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夢見る蛇の都
その21
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高い土台に支えられたラピータ宮殿の前で衆人環視の中、レプカールの乗る巨大な機械人形「魔神兵」とにらみ合うレダとボボンゴ。
少し離れた宮殿の出入り口に近い場所では、シュナンを初めとする他の三人の仲間たちが肩を寄せ合って立っており、これから始まる戦いの様子を固唾を呑んで見守っています。
また、ラピータ宮殿を支える高い土台は周りを広い堀で囲まれており、その堀の中ではペルセウス王の軍勢がひしめき合いながら一斉に上を見上げ、高い土台のてっぺんに建つ宮殿の前で今から展開するであろう激しい戦いの行方を、やはり注視しています。
まるで闘技場か武闘会の会場の様な状態になったラピータ宮殿の周囲ですが、その異様な雰囲気の中で、レプカールの乗る巨大なロボット魔神兵とシュナンの仲間たちとの激しい戦いがついに始まります。
衆人環視の中、ラピータ宮殿の建つ高い塔の様な土台の上で、魔術師レプカールが操る魔神兵と距離を取ってにらみ合うレダとボボンゴ。
レダはペガサスの剣を正眼に構えて、また巨人ボボンゴは全身に力をみなぎらせて、眼前にそびえ立つ、三階建ての建物ぐらいの大きさを持つ巨大な機械人形と対峙していました。
魔術師レプカールは、そんな眼下に立つ二人をモニター越しに見下ろしながら、魔神兵の内部の操縦席にその身をうずめ、冷静に状況を分析すると、いよいよ彼らに対して攻撃を開始します。
「この異種族どもめ。お前らの時代はとうの昔に終わっているのだ。これからは我々、人間の時代だ。今からその事をわからせてやる」
魔神兵のスピーカーからレプカールのくぐもった声が響くと同時に、その巨体の内部のモーターが唸りを上げ、かのロボットの巨大な片方の腕が、眼下に立つ巨人ボボンゴに向かって振り下ろされます。
魔神兵の腕は、円筒形の巨大な胴体から突き出た細い棒の様な上腕の先に大きな分銅状の前腕部がついている、全体的には棒アイスみたいな形をしており、更にその先端の手の部分は可動する球型のころになっていて、そこから3本指のかぎ爪が生えています。
その先端にかぎ爪のついた丸っこい手の部分だけでも、ボボンゴをわしづかみに出来るほど大きく、そんな巨大な腕が、うなりを上げて振り下ろされたのだからたまったものではありません。
ラピータ宮殿を支える高い土台の上に、レダと共に立つ巨人ボボンゴの頭上に、無慈悲に振り下ろされた、巨大なハンマーの如き魔神兵の腕が迫ります。
魔神兵を内部から操る魔術師レプカールは、その強烈な殴打による攻撃で、ボボンゴの身体を一撃で粉砕し、葬り去るつもりでした。
ブゥゥーンという異様な風切り音と共に、ボボンゴの頭上に魔神兵の巨大な分銅状の腕が落下します。
その巨大な腕はボボンゴを直撃し、彼は無残にも押しつぶされた様に見えました。
ところがー。
ガシッ!!!
「な、何ーっ!!!」
魔神兵の内部の操縦席に座る魔術師レプカールの顔が、驚愕の表情を浮かべます。
なんと巨人ボボンゴは、頭上から振り下ろされた魔神兵の大きな腕を真正面から受け止め、そのかぎ爪のついた丸っこい拳を、たくましい双腕で羽交い締めにするみたいにがっしりと捕らえていました。
魔神兵のかぎ爪がついた拳は、巨人であるボボンゴが両腕をいっぱいに拡げて、やっと腕の中に収める事が出来るぐらいに大きく、彼は何かにしがみつくような姿勢をとりながら、全身の筋肉を使って、ようやくその大岩みたいな拳を受け止めています。
「なんという、怪力だ。信じられん」
ボボンゴが魔神兵の巨大な拳を受け止めた事に対して驚愕する魔術師レプカール。
慌てた彼は魔神兵の腕を操縦して、眼下のボボンゴが身体の正面でがっしりと捕らえている魔神兵の拳を、ボボンゴの懐の中から引き抜こうとします。
しかしー。
「ぬ、抜けんーっ」
なんと、ボボンゴが身体の正面で受け止めている魔神兵の巨大な拳は、彼の左右の剛腕でがっしりと捕らえられており、レプカールがその拳をボボンゴの懐の中から引き抜こうと思っても、ピクリとも動かなかったのです。
「お、おのれ化け物め!!」
レプカールは操縦桿を激しく動かして、何とか魔神兵の片腕をボボンゴの懐の中から引き抜こうとしましたが、そのかぎ爪の付いた丸っこい拳は、巨人である彼のたくましい両腕で締め付けるように捕らえられており、どうしても引き抜く事が出来ません。
そしてボボンゴは、魔神兵の巨大な拳を両腕で捕らえながら、その拳を懸命に引き抜こうとしている魔神兵と引っ張り合いをするような姿勢のまま、隣に立つレダに向かって叫びます。
「レダ!!今っ!!」
レプカールが操縦する魔神兵は、その片方の拳をしっかりとボボンゴに捕らえてられており、片腕が拘束されて自由に動けない状態でした。
ボボンゴは、一方の腕を拘束された魔神兵が自分と引っ張り合いをしている今こそが、絶好の攻撃のチャンスだと考え、隣に立つレダに呼びかけたのです。
「わかったわ!!」
ボボンゴの言葉に応えて剣を構え直し、魔神兵に突っ込む体勢をとるペガサスの少女レダ。
しかし、その事に気付いたレプカールが乗る魔神兵は、ボボンゴに片腕を拘束されたままの状態で、もう一方の腕をレダに向かって振り下ろします。
ブーン!!!
異様な風切り音と共に、先端が分銅みたいになっている魔神兵の腕が、レダが立っている地面に向かって振り下ろされます。
ガツンッ!!!
レプカールの操縦する魔神兵の腕が、ラピータ宮殿を支える高い土台の上に落下し、その先端についたかぎ爪が、石造りの床を激しく粉砕します。
しかし、そこに立っているはずのレダの姿はすでにありません。
魔神兵のハンマーのような腕が、むなしく地面を叩いた事に気付いた魔神兵を操縦するレプカールは、魔神兵の片腕をボボンゴにつかまれたまま、頭部のモニターで視界から消え失せたレダの姿を捜し求めます。
その時、レダの放つ甲高い声がはるか上空から響いて来ました。
「ここよっ!のろまっ!!」
レダのその声は、魔神兵の内部にいる魔術師レプカールの耳にも届き、彼は操縦席についたモニターを、すぐに声がした頭上の方角へと振り向けます。
すると、そこにはー。
「何いっ!?あれはー」
レプカールが驚きのあまり目を大きく見開くのも仕方のない事でした。
彼が見た魔神兵のモニターの画面の中には、上空を天翔ける白鳥のように飛ぶレダの姿が映っていたからです。
しかし、彼女はいつものようにペガサスに変身したわけではありませんでした。
その姿は上下の革製の黒ビキニに、両肩には肩パッド、両腕の上腕部には手甲をつけており、両足にはブーツを履いています。
つまりは、いつもの通りの人間の姿だったのですが、それにも関わらず彼女は空を飛んでいました。
一体、何故ー。
信じ難い事に彼女の背中には、一対の大きな翼が生えていました。
まるで天使のようにー。
これは身体の一部だけをペガサス形態に変える、天馬族に伝わる秘技であり、いわば裏技でした。
長剣を手にして天翔けるその姿は、まさしく伝説の戦乙女「ヴァルキリー」の再来でした。
「天使形態」になったレダは、その美しい両翼で天高く舞い上がります。
そして、ボボンゴに片腕を拘束されて自由に動けない、レプカールが操る巨大なロボット、魔神兵に向かってその身体を急降下させました。
レダは天使のような姿で上空から身体を急降下させると、それと同時に、手にした剣を大上段の構えから真一文字に振り下ろし、真下にいる魔神兵に対して必殺の一撃を加えます。
「ペガサス流奥義!!天空唐竹割りーっ!!!」
レダは天使形態のその身体を急降下させると同時に、真一文字に剣を振るい、ボボンゴにつかまれて拘束された魔神兵の片腕を、肩口から文字通り真っ二つに切り落とします。
レダに切り落とされたその巨大な腕は、ボボンゴがつかんでいたその拳を放すと同時に、ラピータ宮殿を支える高い土台の上から、ペルセウス王の軍勢のひしめく堀の中へと、音も無く落下して行きます。
その落下した腕は、ラピータ宮殿の周りに広がる堀の中にひしめく宮殿を包囲する兵士たちが立つ、石で出来た地面の間に粉塵を立てて激突し、逃げ遅れた何人かの兵士が巨大な腕の下敷きになりました。
そして、すぐ側で生じたそんな事態にも、平然とした態度を崩さない馬上のペルセウス王は、堀の中で大勢の部下に囲まれながら、冷徹な眼で高所で行われている激しい戦いの様子を見上げます。
「やれやれ、どうやら少し手こずっているようだな。レプカール」
ペルセウス王の言う通り、レプカールの搭乗する魔神兵は、レダとボボンゴとのコンビによる攻撃により、大ダメージを受けていました。
レダの必殺剣によって、片方の肩口から先をスッパリと斬り落とされた魔神兵は、完全に身体のバランスを崩し、その巨体はラピータ宮殿を支える高い土台の上で徐々に傾いて行きます。
「ぐうーっ!!おのれーっ!!!」
大きく傾きつつある魔神兵の内部で、悔しげな声を上げる魔術師レプカール。
やがて彼が操縦する魔神兵の巨体は、ラピータ宮殿を支える高い土台の上に崩れ落ち、その片膝をガクンと宮殿前に広がる石造りの床につきます。
一方、レダは、剣を片手にその天使の翼をはためかせながら、空中から身体を降下させ、ラピータ宮殿を背に仁王立ちになっているボボンゴの側に、フワリと降り立ちます。
レダとボボンゴが居並ぶ目の前には、レプカールが操縦する魔神兵が肩口から片腕を切り落とされ、バランスを崩したのか、宮殿前の石造りの床に片膝を落とした姿で、その巨体をうずくまらせています。
そんな風に片腕を肩から切り落とされ、大ダメージを受けた魔神兵と、ラピータ宮殿を支える高い土台の上で、少し距離をとって対峙するレダとボボンゴのコンビは、再び連携攻撃を仕掛けてその巨大な機械人形を完全に破壊しようと、慎重に機をうかがっています。
ちなみにレダは、空中から降り立つと同時に、背中に生やした翼を体内に吸収して、天使の姿から通常の人間体の姿に戻っていました。
それは、中途半端な変身は、彼女の肉体と精神をいちじるしく消耗させるからでした。
そして、そんなレダが隣に立つボボンゴと目配せをして、彼と共に魔神兵にとどめを刺す為に、再度攻撃を仕掛けんとしたその瞬間に、目の前にうずくまる魔神兵の傷ついた身体に異変が起こります。
「あ、あれ、見ろっ!!レダ!!」
魔神兵に起こった異変を見て巨人ボボンゴが叫びます。
「ーっ、再生、してる」
剣を正眼に身構えて立つレダも、眼前の石床にうずくまる魔神兵に起こった異変に、その目を丸くします。
レダたちが驚くのも無理はありません。
なんとレダが言った通り、彼女とボボンゴとの協力プレイによって切り落としたはずの魔神兵の片腕が、肩口の切断面からまた生えてきて、あっという間に元の通りに再生してしまったのです。
片腕を失った魔神兵の切り落とされた肩口から、黒い泡のようなものがボコボコと吹き出すと、その泡は見る見るうちに巨大ロボの失われた腕の形に変形していきます。
そしてー。
瞬く間にその切り落とされた片腕は元通りに再生し、いつのまにか魔神兵の生体金属で出来た巨体は、ダメージを受ける前と全く同じ姿で、レダとボボンゴの前にそびえ立っていました。
あまりの事に魔神兵と向かい合いながら、その顔に愕然とした表情を浮かべるレダとボボンゴ。
魔術師レプカールは、魔神兵の内部からそんな二人の様子をモニター越しに見下ろして、ニヤリとほくそ笑みます。
「クククッ、驚いたか。この魔神兵は、無限の再生能力を備えているのだ。少々のダメージを受けたところでどうという事もないわ」
魔神兵の音声装置を通じて聞こえる、魔術師レプカールの渇いた笑い声が、高い土台に支えられたラピータ宮殿の門前に、耳障りな残響音と共に鳴り響きました。
[続く]
少し離れた宮殿の出入り口に近い場所では、シュナンを初めとする他の三人の仲間たちが肩を寄せ合って立っており、これから始まる戦いの様子を固唾を呑んで見守っています。
また、ラピータ宮殿を支える高い土台は周りを広い堀で囲まれており、その堀の中ではペルセウス王の軍勢がひしめき合いながら一斉に上を見上げ、高い土台のてっぺんに建つ宮殿の前で今から展開するであろう激しい戦いの行方を、やはり注視しています。
まるで闘技場か武闘会の会場の様な状態になったラピータ宮殿の周囲ですが、その異様な雰囲気の中で、レプカールの乗る巨大なロボット魔神兵とシュナンの仲間たちとの激しい戦いがついに始まります。
衆人環視の中、ラピータ宮殿の建つ高い塔の様な土台の上で、魔術師レプカールが操る魔神兵と距離を取ってにらみ合うレダとボボンゴ。
レダはペガサスの剣を正眼に構えて、また巨人ボボンゴは全身に力をみなぎらせて、眼前にそびえ立つ、三階建ての建物ぐらいの大きさを持つ巨大な機械人形と対峙していました。
魔術師レプカールは、そんな眼下に立つ二人をモニター越しに見下ろしながら、魔神兵の内部の操縦席にその身をうずめ、冷静に状況を分析すると、いよいよ彼らに対して攻撃を開始します。
「この異種族どもめ。お前らの時代はとうの昔に終わっているのだ。これからは我々、人間の時代だ。今からその事をわからせてやる」
魔神兵のスピーカーからレプカールのくぐもった声が響くと同時に、その巨体の内部のモーターが唸りを上げ、かのロボットの巨大な片方の腕が、眼下に立つ巨人ボボンゴに向かって振り下ろされます。
魔神兵の腕は、円筒形の巨大な胴体から突き出た細い棒の様な上腕の先に大きな分銅状の前腕部がついている、全体的には棒アイスみたいな形をしており、更にその先端の手の部分は可動する球型のころになっていて、そこから3本指のかぎ爪が生えています。
その先端にかぎ爪のついた丸っこい手の部分だけでも、ボボンゴをわしづかみに出来るほど大きく、そんな巨大な腕が、うなりを上げて振り下ろされたのだからたまったものではありません。
ラピータ宮殿を支える高い土台の上に、レダと共に立つ巨人ボボンゴの頭上に、無慈悲に振り下ろされた、巨大なハンマーの如き魔神兵の腕が迫ります。
魔神兵を内部から操る魔術師レプカールは、その強烈な殴打による攻撃で、ボボンゴの身体を一撃で粉砕し、葬り去るつもりでした。
ブゥゥーンという異様な風切り音と共に、ボボンゴの頭上に魔神兵の巨大な分銅状の腕が落下します。
その巨大な腕はボボンゴを直撃し、彼は無残にも押しつぶされた様に見えました。
ところがー。
ガシッ!!!
「な、何ーっ!!!」
魔神兵の内部の操縦席に座る魔術師レプカールの顔が、驚愕の表情を浮かべます。
なんと巨人ボボンゴは、頭上から振り下ろされた魔神兵の大きな腕を真正面から受け止め、そのかぎ爪のついた丸っこい拳を、たくましい双腕で羽交い締めにするみたいにがっしりと捕らえていました。
魔神兵のかぎ爪がついた拳は、巨人であるボボンゴが両腕をいっぱいに拡げて、やっと腕の中に収める事が出来るぐらいに大きく、彼は何かにしがみつくような姿勢をとりながら、全身の筋肉を使って、ようやくその大岩みたいな拳を受け止めています。
「なんという、怪力だ。信じられん」
ボボンゴが魔神兵の巨大な拳を受け止めた事に対して驚愕する魔術師レプカール。
慌てた彼は魔神兵の腕を操縦して、眼下のボボンゴが身体の正面でがっしりと捕らえている魔神兵の拳を、ボボンゴの懐の中から引き抜こうとします。
しかしー。
「ぬ、抜けんーっ」
なんと、ボボンゴが身体の正面で受け止めている魔神兵の巨大な拳は、彼の左右の剛腕でがっしりと捕らえられており、レプカールがその拳をボボンゴの懐の中から引き抜こうと思っても、ピクリとも動かなかったのです。
「お、おのれ化け物め!!」
レプカールは操縦桿を激しく動かして、何とか魔神兵の片腕をボボンゴの懐の中から引き抜こうとしましたが、そのかぎ爪の付いた丸っこい拳は、巨人である彼のたくましい両腕で締め付けるように捕らえられており、どうしても引き抜く事が出来ません。
そしてボボンゴは、魔神兵の巨大な拳を両腕で捕らえながら、その拳を懸命に引き抜こうとしている魔神兵と引っ張り合いをするような姿勢のまま、隣に立つレダに向かって叫びます。
「レダ!!今っ!!」
レプカールが操縦する魔神兵は、その片方の拳をしっかりとボボンゴに捕らえてられており、片腕が拘束されて自由に動けない状態でした。
ボボンゴは、一方の腕を拘束された魔神兵が自分と引っ張り合いをしている今こそが、絶好の攻撃のチャンスだと考え、隣に立つレダに呼びかけたのです。
「わかったわ!!」
ボボンゴの言葉に応えて剣を構え直し、魔神兵に突っ込む体勢をとるペガサスの少女レダ。
しかし、その事に気付いたレプカールが乗る魔神兵は、ボボンゴに片腕を拘束されたままの状態で、もう一方の腕をレダに向かって振り下ろします。
ブーン!!!
異様な風切り音と共に、先端が分銅みたいになっている魔神兵の腕が、レダが立っている地面に向かって振り下ろされます。
ガツンッ!!!
レプカールの操縦する魔神兵の腕が、ラピータ宮殿を支える高い土台の上に落下し、その先端についたかぎ爪が、石造りの床を激しく粉砕します。
しかし、そこに立っているはずのレダの姿はすでにありません。
魔神兵のハンマーのような腕が、むなしく地面を叩いた事に気付いた魔神兵を操縦するレプカールは、魔神兵の片腕をボボンゴにつかまれたまま、頭部のモニターで視界から消え失せたレダの姿を捜し求めます。
その時、レダの放つ甲高い声がはるか上空から響いて来ました。
「ここよっ!のろまっ!!」
レダのその声は、魔神兵の内部にいる魔術師レプカールの耳にも届き、彼は操縦席についたモニターを、すぐに声がした頭上の方角へと振り向けます。
すると、そこにはー。
「何いっ!?あれはー」
レプカールが驚きのあまり目を大きく見開くのも仕方のない事でした。
彼が見た魔神兵のモニターの画面の中には、上空を天翔ける白鳥のように飛ぶレダの姿が映っていたからです。
しかし、彼女はいつものようにペガサスに変身したわけではありませんでした。
その姿は上下の革製の黒ビキニに、両肩には肩パッド、両腕の上腕部には手甲をつけており、両足にはブーツを履いています。
つまりは、いつもの通りの人間の姿だったのですが、それにも関わらず彼女は空を飛んでいました。
一体、何故ー。
信じ難い事に彼女の背中には、一対の大きな翼が生えていました。
まるで天使のようにー。
これは身体の一部だけをペガサス形態に変える、天馬族に伝わる秘技であり、いわば裏技でした。
長剣を手にして天翔けるその姿は、まさしく伝説の戦乙女「ヴァルキリー」の再来でした。
「天使形態」になったレダは、その美しい両翼で天高く舞い上がります。
そして、ボボンゴに片腕を拘束されて自由に動けない、レプカールが操る巨大なロボット、魔神兵に向かってその身体を急降下させました。
レダは天使のような姿で上空から身体を急降下させると、それと同時に、手にした剣を大上段の構えから真一文字に振り下ろし、真下にいる魔神兵に対して必殺の一撃を加えます。
「ペガサス流奥義!!天空唐竹割りーっ!!!」
レダは天使形態のその身体を急降下させると同時に、真一文字に剣を振るい、ボボンゴにつかまれて拘束された魔神兵の片腕を、肩口から文字通り真っ二つに切り落とします。
レダに切り落とされたその巨大な腕は、ボボンゴがつかんでいたその拳を放すと同時に、ラピータ宮殿を支える高い土台の上から、ペルセウス王の軍勢のひしめく堀の中へと、音も無く落下して行きます。
その落下した腕は、ラピータ宮殿の周りに広がる堀の中にひしめく宮殿を包囲する兵士たちが立つ、石で出来た地面の間に粉塵を立てて激突し、逃げ遅れた何人かの兵士が巨大な腕の下敷きになりました。
そして、すぐ側で生じたそんな事態にも、平然とした態度を崩さない馬上のペルセウス王は、堀の中で大勢の部下に囲まれながら、冷徹な眼で高所で行われている激しい戦いの様子を見上げます。
「やれやれ、どうやら少し手こずっているようだな。レプカール」
ペルセウス王の言う通り、レプカールの搭乗する魔神兵は、レダとボボンゴとのコンビによる攻撃により、大ダメージを受けていました。
レダの必殺剣によって、片方の肩口から先をスッパリと斬り落とされた魔神兵は、完全に身体のバランスを崩し、その巨体はラピータ宮殿を支える高い土台の上で徐々に傾いて行きます。
「ぐうーっ!!おのれーっ!!!」
大きく傾きつつある魔神兵の内部で、悔しげな声を上げる魔術師レプカール。
やがて彼が操縦する魔神兵の巨体は、ラピータ宮殿を支える高い土台の上に崩れ落ち、その片膝をガクンと宮殿前に広がる石造りの床につきます。
一方、レダは、剣を片手にその天使の翼をはためかせながら、空中から身体を降下させ、ラピータ宮殿を背に仁王立ちになっているボボンゴの側に、フワリと降り立ちます。
レダとボボンゴが居並ぶ目の前には、レプカールが操縦する魔神兵が肩口から片腕を切り落とされ、バランスを崩したのか、宮殿前の石造りの床に片膝を落とした姿で、その巨体をうずくまらせています。
そんな風に片腕を肩から切り落とされ、大ダメージを受けた魔神兵と、ラピータ宮殿を支える高い土台の上で、少し距離をとって対峙するレダとボボンゴのコンビは、再び連携攻撃を仕掛けてその巨大な機械人形を完全に破壊しようと、慎重に機をうかがっています。
ちなみにレダは、空中から降り立つと同時に、背中に生やした翼を体内に吸収して、天使の姿から通常の人間体の姿に戻っていました。
それは、中途半端な変身は、彼女の肉体と精神をいちじるしく消耗させるからでした。
そして、そんなレダが隣に立つボボンゴと目配せをして、彼と共に魔神兵にとどめを刺す為に、再度攻撃を仕掛けんとしたその瞬間に、目の前にうずくまる魔神兵の傷ついた身体に異変が起こります。
「あ、あれ、見ろっ!!レダ!!」
魔神兵に起こった異変を見て巨人ボボンゴが叫びます。
「ーっ、再生、してる」
剣を正眼に身構えて立つレダも、眼前の石床にうずくまる魔神兵に起こった異変に、その目を丸くします。
レダたちが驚くのも無理はありません。
なんとレダが言った通り、彼女とボボンゴとの協力プレイによって切り落としたはずの魔神兵の片腕が、肩口の切断面からまた生えてきて、あっという間に元の通りに再生してしまったのです。
片腕を失った魔神兵の切り落とされた肩口から、黒い泡のようなものがボコボコと吹き出すと、その泡は見る見るうちに巨大ロボの失われた腕の形に変形していきます。
そしてー。
瞬く間にその切り落とされた片腕は元通りに再生し、いつのまにか魔神兵の生体金属で出来た巨体は、ダメージを受ける前と全く同じ姿で、レダとボボンゴの前にそびえ立っていました。
あまりの事に魔神兵と向かい合いながら、その顔に愕然とした表情を浮かべるレダとボボンゴ。
魔術師レプカールは、魔神兵の内部からそんな二人の様子をモニター越しに見下ろして、ニヤリとほくそ笑みます。
「クククッ、驚いたか。この魔神兵は、無限の再生能力を備えているのだ。少々のダメージを受けたところでどうという事もないわ」
魔神兵の音声装置を通じて聞こえる、魔術師レプカールの渇いた笑い声が、高い土台に支えられたラピータ宮殿の門前に、耳障りな残響音と共に鳴り響きました。
[続く]
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