69 / 99
夢見る蛇の都
その23
しおりを挟む
「あいつの弱点は頭よ。頭部を切り落として完全に破壊すれば、もう身体は再生しないはず。あたしの剣が届く間合いになるまで、あいつに接近出来れば、こっちのものよ。ボボンゴ、力を貸して」
「わかった、レダ。俺の、背中、隠れろ。俺、盾にして、あいつに、近づけ。あいつの、懐、入るまで、お前守る」
ラピータ宮殿を支える高い土台の上で、魔神兵と対峙するレダとボボンゴは、互いに耳打ちをして計策を練り、目の前にそびえ立つ不死身の怪物を、一致協力して倒そうとしていました。
ボボンゴはレダをその広い背中にかばい、断続的に襲いかかる正面にそびえ立つ魔神兵の攻撃を、一身に受け続けています。
そして、魔神兵の懐に飛び込んで、そのウィークポイントである頭を破壊する作戦を立てた二人は、ボボンゴを先頭にその後ろにレダが隠れる形で直列に並ぶと、目の前の魔神兵に向かってじりじりと前進を開始します。
レプカールが内部で操縦する魔神兵は、眼下の床に直列に居並んだ二人が、ボボンゴを先頭にじりじりと接近して来るのに気付くと、その巨大な両腕で次々と攻撃を加えます。
「この異種族どもめ!打ち殺してくれるわっ!」
魔神兵の振り上げたその巨腕が、異様な唸りを上げて、レダをかばって立つボボンゴの頭上に、次々と打ち下ろされました。
一方、仲間たちのその戦う姿を、シュナンとメデューサは吟遊詩人デイスと共に、少し距離をとったラピータ宮殿の出入り口に近い場所で居並びながら、固唾を飲んで見守っていました。
レダを背後にかばいつつ、魔神兵にじりじりと近づくボボンゴのその姿を、視力を取り戻したばかりの青い瞳で見つめるシュナン少年は、手に持つ師匠の杖を血の気が無くなるほど強く握りしめています。
「だめだ・・・ボボンゴ、レダ。うかつに魔神兵に近づいては」
レダをその背中にかばいつつ、魔神兵による激しい打擲攻撃に耐えながら、少しずつ前進を続けるボボンゴは、徐々に相手との距離を詰め、眼前にそびえ立つ巨大な機械人形にいよいよ迫りつつありました。
そして、ボボンゴのタフさに業を煮やしたレプカールが、狂ったように魔神兵の腕を操り、懐に飛び込んできた巨人ボボンゴを連続で打擲したその時でした。
ボボンゴが頭上に掲げて魔神兵の打擲を防いでいた、その腕の骨が折れる音がポキリと響き、さすがの大巨人も苦痛に顔をゆがめます。
しかし、彼は苦痛に顔を歪めながらも、自分の背中に張り付いているレダに向かって叫びます。
「レダ、今っ!!!」
その声に呼応したレダが、隠れていたボボンゴの背中から、猛然と飛び出します。
すでに彼らは、手を伸ばせば届くくらいの距離にまで魔神兵に肉迫しており、レダがボボンゴの背後から飛び出してその巨体に向かって跳躍すると、件のロボットの頭部はすでに彼女の目と鼻の先にありました。
レダはその目の前にそびえ立つ、魔神兵の頭部を支える細い首に向かって、跳躍しながら、剣を大きく真横に振りかざします。
「ペガサス真空横一文字斬りーっ!!」
魔神兵の懐に入り込んだレダが、跳躍しながら横一文字に構えたその剣を、巨大な機械人形の首に目がけて振るおうとしたその時でしたー。
「きゃっ!!」
魔神兵の円筒形の巨大な身体から、光の帯の様なものが飛び出て、空中にジャンプしていたレダを、まるでロープみたいにからめ取り、その身体を拘束します。
魔神兵が発射した光の帯に、空中で拘束されたレダは、身体のコントロールを失い、まるで叩きつけられるように地面に落下します。
そしてー。
「くっ!!何っ、これっ!?」
最初はまるでロープか鞭のような形状だった、魔神兵の円筒形のボディから発射されたその光の帯は、レダが石造りの地面に落下したとたんに、まるでリングのような形状になり、彼女を身動き出来ないようガッチリと拘束しました。
リング状の光線に上半身を拘束されて地面に倒れ込み、ラピータ宮殿前の石造りの床の上で、ジダバタとあがくレダ。
「レダ!!」
地面に倒れ込んだレダの姿に驚いたボボンゴは、彼女に慌てて駆け寄ろうとします。
しかしー。
「うっ、何だ、これ。ち、力、入らない」
魔神兵の巨大なボディから、再び帯状の光線が再び発射され、今度は巨人ボボンゴの身体にグルグルと巻きつきます。
そしてまたしても、リング状に変化した件の光線に、その大きな身体を拘束されたボボンゴは、レダと同じく、ラピータ宮殿前の石造りの床の上に、バタリと倒れ込みます。
輪状の光線に身体を拘束された二人は、石の床の上でバタバタとあがき、何とか身体を起こそうとしますが、何故か力が入らず、ジタバタと地を這いずる事しか出来ません。
そんな彼らの様子を、魔神兵の内部から見つめる魔術師レプカールは、モニター越しに映る自分の足元で這いずる二人のその姿に、操縦席内でニヤリとほくそ笑みます。
「どうだ。対異種族用に開発した拘束光線の味は?身体に力が入るまい。そのリング型の光線は、お前たち異種族の生体エネルギーを吸収する働きがあるのだ。わしが、お前たちのような化け物共相手に、何も手を打っていないとでも思ったか?」
「くっ!本当に力が入らないー」
「ぐぬぬーっ、おのれーっ」
上半身を輪状の光線で拘束されて、立つ事も出来ず、石造りの床の地面で、ジタバタと這いずるレダとボボンゴ、
そんな足元の地面でうごめく二人の様子を、魔神兵の内部から冷徹な目で見下ろす魔術師レプカールは、いよいよ拘束された彼らにとどめを刺すため、魔神兵の巨大な身体を稼働させます。
魔神兵は、ずしりずしりと音を立てて歩き、近くの石床の上にまるでイモムシのように横たわる、身体を拘束されたレダとボボンゴに迫ります。
そして、その巨腕を振り上げて、眼下の地面に横たわる身動きが取れないレダたちを、打ち据えようとします。
「これで終わりだ。くたばれ」
音声機から発する耳障りな音と共に、魔神兵の巨腕が、無防備なレダたちの身体に振り下ろされようとしたその時ー。
「待てっ!!それまでだ!!」
空気を切り裂くような鋭い声が、あたり一帯に響き渡りました。
振り下ろされようとしていた魔神兵の、巨腕の動きがピタリと止まります。
驚いたレプカールが、魔神兵のモニターを声のする方へ振り向けます。
なんと、そこにはー。
「シュナン・・・」
レプカールの見つめる魔神兵の操縦席のモニター内には、自身の搭乗する魔神兵の足元近くの石床の上で、杖を構えて立つシュナン少年の姿がありました。
少し離れた場所で、メデューサたちと共に戦いの様子を見守っていたはずのシュナン少年が、いつのまにかこちらに近寄って来ており、レプカールの乗る魔神兵の足元近くに立って、その巨体を涼しい目で見上げていたのです。
戦いの場から少し離れた宮殿の出入り口に近い場所で、メデューサたちとレダたちが奮戦する姿を、固唾を飲んで見守っていたシュナン少年ですが、戦況危うしと見るや、メデューサの守りを吟遊詩人デイスに託し、自らはただ一人前に歩み出て、倒れ伏した仲間たちを守るために、魔神兵の巨体の前に立ちはだかったのです。
魔神兵の動きを制止するために、戦いの場に割り込んで来たシュナン少年は、眼前にそびえ立つ魔神兵の巨体に注意を向けながら、宮殿前の石床の上に倒れ伏したレダたちに歩み寄り、その場で膝をつきます。
そして、未だにリング状の光線によって、ぐるりと上半身を縛られ、倒れたまま動けない二人の仲間に声をかけます。
「ありがとう、レダ、ボボンゴ。本当によく戦ってくれた。僕とメデューサの為にー。でも後は僕に任せてくれ。この戦いは人間の王を決める戦いだ。だから結局は、人間同士で決着をつけるべきだと思う。たとえそのせいで、僕やメデューサの手が血塗られたとしてもー」
光の輪に拘束されながら、ラピータ宮殿の前に広がる石で出来た地面の上に転がっているレダとボボンゴは、地に這うようなその姿勢から懸命に顔を上げると、自分たちの側で床上にひざまずくシュナン少年の姿をじっと見つめます。
「シュナン、ごめんなさい・・・」
「力、及ばなかった。すまん・・・」
ラピータ宮殿の前で石床の上に膝をつくシュナン少年は、そんな二人の言葉にコクリとうなずくと、静かな口調で未だに地に伏せる彼らに告げました。
「二人共もう少しの間、辛抱しててくれー。師匠との決着をつけたらすぐに助けるからね」
シュナン少年はそう言ってから、スクッとその場に立ち上がると、目の前にそびえ立つレプカールが操る魔神兵と、あらためてラピータ宮殿を支える高い土台の上で向かい合います。
一方、魔神兵に乗る魔術師レプカールは、操縦席のモニターを通じて、足元近くに転がる仲間たちをかばうように眼下の床上に立つシュナン少年の姿を、じっと見下ろしています。
そしてそのレプカールが、魔神兵の発声装置を通して眼下に向かって発したくぐもった声が、仲間たちをかばいながら石床上に立つシュナン少年の耳に雷鳴のごとく轟きます。
「どうだ、シュナン。わしの力を思い知ったろう。まぁ、確かに対策をしていなければ危なかったがな。もう一度だけ聞くが考え直す気は無いか?おとなしくメデューサをこちらに引き渡すのー」
レプカールが魔神兵に付いた発声機を通じて、その言葉を言い終わるが早いか、眼下の石床の上に立つシュナン少年の口から怒声が発せられ、周囲の空気をビリビリと震わせます。
「くどいっ!!!」
仲間たちを傷つけられたシュナン少年は、いつになくその怒りをあらわにしており、視力が戻ったばかりの青い瞳で、眼前にそびえ立つ魔神兵の巨体を、下からにらみ上げています。
魔神兵の内部で操縦席に座る魔術師レプカールは、そんな風に眼下の床の上で、杖を片手に仁王立ちになっている弟子の姿を、外部モニターを通じて見下ろすと、操縦席の座椅子に深く身体をうずめ大きく息を吐きます。
「よく考えろ、シュナン。ペルセウス陛下とメデューサ、どちらが我々の王としてふさわしいのかをー。メデューサが王の器だとはとても思えん。あの小娘がー」
しかしシュナン少年は、レプカールのその言葉を聞くと即座に首を横に振ります。
「そんな事はありません。彼女こそ真の王です。少なくとも僕にとってはー。何故なら彼女こそ僕にとって、生涯に渡って忠を尽くすべき大切な人なのですからー」
弟子の発した、その歯の浮く様なセリフを聞いた魔術師レプカールは、魔神兵の内部でギリギリと歯ぎしりをします。
「くっ、この愚か者め、色に迷ったかー。おまえは・・・破門だ」
手に持つ師匠の杖を頭上に大きく掲げ、眼前にそびえ立つ魔神兵に向かって鋭く突き出すシュナン少年。
「望むところー」
ラピータ宮殿を支える石造りの高い土台の上で、少し距離をとって向かい合う、シュナン少年とレプカールが乗る巨大な戦闘ロボット魔神兵ー。
巨人と小人のような両者の戦いは、衆人環視の中、まるで闘技場と化したかのような石造りの高所の上で、今まさに火ぶたを切らんとしています。
こうしてシュナン少年とその魔法の師であるレプカール。
二人の魔術師の、最大にして最後の戦いがついに始まったのです。
[続く]
「わかった、レダ。俺の、背中、隠れろ。俺、盾にして、あいつに、近づけ。あいつの、懐、入るまで、お前守る」
ラピータ宮殿を支える高い土台の上で、魔神兵と対峙するレダとボボンゴは、互いに耳打ちをして計策を練り、目の前にそびえ立つ不死身の怪物を、一致協力して倒そうとしていました。
ボボンゴはレダをその広い背中にかばい、断続的に襲いかかる正面にそびえ立つ魔神兵の攻撃を、一身に受け続けています。
そして、魔神兵の懐に飛び込んで、そのウィークポイントである頭を破壊する作戦を立てた二人は、ボボンゴを先頭にその後ろにレダが隠れる形で直列に並ぶと、目の前の魔神兵に向かってじりじりと前進を開始します。
レプカールが内部で操縦する魔神兵は、眼下の床に直列に居並んだ二人が、ボボンゴを先頭にじりじりと接近して来るのに気付くと、その巨大な両腕で次々と攻撃を加えます。
「この異種族どもめ!打ち殺してくれるわっ!」
魔神兵の振り上げたその巨腕が、異様な唸りを上げて、レダをかばって立つボボンゴの頭上に、次々と打ち下ろされました。
一方、仲間たちのその戦う姿を、シュナンとメデューサは吟遊詩人デイスと共に、少し距離をとったラピータ宮殿の出入り口に近い場所で居並びながら、固唾を飲んで見守っていました。
レダを背後にかばいつつ、魔神兵にじりじりと近づくボボンゴのその姿を、視力を取り戻したばかりの青い瞳で見つめるシュナン少年は、手に持つ師匠の杖を血の気が無くなるほど強く握りしめています。
「だめだ・・・ボボンゴ、レダ。うかつに魔神兵に近づいては」
レダをその背中にかばいつつ、魔神兵による激しい打擲攻撃に耐えながら、少しずつ前進を続けるボボンゴは、徐々に相手との距離を詰め、眼前にそびえ立つ巨大な機械人形にいよいよ迫りつつありました。
そして、ボボンゴのタフさに業を煮やしたレプカールが、狂ったように魔神兵の腕を操り、懐に飛び込んできた巨人ボボンゴを連続で打擲したその時でした。
ボボンゴが頭上に掲げて魔神兵の打擲を防いでいた、その腕の骨が折れる音がポキリと響き、さすがの大巨人も苦痛に顔をゆがめます。
しかし、彼は苦痛に顔を歪めながらも、自分の背中に張り付いているレダに向かって叫びます。
「レダ、今っ!!!」
その声に呼応したレダが、隠れていたボボンゴの背中から、猛然と飛び出します。
すでに彼らは、手を伸ばせば届くくらいの距離にまで魔神兵に肉迫しており、レダがボボンゴの背後から飛び出してその巨体に向かって跳躍すると、件のロボットの頭部はすでに彼女の目と鼻の先にありました。
レダはその目の前にそびえ立つ、魔神兵の頭部を支える細い首に向かって、跳躍しながら、剣を大きく真横に振りかざします。
「ペガサス真空横一文字斬りーっ!!」
魔神兵の懐に入り込んだレダが、跳躍しながら横一文字に構えたその剣を、巨大な機械人形の首に目がけて振るおうとしたその時でしたー。
「きゃっ!!」
魔神兵の円筒形の巨大な身体から、光の帯の様なものが飛び出て、空中にジャンプしていたレダを、まるでロープみたいにからめ取り、その身体を拘束します。
魔神兵が発射した光の帯に、空中で拘束されたレダは、身体のコントロールを失い、まるで叩きつけられるように地面に落下します。
そしてー。
「くっ!!何っ、これっ!?」
最初はまるでロープか鞭のような形状だった、魔神兵の円筒形のボディから発射されたその光の帯は、レダが石造りの地面に落下したとたんに、まるでリングのような形状になり、彼女を身動き出来ないようガッチリと拘束しました。
リング状の光線に上半身を拘束されて地面に倒れ込み、ラピータ宮殿前の石造りの床の上で、ジダバタとあがくレダ。
「レダ!!」
地面に倒れ込んだレダの姿に驚いたボボンゴは、彼女に慌てて駆け寄ろうとします。
しかしー。
「うっ、何だ、これ。ち、力、入らない」
魔神兵の巨大なボディから、再び帯状の光線が再び発射され、今度は巨人ボボンゴの身体にグルグルと巻きつきます。
そしてまたしても、リング状に変化した件の光線に、その大きな身体を拘束されたボボンゴは、レダと同じく、ラピータ宮殿前の石造りの床の上に、バタリと倒れ込みます。
輪状の光線に身体を拘束された二人は、石の床の上でバタバタとあがき、何とか身体を起こそうとしますが、何故か力が入らず、ジタバタと地を這いずる事しか出来ません。
そんな彼らの様子を、魔神兵の内部から見つめる魔術師レプカールは、モニター越しに映る自分の足元で這いずる二人のその姿に、操縦席内でニヤリとほくそ笑みます。
「どうだ。対異種族用に開発した拘束光線の味は?身体に力が入るまい。そのリング型の光線は、お前たち異種族の生体エネルギーを吸収する働きがあるのだ。わしが、お前たちのような化け物共相手に、何も手を打っていないとでも思ったか?」
「くっ!本当に力が入らないー」
「ぐぬぬーっ、おのれーっ」
上半身を輪状の光線で拘束されて、立つ事も出来ず、石造りの床の地面で、ジタバタと這いずるレダとボボンゴ、
そんな足元の地面でうごめく二人の様子を、魔神兵の内部から冷徹な目で見下ろす魔術師レプカールは、いよいよ拘束された彼らにとどめを刺すため、魔神兵の巨大な身体を稼働させます。
魔神兵は、ずしりずしりと音を立てて歩き、近くの石床の上にまるでイモムシのように横たわる、身体を拘束されたレダとボボンゴに迫ります。
そして、その巨腕を振り上げて、眼下の地面に横たわる身動きが取れないレダたちを、打ち据えようとします。
「これで終わりだ。くたばれ」
音声機から発する耳障りな音と共に、魔神兵の巨腕が、無防備なレダたちの身体に振り下ろされようとしたその時ー。
「待てっ!!それまでだ!!」
空気を切り裂くような鋭い声が、あたり一帯に響き渡りました。
振り下ろされようとしていた魔神兵の、巨腕の動きがピタリと止まります。
驚いたレプカールが、魔神兵のモニターを声のする方へ振り向けます。
なんと、そこにはー。
「シュナン・・・」
レプカールの見つめる魔神兵の操縦席のモニター内には、自身の搭乗する魔神兵の足元近くの石床の上で、杖を構えて立つシュナン少年の姿がありました。
少し離れた場所で、メデューサたちと共に戦いの様子を見守っていたはずのシュナン少年が、いつのまにかこちらに近寄って来ており、レプカールの乗る魔神兵の足元近くに立って、その巨体を涼しい目で見上げていたのです。
戦いの場から少し離れた宮殿の出入り口に近い場所で、メデューサたちとレダたちが奮戦する姿を、固唾を飲んで見守っていたシュナン少年ですが、戦況危うしと見るや、メデューサの守りを吟遊詩人デイスに託し、自らはただ一人前に歩み出て、倒れ伏した仲間たちを守るために、魔神兵の巨体の前に立ちはだかったのです。
魔神兵の動きを制止するために、戦いの場に割り込んで来たシュナン少年は、眼前にそびえ立つ魔神兵の巨体に注意を向けながら、宮殿前の石床の上に倒れ伏したレダたちに歩み寄り、その場で膝をつきます。
そして、未だにリング状の光線によって、ぐるりと上半身を縛られ、倒れたまま動けない二人の仲間に声をかけます。
「ありがとう、レダ、ボボンゴ。本当によく戦ってくれた。僕とメデューサの為にー。でも後は僕に任せてくれ。この戦いは人間の王を決める戦いだ。だから結局は、人間同士で決着をつけるべきだと思う。たとえそのせいで、僕やメデューサの手が血塗られたとしてもー」
光の輪に拘束されながら、ラピータ宮殿の前に広がる石で出来た地面の上に転がっているレダとボボンゴは、地に這うようなその姿勢から懸命に顔を上げると、自分たちの側で床上にひざまずくシュナン少年の姿をじっと見つめます。
「シュナン、ごめんなさい・・・」
「力、及ばなかった。すまん・・・」
ラピータ宮殿の前で石床の上に膝をつくシュナン少年は、そんな二人の言葉にコクリとうなずくと、静かな口調で未だに地に伏せる彼らに告げました。
「二人共もう少しの間、辛抱しててくれー。師匠との決着をつけたらすぐに助けるからね」
シュナン少年はそう言ってから、スクッとその場に立ち上がると、目の前にそびえ立つレプカールが操る魔神兵と、あらためてラピータ宮殿を支える高い土台の上で向かい合います。
一方、魔神兵に乗る魔術師レプカールは、操縦席のモニターを通じて、足元近くに転がる仲間たちをかばうように眼下の床上に立つシュナン少年の姿を、じっと見下ろしています。
そしてそのレプカールが、魔神兵の発声装置を通して眼下に向かって発したくぐもった声が、仲間たちをかばいながら石床上に立つシュナン少年の耳に雷鳴のごとく轟きます。
「どうだ、シュナン。わしの力を思い知ったろう。まぁ、確かに対策をしていなければ危なかったがな。もう一度だけ聞くが考え直す気は無いか?おとなしくメデューサをこちらに引き渡すのー」
レプカールが魔神兵に付いた発声機を通じて、その言葉を言い終わるが早いか、眼下の石床の上に立つシュナン少年の口から怒声が発せられ、周囲の空気をビリビリと震わせます。
「くどいっ!!!」
仲間たちを傷つけられたシュナン少年は、いつになくその怒りをあらわにしており、視力が戻ったばかりの青い瞳で、眼前にそびえ立つ魔神兵の巨体を、下からにらみ上げています。
魔神兵の内部で操縦席に座る魔術師レプカールは、そんな風に眼下の床の上で、杖を片手に仁王立ちになっている弟子の姿を、外部モニターを通じて見下ろすと、操縦席の座椅子に深く身体をうずめ大きく息を吐きます。
「よく考えろ、シュナン。ペルセウス陛下とメデューサ、どちらが我々の王としてふさわしいのかをー。メデューサが王の器だとはとても思えん。あの小娘がー」
しかしシュナン少年は、レプカールのその言葉を聞くと即座に首を横に振ります。
「そんな事はありません。彼女こそ真の王です。少なくとも僕にとってはー。何故なら彼女こそ僕にとって、生涯に渡って忠を尽くすべき大切な人なのですからー」
弟子の発した、その歯の浮く様なセリフを聞いた魔術師レプカールは、魔神兵の内部でギリギリと歯ぎしりをします。
「くっ、この愚か者め、色に迷ったかー。おまえは・・・破門だ」
手に持つ師匠の杖を頭上に大きく掲げ、眼前にそびえ立つ魔神兵に向かって鋭く突き出すシュナン少年。
「望むところー」
ラピータ宮殿を支える石造りの高い土台の上で、少し距離をとって向かい合う、シュナン少年とレプカールが乗る巨大な戦闘ロボット魔神兵ー。
巨人と小人のような両者の戦いは、衆人環視の中、まるで闘技場と化したかのような石造りの高所の上で、今まさに火ぶたを切らんとしています。
こうしてシュナン少年とその魔法の師であるレプカール。
二人の魔術師の、最大にして最後の戦いがついに始まったのです。
[続く]
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。
皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する
真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。
蜜柑
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。
妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる