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眠れる蛇の都
その5
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ついにラピータ宮殿の前に到達したシュナン一行はその門前に居並んで宮殿の威容をしばらくの間、万感の思いで見上げていました。
しかしやがてリーダーであるシュナン少年は仲間たちの方に振り向くと感謝の言葉と共にこれからの方針を伝えます。
「みんな、ありがとう。力を合わせてやっとここまで来る事が出来た。本当にありがとう。みんな疲れているだろうけど早速、宮殿を捜索して「黄金の種子」を見つけよう。広い宮殿内にいくつかある宝物殿のどれかに「黄金の種子」は他の宝物と一緒に保管されているはずだ」
シュナンの仲間たちはその言葉に一斉にうなずきます。
それからシュナンとその仲間たちは肩を並べて歩き出すといよいよ宮殿の中にその足を踏み入れます。
多くの柱に支えられて巨大なフロア階になっている宮殿の一階部分にシュナン一行が侵入すると暗かったその広間はパッと明かりがついて全体が柔らかな光に包まれまるで真っ昼間のように明るい状態になりました。
これはシュナンたちがパロ・メデューサに足を踏み入れた時に都市全体が活性化して照明装置が働いたのと同じ仕組みでした。
シュナンたちがぐるりと自分たちがいるいくつもの柱で支えられたその大広間を見回すと崩れ落ちた天井や壁の破片がいくつも床に散らばっており荒れ果てた様子になっています。
多くの柱で支えられオープンフロントのようになっているその宮殿一階の大広間には壁部分に多くの扉がついており宮殿内の他の建物群と連絡しているのが見て取れます。
また、広間の床からは大小いくつかの螺旋階段が上の階に向かって伸びていて上階には主にその階段を使って行く仕様になってなっているようでした。
一階の大広間からかいま見える上の階の様子はほの暗く一階と違って明かりがついていないみたいでしたが恐らく誰かが階段を登って上階にいけば大広間と同じく自動的に明るくなるものと思われます。
「よし、それじゃ、しらみつぶしに探してみよう。まずは今、僕たちがいる一階部分からだ」
仲間たちの方を振り返り再び指示を与えるシュナン少年。
シュナン少年の隣に立つメデューサを始め旅の仲間たちは心身に疲れを覚えながらもそれを押し殺しリーダーである彼の指示に対しそれぞれうなずき従う意思を示します。
本来ならこの時刻は宮殿の中も外も闇に包まれているはずであり何かを捜索するには不向きな時間帯なのですが宮殿内には照明機能が働いておりまたパロ・メデューサの都市全体も柔らかい光に包まれまるで昼のように明るい状態であったためシュナン少年はすぐにでも探索を始めた方がいいと考えたのでした。
もっとも「黄金の種子」の入手という大目標の達成を間近にしてシュナン少年の心に高揚感と共に若干の焦りが生じている事もまた確かな事実でした。
しかしこれはこの一事に多くの年月をかけて準備をし辛い旅や苦労にも耐え抜いてきた彼にしてみれば無理からぬ事ではありました。
豊かな恵みを与えるという「黄金の種子」を手に入れてそれを人類社会にもたらし飢餓や貧困そして食物をめぐって引き起こされる争いから人々を解放する事ー。
それこそがシュナン少年が胸に抱いた夢であり理想だったのですから。
こうしてシュナン一行は人類を餓えから救うという作物の種「黄金の種子」を求めてそれが建物内のどこかに保管されているはずのラピータ宮殿の中をくまなく捜索する事になったのです。
彼らはまず宮殿の一階部分にあたる今いる場所から出発し一階の壁についている扉を一つずつ開けて更にその先につながっている通路や部屋を細かく調べました。
それから一階部分を調べ終わると彼らは上の階にも捜索の手を拡げます。
床からいくつもせり上がっている階段ごとに上の階に登って二階を調べそれが終わるとまた階段を登って次は三階と彼らは少しずつしらみつぶしに広大な宮殿内を調べ上げて行きました。
しかしー。
いくらシュナンたちが熱心に調べても「黄金の種子」が保管されている場所を見つけ出す事は出来ませんでした。
確かに宮殿内にはおそらく何かの保管場所として使われていたであろう部屋もいくつもあったのですがそのどれもが空っぽで「黄金の種子」どころか貴重品は何一つ見つかりません。
世界中の貴重な品が山のごとく集められたというメデューサ王の宝物殿の中の宝物たちは一体どこに消えてしまったのでしょう。
時間が経つごとにシュナンたちの顔に焦りと疲れの色が濃くなって行きます。
そんな折りやはり空っぽだった宮殿内の部屋を確認した後で彼らはその部屋の入り口の上の壁に奇妙な文章が刻まれている事に気付きました。
それは長方形の石を格子状に組み合わせた壁で出来た通路内に並んだ部屋の一つを彼らが調べていた時の事です。
残念ながら調べていたその部屋にも長年降り積もったホコリ以外は何も見当たらずシュナンたちは肩を落としてそこから出ようとしていました。
そして部屋を出る時にメデューサがたまたま後ろを振り返りその際、部屋に入る時には気付かなかった扉口の上に刻まれた一連の不思議な文字に気付いたのです。
「シュナン、この文字どういう意味?何だか気になるわ」
たった今出たばかりの部屋のドアの真上あたりを外側の通路から指差すメデューサ。
彼女の指差す入り口のドアの上の石壁には一連の文章が斜めに刻まれているのが見て取れます。
メデューサはそのドアの上の方を指差しながらそこに刻まれた文字の意味を隣にいるシュナン少年に上ずった声で尋ねます。
メデューサはドアの上の石造りの壁に刻まれたその鋭い刃物で傷付けたような文字の事が何だかとても気になったのです。
そして隣に立つシュナン少年もまたメデューサが指差す先にある扉口の上の壁に刻まれたその刀傷のような文字にあらためて気付きそちらの方に注意を向けます。
シュナン少年は手に持つ師匠の杖をその扉の方に向けると杖を通じて扉の上の壁に刻まれた文字を読み取りその内容を周りにいる仲間たちに伝えます。
左右に多くの扉が立ち並ぶ宮殿内の通路に仲間たちと共に立つシュナン少年が周囲の注目を集めながら発したその言葉はとても謎めいており当の本人であるシュナン自身を含めそこにいる全ての者を困惑させるものでした。
「夢見る蛇よ。今は目覚める事なかれ。汝の求める真実の扉は夢の中でこそ開かれん。夜の深き眠りの果てに、昼の浅き微睡みの中に、汝はついに見出さん。己が望む夢への扉をー」
シュナンの口から出た一連の謎めいた詩のような言葉は彼とその仲間たちを困惑させながら一行が立つラピータ宮殿の夜なお明るいがらんとした通路にこだまのように響き渡りました。
[続く]
しかしやがてリーダーであるシュナン少年は仲間たちの方に振り向くと感謝の言葉と共にこれからの方針を伝えます。
「みんな、ありがとう。力を合わせてやっとここまで来る事が出来た。本当にありがとう。みんな疲れているだろうけど早速、宮殿を捜索して「黄金の種子」を見つけよう。広い宮殿内にいくつかある宝物殿のどれかに「黄金の種子」は他の宝物と一緒に保管されているはずだ」
シュナンの仲間たちはその言葉に一斉にうなずきます。
それからシュナンとその仲間たちは肩を並べて歩き出すといよいよ宮殿の中にその足を踏み入れます。
多くの柱に支えられて巨大なフロア階になっている宮殿の一階部分にシュナン一行が侵入すると暗かったその広間はパッと明かりがついて全体が柔らかな光に包まれまるで真っ昼間のように明るい状態になりました。
これはシュナンたちがパロ・メデューサに足を踏み入れた時に都市全体が活性化して照明装置が働いたのと同じ仕組みでした。
シュナンたちがぐるりと自分たちがいるいくつもの柱で支えられたその大広間を見回すと崩れ落ちた天井や壁の破片がいくつも床に散らばっており荒れ果てた様子になっています。
多くの柱で支えられオープンフロントのようになっているその宮殿一階の大広間には壁部分に多くの扉がついており宮殿内の他の建物群と連絡しているのが見て取れます。
また、広間の床からは大小いくつかの螺旋階段が上の階に向かって伸びていて上階には主にその階段を使って行く仕様になってなっているようでした。
一階の大広間からかいま見える上の階の様子はほの暗く一階と違って明かりがついていないみたいでしたが恐らく誰かが階段を登って上階にいけば大広間と同じく自動的に明るくなるものと思われます。
「よし、それじゃ、しらみつぶしに探してみよう。まずは今、僕たちがいる一階部分からだ」
仲間たちの方を振り返り再び指示を与えるシュナン少年。
シュナン少年の隣に立つメデューサを始め旅の仲間たちは心身に疲れを覚えながらもそれを押し殺しリーダーである彼の指示に対しそれぞれうなずき従う意思を示します。
本来ならこの時刻は宮殿の中も外も闇に包まれているはずであり何かを捜索するには不向きな時間帯なのですが宮殿内には照明機能が働いておりまたパロ・メデューサの都市全体も柔らかい光に包まれまるで昼のように明るい状態であったためシュナン少年はすぐにでも探索を始めた方がいいと考えたのでした。
もっとも「黄金の種子」の入手という大目標の達成を間近にしてシュナン少年の心に高揚感と共に若干の焦りが生じている事もまた確かな事実でした。
しかしこれはこの一事に多くの年月をかけて準備をし辛い旅や苦労にも耐え抜いてきた彼にしてみれば無理からぬ事ではありました。
豊かな恵みを与えるという「黄金の種子」を手に入れてそれを人類社会にもたらし飢餓や貧困そして食物をめぐって引き起こされる争いから人々を解放する事ー。
それこそがシュナン少年が胸に抱いた夢であり理想だったのですから。
こうしてシュナン一行は人類を餓えから救うという作物の種「黄金の種子」を求めてそれが建物内のどこかに保管されているはずのラピータ宮殿の中をくまなく捜索する事になったのです。
彼らはまず宮殿の一階部分にあたる今いる場所から出発し一階の壁についている扉を一つずつ開けて更にその先につながっている通路や部屋を細かく調べました。
それから一階部分を調べ終わると彼らは上の階にも捜索の手を拡げます。
床からいくつもせり上がっている階段ごとに上の階に登って二階を調べそれが終わるとまた階段を登って次は三階と彼らは少しずつしらみつぶしに広大な宮殿内を調べ上げて行きました。
しかしー。
いくらシュナンたちが熱心に調べても「黄金の種子」が保管されている場所を見つけ出す事は出来ませんでした。
確かに宮殿内にはおそらく何かの保管場所として使われていたであろう部屋もいくつもあったのですがそのどれもが空っぽで「黄金の種子」どころか貴重品は何一つ見つかりません。
世界中の貴重な品が山のごとく集められたというメデューサ王の宝物殿の中の宝物たちは一体どこに消えてしまったのでしょう。
時間が経つごとにシュナンたちの顔に焦りと疲れの色が濃くなって行きます。
そんな折りやはり空っぽだった宮殿内の部屋を確認した後で彼らはその部屋の入り口の上の壁に奇妙な文章が刻まれている事に気付きました。
それは長方形の石を格子状に組み合わせた壁で出来た通路内に並んだ部屋の一つを彼らが調べていた時の事です。
残念ながら調べていたその部屋にも長年降り積もったホコリ以外は何も見当たらずシュナンたちは肩を落としてそこから出ようとしていました。
そして部屋を出る時にメデューサがたまたま後ろを振り返りその際、部屋に入る時には気付かなかった扉口の上に刻まれた一連の不思議な文字に気付いたのです。
「シュナン、この文字どういう意味?何だか気になるわ」
たった今出たばかりの部屋のドアの真上あたりを外側の通路から指差すメデューサ。
彼女の指差す入り口のドアの上の石壁には一連の文章が斜めに刻まれているのが見て取れます。
メデューサはそのドアの上の方を指差しながらそこに刻まれた文字の意味を隣にいるシュナン少年に上ずった声で尋ねます。
メデューサはドアの上の石造りの壁に刻まれたその鋭い刃物で傷付けたような文字の事が何だかとても気になったのです。
そして隣に立つシュナン少年もまたメデューサが指差す先にある扉口の上の壁に刻まれたその刀傷のような文字にあらためて気付きそちらの方に注意を向けます。
シュナン少年は手に持つ師匠の杖をその扉の方に向けると杖を通じて扉の上の壁に刻まれた文字を読み取りその内容を周りにいる仲間たちに伝えます。
左右に多くの扉が立ち並ぶ宮殿内の通路に仲間たちと共に立つシュナン少年が周囲の注目を集めながら発したその言葉はとても謎めいており当の本人であるシュナン自身を含めそこにいる全ての者を困惑させるものでした。
「夢見る蛇よ。今は目覚める事なかれ。汝の求める真実の扉は夢の中でこそ開かれん。夜の深き眠りの果てに、昼の浅き微睡みの中に、汝はついに見出さん。己が望む夢への扉をー」
シュナンの口から出た一連の謎めいた詩のような言葉は彼とその仲間たちを困惑させながら一行が立つラピータ宮殿の夜なお明るいがらんとした通路にこだまのように響き渡りました。
[続く]
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