不死者転生 -救いのない物語- 転生した不死者は生きる為に侵略し美しい眷属を従える

ボロン

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不死の軍団と破滅の王

不死者転生23 浄化の塔

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「イワン!そろそろ交代だぞ」

 イワンと呼ばれた兵士は第二農場と街を繋ぐ門の警備兵をしている。言ってしまえば何一つ抜きん出たものがない平均的な兵士で、食うに困らないが出世も望めない男だ。身の丈に合わない目標もないからか、人当たりも良く皆に可愛がられている。
 詰所の兵士は皆40を越えていて、16になったばかりのイワンを息子のように可愛がってくれている。

「グレイさん、わかりました。」

 グレイはイワンの兄貴分を気取る中年の兵士で、実家が隣同士にあり、小さい頃から何かと世話になっている。年齢だけでいうなら、兄貴分というより親父という方がしっくりくる。

 農場と隣接する詰所の門番はかなり安全な仕事と言われている。普通は、外界とを繋ぐ南北の門番の務めを終えた兵士の中で実績のある者は街の有力者の護衛や街中の治安維持部隊に再配属される。給金もそれなりなので、一般の兵士にとっては最終目標と言えるだろう。

 逆に実力不足だったり減点の少ない者の中で運が良い者がここに配備されるのが通例で、失態をおかしたりで不運な者はスラムの管理業務に再配属される。給金はどちらもかわらない。

 なぜ若いイワンが安全な門兵をしていられるかというと、単純に運が良かったのだ。小鬼や魔獣が多く出現し南北の防御を固める必要がある中で新兵は足手まといになると疎がられた。それならばと農場の詰所の兵士が引き抜かれていった結果、本来なら20年は務めなければ配置されない安全な詰所に配備されるとこになったという訳だ。

願わくば、安全なここでずっと暮らしたい、、、。戦って死ぬのも、日々緊張の中で過ごすのもイワンにとっては地獄だ。給金はともかく緩いこの場所で門番ができるのなら1番良いではないか。まぁ、、給金が少ないから嫁にきたがる子も、出したがる親もいないのが辛いところだけど。一人で生きるなら、どうという事はない。

 イワンはグレイに引き継ぎを行う。ここの門番の仕事は、出入りするスラムの農奴をチェックするくらいでやることがない。外界は瘴気に満ちている為に逃亡も考えられないし、農奴は5歳になると為に、逃亡なんて発想もなくなるのだから、頭数さえ数えておけばそれで良いのだ。

「それでは、あがらせていただきますね。」

「ああ、お前もそろそろ結婚しろよ。仕事が終わった後、家族が待っていてくれるってのは悪くないぞ」

「はは、そうですよね、、、。まぁ、相手がいればですけど」

「南北と違って死ぬ危険もないんだ、逆に安心できるからお前はモテると思うぞ?まぁ、頑張れよ。」

が良ければね、、、。まぁ、早く家族を持てってのはわかってるんだ。母を安心させてやりたいしな。

「まっ、なんとかなりますよ。あれ、、どうしたんですか?」

「ん?あぁ、、これな。気付いたらできてたんだよ。なんだろうな。」

「結構痛そうですよ?大丈夫ですか??」

「不思議と痛みはないから平気だ。大丈夫だからさっさと帰れよ。またな。」

襟詰から一瞬見えただけだが、かなり深そうな、、、。
休憩所に戻り帰り支度をしていて気付いたが、他の先輩方の中に数人同じような場所に傷があったのだ。普段と様子は変わらないが、、、。

——————————————————

「グレイ、、、今夜だな。」

「ああ、あの方に喜んでいただく為にも失敗は許されない。他の連中も問題ないな?」

「問題ない。塔に俺たちが踏み込んだら、中の3人と協力して制圧後、担当の巫女様を殺害。そのままクリスタルも破壊するだけだ。たいした仕事じゃない。」

「だな。塔には6名、うち3人がこちら側だからな、一瞬でかたがつく。まぁ、、立ち話は終わりにして、、仕事をやりますか。」

そういうと、2人は塔に向かって進み始めた。

——————————————————

その日は月明かりもなく、不幸な事に雨が降っていた。一般市民は節約の為に日が沈むと寝るのが普通だ。灯りを使えるのは中流層以上と決まっている。だから、不調を訴えて夜中に助けを求めるような発想は下級市民や農奴にはない。

塔の浄化能力が失われると同時に、大量の瘴気が大気に満ち瞬く間に侵食を開始する。人々の家は機密性が高いとはお世辞にも言えない。呼吸の苦しさが瘴気による作用だと気付く者もいなかった上に、急激な瘴気濃度の上昇に意識混濁が起こり、すぐに肺が負荷に耐えられず呼吸困難を引き起こす。目を覚ますことなく人々は瞬く間に死に絶えていった。

「さすがお姉様です。」

「エリーありがとう。あの塔の周辺を制圧しても、すぐに全域を制圧する事はできないわ。火を放てば一気に落とす事はできると思うけど、、出来るだけ綺麗なままで制圧するように言われているの。後は交渉して従属させましょう。」

「メアちゃんもそれでいいわよね?」

「、、はい。。」

悔しそうに返事をするメアを抱きしめる。

「ふふ、、、かわいい。」

メアは抵抗を諦めてなすがままだ。

アリアが観察したところ、塔には6名の兵士が交代で詰めており、重要な施設の割には警備が緩かった。200年の歳月が、完全に油断を誘ったのだろう。浄化していれば瘴気由来の敵対者はまともに攻めようなんて考えないだろうから、実際に攻められたことさえなさそうだった。

 閉鎖環境の中で農地は生命線だ。カバーする為に塔の位置を調整したのだろう。農地と市街地を結ぶ詰所の近くに建っている為、消耗を気にしなければ力尽くで落とす事はたやすそうだったが、静かにスマートに攻める事にしたのだ。

 アリアは1で農地に潜入し、巡回している兵士を取り込むと、キーになる兵士の情報を得て順番に取り込んでいった。平和ボケした兵士たちは、2組で動くこともなく申し訳程度に1人で軽く巡回をしているだけだったので、簡単な作業だった。

 塔の兵士も同じだ。兵士仲間から、綺麗な女性を紹介するから、と誘われただけで無警戒について来る連中だ。200年の平和が、彼らに警戒心を失わせたのだろうか?

 南北の門番達も、外敵と言っても殆どが浄化エリアにまともに入れば幼児並に弱くなる小鬼くらいだったのだろう。夜中の不意打ちで数が多いと、たまに死傷者が出ることもあったそうだが、基本的に魔獣が出ると門を閉めて弓矢で応戦するだけなのだからたかがしれている。

 肉を得る為に周辺の森に、狩りに出るのも仕事らしく、どちらかと言えばそちらの方が危険だと認識されていた。狩った獣の肉は血抜きし解体後に塔に一時的に保管して浄化する事で食べれるようになるそうだから、手間を考えると高級品だろう。

 そんな訳で苦労した、、ということもないが、あえていうなら浄化エリアに入っている間は消耗が激しく普通の一般人と変わらない体力まで削られてしまったことくらいだろうか?あれはしんどかったな、、。

「インパクトも大事よね。エリーの首無し小鬼と、住民達をアンデッド化していつでも攻めれるように配置しましょう。夜が明けるまでに作業を終えるわよ。」

「「はい、お姉ちゃん」」

そこからは、スケルトンナイトを使って住民の死体を集め、3人でひたすら使い魔化すら作業の繰り返しだった。個別に指示する必要がないように、死体の首を切断しインパクト重視で自らの頭を持たせている。

住民や農奴などを中心に5000名近い死体の処理は流石に一晩では無理なので、200体程をなんとか処理することができた。処理しきれなかった死体は明日以降も順次対応する事になる。

街側から壮絶な状況が理解できるように死体を積み上げ、圧倒的な戦略差を見せつけるように部下達を配置する。

「2人ともありがとう。不死者様にご報告しましょう。」

「お姉ちゃん、、、私たち死体臭い。。」

「確かに、、、先に水浴びしてから戻りましょう。」

3人は完璧な仕事をやり遂げた達成感を胸に意気揚々と帰路についた。





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