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夢見る蛇の都
その18
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一方、その頃、高所であるラピータ宮殿の門前に立つシュナン一行にもある重大な異変が生じていました。
仲間たちと共にラピータ宮殿を支える高い土台の上に立ち眼下の堀の中でひしめくペルセウス軍の様子を杖をかざして見下ろしていたシュナン少年が何故か突然苦しみ出したのです。
「うぅっ!目がー」
杖を持っていない方の手で目隠しをした顔を覆いガクンと石造りの床に膝を落とすシュナン少年。
高い土台に支えられたラピータ宮殿の門前でうずくまるシュナンの姿に驚いた隣に立つメデューサはすぐに彼の側に駆け寄りました。
そしてその身体を少年の身体に密着させ蛇の髪の隙間から心配そうに彼の様子を見つめます。
「うう~っ、メデューサ・・・」
側で寄り添うメデューサが見つめる中、うめき声を上げるシュナン少年。
他の仲間たちも石の床にうずくまるシュナン少年と彼に寄り添って自身も床に両膝をつくメデューサの側に集まり二人の姿を遠巻きにして見守っています。
その瞬間、シュナン少年の顔を覆っていた目隠しがポトリと下に落ちました。
おそらく痛みに耐えかねて杖を持っていない方の手で布で覆われた目のあたりを強く押さえたために目隠しが顔からずり落ちてしまったのでしょう。
目隠しに隠されていた彼の盲目の両眼が外気に触れるとメデューサに寄り添われて床にうずくまるシュナン少年はまぶたを激しくパチパチさせます。
そして見えないはずのその両眼をうっすらと開けました。
するとー。
「シュナン、大丈夫ー」
目隠しを外したシュナン少年がうっすらとまぶたを開いたその瞬間に自分を心配するメデューサの蛇に覆われた顔が見えないはずの彼の目の網膜にハッキリと映りました。
「あぁーっ!!」
思わずうめき声を上げるシュナン。
それを見たメデューサは更に彼に身体を寄せました。
そんな、メデューサを横目で見ながら石造りの床にうずくまるシュナン少年はかすれた声でつぶやきます。
「見える・・・。目が見えるよ、メデューサ」
「えっ!!」
思わずシュナンから身体を離し床から跳び起きるメデューサ。
蛇の前髪に覆われたその顔に驚愕の表情を浮かべています。
シュナン少年もうずくまらせていた身体をゆっくりとした動きで立ち上がらせると自分の周りの状況を突然見えるようになったその目でぐるりと見回しました。
「見えるー。自分自身の目でちゃんと周りの全てが見えるー。メデューサ、レダ、ボボンゴ、それにデイス。君たちの姿もしっかりと見える。杖を使わなくともー。宮殿の高い屋根やその上の青い空や白い雲もちゃんと見えるー」
シュナン少年は目隠しを外した素顔のままで杖を片手に高い土台に支えられたラピータ宮殿の門前に立ち周りをキョロキョロと見回しています。
先ほど盲目だった彼の目は今や完全に回復し周りの景色やそこにいる仲間たちの姿をはっきりとその瞳の中に捉えていました。
彼の周りには旅の仲間たちが立っており急に視力が回復したらしいシュナン少年の様子を驚きの目で見つめています。
やがてその仲間たちの一人である赤毛の少女レダが驚きを隠せない表情でシュナン少年に聞きました。
「本当に目が見えるのね、シュナンー。信じられないわ。やっぱり杖を通じて見る時とは違った感じなの?」
その問いに対してシュナン少年は涼しげに光る青い目でレダを見つめると軽く首を振って答えます。
「いや、見える物自体は変わらないよ。ただ、杖で見ている時は見る対象を自分で選んでいたけど今は有無を言わさず目から色々な情報が飛び込んでくるんだ。だからちょっとびっくりしてる」
そんなシュナン少年に吟遊詩人デイスが肩をすくめて助言します。
「まぁ、すぐ慣れますせ。でも、シュナンの旦那って思ったより童顔なんですねぇー」
デイスの言った通り目隠しを取ったシュナン少年の顔は今まで周囲に与えていた印象よりずいぶん幼く見えました。
年齢はどう見ても十代の後半にようやく差し掛かった少年であり青灰色のクセのついた髪とつぶらな青い瞳を持つ色白の整った顔をしています。
そのまだあどけない顔を見つめながら巨人ボボンゴが首をひねります。
「うーむ、でも、何故、急に見えるよう、なったか。不思議」
すると素顔のシュナン少年が持つ師匠の杖が声を発します。
「おそらく、レプカールがー。ううむ、ややこしいな。つまりレプカールの本体が術を解除したのだろう。どういうつもりかはちょっと判らんが何かあいつなりの理由があるんだろう」
一方、シュナン少年の一番近くで彼の様子を無言で見つめていたメデューサはその顔をもっと良く見ようと蛇の前髪の隙間から更に目をこらします。
しかし、シュナンの持つ師匠の杖はそんな彼女に鋭い声で警告を飛ばします。
「メデューサ、気をつけろ。今のシュナンは目が見えている。うっかり、お前が魔眼で見るとシュナンは石になってしまうぞ」
師匠の杖の言葉を受けて急いで蛇の髪で顔を隠ししゅんと首をうつ向かせるメデューサ。
シュナン少年はそんな彼女の姿を視力の回復したばかりの青い目で見つめるとその端正な顔に少し困ったような表情を浮かべました。
こうして視力の回復したシュナン少年の姿に驚きラピータ宮殿の門前で興奮した顔を互いに見合わせていた旅の仲間たちでしたがそんな彼らに新たなそして最大の試練が襲いかかります。
シュナン一行は高い土台に支えられたラピータ宮殿の前に集結しており宮殿の周囲に広がる深い堀に侵入したペルセウス軍にぐるりと外側を取り囲まれていました。
そしてその堀の中にひしめくペルセウス王の軍勢から抜け出るように一体の巨大な影が現れ高所に立つシュナンたちに迫りつつありました。
それはシュナンの師である大魔術師レプカールが内部から操縦する巨大な自動人形「魔神兵」でした。
魔神兵はその円筒形の巨大な胴体についた細長い足でシュナンたちがその門前に立つラピータ宮殿を支える高い塔のような土台についた長い階段を下から上にゆっくりと昇って行きます。
その姿はどことなく木を登る大きな昆虫の姿を思い起こさせました。
やがてラピータ宮殿の前にいるシュナンたちも自分たちがその上に立つ宮殿を支える高い土台の足元から階段を登って徐々に近づいて来る巨大な影がある事に気づきます。
「魔神兵だ」
仲間たちと共に高い土台に支えられたラピータ宮殿の前に立つシュナン少年の青く澄んだ瞳に眼下からゆっくりと階段を昇って近づきつつあるその巨大な機械人形の姿が黒々と映りました。
[続く]
仲間たちと共にラピータ宮殿を支える高い土台の上に立ち眼下の堀の中でひしめくペルセウス軍の様子を杖をかざして見下ろしていたシュナン少年が何故か突然苦しみ出したのです。
「うぅっ!目がー」
杖を持っていない方の手で目隠しをした顔を覆いガクンと石造りの床に膝を落とすシュナン少年。
高い土台に支えられたラピータ宮殿の門前でうずくまるシュナンの姿に驚いた隣に立つメデューサはすぐに彼の側に駆け寄りました。
そしてその身体を少年の身体に密着させ蛇の髪の隙間から心配そうに彼の様子を見つめます。
「うう~っ、メデューサ・・・」
側で寄り添うメデューサが見つめる中、うめき声を上げるシュナン少年。
他の仲間たちも石の床にうずくまるシュナン少年と彼に寄り添って自身も床に両膝をつくメデューサの側に集まり二人の姿を遠巻きにして見守っています。
その瞬間、シュナン少年の顔を覆っていた目隠しがポトリと下に落ちました。
おそらく痛みに耐えかねて杖を持っていない方の手で布で覆われた目のあたりを強く押さえたために目隠しが顔からずり落ちてしまったのでしょう。
目隠しに隠されていた彼の盲目の両眼が外気に触れるとメデューサに寄り添われて床にうずくまるシュナン少年はまぶたを激しくパチパチさせます。
そして見えないはずのその両眼をうっすらと開けました。
するとー。
「シュナン、大丈夫ー」
目隠しを外したシュナン少年がうっすらとまぶたを開いたその瞬間に自分を心配するメデューサの蛇に覆われた顔が見えないはずの彼の目の網膜にハッキリと映りました。
「あぁーっ!!」
思わずうめき声を上げるシュナン。
それを見たメデューサは更に彼に身体を寄せました。
そんな、メデューサを横目で見ながら石造りの床にうずくまるシュナン少年はかすれた声でつぶやきます。
「見える・・・。目が見えるよ、メデューサ」
「えっ!!」
思わずシュナンから身体を離し床から跳び起きるメデューサ。
蛇の前髪に覆われたその顔に驚愕の表情を浮かべています。
シュナン少年もうずくまらせていた身体をゆっくりとした動きで立ち上がらせると自分の周りの状況を突然見えるようになったその目でぐるりと見回しました。
「見えるー。自分自身の目でちゃんと周りの全てが見えるー。メデューサ、レダ、ボボンゴ、それにデイス。君たちの姿もしっかりと見える。杖を使わなくともー。宮殿の高い屋根やその上の青い空や白い雲もちゃんと見えるー」
シュナン少年は目隠しを外した素顔のままで杖を片手に高い土台に支えられたラピータ宮殿の門前に立ち周りをキョロキョロと見回しています。
先ほど盲目だった彼の目は今や完全に回復し周りの景色やそこにいる仲間たちの姿をはっきりとその瞳の中に捉えていました。
彼の周りには旅の仲間たちが立っており急に視力が回復したらしいシュナン少年の様子を驚きの目で見つめています。
やがてその仲間たちの一人である赤毛の少女レダが驚きを隠せない表情でシュナン少年に聞きました。
「本当に目が見えるのね、シュナンー。信じられないわ。やっぱり杖を通じて見る時とは違った感じなの?」
その問いに対してシュナン少年は涼しげに光る青い目でレダを見つめると軽く首を振って答えます。
「いや、見える物自体は変わらないよ。ただ、杖で見ている時は見る対象を自分で選んでいたけど今は有無を言わさず目から色々な情報が飛び込んでくるんだ。だからちょっとびっくりしてる」
そんなシュナン少年に吟遊詩人デイスが肩をすくめて助言します。
「まぁ、すぐ慣れますせ。でも、シュナンの旦那って思ったより童顔なんですねぇー」
デイスの言った通り目隠しを取ったシュナン少年の顔は今まで周囲に与えていた印象よりずいぶん幼く見えました。
年齢はどう見ても十代の後半にようやく差し掛かった少年であり青灰色のクセのついた髪とつぶらな青い瞳を持つ色白の整った顔をしています。
そのまだあどけない顔を見つめながら巨人ボボンゴが首をひねります。
「うーむ、でも、何故、急に見えるよう、なったか。不思議」
すると素顔のシュナン少年が持つ師匠の杖が声を発します。
「おそらく、レプカールがー。ううむ、ややこしいな。つまりレプカールの本体が術を解除したのだろう。どういうつもりかはちょっと判らんが何かあいつなりの理由があるんだろう」
一方、シュナン少年の一番近くで彼の様子を無言で見つめていたメデューサはその顔をもっと良く見ようと蛇の前髪の隙間から更に目をこらします。
しかし、シュナンの持つ師匠の杖はそんな彼女に鋭い声で警告を飛ばします。
「メデューサ、気をつけろ。今のシュナンは目が見えている。うっかり、お前が魔眼で見るとシュナンは石になってしまうぞ」
師匠の杖の言葉を受けて急いで蛇の髪で顔を隠ししゅんと首をうつ向かせるメデューサ。
シュナン少年はそんな彼女の姿を視力の回復したばかりの青い目で見つめるとその端正な顔に少し困ったような表情を浮かべました。
こうして視力の回復したシュナン少年の姿に驚きラピータ宮殿の門前で興奮した顔を互いに見合わせていた旅の仲間たちでしたがそんな彼らに新たなそして最大の試練が襲いかかります。
シュナン一行は高い土台に支えられたラピータ宮殿の前に集結しており宮殿の周囲に広がる深い堀に侵入したペルセウス軍にぐるりと外側を取り囲まれていました。
そしてその堀の中にひしめくペルセウス王の軍勢から抜け出るように一体の巨大な影が現れ高所に立つシュナンたちに迫りつつありました。
それはシュナンの師である大魔術師レプカールが内部から操縦する巨大な自動人形「魔神兵」でした。
魔神兵はその円筒形の巨大な胴体についた細長い足でシュナンたちがその門前に立つラピータ宮殿を支える高い塔のような土台についた長い階段を下から上にゆっくりと昇って行きます。
その姿はどことなく木を登る大きな昆虫の姿を思い起こさせました。
やがてラピータ宮殿の前にいるシュナンたちも自分たちがその上に立つ宮殿を支える高い土台の足元から階段を登って徐々に近づいて来る巨大な影がある事に気づきます。
「魔神兵だ」
仲間たちと共に高い土台に支えられたラピータ宮殿の前に立つシュナン少年の青く澄んだ瞳に眼下からゆっくりと階段を昇って近づきつつあるその巨大な機械人形の姿が黒々と映りました。
[続く]
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