メデューサの旅 (激闘編)

きーぼー

文字の大きさ
上 下
65 / 99
夢見る蛇の都

その19

しおりを挟む
 魔術師レプカールの操縦する魔神兵はラピータ宮殿を支える高い土台についた長い階段を登りきりついにその土台のてっぺん部分に建てられているラピータ宮殿の正面前にまでたどり着きました。
そしてそこには視力の回復したシュナン少年を始めとした旅の仲間たちがズラリと居並んで待ち構えていました。
宮殿を支える高い土台の上で対峙するシュナン一行とその目の前にそびえ立つ魔術師レプカールが内部から操縦する巨大な魔動ロボット「魔神兵」。
ラピータ宮殿の建つ高い土台のてっぺんで向かい合う両者の姿をそのはるか下の宮殿の周りに広がる深い堀の中で包囲陣を敷くペルセウス王率いる軍勢が恐れと好奇心の入りじまった目で見上げています。
さて、高い土台の上に建つラピータ宮殿の前で向かい合うシュナンたちとレプカールが搭乗する魔神兵ですが久々に直接顔を合わせた師弟の間では上と下から放たれた視線が空中で交差し激しくぶつかります。
ラピータ宮殿の本体を足元で支える高い土台の上に細い二本脚で立ち眼下の宮殿前にいる仲間たちに囲まれた弟子の姿を魔神兵の操縦席の中から内部モニターで確認する魔術師レプカール。
彼の弟子に向かって放った言葉はロボットの巨体に外付けされた音声装置を通じてラピータ宮殿を支える高い土台の周辺に響き渡り宮殿前で杖を構えて立つシュナン少年の耳にも届きます。

「フフフ、シュナンよ。魔神兵のモニターを通してとはいえ、お前の素顔を見るのは久しぶりだな。昔から可愛らしい顔立ちだったが今ではナルシスばりの美少年ではないか。目隠しをずっと付けていなければ宮殿の年増女どもが放っては置かなかっただろうな」

そんな風にふざけた口調で弟子に呼びかけたレプカールですが更に彼はロボットの音声装置を通じてシュナン少年に自分に従うようある提案をして来ました。

「なぁ、シュナンよ。悪い事は言わん。今からでもわしとペルセウス陛下におとなしく従うのだ。メデューサと「黄金の種子」をこちらに引き渡せ。陛下にはわしから取りなしてやろう。王はああ見えても心の広いお方だ。必ずやお前を許して下さるだろう」

しかし、宮殿を支える高い土台の上でその魔神兵と向き合うシュナン少年は杖を強く片手で握りしめながら見えるようになったばかりの双眼で師匠の乗るロボットの巨体を睨みつけます。

「いえ、あなた方が僕の両親を殺した事を知った以上おとなしく従うわけにはいきません。それにあなた方はメデューサを使って「夢幻宮」に保管されたメデューサ族の超兵器を手に入れるつもりだ。それで他の国々を滅ぼして世界を自分たちの手中に収めるためにー。だが、それではメデューサが悪魔の手先になってしまう。そんな事が許せるはずがありません」

シュナン少年は声の調子を少し落とすと悲しげな表情で巨大なロボットに乗る師匠に訴えかけます。

「あなたこそ、ペルセウス王の軍勢と共にこの場を去って下さい。いくら、実の両親の仇とはいえー。長い間、親代わりだったあなたと戦いたくはありません」

シュナンのその言葉を聞いたレプカールは魔神兵の操縦席で深いため息をつきます。
そしてモニター越しに眼下に立つ弟子の姿を確認しながら彼に向けて音声装置を使い警告を発します。

「まったく、頑固な奴だ。だがこの魔神兵の力を見ても同じ事が言えるかな?」

レプカールはそう言うと操縦桿やスイッチを動かして魔神兵を稼働させました。
シュナン少年は目の前にそびえ立つ魔神兵が機械音を立てて動き始めたのを見ると思わず身構えて杖を強く握ります。
シュナンの背後に隠れるメデューサを始めとする他の旅の仲間たちも魔神兵の挙動を警戒してその身をすくませます。
その瞬間、大きな円筒形の身体を前傾姿勢にした魔神兵の三角帽子をかむった頭部から凄まじい輝きの白熱光が発射されました。
あまりにまばゆいその光にシュナンと旅の仲間たちは目がくらんで一歩も動くことも出来ずその場に立ち尽くします。
まばゆいその光はラピータ宮殿の門前に立つシュナン一行の頭上を一瞬で通過すると宮殿の屋根をごっそりと吹き飛ばした後でパロ・メデューサの周囲を取り囲む山々が連なる場所にまで到達し山頂の一部を消失させました。

ズガガァーン!!!

ラピータ宮殿の門前に立つシュナンたちは凄まじい轟音と光に目と耳がくらみ身体を硬直させて棒立ちになっていました。
彼らの背後に建っているラピータ宮殿の屋根の一部は吹き飛んでシュウシュウとくすぶっておりはるか彼方のパロ・メデューサの山並みからはもうもうと火の手が上がっています。
一方、ラピータ宮殿の周りに広がる堀の中でひしめき宮殿を支える高い土台を包囲するペルセウス軍の間からは大きな歓声が上がります。

「す、すごいー」

「山が吹き飛んだぞー」

「クシャナ殿下、万歳ー」

宮殿周囲に広がる深い堀の中に侵入した彼らは高い土台に支えられたラピータ宮殿を包囲しながらそこから宮殿前で対峙するシュナン一行とレプカールが操る魔神兵の姿を見上げ事態の推移を固唾を飲んで見守っていました。
そして今、レプカールが内部で操縦する魔神兵の放った破壊光線のすさまじい威力を目の当たりにして一斉に歓声を上げたのでした。
魔神兵の中に搭乗する魔術師レプカールはラピータ宮殿を支える高い土台を足元から包囲する堀の中にひしめく兵士たちから上がった歓声を聞いて思わずその口元を緩ませます。

「フフフ、どうだこの魔神兵の放つ魔光砲の威力は。お前の最終奥義バルスにも引けは取らんぞ。基本的に一回の戦闘時に一発しか撃てないバルスとは違ってこちらは撃ち放題だしな。どうだ?降伏する気になったか」

しかし、高い土台に支えられたラピータ宮殿の前に仲間たちと共に立つシュナン少年は師匠の乗る魔神兵の持つ恐るべき力に脅威を覚えながらもその青灰色の髪の生えた頭を激しく横に振ってレプカールの降伏勧告を再び拒否します。

「あなたに簡単に膝を屈するわけには行かない。あなた方にメデューサを引き渡せは彼女の人生は破壊され悪魔の手先にさせられてしまうー。あなたや王はメデューサを使って彼女の先祖が作った最終兵器を手に入れる気だ。他の全ての国々を滅ぼして世界を我が物とする為にー。そんな悪魔の所業に僕の妻である彼女を加担させる事は出来ない。僕は最後まであなた達に抗います。メデューサをー。僕の大切な人を守る為に」

愛する者をそして危機に瀕(ひん)しようとしている数多くの無辜の人々を守る為に自分の師であるレプカールや主君であるペルセウス王と命をかけて戦う決心をしたシュナン少年。
彼の視力が戻ったばかりの青く澄んだ瞳に決意の光が宿ります。
そんな弟子の姿を魔神兵のモニターを通じて見下ろす魔術師レプカールは操縦席に身体をうずめながらしばし目をつむり思いにふけります。
そしていよいよ愛弟子であるシュナンと戦う決意を固めたのか操縦桿を握って魔神兵の足を動かし眼下に立つシュナン少年の方に近づこうとします。
しかし、その時でした。

ポフッ!!

どこからか柔らかな袋のような物体がレプカールが操縦する魔神兵めがけて飛んで来ました。
誰かが投げつけたらしいその袋状の物体は魔神兵ののっぺりとした顔に当たってはね返るとそのままラピータ宮殿の門前の石造りの床にポテッと柔らかい音を立てて落ちました。
魔神兵の中のレプカールが頭部のモニターでその下に落ちた物体を確認するとそれはどうやら両手の手のひらに載るくらいの大きさの口元を茶巾結びにした麻袋のようでした。
袋の中には何か細かい粒状のものがいっぱいに詰まっているみたいです。

「黄金の種子・・・」

驚いたレプカールは頭部のモニターを再び自分の真正面に立っているはずのシュナン少年たちの方へと向けます。
するとそこにはシュナン少年の隣で物を投げつけた後の腕を伸ばしたポーズのまま固まっているメデューサの姿がありました。
腕を伸ばした姿勢のままこちらを蛇の前髪の隙間から怒気を含んだ視線でにらみ上げています。

「それが欲しいんでしょ?あげるわよ、そんな物っ!!」

他の仲間たちに守られながらシュナン少年の背後で隠れるように立っていたメデューサは魔神兵に乗るレプカールの言動に激昂したのか仲間たちが止める間も無く前に飛び出すと両手で大事に持っていた「黄金の種子」の詰まった麻袋を目の前にそびえ立つ魔神兵の顔に向かって精一杯の力で投げつけたのです。

「メデューサ・・・」

シュナン少年はメデューサの意外な行動に驚き自分の背後から前に飛び出した彼女に心配そうな視線を向けます。
前方に飛び出したメデューサはシュナン少年を背にして彼とレプカールの乗る魔神兵の間に立ちはだかり少年を背中でかばうような姿勢をとっていました。
蛇の前髪の隙間から魔神兵の巨体をにらみ上げ小さな身体を震わせながら悲痛な声を上げるメデューサ。
メデューサの悲痛な叫び声が彼女たちのいる高い土台に支えられたラピータ宮殿の門前にこだまします。

「そんな物あげるからそれで満足してこの場からいなくなってよ!!お願い、もうこれ以上、シュナンを苦しめないでーっ。お願いだからー。あたし達の事はもうほっといてっ!!!」

[続く]

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

メデューサの旅

きーぼー
ファンタジー
ギリシャ神話をモチーフにしたハイファンタジー。遥か昔、ギリシャ神話の時代。蛇の髪と相手を石に変える魔眼を持つ伝説の怪物、メデューサ族の生き残りの女の子ラーナ・メデューサは都から来た不思議な魔法使いの少年シュナンと共に人々を救うという「黄金の種子」を求めて長い旅に出ます。果たして彼らの旅は人類再生の端緒となるのでしょうか。こちらは2部作の前半部分になります。もし気に入って頂けたのなら後半部分(激闘編)も是非御一読下さい

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

処理中です...