メデューサの旅 (激闘編)

きーぼー

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夢見る蛇の都

その4

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 「天空の城」と呼ばれるラピータ宮殿。
だがしかし別に宮殿自体が空中浮遊しているわけではありません。
実はラピータ宮殿はその造りが特殊な構造になっておりそのために宮殿が空に浮いているように見えていたのです。
ラピータ宮殿は宮殿の建物を中心として同心円状に大きく三つのエリアに分かれていました。
まず、一番外側の外周部は庭園みたいな造りになっており多くの木々が生い茂る林もあっていざとなればそこに兵を潜ませる事が出来ました。
次にその内側の宮殿をぐるりと取りかこむ円形のエリアは深い堀になっていて堀の底の中心部にそびえ立つ高い土台に支えられたラピータ宮殿の本体をぐるりと同心円状に取り囲んでおり外部からは簡単に宮殿には近づけない仕様になっていました。
すなわちラピータ宮殿の外周を囲む堀の深さは約50メルト、幅は1キール以上もありその外側の庭園を通過して最終エリアである宮殿内へと行く為には昇降用の階段を使いいったん深い堀の内部に降りてからそこに広がる石造りの地面をしばらくの間移動して堀の底の中央付近でそびえ立つ宮殿本体を足元から支える石造りの土台の側に近づきそこから更に高い土台についた長い階段を登って天辺部分に建っている宮殿の出入り口にまでたどり着く必要がありました。
つまりラピータ宮殿はその周りを広く深い堀に囲まれておりまた宮殿の本体部分は石造りの階段のついた高い土台の上に乗っかるようにして建てられていたのです。
そして宮殿の本体部分は都市内の他の建物と同じく地面の位置に合わせて造られていたのですが実は背の高い土台の上に乗っかっており更に周りを広大な堀に囲まれているため遠目から見ると目の錯覚で空中に浮いているように見えたのでした。
シュナンたちは大きな庭園の中を淡々と歩き続けて通り抜けるとやがてラピータ宮殿の周りを取りかこむ深い堀の外縁部にまでたどり着きました。
そこは一歩踏み出せば奈落の底に落ちる深い穴が足元近くに広がる危険な場所でした。
シュナンたちは辺りの様子をぐるりと見回すとその大きな堀の内壁に穴の底に降りるための長い階段が何箇所か等間隔に設置されている事を発見します。
シュナン一行は仲間同士で顔を見合わせると互いにうなずき合い一番近くに設置された深い堀の底と地上をつなぐ長い階段の方に近づくとその階段を連れ立って降り始めます。
眼前に広がる巨大な穴の底に向かって慎重な足取りでゆっくりと階段を降りるシュナン一行。
やがて彼らは広く深い堀の底に降り立つと自分たちをぐるりと取り囲む巨大な壁に目を馳せました。
ラピータ宮殿を中心として1キール四方にわたって地面を深く掘り下げて造られたその巨大な堀は全体が円筒状の構造になっており内壁の表面はつるつるの石で出来ています。
継ぎ目一つないその内部の様子に堀の底に降り立ったシュナンたちはそれぞれが感嘆のため息を漏らします。
一行のリーダーであるシュナン少年も手に持つ師匠の杖を通じて自分が底に降り立った巨大な堀の高い壁をぐるりと眺め回してから言いました。

「すごい技術ですね。こんなに大きな石の建造物なのに切れ目も継ぎ目も無いなんてー。まるで最初から一つの石のかたまりとしてこの世に存在しているかの様です。そんな事はあり得ないのにー。一体どういう目的でメデューサ族はこんな巨大な堀を宮殿の周りに作ったんでしょう?」

シュナンの質問に目を光らせながら答える師匠の杖。

「まぁ、色々な用途の為に造られたのだろうが、最も大きな使用目的は宮殿を大軍で攻められた時にここでその敵を食い止める事だ。正面を見たまえ。水門みたいになっているだろう」

師匠の杖を持つシュナンを初めとする旅の仲間たちが杖の指摘した方向を見るとそこには宮殿をぐるりと取りかこむ深い堀の壁の一部に水門のような扉がついているのが見てとれました。
その大きな水門について説明する師匠の杖。

「堀の内壁についたあの水門はこの深い堀に敵兵をおびき寄せてから門を開きその激しい水流で宮殿の周りに集まった兵たちを一網打尽にするために造られたのだ。あの水門は地下水脈を通じて先ほどまで我々がいた大きな湖に繋がっていてな。そうやって堀に水を引き込めば鉄壁の水塞の出来上がりというわけだ」

師匠の杖の言葉にシュナン少年は納得したようにうなずきます。

「なるほど、こんな深い堀で水流に襲われればいかなる大軍でもひとたまりもありませんね。河川や海を拠点として発展したメデューサ族らしい戦略です。でも見たところ今はあの水門は使えないようですね」

シュナンの言う通りその深い堀の内部の壁に設置された水門は開閉部分が大きく破損しており門を開いて水流を中に引き込む事はもはや出来ないようでした。
しかし意外にもこの大掛かりな仕掛けは一昼夜を経ずして発動しペルセウス軍をその巨大な水流で押し流してしまう事になるのです。
さて、そんな風に自分たちが降り立った深い堀の内部からその巨大建築の威容を眺めていたシュナン一行ですがいつまでも見とれているわけにはいきません。
やがて彼らはいよいよ本丸である広い堀の中心部に位置するラピータ宮殿に向かうため巨大な堀の底のつるっとした固い石の地面を足早に歩き始めます。
しばらくすると彼らは広い堀に周りを囲まれその中心部にまるで塔のように屹立するラピータ宮殿の眼前にまでたどり着きました。
正面に長い階段のついた石造りの大きな土台の上に乗っかるように建てられたその様々な大きさの塔を寄せ集めたみたいに見える多層構造の宮殿を堀の穴の底から感嘆の目で見上げるシュナン一行。
それからシュナンたちは宮殿の本体を空中で浮かばさせるみたいに下から支えている巨大な石造りの土台についた長い階段を登り宮殿の入り口へと向かいます。
そしてシュナンたちはその長い階段を肩を並べて登り切りついに彼らの最終目的地であるラピータ宮殿の門の前に立ったのでした。
メデューサ王の紋章が刻まれた宮殿の正門前に居並んだシュナン一行は眼前にそびえ立つ宮殿の威容にあらためて目をこらします。
前述したようにラピータ宮殿は広い堀に囲まれた石造りの土台の上に建てられておりその姿はまるでパロ・メデューサの中心部に浮かぶ離れ小島のようでした。
更にシュナン一行が正門前に立っているその高い石造りの土台に支えらた宮殿の建物は四方をぐるりと広い堀に囲まれておりそれに加えて王宮の敷地自体が広大な事もあいまって彼らが門前から見る周りの景色はまるで高い塔の上から都市全体を見下ろすかのようです。
すでに日は落ちシュナンたちが立っているラピータ宮殿の正門前は広大な宮殿の敷地のちょうど中心部にあたりそこから眺めると宮殿の周囲に広がる深い堀を挟んでその向こう側にパロ・メデューサの高い建物群が夕闇に霞んで見えます。
シュナン少年は手に持つ師匠の杖を通じて眼前に高々とそびえ立つラピータ宮殿の威容と周囲に広がるパロ・メデューサの遠景を交互に見つめ思わずつぶやきます。

「ついに、たどり着きましたね。師匠」

シュナンの持つ師匠の杖もその大きな眼を感慨深げに光らせます。

「ああ、長かったな、シュナン。お前は良く頑張った。師として誇りに思うぞ」

西の都を師匠であるレプカールに渡された魔法の杖を携えて出発し魔の山でメデューサと出会い彼女と共に長い間、旅を続けて来たシュナン少年はついにその目的地にたどり着いたのです。
他の旅の仲間たちー。
ペガサスの少女レダ、緑の巨人ボボンゴそして吟遊詩人デイスの三人もやっとたどり着いた目的地から見晴らすその高い塔から見下ろすような周囲の景色に思わず目を見張っています。
一方、メデューサはシュナン少年の隣に寄り添いながらラピータ宮殿の大きな正門を蛇の前髪の下から睨みつけるように見つめていました。
彼女の視線の先には宮殿の正門の上部に浮き出るように刻まれたメデューサ族の王家の紋章ー。
かの一族を象徴する生き物である蛇が数匹、輪状となって絡み合っている、アウランと呼ばれる神秘的な意匠の紋章が鈍い光を放っています。
周囲の遠景には目もくれずひたすら宮殿の正門の上に掲げられたレリーフ状の紋章を見つめるメデューサの心に去来するのは果たしてどのような思いだったでしょう。
数百年ぶりに父祖の地を踏んだ王家の最後の一人としての感傷かあるいはこの大都市を住民ごと滅ぼした者たちに対する新たな憎しみの気持ちなのかー。
メデューサが胸につまる思いに蛇で覆われた顔をうつ向かせたその時に彼女の正面に建つラピータ宮殿の古びた尖塔の屋根から灰色の鳩の群れが一斉に空へと飛び立ちます。
まるで王の帰還を天に向かって告げるかのようにー。

[続く]

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