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変身の朝(あした)
その8
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周囲を水に満たされた深い堀に囲まれたラピータ宮殿を支える石造りの土台の上に静かに横たわるシュナン少年は石畳に載せた頭を少し震わせるとやがてうっすらとその目を開けました。
目を開けた彼が最初に見たのは視界いっぱいに広がるラーナ・メデューサの大きな泣き顔でした。
石造りの床上に横たわるシュナン少年の身体に覆いかぶさっていたメデューサは冥界へと送られたその魂を現世に呼び戻すために彼の顔の横に自分の顔をぴったりと寄せて耳元でずっと少年の名前を呼び続けていたのです。
うっすらと目を開けたシュナン少年は石床に仰向けに横たわる自分に覆いかぶさっている金髪の美しい少女がメデューサだという事にはすぐに気付きました。
なぜなら今、彼の視界いっぱいに映るその美しい少女の顔立ちは石像となる直前に彼が見たメデューサの蛇の髪の下の素顔そのままだったからです。
シュナン少年は石畳の上に載せた頭を少し浮かせると床上に横たわる自分に覆いかぶさりその顔をこちらの顔にぴったりと寄せて来ているメデューサに向かって穏やかに微笑みながら言いました。
「君の声が聞こえたよ、メデューサ。現世と冥界をつなぐ暗い道の中でもー。ありがとう。君の声のおかげで僕は迷わず戻ってこれたー」
「シュナンーッ!!」
その声を聞いたラーナ・メデューサはシュナン少年に覆いかぶさっている身体を更に密着させると少年の首根っこにまるでギュッとしがみつくみたいに手を回しました。
「良かったーっ、本当にー。おかえりなさい、シュナン!!」
シュナン少年はそんな風に自分に覆いかぶさるメデューサの肌の温もりを床上に横たえたその身に強く感じながら涙目でこちらの首筋にしがみついているメデューサの姿を石畳から少し頭を浮かせつつ優しい瞳でじっと見つめます。
そして床上で抱き合うその二人の姿を周りにいる彼らの仲間たちや地上に出現した二柱の神たちはそれぞれの顔に喜びの表情を浮かべながら暖かい視線で見守っていました。
ラピータ宮殿の上空に浮かぶ女神アルテミスは眼下の石造りの床上で重なって抱き合うシュナンとメデューサの姿を高所から見下ろしながら輝く光の中で柔らかな笑みを浮かべています。
もう一柱の神である冥皇神ハーデスは床上で横になっているシュナンと彼の上に覆いかぶさっているメデューサのすぐ側でまるで二人に寄り添う影法師の様に立っており青白く彫りの深いその顔は薄っすらと微笑んでいるように見えます。
更にそこから少し離れたラピータ宮殿の正門にやや近い場所ではシュナンの旅の仲間であるレダとボボンゴが石造りの床上に二人して立っており手を取り合ってシュナン少年の復活とメデューサの人間の姿への回帰を寿(ことほ)ぎ満面の笑顔でその顔をほころばせています。
またその近くの石畳の上には真っ二つに折れた師匠の杖が転がっており喜びのあまりか先端の円板についた大きな目をパチパチと明滅させています。
そのようにシュナンとメデューサの周りにいる者たちは冥界から舞い戻った少年の復活を心から喜びラピータ宮殿の門前で重なり合って横たわる二人の姿を遠目から見守りながら祝福していました。
けれどラピータ宮殿の門前に広がる石造りの床の上にメデューサに付き添われながら横たわる当のシュナン少年の方は冥界から帰還したばかりでまだ周囲の状況がよく分かっておらず仰向けになって寝転がった姿勢のままでキョロキョロと周りを見回すとまるで自分に添い寝をするみたいに傍らに寄り添うメデューサに向かって尋ねます。
「いったい僕がいない間に何があったんだい、メデューサ?なんだか神様まで出現してるしー。師匠やペルセウス軍はどこに行ったんだい?」
それを聞いた彼に寄り添って床上にうずくまるラーナ・メデューサは少年の横臥した身体に自分の身体を覆いかぶさるように重ねており彼の胸元に己れの顔をうずめながらその心臓の鼓動を確かめつつ静かな口調で声を発しました。
「そうね・・・。まぁ、色々あったのよ。今、説明してあげるわ、シュナンー」
[続く]
目を開けた彼が最初に見たのは視界いっぱいに広がるラーナ・メデューサの大きな泣き顔でした。
石造りの床上に横たわるシュナン少年の身体に覆いかぶさっていたメデューサは冥界へと送られたその魂を現世に呼び戻すために彼の顔の横に自分の顔をぴったりと寄せて耳元でずっと少年の名前を呼び続けていたのです。
うっすらと目を開けたシュナン少年は石床に仰向けに横たわる自分に覆いかぶさっている金髪の美しい少女がメデューサだという事にはすぐに気付きました。
なぜなら今、彼の視界いっぱいに映るその美しい少女の顔立ちは石像となる直前に彼が見たメデューサの蛇の髪の下の素顔そのままだったからです。
シュナン少年は石畳の上に載せた頭を少し浮かせると床上に横たわる自分に覆いかぶさりその顔をこちらの顔にぴったりと寄せて来ているメデューサに向かって穏やかに微笑みながら言いました。
「君の声が聞こえたよ、メデューサ。現世と冥界をつなぐ暗い道の中でもー。ありがとう。君の声のおかげで僕は迷わず戻ってこれたー」
「シュナンーッ!!」
その声を聞いたラーナ・メデューサはシュナン少年に覆いかぶさっている身体を更に密着させると少年の首根っこにまるでギュッとしがみつくみたいに手を回しました。
「良かったーっ、本当にー。おかえりなさい、シュナン!!」
シュナン少年はそんな風に自分に覆いかぶさるメデューサの肌の温もりを床上に横たえたその身に強く感じながら涙目でこちらの首筋にしがみついているメデューサの姿を石畳から少し頭を浮かせつつ優しい瞳でじっと見つめます。
そして床上で抱き合うその二人の姿を周りにいる彼らの仲間たちや地上に出現した二柱の神たちはそれぞれの顔に喜びの表情を浮かべながら暖かい視線で見守っていました。
ラピータ宮殿の上空に浮かぶ女神アルテミスは眼下の石造りの床上で重なって抱き合うシュナンとメデューサの姿を高所から見下ろしながら輝く光の中で柔らかな笑みを浮かべています。
もう一柱の神である冥皇神ハーデスは床上で横になっているシュナンと彼の上に覆いかぶさっているメデューサのすぐ側でまるで二人に寄り添う影法師の様に立っており青白く彫りの深いその顔は薄っすらと微笑んでいるように見えます。
更にそこから少し離れたラピータ宮殿の正門にやや近い場所ではシュナンの旅の仲間であるレダとボボンゴが石造りの床上に二人して立っており手を取り合ってシュナン少年の復活とメデューサの人間の姿への回帰を寿(ことほ)ぎ満面の笑顔でその顔をほころばせています。
またその近くの石畳の上には真っ二つに折れた師匠の杖が転がっており喜びのあまりか先端の円板についた大きな目をパチパチと明滅させています。
そのようにシュナンとメデューサの周りにいる者たちは冥界から舞い戻った少年の復活を心から喜びラピータ宮殿の門前で重なり合って横たわる二人の姿を遠目から見守りながら祝福していました。
けれどラピータ宮殿の門前に広がる石造りの床の上にメデューサに付き添われながら横たわる当のシュナン少年の方は冥界から帰還したばかりでまだ周囲の状況がよく分かっておらず仰向けになって寝転がった姿勢のままでキョロキョロと周りを見回すとまるで自分に添い寝をするみたいに傍らに寄り添うメデューサに向かって尋ねます。
「いったい僕がいない間に何があったんだい、メデューサ?なんだか神様まで出現してるしー。師匠やペルセウス軍はどこに行ったんだい?」
それを聞いた彼に寄り添って床上にうずくまるラーナ・メデューサは少年の横臥した身体に自分の身体を覆いかぶさるように重ねており彼の胸元に己れの顔をうずめながらその心臓の鼓動を確かめつつ静かな口調で声を発しました。
「そうね・・・。まぁ、色々あったのよ。今、説明してあげるわ、シュナンー」
[続く]
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