メデューサの旅 (激闘編)

きーぼー

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夢見る蛇の都

その8

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 メデューサは脳内に響く未知の声に導かれ宮殿の長い通路をただ一人歩き続けます。
広い通路の両側に居並ぶ多数の扉の前を通り過ぎ淡々と歩くメデューサはどうやら寝る前にみんなで回った倉庫のような場所が点在する宮殿の一区域に向かって移動しているように見えます。
ここでこの長い物語の最後の舞台となるラピータ宮殿の構造について少し説明しておきましょう。
ラピータ宮殿は今まで何回か説明したように広大な都パロ・メデューサの中心部に屹立しており深く広い堀に囲まれ更には正面に長い階段がついた高い土台の上に乗っかるようにして建てられていました。
その高い土台に乗っかっている宮殿本体は周囲の都市部の建物の高さに合わせて建てられていたため遠目から眺めると普通に地面の上に屹立しているように見えました。
ですが近くに寄って見ると深い堀にぐるりと周囲を囲まれており更には高い土台の上に乗っかっていて実は宮殿の本体自体は堀の中央で宙に浮くような状態で建てられていたのです。
そして外部から宮殿内に入る為にはいったん深い堀の底に降りてからしばらくの間その深い底の中を移動して宮殿本体を支える高い土台の足元までたどり着き更にその土台についた長い階段を登って宮殿の出入り口にまで行く必要があったのです。
一方、その見上げるような高い土台の上に築かれたラピータ宮殿の本体部分はさまざまな大きさの塔や箱状の建物を寄せ集めた多層式の建築様式で造られていました。
建物の最下層にあたる多数の柱で支えられた広いフロント状の一階部分からはそれぞれ独立した宮殿内の各エリアに階段や通路を使って行く仕様になっており更にその各階層に別れた宮殿内のそれぞれの区域の建物同士も連絡通路でつながっており自由に行き来する事が出来るようになっていました。
そして今ー。
その宮殿の塔と塔の間をつなぐ連絡通路を一人でトボトボと歩いて移動しているのは我らがヒロイン、蛇娘のラーナ・メデューサでした。
他の仲間たちと一緒に別の棟の大きな部屋で雑魚寝をしていた彼女は真夜中にどこからか聞こえる自分を呼ぶ声に気づき目を覚ましました。
そしてその声に導かれるように一人で部屋を抜け出しその声の聞こえる方角に向かって歩き出し宮殿内を移動していたのです。
もっとも今の彼女は前述したようにシュナン少年の側で寄り添って寝ている生身の身体から抜け出したいわば幽体離脱した姿であり宮殿内を歩くその足も実は床から少し浮いておりまるで空中浮遊しているみたいな状態でした。
そんな幽霊のような姿となって宮殿内をさまようメデューサですがそんな彼女はやがて先ほどシュナンたちと来た覚えのある倉庫みたいな部屋が左右に立ち並ぶ広い通路の入り口にまでたどり着きました。
そして彼女は自分を呼ぶ声がそちらの方から聞こえると判断したのか今まで歩いていた通路からは横道にあたるその左右に数多くの扉が居並ぶ広い通路の方へと足を踏み入れ暗闇がかいま見える奥の方へと進みます。
すでに時刻は真夜中遅くになっており本来なら真っ暗な時間帯であり一寸先も見えないはずなのですが宮殿内の照明装置の働きによりメデューサの移動先には常に明かりが灯り彼女が暗闇の中で身動きが取れなく事はありませんでした。
やがて件の通路を浮遊しながら歩くメデューサは石造りの壁に立ち並んだいくつもの部屋の扉のうちの一つの扉の前で立ち止まります。
そこは先刻シュナンたちと共に「黄金の種子」求めて宮殿内を探索した際に調べた部屋の一つであり例の奇妙な文字が扉上の壁に刻まれている部屋でした。
あらためて部屋の外の通路に立ってその扉の上の長方形の石を組んで出来た石壁に刻まれた文字を見上げるメデューサ。
確かこの部屋の中は他の部屋と同じく空っぽで中には降り積もったホコリ以外には何も無かった筈です。
でもー。
今のメデューサには外側から見るこの部屋の扉が何故かボウっと光って見えました。
そして彼女を呼ぶ頭の中に響く不思議な声がこの扉の奥から聞こえて来るような気がしたのです。
通路に立つメデューサは意を決して前に出るとその扉の中に入ろうとします。
もちろん今は幽体である彼女はドアのノブは回せず扉を開いて部屋の中に入る事は出来ません。
だから彼女は先ほどシュナン少年たちと共に寝ていた部屋を出る時にしたように閉まっている扉をそのまますり抜けて中に入ろうとしました。
まるで本物の幽霊のようにー。
その小さな身体を正面の壁につけられた閉じられたドアに向かってゆっくりと近づけるメデューサ。
メデューサの身体が木製の扉の中にまるて溶け込むように消え失せるその瞬間に蛇で覆われた彼女の頭に浮かんだのはその扉の上壁に刻まれた例の謎の言葉でした。
そう今、自分が入ろうとしている部屋の扉の上の壁に刻まれた謎の言葉ー。
シュナン少年が読み解いた「夢見る蛇」に呼びかける謎の言葉をー。

(夢見る蛇か・・・。そうね、あたしの本体は寝てるんだし今のあたしはまさに夢見る蛇だわ)

メデューサがそう思うのと同時に彼女の身体はスーッと部屋のドアの中に吸い込まれその場から消え失せます。
メデューサがいなくなるとがらんとした無人の通路には静寂が訪れしばらくすると照明も落ちてあたり一帯は再び夜の深い闇に包まれました。

[続く]
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