思で止める事が出来なくなる。時間経過で回復することもない。

「魅惑の花の効果は6時間ほどでなくなる。その頃にまた話そう。」

不死者はそう言い残すと、アリアと言われた魔人を伴って姿を消した。

エリオットは未だかつて感じたことのない一体感を感じていた。世界はどこまでも繋がっている。自分という個の根底には、、その深い部分では全てが繋がっている。世界と繋がっている感覚は彼に死を超越きた安心感を与えていた。この世界はなんて素晴らしいのだろう??

「アリア、そろそろ6時間経つから一旦終わるぞ。」

6時間は独占できると考えたアリアに押し倒されるようにして求められ(感覚的には襲われ)、無限の体力も尽きるかもしれないと思っていたところだ。

「もう、、ですか?」

オレを愛しそうに咥えながらアリアは不満をつぶやく。

「最後に出すからしっかり味わえ。」

その言葉を聞いてより深く迎え入れるアリアに吐き出すと残り香を楽しむように執拗に咥えたまま舌を這わしてくる。

「アリア、続きはまた後でしよう。」

ふぁい、、とくぐもった返事をすると最後に強く吸い取ってアリアは口を離した。

エリオットは、先ほどまで感じていた全てに許され受け入れられていたような安心感から置き去りにされ、言葉にできない例えようのない後ろめたい感情に支配されていた。空気の流れ一つ、それどころか存在する全てが自分を脅かす何かに思えて居た堪れなく、この追い詰められるような黒い感情には名前がない。表現できない負の感情が、表現できないからこそじわりじわりと心を蝕んでいく。焦燥感とでもいうのだろうか?いや、それも違う。言葉がないのだ、この負の感情の、心を蝕む感情の名前がないのだ。表現できない、言い表せられない、それがこんなに深く苦しいとは知らなかった。解放されたい、この名前のない何かから、なんでもいい誰か、、誰か解放してくれ!!

エリオットの心の葛藤はしかし見た目にはわからなかった。怯えたように目に小刻みに震える四肢。彼は考えているようで、実は何も考えていないのかもしれない。感じているようで、そうではないのかもしれない。魅惑の虜になったエリオットは、その効果が切れた瞬間から黒いザワメキに体も心も蝕まれ、耐え難い感覚に呑み込まれていた。それは耐えようと思えば耐えられそうな、だが決して無視はできない、そういう類の苦しみだ。致命的ではない。だが、致命的になり得るかもしれない。彼の健全だった精神は弾力を失い、腐ったゴムのように引けば千切れ、押せば潰れる。正常な思考回路など既にない。

「見た目には震える子ウサギのようでなんだか可哀想ですね。」

アリアは見たままの印象を口にする。

「オレたちを見ているようで、見えていない。この会話も聞いているようで彼には聞こえていないのかもしれないな。生ある限り、薬が切れればこの状態が続くんだ。全くたいした薬だよ。」

オレは白い錠剤を取り出すと彼に見えるように持つ。

「これが欲しいだろ?」

焦点が定まらなかったエリオットの視線が震えながらも確かに捉えたのがわかる。

「あぁ、、あぁあぁあああ!!くれ!!それを!それをくれ!!」

苦しみからの解放を意味するそのちっぽけな白い錠剤を凝視しながら彼は叫ぶ!

「やってもいいが、、帝国の兵士一同にこれを振る舞いたいんだが、、良い情報を喋ればくれてやろう。」

「くれ!それをくれ!!!はやく!はやぐ!!」

たった1錠で話もできないか、、、。男の額を打ちつけるように手をあてがうと瘴気を流し込み強引い前頭葉を活性化させる。

「あぁ、、ああ、、、おでに、、なにを、、じた、、、」

憎しみのこもった視線を向け今にも襲いかかりそうな敵意を剥き出しにする男を感情を無視する。

「いいか、2度は言わんぞ。帝国兵にこれを拡める為に有益な情報を吐け!そうすれば、好きなだけこれをやる。情報がないなら、お前には2度と与えない。」

錠剤を再び見せると先程までの憎しみはキレイに消え去り、恋い焦がれるような視線をソレに向け唸り出す。

「・・・どうやら、いらないらしいな。」

ッ!!

「ま、、待って、、待って、、お願いします!言う、なんでも言うから待ってくれ!!」

「なら、、さっさと言うんだな」

額に当てた手から瘴気を注ぎ意識を保っているが、それでももう数分もすれば瘴気が更にダメージを与えて彼の自我は回復不能なレベルで破壊されるだろう。必死に有益と思える情報を喋るエリオットからは有益な情報を得る事ができた。から得た情報と相違なかった為、この情報は正しいとして計画に組み込んでいいだろう。

「アリア、こいつはもう用済みだ。メアに作らせたアレの食料に丁度いいだろ。」

「承知しました。それでは、聖騎士に命じてメアに届けます。」

「そうしてくれ」

用は済んだと立ち去るオレたちに向け、男の懇願する呪いのような叫び声が響き渡る。帝国兵に薬を1錠でも多く届けないといけないから、、お前にやれる余はもうない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

処理中です...