メデューサの旅 (激闘編)

きーぼー

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夢見る蛇の都

その41

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 「おぉーっ、レプカールよ、死んでしまうとは何事だー」

高い土台の上に建つラピータ宮殿を、その周囲に広がる堀の中にひしめく、麾下の兵士たちと共にぐるりと包囲する馬上のペルセウス王は、自分たちが足元から取り囲んでいる、宮殿を支える高い塔みたいな土台のてっぺん部分の石造りのスペースの上で、メデューサと向かい合っていた魔神兵の巨体が、まるで砂の城のように崩れ去り、飛散したのを目撃して思わず声を上げます。
彼はシュナン少年の死後にレプカールの手によってメデューサを捕らえさせ、それからゆっくりと自軍を動かして眼前にそびえる高い塔のような土台の上に建つラピータ宮殿を制圧し、その宮殿内に眠る財宝を全て手に入れ我が物とするつもりでした。
しかし、肝心のレプカール操る魔神兵が、メデューサによって倒されたからには悠長なことは言っていられません。
ペルセウス王は自分と共に、ラピータ宮殿を支える高い土台の足元をぐるりと包囲する、周りにいる堀の中にひしめく麾下の兵士たちを鷹のような鋭い目で一べつすると、彼らに対して命令を下します。

「幻影騎士団(ミラージュ・ナイト)出撃せよ。正面の高い塔のような土台についた階段を昇り、そのてっぺんに建っているラピータ宮殿の前にいるメデューサを確保するのだ。多少手荒な事をしてもかまわん」

ペルセウス王のその言葉を受けて、ラピータ宮殿の周りに広がる堀の中にひしめいていた兵士たちの列が二つに割れ、その間に出来た道を通って、一群の兵士たちが軍の前面へと躍り出ます。
彼らは一見してすぐ判る他の兵士たちとは違う奇妙な特徴を備えていました。
それは全身を銀のフルアーマーで覆った重騎士である彼らが、更に一人一人大きな盾を持っている事でした。
その大きな盾は全体が鏡張りになっており、その盾をかざした方向の対象物を、盾の面に映し出す事が出来るようになっていました。
これは初代のペルセウス王がメデューサの先祖の一人と一騎打ちした時に、魔眼を見ずに戦うために、鏡のように磨いた盾を使用した故事にならって、ペルセウス13世が組織した秘密部隊であり、対メデューサ用の切り札ともいえる精鋭たちでした。
彼らはこの日のために、鏡の盾を使いメデューサの魔眼を直接見ずに戦う訓練を積み重ねており、自信満々の様子で隊列を組んで、ラピータ宮殿を支える高い土台についた長い階段のとば口に二列に居並ぶと、見上げるようなその長い階段を歩調を合わせて昇り始めます。
その重騎士たちは、今までいた堀の底から高い土台のてっぺんにそびえ立つラピータ宮殿の門前を目指し、その土台の側面についた縦方向に伸びる長い階段を、大きな鏡張りの盾を前方に構えながら、二列縦隊を組んで足早に駆け上っていきます。
彼らの目指す高い土台のてっぺんに建つラピータ宮殿の門前に広がる石造りのスペースの上で、シュナン少年の横臥した石像に寄り添うように立ち、そこから眼下の堀の中にひしめくペルセウス軍の方を、怒りに満ちた目で見下ろすラーナ・メデューサその人を捕らえるためにー。
しかしー。
メデューサがいるラピータ宮殿の門前を目指し、その宮殿が建つ高い土台のてっぺんへと続く土台の側面についた長い階段を、二列縦隊となって昇る件の騎士たちに突然異変が生じます。
なんと二列縦隊となって長い階段を昇り、高い塔のような土台のてっぺんに建つラピータ宮殿へ向かおうとしていた、重騎士たちが前面に掲げていた鏡張りの盾の全ての表面に、メデューサの顔が一瞬映ったかと思うと、次の瞬間には、彼らの持っていたその鏡張りの盾が一枚残らず音を立てて砕け散ったのです。
そればかりではありません。
手に持つ鏡の盾が一斉に砕け散り、驚きのあまり、宮殿を支える高い土台のてっぺんへと続く長い階段の途中で立ち往生したその騎士たちは、自分たちが目指している上方から押し寄せる謎の圧力に押されて身体のバランスを崩し、次々と階段から転げ落ちてしまいます。
一方、高い土台に支えられたラピータ宮殿の周囲に広がる堀の中にひしめく包囲軍の他の兵士たちは、自軍の精鋭部隊である「幻影騎士団」がメデューサを捕らえる為に出撃し、目の前にそびえる高い塔のような形状の土台についた縦方向に伸びる長い階段の前に整列して並び、メデューサがいるはずの頂上部に向かって、二列縦隊でその階段を昇り始めたのを見ると最初は大きな歓声を上げました。
しかし二列縦隊を組んで、堀の底からラピータ宮殿が建つてっぺん部分へとつながる、塔のような土台についている長い縦階段を昇るその騎士たちが、階段を昇っている際中に謎の圧力によって身体を押し戻され、次々と階段から転げ落ち、元々いた堀の中へと落下していくその姿を目の当たりにすると、周りの兵士たちの放つ声は歓声から一転して悲鳴へと変わります。
馬上から全軍を指揮するペルセウス王もまた、宮殿の周りに広がる堀の底から部下たちと共に、その塔のような土台の横腹についた階段を昇っていく騎士団の姿を、期待を込めて見守っていました。
けれど、メデューサがそこにいるはずのラピータ宮殿が屹立する、土台のてっぺん部分へと向かう長い階段の途中で、彼の虎の子の騎士たちが謎の圧力を受け、次々とそこから転がり落ちる無様な光景を見て思わず顔を歪めます。
彼が馬上から、ラピータ宮殿がその上に建つ、目の前にそびえ立つ高い土台の頂上をふと見上げると、そこにはラピータ宮殿の門前で仰向けになったシュナン少年の石像と、その傍らに寄り添って立つメデューサの、豆粒みたいな大きさの影の様な姿が垣間見えます。
もちろん、ペルセウス王がいる堀の底からは、高い土台のてっぺん部分に建つラピータ宮殿の前にいるメデューサが、蛇の髪の下で、どんな表情を浮かべているのかをうかがい知る事は出来ません。
しかし、堀の底から高い土台のてっぺんを見上げるペルセウス王には、そのてっぺん部分に建つラピータ宮殿の側で、シュナン少年の横臥した石像と共に佇むメデューサが、何故かこちらを文字通り見下し、あざ笑っているように見えました。
王としてのプライドを傷つけられたペルセウス王は、ついに全軍を投入して、たとえ多くの犠牲者が出たとしても、メデューサを捕らえる決意をします。
馬上で黄金の手甲に包まれた片腕を高々と上げ、自分の周りにいる堀の中にひしめく麾下の兵士たちに対して、全軍出動の命令を出すペルセウス王。
彼は腕を突き上げたまま早口で声を発すると、ラピータ宮殿を足元から支える高い土台についている、堀の底から宮殿が建つてっぺん部分へとつながる、長い縦階段の昇り口の方に兵士たちを向かわせます。

「全軍、突撃せよ。目の前にそびえる高い土台についた階段を全力で駆け上がって、てっぺんに建つラピータ宮殿を一気に制圧し、その前にいるメデューサを捕らえるのだ。数にものを言わせてな。魔眼の力で多少の犠牲が出るかも知れんが仕方がない。高い土台の上に建つラピータ宮殿に一番乗りした者には爵位と領地を与えるぞ」

ペルセウス王に従う、ラピータ宮殿を取り囲む広く深い堀の中にひしめくペルセウス軍の兵士たちは、その堀の中央付近にそびえ立つ、宮殿本体を支える長い階段がついた高い塔みたいな土台の足元を、陣列を組みながらぐるりと包囲していました。
しかし、整然と陣列を組んでラピータ宮殿を支えるその高い土台を包囲していた大勢の兵士たちは、王の命を受けてまるで雪崩を打ったように一斉に動き出します。
それは、身分の上下に関係なくメデューサを捕らえた者に、栄誉と領地を与えるという王のその言葉が、兵士たちの欲望をいたく刺激したからでした。
彼らはもはや陣形も秩序もなく、宮殿を支える塔のような土台の側面に設けられた、自分たちが今いる堀の底から宮殿が建っている頂上部へと続く、長い階段のとば口へと目を血走らせながら殺到して、我先にとその縦方向に伸びた長い階段を昇り始めます。
その長い階段の先にある高い土台のてっぺんに建つ、ラピータ宮殿の門前に広がる石造りのスペースの上で、仰向けになったシュナン少年の石像と共に佇む少女ラーナ・メデューサを捕らえる為に。
そしてその、彼らが目指すラピータ宮殿を支える高い土台のてっぺんで、シュナン少年の横臥した石像の傍らに立つメデューサはといえば、近くに寝転ぶレダとボボンゴが恐怖の表情で震える中、階段を駆け上って来るその血眼になった兵士たちを、凄まじい怒りの形相で見下ろしていました。
その小さな身体に憎しみのオーラをまとい、逆立った蛇の髪の下で真紅の魔眼を発光するように輝かせ、目元からいく筋もの血の涙を流しながらー。

[続く]
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