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夢見る蛇の都
その14
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「わたしを見下すとはずいぶん偉くなったものだな、シュナンドリック・ドール」
堀の中で多数の兵に護られながら自分を見上げるペルセウス王に対して彼を宮殿を支える土台の上から見下ろしていたシュナン少年はその場でひざまずきました。
するとその宮殿を支える階段のついた巨大な塔のような土台をそれが立っている深い堀の中から麾下の軍勢と共に見上げるペルセウス王は高所にいるシュナン少年が膝をついたのを確認すると満足げに笑みを浮かべます。
「フフフ、まぁ良い。お前の功績に免じて多少の無礼は許すとしよう。さぁ、「黄金の種子」とメデューサをこちらに引き渡すがいい」
しかしラピータ宮殿を支える高い土台の上で石造りの地面に膝をついたシュナン少年は苦しげに首を振ると眼下の堀の中で大勢の兵に囲まれている王に対して告げました。
「申し訳ありません、ペルセウス陛下。結局、「黄金の種子」は見つかりませんでした。懸命に探したのですがー」
その時、ペルセウス王の側で彼の麾下の軍列の間に屹立している魔術師レプカールが操縦する巨大なロボットが耳障りな声を発しました。
ラピータ宮殿の高い土台を取り囲む堀の中にひしめく兵士たちの間にそびえ立つその巨大な機械人形が発する声は風に乗って土台の上にいるシュナンたちの耳にまで届きます。
「何を言っている?メデューサは「黄金の種子」を持っているぞ。昨夜のうちにこっそりと手に入れたのだ。よく確かめてみろ」
その声は音声機を通したくぐもった声ではありましたが間違いなくシュナン少年の師である大魔術師レプカールの声でした。
実はレプカールはシュナンの持つ師匠の杖を通じてシュナン一行の様子をちくいち監視していました。
彼は昨晩も疲れて眠る弟子の手に握られているその先端の円板に大きな眼がついた杖を通じて同じ部屋で眠るメデューサが幽体離脱して外に出て行く姿やいつのまにか彼女が入っている寝袋の中に異物が出現する瞬間をハッキリと見ていたのです。
そしてメデューサの挙動不審な様子から彼女が夢幻世界で「黄金の種子」を手に入れ更には宝物殿の秘密も解き明かしただろうと推察したのでした。
シュナン少年は眼下の堀の中から響いてくる師のその声を耳にするとひざまずいていた身体をパッと起こして立ち上がりました。
そして自分の持っている杖に一瞬顔を向けるとすぐに隣にいるメデューサの方を振り返り彼女と身体を正対させます。
シュナンはその目隠しをした顔に戸惑いの表情を浮かべながら少しかすれた声でメデューサに尋ねました。
「メデューサ・・・。本当なのかい?」
高い土台に支えられたラピータ宮殿の門前でシュナン少年と向かい合うメデューサは他の仲間たちの視線を浴びながらガタガタと身体を震わせています。
そして彼女は意を決した様に蛇の前髪の隙間からシュナン少年の顔を見つめると服のポケットから「黄金の種子」の入った麻袋をゆっくりと取り出しました。
それからその震える両手で持った麻袋をシュナン少年の顔の前にそっと差し出しました。
「シュナン、これー」
師匠の杖を通じて「黄金の種子」を両手に持つメデューサのその姿を見たシュナン少年はどうやら強いショックを受けたようでした。
杖を強く握りしめながら首を何度も振り喉奥から絞り出すように声を発します。
「そ、そうかー。でも何で、僕に教えてくれなかったんだい・・・」
ラピータ宮殿の前でシュナンと向かい合うメデューサは彼に誤解されないために必死に言い訳をしようとします。
「わ、わたしちゃんと言おうとしたわ、シュナン!!本当よっ!!で、でも、なんかタイミングが合わなくてー」
そんなメデューサの苦しい言い訳をさえぎる様にペルセウス王の冷徹な声が数多くの兵で埋め尽くされた眼下の深い堀の中から響いて来ます。
ペルセウス王はラピータ宮殿の周囲に広がる深い堀の中に降り立ちシュナンたちがその門前に立つ宮殿を足元から支える巨大な土台の周りを麾下の軍勢と共に包囲していました。
軍馬にまたがる彼は堀の底で大勢の部下に取り囲まれながら高い土台の上にいるシュナンたちを冷徹な目で見上げています。
「そんな事も分からないのか?シュナンドリック。その娘は卑劣にも宝物を独り占めにしようとしたのだ。お前に分け与えるのが惜しくなったに違いない。まぁ、当然の事だな。元々はメデューサの先祖が残した物なのだしどこの馬の骨とも分からぬ他人に渡す義理は無いからな」
堀の底から響くペルセウス王の声を聞いたメデューサは自分たちがその上に立つ宮殿を支える高い土台を包囲する彼の軍勢を蛇の前髪の隙間から睨み付けると正面に立つシュナン少年に視線を移します。
そしてシュナン少年に何とか自分の気持ちをわかってもらおうと眼前に立つ少年に必死に語りかけます。
「違うっ!違うの、シュナン!!わたしはあなたにこの種子を渡そうとー。でもー」
しかし、「黄金の種子」の入った麻袋を両手で持ちながら必死に自分に訴えるメデューサに対して彼女の前に立つシュナン少年は目隠しをしたその顔を悲しげに振って言いました。
「考えてみれば確かに陛下の言う通りかもしれないー。それは元々、君の物なんだし、僕には何の権利もー」
「シュナンッ!!」
「黄金の種子」の入った麻袋を両手で握りしめるメデューサ。
宮殿の門前で彼らを取り囲む他の旅の仲間たちも事態の展開に戸惑い二人を遠巻きにして見守る事しか出来ません。
そんなシュナン一行の様子を麾下の軍勢と共に堀の中から見上げるペルセウス王は更に追い打ちをかけるような言葉をシュナンたちに投げかけます。
「これでお前もその女の正体がわかったろう。さぁ、早く「黄金の種子」とメデューサをこちらに引き渡すのだ。シュナンドリックよ。さすればお前には充分な報酬と栄誉を与えよう」
狡知に長ける老練な政治家であるペルセウス王はシュナンとメデューサの間に亀裂を生じさせ自分の思うがままに若者たちを操ろうとしていました。
「シュナンドリック。お前にはわたしの末娘であるラシータ姫を妻として娶らせるとしよう。王族に列するのだ。そしていずれはレプカールの後を継いで我が国の宰相の地位も与えるものとする。よいな、レプカール」
ラシータ姫とはペルセウス王の三女で絶世の美女と名高い女性でした。
側にいるペルセウス王に話を振られた魔神兵に乗り組む魔術師レプカール は機械に囲まれた内部の操縦席に座りながらそこに付いている発声装置を使って王に返事をします。
彼が操縦する巨大なロボット「魔神兵」は周囲にいる兵たちと共にラピータ宮殿の周りに広がる巨大な堀の中でシュナンたちがその上に立つラピータ宮殿本体を下支えする高い土台をぐるりと包囲しておりいつでも総攻撃出来る態勢を整えていました。
「もちろんです。御意のままに、ペルセウス陛下。我が弟子シュナンを引き立てていただき、感謝の言葉もございません」
ペルセウス王の参謀であり「師匠の杖」を通じて弟子であるシュナンを操ってきた魔術師レプカールが乗組む魔神兵から発せられたくぐもった声がペルセウス王の軍勢で埋め尽くされたラピータ宮殿を取り囲む堀の中に乾いた音を響かせました。
[続く]
堀の中で多数の兵に護られながら自分を見上げるペルセウス王に対して彼を宮殿を支える土台の上から見下ろしていたシュナン少年はその場でひざまずきました。
するとその宮殿を支える階段のついた巨大な塔のような土台をそれが立っている深い堀の中から麾下の軍勢と共に見上げるペルセウス王は高所にいるシュナン少年が膝をついたのを確認すると満足げに笑みを浮かべます。
「フフフ、まぁ良い。お前の功績に免じて多少の無礼は許すとしよう。さぁ、「黄金の種子」とメデューサをこちらに引き渡すがいい」
しかしラピータ宮殿を支える高い土台の上で石造りの地面に膝をついたシュナン少年は苦しげに首を振ると眼下の堀の中で大勢の兵に囲まれている王に対して告げました。
「申し訳ありません、ペルセウス陛下。結局、「黄金の種子」は見つかりませんでした。懸命に探したのですがー」
その時、ペルセウス王の側で彼の麾下の軍列の間に屹立している魔術師レプカールが操縦する巨大なロボットが耳障りな声を発しました。
ラピータ宮殿の高い土台を取り囲む堀の中にひしめく兵士たちの間にそびえ立つその巨大な機械人形が発する声は風に乗って土台の上にいるシュナンたちの耳にまで届きます。
「何を言っている?メデューサは「黄金の種子」を持っているぞ。昨夜のうちにこっそりと手に入れたのだ。よく確かめてみろ」
その声は音声機を通したくぐもった声ではありましたが間違いなくシュナン少年の師である大魔術師レプカールの声でした。
実はレプカールはシュナンの持つ師匠の杖を通じてシュナン一行の様子をちくいち監視していました。
彼は昨晩も疲れて眠る弟子の手に握られているその先端の円板に大きな眼がついた杖を通じて同じ部屋で眠るメデューサが幽体離脱して外に出て行く姿やいつのまにか彼女が入っている寝袋の中に異物が出現する瞬間をハッキリと見ていたのです。
そしてメデューサの挙動不審な様子から彼女が夢幻世界で「黄金の種子」を手に入れ更には宝物殿の秘密も解き明かしただろうと推察したのでした。
シュナン少年は眼下の堀の中から響いてくる師のその声を耳にするとひざまずいていた身体をパッと起こして立ち上がりました。
そして自分の持っている杖に一瞬顔を向けるとすぐに隣にいるメデューサの方を振り返り彼女と身体を正対させます。
シュナンはその目隠しをした顔に戸惑いの表情を浮かべながら少しかすれた声でメデューサに尋ねました。
「メデューサ・・・。本当なのかい?」
高い土台に支えられたラピータ宮殿の門前でシュナン少年と向かい合うメデューサは他の仲間たちの視線を浴びながらガタガタと身体を震わせています。
そして彼女は意を決した様に蛇の前髪の隙間からシュナン少年の顔を見つめると服のポケットから「黄金の種子」の入った麻袋をゆっくりと取り出しました。
それからその震える両手で持った麻袋をシュナン少年の顔の前にそっと差し出しました。
「シュナン、これー」
師匠の杖を通じて「黄金の種子」を両手に持つメデューサのその姿を見たシュナン少年はどうやら強いショックを受けたようでした。
杖を強く握りしめながら首を何度も振り喉奥から絞り出すように声を発します。
「そ、そうかー。でも何で、僕に教えてくれなかったんだい・・・」
ラピータ宮殿の前でシュナンと向かい合うメデューサは彼に誤解されないために必死に言い訳をしようとします。
「わ、わたしちゃんと言おうとしたわ、シュナン!!本当よっ!!で、でも、なんかタイミングが合わなくてー」
そんなメデューサの苦しい言い訳をさえぎる様にペルセウス王の冷徹な声が数多くの兵で埋め尽くされた眼下の深い堀の中から響いて来ます。
ペルセウス王はラピータ宮殿の周囲に広がる深い堀の中に降り立ちシュナンたちがその門前に立つ宮殿を足元から支える巨大な土台の周りを麾下の軍勢と共に包囲していました。
軍馬にまたがる彼は堀の底で大勢の部下に取り囲まれながら高い土台の上にいるシュナンたちを冷徹な目で見上げています。
「そんな事も分からないのか?シュナンドリック。その娘は卑劣にも宝物を独り占めにしようとしたのだ。お前に分け与えるのが惜しくなったに違いない。まぁ、当然の事だな。元々はメデューサの先祖が残した物なのだしどこの馬の骨とも分からぬ他人に渡す義理は無いからな」
堀の底から響くペルセウス王の声を聞いたメデューサは自分たちがその上に立つ宮殿を支える高い土台を包囲する彼の軍勢を蛇の前髪の隙間から睨み付けると正面に立つシュナン少年に視線を移します。
そしてシュナン少年に何とか自分の気持ちをわかってもらおうと眼前に立つ少年に必死に語りかけます。
「違うっ!違うの、シュナン!!わたしはあなたにこの種子を渡そうとー。でもー」
しかし、「黄金の種子」の入った麻袋を両手で持ちながら必死に自分に訴えるメデューサに対して彼女の前に立つシュナン少年は目隠しをしたその顔を悲しげに振って言いました。
「考えてみれば確かに陛下の言う通りかもしれないー。それは元々、君の物なんだし、僕には何の権利もー」
「シュナンッ!!」
「黄金の種子」の入った麻袋を両手で握りしめるメデューサ。
宮殿の門前で彼らを取り囲む他の旅の仲間たちも事態の展開に戸惑い二人を遠巻きにして見守る事しか出来ません。
そんなシュナン一行の様子を麾下の軍勢と共に堀の中から見上げるペルセウス王は更に追い打ちをかけるような言葉をシュナンたちに投げかけます。
「これでお前もその女の正体がわかったろう。さぁ、早く「黄金の種子」とメデューサをこちらに引き渡すのだ。シュナンドリックよ。さすればお前には充分な報酬と栄誉を与えよう」
狡知に長ける老練な政治家であるペルセウス王はシュナンとメデューサの間に亀裂を生じさせ自分の思うがままに若者たちを操ろうとしていました。
「シュナンドリック。お前にはわたしの末娘であるラシータ姫を妻として娶らせるとしよう。王族に列するのだ。そしていずれはレプカールの後を継いで我が国の宰相の地位も与えるものとする。よいな、レプカール」
ラシータ姫とはペルセウス王の三女で絶世の美女と名高い女性でした。
側にいるペルセウス王に話を振られた魔神兵に乗り組む魔術師レプカール は機械に囲まれた内部の操縦席に座りながらそこに付いている発声装置を使って王に返事をします。
彼が操縦する巨大なロボット「魔神兵」は周囲にいる兵たちと共にラピータ宮殿の周りに広がる巨大な堀の中でシュナンたちがその上に立つラピータ宮殿本体を下支えする高い土台をぐるりと包囲しておりいつでも総攻撃出来る態勢を整えていました。
「もちろんです。御意のままに、ペルセウス陛下。我が弟子シュナンを引き立てていただき、感謝の言葉もございません」
ペルセウス王の参謀であり「師匠の杖」を通じて弟子であるシュナンを操ってきた魔術師レプカールが乗組む魔神兵から発せられたくぐもった声がペルセウス王の軍勢で埋め尽くされたラピータ宮殿を取り囲む堀の中に乾いた音を響かせました。
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