おっぱい刑事(デカ)

きーぼー

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エピローグ

翔けっ!!おっぱい刑事(デカ)

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 その日、乙白刑事は、職場である愛知県警の捜査一課の部屋で、ただ一人、佇んでおり、自分の机の奥に座りながら、ぼんやりと視線を虚空に這わせていた。
早朝である為か、その部屋には、彼女の他には誰もおらず、室内には普段とは打って変わって、静寂な空気が立ち込めていた。
課内で一番の新米刑事である彼女は、誰よりも早く出勤して、お茶の用意などをするのが慣わしではあったが、今日は最近関わった事件に関する書類の整理等もあり、普段よりも、かなり早く出勤したのであった。

「うーん」

自席の奥に座ったまま、両腕を上方に伸ばして、身体をほぐす乙白刑事。
椅子に座る彼女が、その姿勢を取りながら壁に掛かった時計を、ふと見ると、時刻はちょうど朝7時を指していた。

(やっぱり、早く来すぎたわね。出勤点呼まで、だいぶあるし、屋上で、ちょっと息抜きでもしようかな)

彼女は心の内でそう考えると、自席からすっくと立ち上がり、部屋の出入り口であるドアに向かって、ゆっくりと歩き出す。
やがて、彼女が部屋から出ていくと、室内は完全に無人となり、大勢の職員たちが出勤して来るまで、その静寂が破られる事はなかった。


数分後、愛知県警のビルの屋上には、落下防止用の鉄柵にもたれながら、眼下に広がる市街地の風景に目を馳せる、乙白刑事の姿があった。
ずっと前に本田刑事から、この場所を教えられた彼女は、それ以来、気が向くと、しばしば、ここを訪れるようになっていたのだ。
彼女は、県警ビルの屋上の縁を囲うみたいに設けられた、鉄柵の内側に立ち、そこから外界に広がる市街地の様子を眺めており、その横顔は、出たばかりの朝日に照らされ、少し赤みがかって見えた。
鉄柵にもたれながら、県警ビルの周囲に広がる景色を見つめる乙白刑事の顔には、どこか感慨深げな表情が浮かんでおり、どうやら彼女は、何やら物思いに耽っている様だった。

(この職場に来てから、色々な事が、あったわね。とっても大変だったけど、充実した毎日だった気がする)

県警ビルの屋上に設けられた鉄柵に、もたれかかりながら、刑事として赴任して来てから、今に至るまでの事を、しみじみと思い返す乙白刑事。
彼女の瞳には、ビルの屋上から見える、真っ青な空が映っていた。

(これからも、大変な毎日が続くだろうけど、頑張るわ。亡くなったお父さんに、少しでも近づけるようにー)

今は亡き父の事を思う彼女が、ふと顔を上げると、その視線の先には、大きな一塊りの雲が浮いており、それが風に乗って、空をたなびいているのが見えた。
その雲の形は、何だか、人が一生懸命に走っているみたいな、いびつな姿をしており、それを見た乙白刑事は、いつも忙しくしていた父の姿を、脳裏に思い浮かべる。

「お父さーん!!!」

乙白刑事は、落下防止用の鉄柵に掴まりながら、その雲に向かって大声で叫ぶ。
彼女が見つめる中、その人の形をした雲は、空を、せわしなく駆け抜けて行くー。
すると、その時であった。

「おーい、恵子」

どこからともなく、乙白刑事を呼ぶ声がした。
彼女が驚いて、背後を振り返ると、屋上の箱型の出入り口の前に、山形刑事と本田刑事の二人が立っており、こちらの方を、じっと見つめていた。
山形刑事が、再び、乙白刑事の名前を呼んだ。

「おい、恵子。早朝パトロールに行くぞ」

その言葉を聞いた乙白刑事は、落下防止用の鉄柵から離れ、同僚たちの方へと歩み寄る。
そして、大きくうなずきながら言った。

「はいっ!山さん」


数分後、愛知県警の正面出入り口の近くには、そこからパトカーが停めてある駐車場へと急ぐ、三人の刑事たちの姿があった。
三人の先頭を行く本田刑事が、背後を歩く、山形刑事に尋ねる。

「山さん、乙白さんの事を、名前で呼ぶ様になったんですね。まぁ、「おっぱい」よりは、ずっとマシですけど。呼び捨ては、やっぱり、不味いんじゃないですか?」

すると、彼の隣を歩く乙白刑事が、首を振りながら言った。

「いいんですよ、本田さん。何だか前より、山さんとの距離が、近くなったみたいで嬉しいです」

「それじゃ、俺も君の事を、名前で呼んでいい!?け、け、恵子ってー」

すかさず、つけ込む本田刑事。
だが、乙白刑事は、横にいる本田刑事をジロリと睨むと、彼の目論みを一刀両断する。

「もーっ!駄目に、決まってるじゃないですかっ!本当にキモいですね、本田さんはー」

「あちゃーっ!」

大げさにおどける、本田刑事。
その能天気な様子を見た乙白刑事は、隣でフゥッと大きな溜息をついた。
一方、彼らの少し後ろを歩く山形刑事は、そんな二人の若手刑事の、かしましい様子を、微笑みを浮かべながら眺めていた。
こうして、街の平和を守る刑事たちの、多忙な一日が、今日もまた、幕を開けたのであった。
そして、おっぱい刑事(デカ)こと、乙白恵子刑事。
若き彼女の物語は、まだ始まったばかりー。

[完]




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