メデューサの旅 (激闘編)

きーぼー

文字の大きさ
上 下
97 / 99
変身の朝(あした)

その8

しおりを挟む
 周囲を水に満たされた深い堀に囲まれたラピータ宮殿を支える石造りの土台の上に静かに横たわるシュナン少年は石畳に載せた頭を少し震わせるとやがてうっすらとその目を開けました。
目を開けた彼が最初に見たのは視界いっぱいに広がるラーナ・メデューサの大きな泣き顔でした。
石造りの床上に横たわるシュナン少年の身体に覆いかぶさっていたメデューサは冥界へと送られたその魂を現世に呼び戻すために彼の顔の横に自分の顔をぴったりと寄せて耳元でずっと少年の名前を呼び続けていたのです。
うっすらと目を開けたシュナン少年は石床に仰向けに横たわる自分に覆いかぶさっている金髪の美しい少女がメデューサだという事にはすぐに気付きました。
なぜなら今、彼の視界いっぱいに映るその美しい少女の顔立ちは石像となる直前に彼が見たメデューサの蛇の髪の下の素顔そのままだったからです。
シュナン少年は石畳の上に載せた頭を少し浮かせると床上に横たわる自分に覆いかぶさりその顔をこちらの顔にぴったりと寄せて来ているメデューサに向かって穏やかに微笑みながら言いました。

「君の声が聞こえたよ、メデューサ。現世と冥界をつなぐ暗い道の中でもー。ありがとう。君の声のおかげで僕は迷わず戻ってこれたー」

「シュナンーッ!!」

その声を聞いたラーナ・メデューサはシュナン少年に覆いかぶさっている身体を更に密着させると少年の首根っこにまるでギュッとしがみつくみたいに手を回しました。

「良かったーっ、本当にー。おかえりなさい、シュナン!!」

シュナン少年はそんな風に自分に覆いかぶさるメデューサの肌の温もりを床上に横たえたその身に強く感じながら涙目でこちらの首筋にしがみついているメデューサの姿を石畳から少し頭を浮かせつつ優しい瞳でじっと見つめます。
そして床上で抱き合うその二人の姿を周りにいる彼らの仲間たちや地上に出現した二柱の神たちはそれぞれの顔に喜びの表情を浮かべながら暖かい視線で見守っていました。
ラピータ宮殿の上空に浮かぶ女神アルテミスは眼下の石造りの床上で重なって抱き合うシュナンとメデューサの姿を高所から見下ろしながら輝く光の中で柔らかな笑みを浮かべています。
もう一柱の神である冥皇神ハーデスは床上で横になっているシュナンと彼の上に覆いかぶさっているメデューサのすぐ側でまるで二人に寄り添う影法師の様に立っており青白く彫りの深いその顔は薄っすらと微笑んでいるように見えます。
更にそこから少し離れたラピータ宮殿の正門にやや近い場所ではシュナンの旅の仲間であるレダとボボンゴが石造りの床上に二人して立っており手を取り合ってシュナン少年の復活とメデューサの人間の姿への回帰を寿(ことほ)ぎ満面の笑顔でその顔をほころばせています。
またその近くの石畳の上には真っ二つに折れた師匠の杖が転がっており喜びのあまりか先端の円板についた大きな目をパチパチと明滅させています。
そのようにシュナンとメデューサの周りにいる者たちは冥界から舞い戻った少年の復活を心から喜びラピータ宮殿の門前で重なり合って横たわる二人の姿を遠目から見守りながら祝福していました。
けれどラピータ宮殿の門前に広がる石造りの床の上にメデューサに付き添われながら横たわる当のシュナン少年の方は冥界から帰還したばかりでまだ周囲の状況がよく分かっておらず仰向けになって寝転がった姿勢のままでキョロキョロと周りを見回すとまるで自分に添い寝をするみたいに傍らに寄り添うメデューサに向かって尋ねます。

「いったい僕がいない間に何があったんだい、メデューサ?なんだか神様まで出現してるしー。師匠やペルセウス軍はどこに行ったんだい?」

それを聞いた彼に寄り添って床上にうずくまるラーナ・メデューサは少年の横臥した身体に自分の身体を覆いかぶさるように重ねており彼の胸元に己れの顔をうずめながらその心臓の鼓動を確かめつつ静かな口調で声を発しました。 

「そうね・・・。まぁ、色々あったのよ。今、説明してあげるわ、シュナンー」

[続く]
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

メデューサの旅

きーぼー
ファンタジー
ギリシャ神話をモチーフにしたハイファンタジー。遥か昔、ギリシャ神話の時代。蛇の髪と相手を石に変える魔眼を持つ伝説の怪物、メデューサ族の生き残りの女の子ラーナ・メデューサは都から来た不思議な魔法使いの少年シュナンと共に人々を救うという「黄金の種子」を求めて長い旅に出ます。果たして彼らの旅は人類再生の端緒となるのでしょうか。こちらは2部作の前半部分になります。もし気に入って頂けたのなら後半部分(激闘編)も是非御一読下さい

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

処理中です...